2024.04.23

障がい者のリアルに東大生が迫る 10年の挑戦と成長:すべての人が抱える生きづらさに

10年前、2013年に東京大学で始まった「障がい者のリアルに迫る東大ゼミ」が、10年の歳月を経て、記念のイベントを開催することになりました。このゼミでは、身体障がいや知的障がいなど、様々な障がいを持つ人々との対話を通じて、障がいの当事者としてのリアルな体験を学生たちは重ねてきました。

その過程で、難病や依存症などの患者とも向き合い、共に学び合ってきました。この記念のイベントでは、ゼミに参加した学生たちは、これまでの半年間の体験や学びを振り返りながら、障がいの当事者と向き合うことで自分自身を見つめ直す機会を得ることになりました。

 

「障がい者のリアル×東大生のリアル」と題したイベント

2023年12月、東京大学で開催された「障がい者のリアル×東大生のリアル」と題したイベントでは、ALS(筋萎縮性側索硬化症)の患者がゲストとして招かれました。ALSは全身の筋肉が次第に動かなくなる難病であり、多くの患者は2年から5年で自発呼吸ができなくなるとされています。

 

「周囲に“死なせてほしい”と言ってしまった」

イベントでは、参加者からこんな質問が投げかけられました。「周囲の友人から“死んだほうが楽、死にたい”という相談を受けることが少なくありません。そのような思いを抱いている人に対してどのような応答があり得るのでしょうか」。これに対し、ALS患者の岡部さんは代読で応えました。

「私はこの8月に体調を大きく崩してあまりにもつらくて、周囲に“死なせてほしい”と言ってしまいました。私は死に直面したときにそばにいてくれるだけでどんなに救われるかと思いました。」

 

なぜ生きづらさに向き合うのか

2013年に始まった学生が運営する自主ゼミ、「障がい者のリアルに迫る東大ゼミ」は、東京大学生がなぜ生きづらさに向き合うのかを問いかけます。

2年の佐藤万由子さんは、高校までの経験から、周囲で不登校や貧困などの生きづらさを目にしてきました。彼女は、誰もが抱える生きづらさに光を当て、語られていない声に耳を傾けることの重要性を感じています。

1年の榎本春音さんは、出生時の性別と性自認が異なるトランスジェンダー男性です。彼は自らも生きづらさを感じており、自分の中にある障がいに対する偏見や不安を抱えてきました。榎本さんは、障がいに対する意識を再認識し、再構築する必要性を感じています。

 

思いや質問を投げかける

10年目の記念イベントでは、一般にもゼミを公開しようという試みが行われ、これまで講師役を務めてきたALS患者の岡部宏生さんと佐藤裕美さんに依頼が行われました。ALSは2年から5年で自発呼吸ができなくなるとされており、生きるか、亡くなるかの選択を迫られます。

学生たちは、岡部さんと佐藤さんに向けて思いや質問を投げかけました。「お二人とどう出会うかということを考えたときに、生きていてその先の話というか、お二人の現実というか、どのような現実・世界を生きているのか伺いたいと思って。

 

避けて通れない問題があった

岡部さんは文字盤を使い、目の動きで会話します。彼はこう語りました。「私と裕美さんは死について話すことがとても多いです。死ぬことは誰にとっても前提だけど、それを身近に感じているのはかなり不自然だよね。

ALS患者の2人にとって、避けて通れない問題がありました。2020年、京都市のALS患者の女性に対する嘱託殺人の疑いで、医師が逮捕された事件が発生しました。

この事件は、"動かない体で生きる意味がない"という女性の訴えに同調し、「安楽死を認めるべき」という意見がネット上にも見られました。岡部さんはこの事件を振り返り、以下のように語りました。

「あんな姿なら死なせてあげた方がいいという典型でもあるけどね、ほっといてくれとも思うし、そんな発信ではだめだな、もっと社会に伝えたいと思うことと両方あるよ。」

 

「めちゃくちゃ怖いこと」

ゼミ生の佐藤さんは、かつて家族が意思疎通できない状態になった時の葛藤をぶつけました。「自分自身も脳梗塞のおじいちゃん、おばあちゃんがずっと病院にいて毎日通うっていう生活をしていて。悩んで、すごくいろんなことを考えさせられました。」

これに対し、ALS患者の佐藤さんは次のように述べました。「安楽死とか尊厳死とかが、何かあるとすぐ語られてしまう状況が耐えきれなくて。なるべく見ないように、聴かないように触れないようにしてきて。でもこれじゃだめだ、逆にどんどん向き合って考えなくちゃ行けないと思って。でもそれはそれは自分にとってめちゃくちゃ怖いことなので。」

 

「生死を二択で捉えられることに違和感を感じた」

榎本さんは、自らも性別のことで悩んだ経験があります。そんな彼女は、ALSと一緒に生きる岡部さんと佐藤さんの話を聞きたいと述べました。

10周年の記念イベントには、学内外から約130人が参加しました。東大生たちは、岡部さんと佐藤さんに向けて、著書やブログで触れられた「生死を二択で捉えられることに違和感を感じた」というお話について詳しく聞きたいと述べました。

