2024.03.26

障がい者女性の「生きづらさ」障がい者女性の声はないがしろにされ障がいのことを考慮されない

「障がいがあり女性であること 生活史からみる生きづらさ」

障がい者について論じられる際、しばしば障がい者男性に焦点が当てられ、一方で女性について論じられるときは、健常者女性がクローズアップされることが一般的です。この言葉は、土屋葉氏が「障がいがあり女性であること 生活史からみる生きづらさ」の序章として述べたものです。

障がい者に関する議論では、性差別が影響して障がい者女性の声が無視されがちであり、一方で女性について論じられる際には、障がいについての配慮が欠け、結果として障がい者女性の立場が透明化されてしまうことを示唆しています。

 

男女の分断を煽るのではなく障がい者女性が直面する特有の課題に焦点を当てる

この二重の無視の結果、障がい者女性は「複合差別」と呼ばれる厳しい現実に直面しています。彼女たちが直面する困難は多岐にわたり、生活上の問題、結婚や出産に関する困難、職場での課題、性暴力に対するリスクなどが挙げられます。これらの問題を一つずつ掘り下げていくことが重要です。

もちろん、「障がい者は男女に関係なく困難を抱えている」という点についての議論も重要ですが、この文脈での言及は、男女の分断を煽るものではなく、むしろ障がい者女性の声を強調し、彼女たちが直面する特有の課題に焦点を当てることを目的としています。

 

男性が介助を担うケースも多い

身体障がい者女性が直面する困難の一つに、日常生活での介助の必要性があります。特に肢体不自由者の場合、着替えや食事から排泄や入浴まで、介助が必要になることがあります。そして、この介助の中でも特にプライベートなゾーンを扱う場面では、同性からの介助を希望する女性が多いのが現実です。

しかし、現実には男性が介助を担うケースも多く、これにより肢体不自由者の女性は強い羞恥心を抱えながら日々を過ごすことになります。また、異性からの介助を不満に思っても、「わがままな障がい者」とレッテルを貼られる恐れから、声を上げることがためらわれる女性もいます。

 

その違和感さえ失ってしまう女性も存在

一方で、長年にわたり異性からの介助を受け続ける中で、その違和感さえ失ってしまう女性も存在します。しかし、ある時点でその女性は、「本人の望まない異性介護は虐待にあたる」という事実を知り、自らの気持ちに正直になることが重要であることに気づきました。そして、彼女は思わず「私、男性からの介助は望みません!」と声を上げることができたのです。

 

「恥ずかしいって場合?」

あるグループホームでは、生活の全てに介助が必要な肢体不自由の女性たちが共同生活を送っていました。ある日、女性の世話をしていたスタッフが入浴介助中にてんかんの発作を起こしたのです。この状況ではすぐに湯船から引き上げなければなりませんが、女性自身の力では不可能で、男性のスタッフの協力が必要でした。

しかし、男性のスタッフが介助をしようとすると、女性は激しく抵抗し、男性の腕を振り払うのだそうです。スタッフが笑いながら「私には無理だから、しょうがないよね。恥ずかしいって場合?」と話したそうです。入浴介助とはいえ、女性が発作を起こすたびに全裸で男性に抱え上げられることになります。

 

性暴力と結びつく可能性

この異性介助が後に性暴力と結びつく可能性もあり、この問題を放置するわけにはいきません。さらに、肢体不自由の女性は婦人科にかかることが難しい場合もあります。例えば、内診台で十分に足が開けないなどの理由で、診察時に大きな負担を強いられることもあるのです。

その他にも、聴覚障がい者女性が手話通訳者の不在によって婦人科での相談を躊躇する場面もあります。このような課題が女性たちの心身の健康に影響を与える可能性があるため、この問題には真剣に向き合わなければなりません。

 

家事や育児といった家庭内の負担は依然として主に女性

家事や育児といった家庭内の負担は、依然として主に女性に押し付けられており、障がい者女性もその例外ではありません。

障がいが遺伝する可能性を理由に、「子どもを産むな」という声が障がい者女性に向けられる一方で、「少子化はわがままな女性のせいだ」という声が健常者女性に対して繰り返されています。このような言動は、障がい児を望まないという意識を社会全体に広め、健常な子どもだけが望ましいという印象を与えかねません。

このカテゴリでは、多くの障がい者女性が生活上の困難に直面しています。例えば、視覚障がい者女性の場合、弱視を持つ女性に対しても「家事育児はできるもの」という暗黙の了解が存在します。

 

視覚障がい者への差別

また、視覚障がい者同士の結婚においては、弱視の女性が全盲の男性の介護をするというパターンが珍しくありません。

「少しでも視力があるなら、全ての家事育児をするのは当然」という偏見が根強いようですが、結婚した以上は男性も家事育児に貢献すべきだと考えます。

しかしそれだけではありません。全盲の障がい者同士が結婚を考えた場合、女性が全盲であることを理由に破談になるケースも多いようです。

多くの場合、全盲男性の親族が「全盲の嫁では息子の世話ができない」として一方的に破談にすることがあるそうです。

男女間で大きな違い

障がい者女性が家事や育児を担うことが当たり前視される一方で、同じ障がい者男性には同じ期待が寄せられない状況に複雑な思いを抱きます。家事能力が不足していることを理由に、全盲の女性が結婚を許されない一方で、男性には同じ期待が寄せられないことに疑問を感じます。

