2024.03.28

IQテストの落とし穴「知的障がい」の大きな誤解とは?

古代ギリシャの哲学者プラトンは、その著書『国家』において、都市国家の構成員に関して興味深い見解を述べています。彼は知的な観点で見ると、ある個人が都市国家の一員として適格かどうかは関係ないと主張しました。

その代わりに、彼は体力面での適性を重視し、それが重要な要素であると示唆しました。また、プラトンは個々の人々がそれぞれ異なる能力や資質を持っていることを認識し、それぞれが自分に適した仕事に従事することが理想的であると論じました。

 

知的障がいや認知症についての理解は重要

現代においても、知的障がいや認知症についての理解は重要です。知的障がいは発達期において明らかになるものであり、成人になるまでに完成した知的機能が影響を受けます。一方、認知症は加齢や疾患によって成人後に発現するものです。このような違いを理解することで、適切な支援やケアを提供することができます。

『知的障がいを抱えた子どもたち』という本では、子ども時代に診断された知的障がいが成人後も持続することを述べています。しかし、そのような状態でも、生活の幅が狭まるわけではなく、可能なことを見つけ出すことが大切であるとしています。彼らが持つ能力や資質を最大限に活かし、社会で充実した生活を送るための支援が必要であることを強調しています。

 

「知的機能」が通常よりも低い水準である状態

知的障がいとは、人々の発達や学習に関わる重要な側面である「知的機能」が通常よりも低い水準である状態を指します。言い換えれば、他の同年齢の人々と比較して、認知や言語などの知的な能力が発達する速度や程度が遅れているということです。このような状態にある人々は、一般的な社会生活において、日常的なタスクやコミュニケーション、仕事などにおいて困難を経験することがあります。

ピアジェの「知能の誕生」によれば、知的な発達は言語によらない非言語的なコミュニケーションから始まり、模倣などを通じて言語的なコミュニケーションへと進化していきます。しかし、知的障がいを抱える子どもたちにとっては、この過程が適切に機能せず、遅れや途切れが生じることがあります。

 

特別な支援や配慮が必要な状態

日本においては、文部科学省が定義する通り、知的障がいは「同年齢の子どもと比べて、認知や言語などにかかわる知的機能の発達に遅れが認められ、他人との意思の交換や日常生活、社会生活、安全、仕事、余暇利用などについての適応能力も不十分であり、特別な支援や配慮が必要な状態」とされています。この定義は、知的障がいが個々の能力や適応能力に影響を及ぼす広範な側面を考慮しています。

なお、知的障がい者福祉法の改正により、1999年以降は「精神薄弱」という用語は使用されなくなり、より適切な表現が用いられるようになりました。

 

自発言語の遅れが顕著な特徴

乳幼児期における知的障がいの兆候は、生後1歳6ヵ月~2歳未満の健診や3歳~4歳未満の健診において、特に自発言語の遅れが顕著な特徴です。1歳6か月児健診では、単語が話せるかどうかがチェックされますし、3歳児健診では自分の名前や年齢などを言えるかどうかが確認されることが一般的です。

もし子どもがこれらの点で発育遅れが見られる場合、知的障がいや自閉症スペクトラム障がい、あるいは難聴などの可能性が疑われます。具体的な指標や診断の手法については、著者の『乳幼児健診ハンドブック』をご参照いただければと思います。

 

言語発達の遅れがある場合には聴力の確認が必要

ただし、注意すべき点として、知的障がいと自閉症スペクトラム障がいはしばしば合併する傾向があります。また、新生児期において聴力検査を受けていたとしても、言語発達の遅れがある場合には聴力の確認が必要です。

幼児期以降も、指示の理解が難しい、会話が成立しない、学童期以降には学習がうまく進まない、読解力が乏しいなどの症状が見られる場合、知的障がいの可能性が考えられます。これらの兆候について、早期に対応し適切な支援を行うことが重要です。

 

