2024.03.08

視覚障がい者の案内で「見えない世界」を体験する「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」暗闇の中で見えない世界を体験する

「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」は、視覚障がい者の案内で「見えない世界」が体験できる施設で、ドイツ生まれのソーシャル・エンターテインメントです。日本には2024年で25年目を迎え、25万人以上が体験しました

多様性やコミュニケーションを学ぶ場として、企業や団体の研修にも取り入れられています。東京都港区にある常設館「ダイアログ・ダイバーシティミュージアム 対話の森」を訪れた、読売新聞メディア局・松本由佳さんの体験をご紹介します。

 

魔法のような体験

「ダイアログ・ダイバーシティミュージアム 対話の森」への訪問は、まるで未知の世界への扉を開くような、魔法のような体験でした。案内役である全盲のなおきさんの案内に従い、暗闇の中へ一歩踏み入れる瞬間、まるで別次元へと足を踏み入れたような感覚が私を包みました。

手にした白杖を頼りに、周囲の世界を探索することは、まるで冒険者が未知の領域に足を踏み入れるような興奮と不安が入り混じった感情を呼び起こしました。足元の柔らかさや草の匂い、木の枝に触れる感触は、まるで実際に森の中に身を置いているかのようであり、五感が刺激される体験でした。

この暗闇の世界で、私たち参加者の声が重なり合い、徐々に不安が消え、代わりに信頼の絆が生まれていく様子を感じることができました。この場所は、ただ視覚を奪われた暗闇の空間ではなく、新たな出会いや経験、そして学びの場であることを強く感じました。

 

視覚以外の感覚を研ぎ澄ます

「対話の森」では、日常では考えられないような体験が私たちを待っていました。音に頼りながらボールを転がしたり、電車の中で座席に座る体験をすることで、視覚以外の感覚を研ぎ澄まし、新たな発見をする喜びを味わいました。

特に暗闇の中で注文した飲み物は、普段の感覚では味わえない奥深い味わいを持っていたことに驚きました。この体験は、私の人生における日常の価値観や感覚に新たな視点をもたらしました。

また、視覚障がいのある人々に対する声掛けの難しさや、受け手の気持ちに思いをはせることができるきっかけともなりました。

 

理解や配慮の重要性を改めて認識

「自分にはできない」と思っていたことが、実際に挑戦することで可能になる瞬間を何度も経験し、その喜びを感じました。

この体験を通じて、私は自身の能力や可能性に再び気付かされました。視覚以外の感覚をフルに活用し、新しい世界を楽しむことができることに感謝の念が湧きました。

また、なおきさんの体験談から、視覚障がいのある人々に対する理解や配慮の重要性を改めて認識しました。この貴重な体験を通じて、私は人々とのコミュニケーションや、異なる視点からの世界の見方を学ぶことができ、これからの人生において大きな影響を与えることでしょう。

 

難病で視力を失ったなおきさんの温かさ

なおきさんは、進行性の難病「網膜色素変性症」によって視力を失ったと告げました。しかし、「対話の森」で過ごした90分間は、彼の存在が私たちにとって大きな力となりました。

彼は暗闇の中で自由に動き回り、温かなトークで場を盛り上げました。彼の姿は、障がいのある人々が不自由としてではなく、自由として見られることを示しています。

普段、町で障がいのある人を見かけると手助けを考えることがありますが、ここでは彼なしには進めませんでした。

 

できないことがあってもできる人に力を借りればいい

逆に、私たち自身が声をかけて仲間を先導する場面もありました。困った時は互いに助け合うことができるという当たり前の事実に安心感を覚えました。

できないことがあっても、できる人に力を借りればいいのです。残された感覚を駆使して、時には助け合う。人には不安を乗り越える力があるのだと思いました。

 

可能性を発見する場所

「そうか、ここは不自由を確認する場所ではない。可能性を発見する場所なんだ」と思いました。「障がい」に対する意識が変わるのに時間はかかりませんでした。

違いを知って想像力を働かせれば、共感をもって対話することはできます。その触れ合いの温かさ、豊かさに気付かされるひとときでした。ダイアログ・イン・ザ・ダークは、見えない世界の奥深さを探求し、新たな学びを与えてくれる場所なのです。

 

寂しさと安堵感

暗闇の世界が消えた後、なおきさんが扉を開けると、まぶしい光が流れ込み、暗闇の世界は消えました。その瞬間、なんだか寂しいような気持ちになりました。

しかし、その一方で、新たな光に包まれた場所への帰還は、また別の意味での安堵感をもたらしました。

 

見えなくなった時のための予習としても貴重な機会

参加者の中には、視覚障がい者の高垣利行さん(49)がいました。彼もまた、網膜色素変性症で、視力が次第に失われつつあります。

彼はこの日の体験について、「暗闇で周囲が全く見えていないのに、最後は見えているような感じがした。不思議な感覚でした。」と語ります。

そして、「将来、見えなくなったらどうなるのだろう、という大きな不安がありましたが、同じ病気のなおきさんに元気づけられました。見えなくなった時のための予習としても、貴重な機会でした。」と続けました。

