2024.03.26

仕事のストレスで適応障がい 命を絶つ前に思いとどまれた理由とは?

精神科産業医である夏目誠さんは、45年以上のキャリアを持ち、これまでの経験を元にストレスへの気づきや対処法を提案しています。

3月は厚生労働省が「自殺対策強化月間」として位置づけ、自殺率が高い我が国において、彼の経験は重要です。自殺の予防には精神科を受診することや、絆を持つことが有効であることを考えます。

 

期待を背負う

夏目誠さんは、ある43歳の新商品販売担当部長のケースを紹介します。彼は大手販売会社で法人営業部次長として成功を収め、妻と2人の子どもを持つ生活を築いていました。しかし、新商品の販売担当部長として抜てきされ、半年で成果を出すようにとの期待を背負いました。

しかし、思うように成果を上げることができず、彼は自問自答に追われました。「なぜ売り上げが伸びないのだろう?」「何か間違っているのか」。彼の生真面目な性格が彼を苦しめました。

 

自らの状況を客観的に捉えることができない

精神的に追い込まれ、衝動的に自殺を考える状況に陥りました。彼は精神的な負担から不眠や不安に苦しむようになり、妻からの心配を受けながらも自らの状況を打ち明けることはありませんでした。

彼はついに自殺衝動に駆られ、妻に出張と偽って旅に出ました。売り上げの不振だけで自殺を考えることは異常に思えますが、彼は視野が狭まり、自らの状況を客観的に捉えることができなくなっていました。

 

「家族のためにもう一度やり直そう」

しかし、死のうとした時、妻や子どもの顔が彼の心に浮かび上がりました。家族を残して自らの命を絶つことの重さに気づき、「家族のためにもう一度やり直そう」という思いが彼を立ち止まらせました。

彼は妻とともに精神科クリニックを受診し、適応障がいと診断され、休職を勧められました。主治医は彼の不安を和らげるために薬や睡眠導入剤を処方し、回復に向けて支援を行いました。

 

「死ぬくらいなら退職しよう」

東南アジアに工場を設立するプロジェクトに携わった40歳の製造課長のケースもあります。彼は単身赴任先での孤独や文化の違いに適応できず、仕事でも予期せぬ問題が頻発し、過労が重なりました。

彼はある日、発作的に自殺を考えましたが、その時に妻や子どもの顔が浮かび、思いとどまりました。死の淵に立った彼は「死ぬくらいなら退職しよう」と考え、リーダーに辞表を提出しました。しかし、本社の部長は部下の状況に気づいていたものの、海外の事情に対応しきれなかったようです。自殺未遂を聞いた後、急きょ帰国させられ、精神科産業医として夏目さんが対応することになりました。

 

当事者自身が相談や受診の必要性に気づくのは容易ではない

メンタル不調に陥ると、自らの状況を客観的に見ることが難しくなり、思考が停止してしまうことがよくあります。そのため、当事者自身が相談や受診の必要性に気づくのは容易ではありません。

このような場合、職場や家族が気づき、サポートすることが重要です。ただし、先述したケースでは周囲の気づきがサポートのきっかけにはなりませんでした。それでも自殺を防ぐことができたのは、家族との絆の力があったからだと考えられます。

家族との絆を築くには、相互の信頼と交流を長期間にわたって積み重ねる必要があります。男性の育児休業取得など、家族がより絆を深めるための仕組みも重要です。このような取り組みは、家族の絆を強化する土台となります。

 

「絆」の本質

日々の相談の中で、仕事のストレスや悩みの奥に、家族の問題が潜んでいることはよくあります。家族との関係を深めるために、日常の中で外食や旅行、イベント参加を楽しむことが大切です。

夫婦で運動会に参加したり、家族で食事を楽しんだりすることで、共感や思い出が生まれます。楽しい経験は脳の側頭葉にしっかりと記憶され、いつでも思い出すことができると言われています。これこそが「絆」の本質ではないでしょうか。

 

会社や仕事よりも家族との絆を大切にすること

日常生活でのおしゃべりや会話は、絆を築く上で非常に重要です。何気ない会話や冗談めかした話は、意味のないように見えても、実は大切なのです。目的のない会話こそが、家族や友人との絆を深める手段です。

そうすることで、困った時に相談しやすくなります。夏目さんは精神科産業医として、逆境を乗り越える心を育むには、会社や仕事よりも家族との絆を大切にすることを常に伝えています。

適応障がいとは:ストレスが日常生活に影響を与える状態

適応障がいは、身体的または精神的なストレスが日常生活に適応する能力を超え、さまざまな身体的・精神的な症状を引き起こす状態を指します。適応障がいは、ストレスが継続的である場合や、ストレスに対処するための適切な手段が不足している場合に発症することがあります。