生活能力の評価も重要

知的障がいの診断は、発達検査や知能検査が一般的に使用されますが、生活能力の評価も重要です。発達指数(DQ)や知能指数(IQ)だけではなく、機能レベルの評価が必要です。国際的には、DSM-5-TR精神疾患の診断・統計マニュアルでは、知能検査の結果を考慮しながらも、概念の習得、社会性の獲得、生活能力の獲得などが重視され、これに基づいて重症度が評価されます。

日本では、発達検査や知能検査の結果が重視されがちであり、生活能力の評価が後回しにされる傾向があります。しかし、生活適応能力の評価は重要であり、Vineland-II適応行動尺度などのツールを使用して行うことが可能です。しかし、なおかつ知能検査の結果に強い信頼が寄せられるため、生活状況の評価は軽視されることがあります。

 

総合的なアセスメントが重要

実際に、同じIQ65で軽度の知的障がいと診断されても、生活習慣が確立している場合もいない場合もあります。生活能力の状況や意思伝達能力なども個別に評価する必要があります。数字だけで全体像を把握することはできず、総合的なアセスメントが重要です。

知能を数値化する試みは、1905年にフランスのビネーらによって始まり、その後スピアマンによる一般性知能の概念の導入や、ウェクスラーによる知能検査の開発などが行われました。これらの歴史的な取り組みは、ブラウンの「流動性および結晶性知能のこれまで」という著作にまとめられています。また、日本国内で行われる知能検査に関する情報は、熊上崇らによる「子どもの心理検査・知能検査」に詳しくまとめられています。

 

一部の指標に過ぎない

知能指数は、通常正規分布(平均値・中央値・最頻値が一致し左右対称の分布)に従うと考えられています。平均値が100で標準偏差が15とされているため、2標準偏差以下(つまり70未満)は低い、130以上は高いと判定されます。ただし、これは全体の約2.1%に過ぎず、知的障がいの割合としては一部の指標に過ぎません。

実際には、知的障がいを持つ子どもすべてに知能検査を行うわけではないため、療育手帳(知的障がいのための障がい者手帳)の発行数が一定の指標となります。しかし、全ての知的障がいを抱える子どもが療育手帳を取得しているわけではないため、実際の数は正確には把握できません。

 

知能検査で得られる数値は絶対的なものではない

知能検査で得られる数値は、絶対的なものではありません。たとえば、WISCや田中・ビネーV検査では、全検査IQ(FSIQ)を算出するために複数の指標が使用されますが、その数値は信頼区間として示されます。たとえば、IQが65であれば、その90%信頼区間は61から68の間になると示されます。これは、同じ検査を100回行った場合に、90%の確率で得られる結果が61から68の間に収まるということを意味します。

さらに、検査者の熟練度や検査時の子どもの状態などによっても、数値は変化する可能性があります。したがって、知能検査で得られる数値はあくまで一つの目安であり、その子どもの実際の能力や潜在能力を完全に反映するものではありません。そのため、知能検査の結果を単独で解釈するのではなく、総合的なアセスメントや検査者の専門的な判断を含めて、子どものニーズや適切な支援を考慮する必要があります。

 

DSM-IVに示されたIQレベルに基づいて行われる

確かに、わが国では知的障がいの判定や重症度の分類が、以前のアメリカ精神学会のDSM-IVに示されたIQレベルに基づいて行われることが一般的です。DSM-IVでは、IQの数値に応じて軽度、中等度、重度、最重度という分類が示されており、この分類が広く受け入れられています。

現在の「DSM-5-TR精神疾患の診断・統計マニュアル」では、知的障がいの診断や重症度の分類において、数字よりも概念、社会性、生活能力を重視する傾向があります。しかし、わが国では依然として、51~70を軽度、36~50を中等度、21~35を重度、20以下を最重度というような「数値重視」の区分が、福祉だけでなく教育分野でも広く採用されています。

