2024.03.27

聴覚障がい者が能登半島地震で直面する壁 どのように向き合うのか

地震や津波などの災害が発生すると、聴覚障がい者は避難情報にアクセスすることが難しく、命の危険にさらされます。さらに、避難所での生活も困難で、水や食料の配布、入浴時間の案内などが聞き取れないという苦労があります。

 

孤立という問題

今回の地震で浮かび上がったのは、孤立という問題です。避難所で他の人とのコミュニケーションが取れないことで、一日中誰とも話すことができない状況になるのです。このような課題にどのように対処するか、石川県聴覚障がい者協会の業務執行理事であり、石川県聴覚障がい者センター施設長を務める藤平淳一さんに話を聞きました。

 

情報の混乱

地震が発生した元日の夕方4時10分、藤平さんは金沢市内にいました。金沢での揺れは5強で、直ちにテレビをつけて奥能登での地震を確認しました。しかし、情報が混乱しており、聴覚障がいの仲間たちの安全を心配しました。

そこで、石川県手話通訳制度を確立する推進委員会のメンバーと連絡を取り、石川県聴覚障がい者センターに集まり、石川県聴覚障がい者災害救援対策本部を立ち上げました。本部長は吉岡真人さんで、藤平さんは副本部長を務めました。

 

最初に取り組んだのは安否確認

最初に取り組んだのは安否確認でした。石川県手話通訳制度を確立する推進委員会は、昨年夏にこのような状況に備えて防災マニュアルを作成していました。

このマニュアルは、聴覚障がいの当事者だけでなく、手話サークルのメンバーや通訳者、要約筆記者なども含めた安否確認の手順を定めています。しかし、今回の地震ではすぐに全員の安否確認を完了することはできませんでした。

 

多くの人々が自宅にとどまる状況

地震の規模が大きく、多くの人々が自宅にとどまる状況でした。そんな中、就労支援事業所「やなぎだハウス」の職員が中心になり、LINEやメールで安否確認を行い、わからない場合は自宅や近隣の避難所に探しに行って確認しました。それでも分からない場合は、自治体に確認を依頼しました。

金沢より南の地域では1日で確認ができましたが、被害が大きかった能登半島では1週間かかり、石川県聴覚障がい者協会の会員や「やなぎだハウス」利用者など約50人の無事を確認できました。

 

高齢者の連絡手段

高齢者の多い地域では、スマートフォンを使っていない人が多く、持っていても家に置いたまま避難所に行った人もいました。彼らは普段はスマホを持ち歩かず、連絡が必要な時だけメールを送受信するために使っています。さらに、地震後は通信障がいも起き、連絡がつながりにくくなっていました。

奥能登に住む手話通訳者の中には、家が倒壊したり、集落が孤立したりして身動きが取れない人や、電波が届かず安否が確認できない人もいました。

 

安否確認の対象

安否確認の対象は、協会傘下の9団体の会員だけでなく、難聴者生活訓練事業に参加していたきこえにくい人や、知的障がいや精神障がいのある人たちも含まれていました。

地震後、避難して生き延びた人々にとっても、生活はますます困難なものとなりました。特に奥能登地域では、聴覚障がい者が点在しているにもかかわらず、避難所では自分だけが孤立して情報が得られない状況が顕著でした。

不安や孤独に耐えなければならなかった

この地域では、地域のつながりが強く、震災直後には隣人が危険を伝え合ったり、食料や水を分け合うなどの助け合いが行われました。しかし、避難所の運営においては、聴覚障がい者の存在が十分に認識されず、必要な支援が行き届かない状況も見受けられました。

彼らは自らの状況や必要な支援が十分に理解されず、不安や孤独に耐えなければなりませんでした。このような状況に対応するため、石川県聴覚障がい者協会は積極的に行動しました。

彼らは、「孤立」の問題に焦点を当て、石川県に対し、金沢市内のいしかわ総合スポーツセンターを1.5次避難所として指定し、聴覚障がい者を集めるよう要望しました。この避難所では手話通訳が常駐し、情報提供が行われ、聴覚障がい者が状況を理解し、適切な判断ができるよう、支援が提供されました。

 

聴覚障がいに対応した福祉避難所を作るよう行政に要望

能登半島では2007年に大きな地震があり、その際、輪島市に全国で初めて福祉避難所が設置されました。福祉避難所は、病気や知的障がいなどの障がいのある人に対応した支援ができる体制を整えた避難所です。

しかし、奥能登地域ではこれまでにきこえない・きこえにくい人に対応した福祉避難所が作られたことがありませんでした。聴覚障がい者協会は、傘下の奥能登ろうあ協会とともに10年以上にわたって、奥能登に1か所でも聴覚障がいに対応した福祉避難所を作るよう行政に要望してきました。

しかし、それが実現する前に今回の地震が発生してしまい、聴覚障がい者協会藤平さんには残念な思いが残ります。

 

情報提供ができる体制を整えることができた

一方で、今回の地震では1.5次避難所と2次避難所で、きこえない・きこえにくい人を集めることによって情報提供ができる体制を整えることができました。これは、福祉避難所とは異なりますが、そのニーズに一部応えるものとなりました。今後も、きこえない・きこえにくい人に対応した福祉避難所の必要性を訴えていきます。

1.5次避難所にきこえない・きこえにくい人を集めることで分かったのは、彼らが1次避難所で近隣の人たちのケアを受けながら生活していたものの、必要なことを十分に伝えられていなかったことでした。例えば、自分に持病があることや薬がなくなっていることなど、困っていることがあっても、それを伝えることができず、苦しんでいました。

