2024.04.17

視覚障がい者の部屋探しと生活支援:地域差と課題 部屋探しに立ちはだかるものとは?

視覚障がい者の日常生活や部屋探しの現状を探るために、株式会社mitsukiの代表である高橋昌希さんにお話を伺いました。彼は同行援護事業や視覚障がい者向けのウェブメディアを運営しており、その経験から多くの示唆に富んだお話を聞くことができました。(ACTION FOR ALL 編集部)

 

情報収集や地図の把握も困難を極める

日本には約31万2,000人の視覚障がい者が在宅で暮らしています。彼らの中には、身体障がい者手帳を持つ人々の中で7.3%を占めています。視覚障がい者にとって情報収集は至難の業であり、特に部屋探しという日常的な活動においてはその困難さが顕著に現れます。

私たちは視覚を利用して周囲の環境を把握し、情報を得ていますが、視覚障がい者にとってはこの方法が通用しません。高橋さんによれば、部屋探しの際には物理的な移動だけでなく、細かな情報収集や地図の把握も困難を極めます。そのため、同行援護事業や適切な支援が必要不可欠です。

 

「同行援護」というサービスを提供

株式会社mitsukiの事業には、視覚障がい者の支援に加えて、ブラインドアスリートのサポートや情報発信も含まれています。

視覚障がい者の生活において、移動障がいと情報障がいの両方が重要な課題です。mitsukiでは、この両方の課題に対応するために、「同行援護」というサービスを提供しています。このサービスは、視覚障がい者がスポーツや日常生活において安心して移動できるよう、伴走や生活支援を行うものです。

さらに、同行援護を担うガイドヘルパーの研修や資格発行を通じて、専門的なサポート体制を整えています。また、最近では移動支援の福祉制度を活用した外出の支援サービスも提供しており、利用者が制度の狭間で困ることがないよう、柔軟な対応を心がけています。

 

ウェブメディア「Spotliteメディア」

情報障がいに関しては、「Spotliteメディア」というウェブメディアを通じて、視覚障がい者やその支援者に向けて情報を提供しています。視覚障がい者が日常生活で必要な情報や福祉に関する情報を得ることが困難なため、このメディアではわかりやすく情報を発信し、彼らの生活をサポートしています。

「Spotliteメディア」は主に当事者向けのコンテンツを提供していますが、健常者にもリアルな情報を伝えることを目指しています。さらに、地域連携の一環として、地方都市での視覚障がい者同士の交流を促進する活動も行っています。これにより、視覚障がい者が地域社会でより良い支援を受けられる環境を作ることを目指しています。

 

何らかの理由で門前払い

視覚障がい者の方の部屋探しは、実際には非常に困難なものとなっています。一昨年に新入社員としてこの問題に取り組んだ際、その困難さを肌で感じました。まず、不動産会社で物件を選び申し込みをする際に、視覚障がい者であることを伝えると、何らかの理由で門前払いされることがほとんどでした。管理会社に障がいがあることを伝えても、相手方から電話を切られるような経験もありました。

 

「難しいです」と断られることも

さらに、身分証明書と障がい者手帳を提示しても、「難しいです」と断られることもありました。契約が成立したとしても、提出した翌日に契約が破棄されるといった事態も起こりました。

このようなケースは、単なる一例に過ぎません。視覚障がい者が部屋探しをする際には、さまざまな困難が立ちはだかります。彼らのニーズや困難さを理解していない不動産会社や管理会社の対応が、この問題の一因となっています。

 

その理由について何も伝えられなかった

契約が破棄された際に、その理由について何も伝えられなかったことが、大きな課題でした。このような状況では、何が原因で契約が破棄されたのかが明確にならないため、不安や疑念が残ります。また、不動産会社の担当者たちが視覚障がい者のニーズや問題について理解していないことも、問題の一端です。

具体的な物件の見学においても、視覚障がい者の操作が難しいタッチ式の鍵や宅配ボックス、インターフォンを備えた物件があることがあります。これらの物件は、内見する必要がないという見解もあるでしょう。

 

配慮はありがたいが適切な理解が欠けているという側面

さらに、不動産会社の担当者が過剰に気を使ってくれる場合もあります。例えば、段差や階段について問い合わせられたとしても、多くの視覚障がい者にとってはそれほど重要なポイントではありません。このような配慮はありがたいですが、適切な理解が欠けているという側面もあります。