全盲同士の結婚において、女性が全盲であることを理由に破談にされるケースも珍しくありません。このようなハードルの差は、男女間で大きな違いをもたらしているように思えます。

 

精神障がい者女性の困難

次に、精神障がい者女性の困難について考えてみましょう。多くの精神障がい者女性が、女性らしい家事や育児をこなすことに過度なプレッシャーを感じています。しかし、体調の悪化などで期待に応えられないと自責の念に苛まれ、さらに悪化してしまうこともあります。健常者の夫婦間でも生じる「子どもを持つかどうか」の問題においても、精神障がい者女性は特有の課題に直面しています。精神障がいの治療の一環として服用する向精神薬の断薬が求められることがあり、その際には胎児への影響を考慮する必要があります。

この問題は男性には当然には影響しませんが、女性は断薬によって体調が悪化する可能性があります。

 

統合失調症を抱える女性の困難

一方で、統合失調症を抱える女性が子どもを望んでいないことに対し、パートナーからの理解を得られずに関係が破綻するケースもあります。これらの問題は、女性にとって大きな負担となっています。

そして、配偶者暴力に関する相談でも、障がい者女性が圧倒的に多くを占めています。この問題には急いで対処する必要があります。

 

女性障がい者の収入

女性障がい者の収入に関して、その現状を見てみましょう。障がい者生活実態調査研究所の調査によれば、障がい者女性の平均年収は111万円とされています。この金額は年金などを含めたものであり、障がい者男性の平均年収の約半分に相当します。

年収の低さは、家庭で暮らしている場合でも、施設に住んでいる場合でも、虐待や性被害に遭った場合に加害者を訴えることが困難であることを意味します。転居に必要な費用も十分に用意できないかもしれません。

ある40代の視覚障がい者女性は、出産後の職場復帰に不平等を感じました。健常者女性は正職員として復帰できるのに対し、彼女はパート扱いとされ、扶養内で働くように勧められたといいます。

 

様々な軽視

また、ある精神障がい者女性は、受診した精神科で医師から「女性なら家族や配偶者に養ってもらえる」と言われたことに衝撃を受けました。さらに、一部の女性は労働市場で不当な扱いを受けることもあります。例えば、一度は正社員として採用されたのに、実際には嘱託社員のままであるといったケースも見受けられます。

障がい特性を隠し、他者の期待に応えようとする努力は、女性にとって特に負担が大きいようです。特にASD女性は、外見やふるまいに関する規範に従うことに苦心しています。

このような現状から、障がい者女性は女性のジェンダー規範に対して疑問を持ちやすく、自らの人生やアイデンティティについて深く考えることもあります。

 

性暴力の実態は長らく明らかにされてこなかった

性暴力の実態は、障がい者にとってはあまりにも闇が深く、長らく明らかにされてこなかったものでした。しかし、最近、法政大学の岩田氏が当事者団体や支援団体と協力してアンケート調査を行った結果、恐るべき事実が明らかになりました。

岩田氏によれば、加害者の7割が被害者に近しい関係にあり、障がいを持つ被害者に対して性加害を行ったというのです。中には10回以上も性暴力を受けた被害者も存在したと言います。

女性障がい者の介護を受けることが性暴力に結びつきやすいというのは以前からの話でしたが、最近、障がい者支援団体職員が障がいを持つ女性に対して繰り返し強制わいせつを行ったとして逮捕されるという悲劇も報じられました。

 

被害者は逃げることが難しい

このような加害者が近しい関係にあるため、被害者は逃げることが難しく、何度も繰り返される被害によってどれほどの絶望感に襲われるか想像するだけでも恐ろしいことです。さらに、肢体不自由女性からは、介助を受けている間に性的な触れ回しが行われるという訴えも上がっています。露出魔や痴漢に遭遇しても逃げることができないため、恐怖にさらされることも多いようです。

買春を持ちかけられるだけでも屈辱的なのに、障がい者だからと金額まで値切られることもあるというのは、人間としての尊厳を傷つけられることと同じです。障がい者の性被害は立件が難しいというのも以前からの問題であり、加害者を野放しにされるケースも少なくありません。被害者やその家族が証拠を集めても、警察の対応が迅速でなかったり、検察が不起訴にする場合もあるため、被害者の不安と怒りは増すばかりです。

 

障がい者女性たちの性暴力被害に直面している現実

障がい者男性に対しては、健常者男性と同じように性的なサービスを求める声が上がり、障がい者向けの風俗や自慰介助サービスなどが提供されるようになってきました。これまで障がい者の性についてはタブー視されてきましたが、「なぜ重度障がい者男性は、健常者男性と同じような性的なサービスが受けられないのか」という疑問は、決して不当なものではないと思います。

しかし、同じくらいの声が障がい者女性たちの生き辛さと性暴力被害に直面している現実と対比されると、やるせなさを感じざるを得ません。

 

まとめ

障がい者男性の性的ニーズが認識されつつありますが、障がい者女性の生活困難と性暴力被害が放置されています。男性のサービス提供と女性の苦悩との対比が痛ましく、ジェンダーによる二重基準が浮き彫りにされています。男女ともに問題を解決するため意識改革や教育の必要があり、早急な対応が求められます。

 

参考

障がい者女性の透明化された「生きづらさ」

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