子どもの個々の状況を考慮することが重要

このような数値に基づいた分類は、一部の人々にとっては有用であると考えられていますが、その一方で、個々の子どもの実際の能力やニーズを十分に反映することができないという批判もあります。そのため、知的障がいの評価や支援においては、数値だけでなく、総合的なアセスメントや子どもの個々の状況を考慮することが重要です。

IQは一度判定されると変わらないというわけではありません。狩野広之らの研究によれば、小学校2年生から中学校2年生の間での変化は少ないとされていますが、これは一般的な傾向であり、個々の子どもによって異なります。実際、日常臨床の中ではIQの数値が変動することはあまり多くありませんが、就学相談や児童相談所での知能検査など、検査の際の子どもの状況によって数値が影響されることもあります。

 

知的障がいと誤解されることがある

例えば、発達性読み書き障がい(ディスレクシア)を持つ子どもは、会話には問題がなくても読み書きの困難さからテストの点数が低くなることがあり、それが知的障がいと誤解されることがあります。また、適切な教育機会を受けられなかった子どもたちは、教育によって語彙や知識を習得し、結果としてIQの数値が上昇することもあります。このように、子どもの状況や環境によってIQの数値は変動する可能性があります。そのため、IQの数値だけでなく、総合的なアセスメントや個々の子どもの背景を考慮することが重要です。

境界知能の子どもたちには、確かに社会的支援が不足しているという課題があります。境界知能とは、IQが1標準偏差から2標準偏差の間、つまり約71から85程度の子どもたちを指します。このグループは、知的障がいと一般的な発達の間の境界に位置し、支援が必要な場合があります。

 

認知面や社会適応面での困難さにも焦点を当てる必要

マルチネス・レアル、フォルチらが2020年に発表したジローナ宣言では、IQは一つの目安に過ぎないと述べられています。この宣言では、境界知能の子どもたちに対する支援は、単にIQの数値だけでなく、認知面や社会適応面での困難さにも焦点を当てる必要があると強調されています。彼らの個々のニーズや社会的なサポートに焦点を当てて、より包括的な支援策を考えることが重要です。

 

 IQとは何か? 知能指数の基礎知識

IQ、または知能指数(Intelligence Quotient)は、知能を測定する指標の一つです。この指数は、個々の人が課題を解決する能力や知的なスキルを数値化することを試みます。IQの概念は、知能の測定や評価において重要な役割を果たしていますが、その定義や測定方法は多様であり、議論の対象となっています。

 

IQの定義と歴史

IQは、初めてフランスの心理学者アルフレッド・ビネとテオドール・シモンによって開発されました。彼らは、子どもの学習の進捗を評価するために知的な能力を測定する方法を模索していました。

初期のIQテストは、年齢に応じた典型的な問題に対する子どもの回答を評価し、その結果を年齢と比較して知的な発達を評価しました。

 

IQの測定方法

IQは一般的に、言語能力、推論能力、数学的能力、空間認識能力などのさまざまな認知的なスキルを含むテストによって測定されます。

最も一般的なIQテストには、ウェクスラー成人知能検査(WAIS)、ウェクスラー小児知能検査(WISC)などがあります。

 

IQスコアの解釈

典型的なIQスコアの平均は100であり、標準偏差は15です。つまり、IQ100の人々が最も多く、IQ85〜115の人々が一般的に正常範囲内にあります。

IQスコアが高いほど、知的能力が高いとされますが、IQスコアだけで人々の能力や成功を完全に予測することはできません。

 

IQの限界と批判

IQは知能を測定する有用な指標でありながら、その完全性や客観性について疑問があります。文化的偏りやバイアス、テストの条件などが、IQスコアに影響を与える可能性があります。

まとめ

IQは知的能力の評価において便利な指標ですが、その限界や問題点も理解することが重要です。IQは単一の数値で個人の能力や価値を決定するものではなく、総合的な評価や個々の背景を考慮することが必要です。

 

参考

IQテストの落とし穴…「知的障がい」の見過ごせない「大きな誤解」をご存知ですか?(現代ビジネス)Yahooニュース

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