部屋探し以外でも、契約時の手続きが難しいという問題もあります。視覚障がい者は自ら署名をする必要があり、家族の代筆が認められないため、何度も窓口に足を運ばなければなりません。しかし、サインガイドなどの支援ツールを利用すれば、このような問題を克服できる可能性があります。

 

インターネットを利用した方法

視覚障がい者の方も、物件探しにおいて主流となっているのはインターネットを利用した方法です。多くの方がネットで不動産情報を検索し、掲載されている不動産会社に問い合わせをする傾向があります。

しかし、その際に直面するハードルの一つが、物件画像が見えないという問題です。間取り図が見えないため、部屋の形状や配置が把握しづらく、実際にどのような空間なのかを把握するのが難しいです。そのため、代替テキストがあればそれを読んだり、不動産会社に問い合わせをするなどの方法で情報を得る必要があります。

 

移動しやすい環境が整っているエリア

また、歩行可能な駅かどうかを判断する際にも、視覚障がい者の方は特に配慮が必要です。歩道の安全性や交通量、道路の配置などが移動の際の重要な要素となります。そのため、希望するエリアの駅周辺を実際に歩いてみて、移動しやすいかどうかを判断することも一つの手段です。安全で移動しやすい環境が整っているエリアを見つけることが、視覚障がい者の方にとって重要です。

 

同行援護や居宅介護サービスを利用する必要

新しい土地や新しい住居での生活を整えることは、視覚障がい者にとって部屋探し以上の挑戦です。住居環境の変化には多くの課題があります。

まず、新しい住環境での生活を支援するためには、同行援護や居宅介護サービスを利用する必要があります。しかし、これらのサービスを提供している事業所を見つけることが困難です。同行援護の事業所は地域によって異なり、引っ越す場合には新しい地域での事業所を見つける必要があります。地域や自治体によっては、サービスの提供時間や内容に差があるため、その違いを理解し、適切なサービスを受けることも難しいです。

 

視覚障がい者が安心して新しい生活を始められるように支援

また、自治体によっては利用できる制度やサービスが異なるため、新しい地域での生活に適応することも難しくなります。自己負担額や助成金、代読サービスの有無などの違いは、地域によって異なります。そのため、情報収集や相談を通じて、地域のサービスや制度について理解を深める必要があります。

こうした課題に直面する視覚障がい者をサポートするために、私たちは福祉サービスの情報提供や相談に積極的に取り組んでいます。私たちの経験と知識を活用し、引っ越し先の福祉サービスについての情報を提供し、視覚障がい者が安心して新しい生活を始められるように支援しています。

 

日常生活に必要な場所の位置を把握することの困難

引越しによる新しい地域での生活において、周辺環境の認知は視覚障がい者が直面する困難の一つです。例えば、コンビニやスーパーなどの日常生活に必要な場所の位置を把握することは重要ですが、視覚障がい者が単独で歩いてその情報を得るのは難しい場合があります。そこで、ガイドヘルパーが同行して情報を提供するサポートが必要です。

 

適切なサポートを受けることが困難

しかし、ガイドヘルパーが障がい者の後ろについて同行することは許可されていません。そのため、障がい者が単独で歩く場合には、歩行訓練士を派遣する必要があります。歩行訓練士は専門的な訓練を受けたプロフェッショナルであり、障がい者の安全な歩行を支援します。

しかし、歩行訓練は周辺環境の認知のために利用することはできません。このように、制度の違いや制約により、適切なサポートを受けることが困難になる場合があります。

このような状況は、視覚障がい者が新しい地域での生活を始める際に直面する制度上の壁の一例です。制度の改善や柔軟な対応が求められることは明らかであり、地域社会全体が協力してバリアフリーな環境を整備することが必要です。

 

明確な地域差が存在

東京と香川という異なる地域での視覚障がい者の部屋探しや住まいには、明確な地域差が存在します。

まず、情報量の差が挙げられます。東京は物件数や不動産会社の数が多いため、多様な選択肢がありますが、その分、障がい者にとって適切な不動産会社を見つけるのが難しい場合があります。逆に香川では、不動産会社の数が少ないため情報が限られていますが、口コミや地域の人々の情報共有が活発に行われているため、適切な支援を見つけやすいと言えます。