岡部さんは次のように答えました。「『“あした生きますか?それとも死にますか?”という質問をみなさんが受けたときにどう思いますか。わたしは馬鹿なこと言わないでよって思っちゃう。生きるつもりでいますがと思っちゃう。けれど、それがいつか言えない時が来るのかなあという病気ではあります。

 

「生物はもともと生きることを前提として存在している」

そして、岡部さんはリアルゼミでの経験を共有しました。「ある時のリアルゼミでのことである。生死についての話が出た時のことであったが、生きることと死ぬことが、まるでてんびんが釣り合っているかのような話し方がされているように思えて、私は強烈な違和感を感じた。生物はもともと生きることを前提として存在している。

もともとてんびんは生に大きく傾いている。そのてんびんをひっくり返して死を選ぶことがどんなに不自然かを考えるべきだと私は思う。私が発信したいことは、生存の上に立ってこそ“どうやって生きるか”が存在していること。どうやって生きるかは無限に選択肢があるということ。生きていけないような環境を作り出しているのは私たち自身であると言うこと。どうか私を殺さないで。

 

受け止める側が考えること

佐藤さんは、このゼミで学生たちとの対話についての思いを述べました。彼女はこう語ります。「私自身『私はこう思う』っていうこと、そういうことを発信することが何の意味があるんだろう。それは意味をなさないことだから、言うのをやめてしまおうとか、真剣に聴いてくれている人がいるのだろうかとか思っていました。

しかし、以前リアルゼミに参加した際に、学生たちが真剣に彼女の言葉を受け止め、質問や対話をしてくれたことで、彼女は大きな衝撃を受けました。「『私が』ということにどれだけ意味があるのかということは私が考えることではなくて受け止める側が考えればいいことなんだと気づかせていただいた。」

人との関わり方を深く考える

学生たちは、当事者たちが語った思いについて話し合いました。彼らは、生きると死ぬというテーマについて話を聞くことや、そのテーマについて話すことが、普通のことではないと感じました。

佐藤万由子さんは、「わたしたちに力になりたいと思ってくれているのかもしれないし、感じ取って欲しい、すごく優しい気持ちでしゃべってくれているんだろうな」と述べました。

また、榎本春音さんは、自分自身が選択を迫られていることについて言及し、「生きるかどうかの選択も、選ぶことの怖さや割り切れなさはお二人もずっと抱えてらっしゃったことだから、それを伝えてくれた」と述べました。

最後に、学生たちは、なんにもない人の話も同様に大切に聞くべきであり、人との関わり方を深く考えるべきだということに気づきました。

 

非常に愛情深いと感じられる

2月、ゼミ生たちは再び岡部さんと佐藤さんを訪ねました。学生の佐藤万由子さんは、佐藤裕美さんに向かって語りかけました。

佐藤万由子さんは、佐藤裕美さんが自分が語ることに抵抗を感じていることについて言及しました。しかし、それでも彼女が今回のゼミに参加してくれて、何かを感じてもらえることを願って話してくれたことは、非常に愛情深いと感じられると述べました。「返したいというか、いただいたものは返したい。」

それに対し、佐藤裕美さんは次のように返答しました。「受け止める人が確かにいて、なんて貴重な今の瞬間なんだろうと思っていて、それがたまっていくことが多分、生きていきたいなみたいなことにつながっている。」

 

「一緒に生きようね」

榎本春音さんは、「みんな違うっていうこと。みんな違う経験を持っているということ。それはなんか自分はすごくわくわくするんですよね。こんなに違うのにみんな一緒に生きてんじゃんって思うんですよね。悩むっていうことがそんなに悪いことじゃないかもしれないってすごく考えるようになって、悩むっていうことが生きることだってすごく思って。もやもやしながら生きていくっていうこと。それがいいなって思っています。

一方、岡部宏生さんは、「“生きる”か“死ぬ”かはたった2通り。でもどうやって生きるかは70億通り。しっかり生きようね。一緒に生きようね。」と述べました。

 

共生の重要性や自己実現の大切さ

彼らが自主ゼミで学んだことが、自らの人生や生き方に大きな影響を与えたことが窺えます。

最初は「東大生」と「障がい者」という枠組みの中で対話していた学生たちが、ゼミを通じてその枠組みから解き放たれ、肩書きや属性にとらわれることなく自由な発想や行動ができるようになったということは、このゼミが与える価値の大きさを示しています。

多様な人々との対話を通じて、自分自身や他者、そして社会に対する理解が深まり、共生の重要性や自己実現の大切さを実感した学生たちは、これからの未来をどう作っていくのかという問いに向き合っている様子が伝わってきます。彼らの成長と展望に期待が寄せられると感じられます。

まとめ

自主ゼミナール「障がい者のリアルに迫る東大ゼミ」が10年の歳月を経て、その記念のイベントを開催しました。このゼミは、学生たちが枠組みにとらわれず、多様な人々との対話を通じて成長し、共生の重要性や自己実現の大切さを実感する場となっています。10年目の今、彼らの挑戦と成長、そして未来への展望が明るく照らされています。

 

参考

東大生が障がい者のリアルに迫るゼミ すべての人が抱える生きづらさに | NHK

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