 

主な症状

適応障がいの症状は個人によって異なりますが、一般的な症状には以下のようなものがあります。

 

  • 身体的症状

頭痛、胃の不調、疲労感、睡眠障がいなどの身体的な不調が現れることがあります。

 

  • 感情的症状

不安、抑うつ、イライラ、怒りなど、感情の不安定さが現れることがあります。

 

  • 行動上の症状

社交活動の減少、仕事や学業のパフォーマンスの低下、日常生活のルーチンからの逸脱などが見られることがあります。

 

発症の原因

適応障がいは、さまざまなストレス要因が組み合わさることによって引き起こされることがあります。以下は適応障がいの発症要因の例です。

 

  • 職場のストレス

まず、職場のストレスは、業務の過度な負荷や効果的なサポートの不足、人間関係の問題などが挙げられます。これらの要因が組み合わさると、仕事環境がストレスフルになり、適応障がいのリスクが高まります。

例えば、上司や同僚とのコミュニケーションの問題や、業務の過酷さによる心身の疲労が、適応障がいを引き起こす可能性があります。

 

  • 生活の変化

次に、生活の変化も適応障がいの原因となり得ます。例えば、引っ越しや離婚、転職などの生活の大きな変化は、人々の日常生活に大きなストレスを与えることがあります。

これらの変化に適応することが難しい場合、適応障がいが発症する可能性が高まります。新しい環境に適応するプロセスは、心理的な負担が大きいため、適応障がいのリスクを高めます。

 

  • 過去のトラウマや心的外傷

最後に、過去のトラウマや心的外傷が未解決のまま残っている場合、それが適応障がいの原因となることがあります。

過去の辛い経験やトラウマが、現在のストレスと相まって、心のバランスを崩すことがあります。このような場合、適切なサポートや治療が必要です。

 

これらの要因は、個々の人々の生活状況や精神的な強さによって異なりますが、適応障がいの発症につながる可能性があります。したがって、適応障がいの予防や治療には、これらの要因を理解し、適切な対処法を見つけることが重要です。

 

対処方法

適応障がいの治療には、個々の症状や状況に合わせたアプローチが必要です。以下は一般的な対処方法の例です。

 

  • ストレス管理

リラックス法やストレス軽減のテクニックを学ぶことで、ストレスに対処する能力を高めます。

 

  • 心理療法

カウンセリングや認知行動療法(CBT)などの心理療法を受けることで、ストレスの原因や対処方法を理解し、対処する能力を高めます。

 

  • 生活習慣の改善

健康的な食事、十分な睡眠、適度な運動など、健康的な生活習慣を確立することが重要です。

 

ストレス管理には、リラックス法やストレス軽減のテクニックを積極的に取り入れることが重要です。深呼吸や瞑想、ヨガなどのリラックス法を習得することで、日常生活でのストレスに対処する能力が向上し、心身のリフレッシュが図れます。

また、ストレスの原因や対処方法を理解するために心理療法を受けることも有益です。カウンセリングや認知行動療法(CBT)などの心理療法を通じて、自身の思考や行動パターンを客観的に見つめ直し、ストレスに適切に対処するスキルを身に付けることができます。

さらに、生活習慣の改善も適応障がいの管理に効果的です。健康的な食事、十分な睡眠、適度な運動を取り入れることで、身体的な健康を維持し、ストレスへの抵抗力を高めることができます。これらの生活習慣の改善は、心身のバランスを整え、ストレスによる負荷を軽減するのに役立ちます。適応障がいの管理には、これらのストレス管理や心理療法、生活習慣の改善を組み合わせて取り組むことが効果的です。

まとめ

適応障がいは、現代社会で多くの人々が直面する問題の一つです。仕事や生活のストレス、人間関係の問題、経済的なプレッシャーなど、さまざまな要因が組み合わさって発症することがあります。

しかし、適切なサポートや治療を受けることで、適応障がいを克服し、健康で幸福な生活を送ることが可能です。心の負担やストレスを感じた場合は、自己判断せずに早めに専門家の助けを求めることが重要です。心理カウンセリングや精神科医の診断を受けることで、適応障がいの原因や対処方法を理解し、適切な治療を受けることができます。

また、ストレス管理やリラックス法を学ぶことも有効です。適応障がいには早めの対処が重要であり、十分なサポートを受けることで、再び健康で充実した生活を取り戻すことが可能です。

 

参考

ビジネスパーソンが仕事ストレスで適応障がいに…自ら命を絶つ寸前に思いとどまれた理由は?(読売新聞(ヨミドクター)Yahooニュース

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