 

車の利用も地域差がある

また、車の利用も地域差があります。東京では公共交通機関が充実しており、大半の移動がそれで賄われますが、香川では車の利用が必須です。しかし、同行援護の場合、公共交通機関の利用に限定されるため、車を利用する場合は同行援護を活用することができません。さらに、香川では福祉タクシーが普及しておらず、交通手段の選択肢が限られていることも課題です。

このように、地域ごとの特性やサービスの提供状況の違いによって、視覚障がい者の部屋探しや住まいに関する課題やニーズが異なることがあります。それぞれの地域において、より適切な支援やサービスの提供が求められています。

スーパーへの買い物に行く際の手続き

東京と香川での生活における具体的な違いを挙げると、スーパーへの買い物に行く際の手続きがそれぞれ異なります。

東京では、徒歩やバスを利用してスーパーに行き、買い物を済ませてから同じガイドヘルパーと帰宅することができます。この場合、同行援護制度のみを利用することで、1つの福祉制度の範囲内で全ての手続きが完了し、自己負担も比較的少額です。

一方、香川では、介護タクシーを利用してスーパーに行き、買い物をする際には別のヘルパーが同行します。そして、再び介護タクシーを利用して帰宅します。この場合、スーパーへの移動と買い物、帰宅という一連の流れには2つの制度を利用する必要があり、それぞれに自己負担が発生します。

同行援護の事業を運営する上で、制度の壁や自治体間の格差が課題となります。この問題を解決するために、情報の発信や様々な業界との連携、さまざまなアプローチを通じて、現状を変える取り組みが行われています。また、政策提言や政治への働きかけも行われ、格差の解消に向けた努力が続けられています。

 

その人の背景や状況を総合的に考慮

視覚障がい者の住まい探しにおいて、不動産会社と当事者の間でのコミュニケーションが欠かせません。私たちが視覚障がい者のサポートを行う立場から、不動産会社に対して意識してもらいたいことがあります。

まず、視覚障がい者が単に「視覚障がい者」という一言で片付けられるのではなく、その人の背景や状況を総合的に考慮してほしいです。障がいはその人の一部であり、年収や職業、家族構成なども考慮に入れた上で、適切なサポートや提案をしてほしいと思います。不安や疑問があれば、率直に質問してほしいですね。

 

自身の状況やニーズをしっかりと伝えることが重要

一方で、視覚障がい者側も一方的な主張ではなく、自身の状況やニーズをしっかりと伝えることが重要です。不動産会社の方々は福祉の専門家ではないため、具体的に何が困難なのかや、何ができるのかを明確に伝えることで、より良いサポートが期待できます。

また、コミュニケーション力の高い視覚障がい者もいれば、そうでない方もいます。個々のコミュニケーション能力に頼らず、お互いに対話し、理解を深める努力が大切です。不動産会社と視覚障がい者がお互いをよく理解し合うことで、より良い住まい探しのサポートが実現できるでしょう。

 

情報と人とのつながりを育むことが重要

合理的配慮の努力義務から義務への変化により、社会的関心が高まると思います。障がい者にとっては情報の発信と共有が重要な契機となるでしょうが、そのためには情報を正しく届けるための努力も不可欠です。

また、障がい者雇用率が法的に定められていますが、不動産業界では「障がい者入居率」についての規定はありません。そこで、現場で成約を増やすためには、障がい者側からの積極的なアプローチが求められると考えられます。合理的配慮の実践が不足していることを指摘するだけでなく、制度の恩恵や良い事例を共有し、情報と人とのつながりを育むことが重要です。

まとめ

視覚障がい者の部屋探しや生活支援において、地域ごとの課題やニーズの違いが明確になっています。不動産会社と当事者がお互いを理解し合うことで、より良い住まい探しのサポートが実現できると信じます。また、障がい者差別禁止法の改正により、社会的な関心が高まり、合理的配慮の実践や情報共有が促進されることを期待しています。地域社会全体が協力し、バリアフリーな環境を整備することで、視覚障がい者が安心して生活を送れる社会を築いていきましょう。

 

参考

視覚障がい者の部屋探しに立ちはだかるものとは? 同行援護支援企業に聞く当事者の暮らし | 住まいの本当と今を伝える情報サイト【LIFULL HOME'S PRESS】

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