命を守るために必要な情報が届かない状況でしたが、今回の1.5次避難所では手話通訳者が常駐しており、医師との間で簡単にコミュニケーションが取れるようになりました。

 

手話の重要性

手話通訳者と仲間の両方が重要です。まず、手話通訳者がいることは、命や権利を保障する上で不可欠です。薬の必要性や健康状態を手話通訳者を介して医師に伝えることができることは、非常に重要です。

そして、手話言語で会話をすることができる仲間がいることも重要です。孤独感やストレスを軽減するためには、話し相手や仲間が必要です。24時間話し相手がいない状況や、自分の意見や感情を表現できない状況は、大きな負担になります。仲間やコミュニティがあれば、心理的な支えとなり、生活の質を向上させることができます。

 

情報発信を行う

石川県聴覚障がい者協会では、元日の地震発生直後からYouTubeなどを通じて手話動画による情報発信を積極的に行っています。手話言語で状況を伝えることで、聴覚障がい者が正確な情報を得られるようにしています。

また、きこえにくい・きこえる人のためには字幕を挿入し、情報のアクセシビリティを高めています。これにより、聴覚障がい者コミュニティが必要な情報を迅速に共有し、支援を受けることができるようになりました。

 

聴覚障がい者全員に必要な情報が届いているかどうかは不透明

今後の課題として、聴覚障がい者全員の訪問調査が挙げられます。現在、石川県全体で約3000人の聴覚障がいの身体障がい者手帳を持つ人がいるとされていますが、その中で奥能登地域には約268人が暮らしています。

しかしこの人たちに必要な情報が届いているかどうかは不透明であり、現時点での安否確認ができたのは約50人に過ぎません。そのため、個々の状況を確認するためには、直接訪問する必要があります。

 

ニーズ調査を行う

2007年の地震や昨年の地震では、保健師や手話通訳者、ろうあ者相談員などでチームを組んで、個々の家庭を訪問してニーズ調査を行いました。今回の地震を受けても同様の調査を行いたいという要望がありますが、現在の道路の状況や市役所の多忙さなどから、すぐに実施するのは難しい状況です。道路の復旧や状況の落ち着きを待ってから実施することが望ましいと考えています。

調査を行う際には、障がい者手帳保持者や災害時要援護者の名簿の開示が必要ですが、個人情報保護の観点から容易には見ることができません。そのため、協会が把握している会員や参加者を中心に調査を行い、行政に報告する方針です。

現在は、日本相談支援専門員協会に調査を委託しており、必要に応じて連絡があることが期待されていますが、まだそのような連絡は届いていません。今後も聴覚障がい者の安全確保とニーズへの対応に向けて、様々な課題に取り組んでいく必要があります。

 

手話も日本語の読み書きも不得意な人々が多い

奥能登地域におけるきこえない・きこえにくい人たちにとって、心のよりどころとなる施設が地震で大きな被害を受けたことが懸念されています。以前の地震で訪問調査を行った際、多くの人々が家に閉じこもり、孤立していることが判明しました。

特に、学校に通っていないため手話も日本語の読み書きも不得意な人々が多く、適切なコミュニケーション手段を持っていないことが問題視されました。

 

当たり前の生活を送るための支援が必要

その解決策として、かつて北野雅子さんが施設長を務めていた頃から、きこえない・きこえにくい人たちが定期的に集まって情報を共有し、手話で楽しく交流できるミニデイサービスが提供されてきました。

これは、彼らが社会で当たり前の生活を送るための支援が必要だという認識から始まった取り組みでした。その後、このサービスは就労支援事業所「やなぎだハウス」として発展し、奥能登地域のきこえない・きこえにくい人たちが仕事を学び、自立していくための場所として活用されています。

 

高齢化が進むがサポートがあれば可能性は広がる

ICTのスキルを磨く必要性は高まっています。能登地域でも、電話リレーサービスや遠隔手話通訳などのICTの説明会を何度か行っていますが、まだ自分のスマートフォンを使い慣れていない方が数多くいます。現在、ほとんどの場合、手話通訳者が現地に行って対面で通訳しています。

石川県聴覚障がい者協会では、奥能登地区の会員は現在12名で、その中で一番若いのがやなぎだハウスの職員で、現在29歳です。他の会員は全員60歳以上で、平均年齢は75歳ほどです。このような高齢化が進む中、ICTの習得は難しいと感じられるかもしれませんが、周囲のサポートがあれば可能性は広がります。

 

意欲的に学ぼうとする姿勢

ICTの習得に関しては、単に年齢だけでなく、それぞれの個人の学習意欲や環境も大きな要因です。特に高齢者の場合、新しい技術について学ぶことに対するハードルは高いかもしれませんが、その中には意欲的に学ぼうとする人もいます。そのため、地域コミュニティや協会がサポートすることで、ICTの利用が促進されることが期待されます。

まとめ

今後は、地域の施設やコミュニティセンターでのICT教室やワークショップの開催、個別のサポートプログラムの提供など、様々な取り組みが考えられます。また、若い世代やデジタルに慣れた人々が、高齢者や初心者に対して手助けをすることも重要です。

こうした取り組みが地域全体のICT活用の促進につながり、きこえない・きこえにくい人たちの生活をより豊かにすることが期待されます。

 

参考

聴覚障がい者(ろう者・難聴者)は能登半島地震とどう向き合ったか ~社会福祉法人 石川県聴覚障がい者協会 藤平淳一業務執行理事にきく~ - 記事 | NHK ハートネット

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