ドイツ発祥「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」

「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」は、1988年にドイツの哲学博士、アンドレアス・ハイネッケさんの発案で誕生しました。世界47か国以上で開催され、1000万人を超える人々が体験しています。

日本でも、1999年にイベントとしての開催が始まり、2009年には東京・外苑前に初の常設館が設置されました。

そして、東京五輪・パラリンピックの開催準備を契機に、東京・竹芝の商業施設「アトレ竹芝」に拠点を移し、20年に「ダイアログ・ダイバーシティミュージアム 対話の森」がオープンしました。

 

企業研修の場としても注目

この施設は、リーダーシップやチームワークを学ぶ企業研修の場としても注目されています。これまで1000社以上、2000団体以上がプログラムを導入しています。

また、体験プログラムには、「ダイアログ・イン・サイレンス」や「ダイアログ・ウィズ・タイム」などもあり、参加者にさまざまな視点からの学びを提供しています。暗闇の中で光と闇が交わる場所、「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」で、私たちは新たな発見や学びを得ることができます。ここで得た経験は、暗闇からの帰還後も私たちの心に光を灯し続けることでしょう。

 

対話から生まれる多様性と自己肯定感

多様性を認め、自己肯定感を高める社会、それは私たちが目指すべき理想の姿です。この理念を具現化し、実践しているのが、一般社団法人「ダイアローグ・ジャパン・ソサエティ」代表理事である志村季世恵さんの活動です。

彼女は、「対話の森」というプログラムを通じて、参加者たちに深い感銘を与えています。

 

自己と他者を肯定することで自己肯定感を高めた

プログラムに参加した体験者から寄せられた感想には、多くの示唆が含まれています。「他者に頼っていい、頼られていいと分かって、人って何て良いものだろうと思った」という言葉は、その一例です。

プログラムが与える影響の大きさを物語っています。多様性を受け入れ、自己と他者を肯定することを学び、実践することで、参加者たちは自己肯定感を高めることができたのです。

彼らが自分の弱さを他人に伝えることで、得意な人が助けてくれる。このような経験が、参加者たちに自信と希望を与えました。

 

優しい社会が築かれることを願う

志村さんは、「活動を通して、他人同士が互いに違いを認め、助け合うことは素晴らしいことだと思えるような、優しい社会が築かれることを願っています。」と述べています。これは、彼女の使命の一端を示しています。彼女は、このプログラムを通じて、社会が多様性を尊重し、助け合いの文化を育むことの重要性を伝え、実現することを願っています。そのために、彼女は対話の場を提供し、人々が自分自身と他者を受け入れることができる環境を作り出しています。

 

社会全体の健全性にも貢献

「対話の森」の活動は、そのような社会の実現に向けた一歩として、重要な役割を果たしています。多様性を認め、自己肯定感を高めることが、個人の成長だけでなく、社会全体の健全性にも貢献することを、私たちは知るべきです。

志村季世恵さんの活動は、その理想の実現に向けた貴重な取り組みであり、彼女の使命と情熱が、社会に新たな希望と可能性をもたらしています。

 

自己肯定感と多様性の尊重

多様性を認め、自己肯定感を高める、これは、現代社会における重要なテーマの一つです。特に、社会的な支援が必要な人々にとって、このテーマは尚更重要です。

そこで、一般社団法人「ダイアローグ・ジャパン・ソサエティ」代表理事である志村季世恵さんの活動から得られる示唆をもとに、今後の支援に必要なことを考えてみましょう。

 

人々が自分らしくあり続けられる支援環境の整備

支援の未来において重要なのは、個々の人々が自己肯定感を持つことです。自己肯定感が高まれば、個人の自尊心や自信が向上し、困難な状況にも立ち向かえる強い意志が生まれます。

そのためには、支援のプログラムや施策が、個々のニーズや個性に合わせて柔軟に対応できることが重要です。個々の人々が自分らしくあり続けられる支援環境が整備されることで、自己肯定感を高める土壌が整います。

 

差別や偏見なく支援を受けられる社会を築く

多様性の尊重が求められます。社会的な支援は、すべての人々が平等に受けられるべきです。そのためには、様々な背景や能力を持つ人々が、差別や偏見なく支援を受けられるような社会を築くことが必要です。

また、多様性を尊重することで、個々の人々の強みや特性を活かした支援が行われるようになります。これによって、支援を受ける側も自分の存在が認められ、社会において意義ある存在であることを実感できるでしょう。

 

差別や偏見のない環境

志村季世恵さんの活動から学ぶことは、自己肯定感と多様性の尊重が、支援の未来において不可欠であるということです。

この理念を実現するためには、支援の提供者が個々のニーズに柔軟に対応し、差別や偏見のない環境を整えることが必要です。そして、支援を受ける側も自らの存在価値を認識し、自己肯定感を高める努力をすることが大切です。

まとめ

今後の支援の方向性は、志村季世恵さんの活動から得られる示唆を基に構築されるべきです。自己肯定感と多様性の尊重が支援の中心に据えられることで、より包括的で支え合いのある社会が実現することを願っています。

 

参考

視覚障がい者の「見えない世界」を疑似体験 「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」 日本で25周年…参加して「見えた」こと(読売新聞(ヨミドクター))Yahooニュース

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