2024.04.23

「通級に入れない」発達障がい児の通級問題 教育現場の教員不足が深刻化

NHKに寄せられた声によると、「通級に入れない」という苦情が相次いでいます。この「通級指導」は、発達障がいなどを抱える子どもたちが通常の教室に在籍しながら利用できるサービスで、週に数時間程度の特別な指導を受けることができます。

しかし、中には通級に入れず、2年以上も不登校が続いている子どもたちもいます。この問題について、NHKは学校で何が起きているのかを取材しました。(首都圏局/ディレクター 實絢子・岩井信行)

 

予期せぬ出来事が起きるとパニックに

都内に住む、小学5年生のケンタさん(仮名)は、医師から発達障がいの一つである「自閉スペクトラム症」の傾向があると告げられています。彼は抜き打ちテストなど、予期せぬ出来事が起きるとパニックになってしまいます。

ディレクターが尋ねると、ケンタさんは「予定表とかはあるけど、その時に何があるかわからないから」と答えました。また、「できるかどうか、怖くなる」とも述べました。彼の母親によれば、先生の言葉を100%受け止めてしまい、「間違えちゃだめだからね」という言葉を自分が言われていると思い込んでしまうようです。

 

通級に入ることができなかった

2年生の時から不登校が続いているケンタさん。彼の母親は、ケンタさんがパニックになった時に気持ちを切り替える方法を学べば、再び学校に通えるかもしれないと考え、通級に申し込みました。しかし、学校からは「希望者全員は受け入れられない」という回答が返ってきたそうです。その結果、ケンタさんは通級に入ることができませんでした。

 

対人関係を学ぶには学校に行くことが必要

母親は、「ケンタさんが同級生の友達と一緒に遊べなくなったことが一番つらい」と述べています。彼女はまた、知識を詰め込むだけであれば家庭でもできると考えますが、対人関係を学ぶにはやはり学校に行くことが必要だと語ります。

ディレクターが尋ねると、ケンタさんは「みんなと一緒にお話したい。一緒に鬼ごっことか、そういうことをしたい」と答えました。

 

「通級に入れない」という声が相次いで寄せられる

「通級に入れない」という声は、ケンタさんのケース以外にも、相次いで寄せられています。

ある保護者は、「親が通級を希望しても、希望者が何名もいるため、一年以上待つ状態が普通のようです。その間に不登校になった子も何人もいます(我が家もそうです)。そしてやっと入級となっても、受けられるのは週に1時間のみでした。」と述べています。

別の保護者は、「発達の凸凹が判明した小学生の子どもがいます。二次障がいで不登校になっており、学校にも相談していますが、『通級はもっと困っている子を優先したい』とのことで、利用が難しそうです。」と訴えています。

さらに別の保護者は、「通っている学校には通級指導教室はなく、通級指導教室のある学校までの送迎を親がやらなければ指導は受けられない、という現実を知りました。私は仕事をしていて送迎をするのは難しく、諦めたまま現在に至ります。」と述べています。

 

教員の不足

希望しても入れない通級。その背景には、教員の不足があります。通級指導にあたるのはその学校の教員で、特別な資格は必要ありません。

都内の小学校教諭、吉川美穂さんは、教員歴14年で、4年前から通級を担当しています。彼女は、ADHDと診断された児童を指導する日々を送っています。ゲームや運動を通して、集中力や最後までやりきる力を養うことに取り組んでいます。

通級では1人1人の特性に合わせた指導が求められます。東京都では、教員1人当たり受け持つ児童数は12人という基準を設けています。しかし、吉川さんは一時期、基準を超える15人を受け持っていました。その原因は、通級を希望する児童の急増でした。当初は20人ほどと見込まれ、2人の教員が配置されましたが、実際の希望者は31人に達しました。

 

子ども1人1人の特性に合った指導が難しくなってしまう

江東区立豊洲北小学校の吉川美穂教諭は、「担当する子どもたち1人1人に、現在かかっている医療機関や、服薬状況などを聞き取ったりしています。その資料作りも時間がかかります。正直言うと12人でも結構いっぱいで、それ以上になると、子ども1人1人の特性に合った指導が難しくなってしまうかなと思います」と語ります。

学校は区の教育委員会に、新たな教員を配置してもらえないかと交渉しましたが、江東区立豊洲北小学校の統括校長である喜多好一さんは、「人員を配置してくださいと要望を出したのですが、通常学級でも教員が足りない状況なので配置は難しいとのことでした。結局、学校で探してくださいというような現状がずっと続いていました」と述べています。

 

誰でも指導を担当できるわけではない

学校は半年かけて、早期退職した元教員を探し出し、通級の担当を補充することができました。しかし、発達障がいの児童の急増に追いつかない教員の確保は、教育現場にとって深刻な課題です。

特別支援教室(通級)では、教員免許があっても、誰でも指導を担当できるわけではありません。「充実はもちろん大事ですが、教育界の中での人材不足が、すごく大きな足かせになっているのかなという実感を持っています」と、喜多統括校長は述べています。

 

発達障がいの認知や理解が広まったことが通級利用者数の増加に繋がった

NHKが東京都内の全区市町村に実施したアンケートによれば、「教職員の人員不足など、学校側の対応を理由に、通級に待機が生じている」と答えた自治体は7つありました。

特別支援教育が専門の明官茂さんによれば、ここ数年で発達障がいの認知や理解が広まったことが通級利用者数の増加に繋がっています。この10年でおよそ3倍に増加し、18万人あまりに上ります。

 

今後さらに増えると予想

明星大学教育学部の明官茂教授は、「発達障がいなどの子どもに適切な指導をすると、学習や生活の困難が改善することが理解されるようになってきました。当事者や保護者、学校が、対応の必要性を認識しはじめたことで、通級を利用する子どもが増えています。通級の利用者は、今後、さらに増えると予想しています。特別支援教育を受けている子どもの割合は、諸外国に比べて、日本はまだとても少ないからです。通級を必要とする子どもが受けられる体制を整えることが必要です。」と述べました。また、彼は支援の入り口にたどり着けていない子どもたちが多くいることにも言及しました。

 

学習方法を身につけてもらいたいと通級に入ることを希望

都内に住む小学5年生のミカさん(仮名)については、発達障がいの一つである「学習障がい」の傾向があるといいます。1年生の時、漢字の読み書きが苦手であることに気づいたといいます。

算数など他の教科は問題なくこなせるミカさん。しかし、何度練習を繰り返しても、覚えられない漢字があるといいます。音読や漢字テストなどがあると、クラスでからかわれることも。

ミカさんはこう語ります。「例えば国語と書いてある時に、国語の「語」が読めないと、「国」で止まっちゃって読めなくなっちゃう。『読むのが遅い』とか、『ちげーだろ』って言われたことはあった」と。

ミカさんの母親は、ミカさんにあった学習方法を身につけてもらいたいと通級に入ることを希望しました。「ルビを教科書に振ったら楽になるよとか。どこを読んでいるのか分からなくなったらこういう風に線引くといいよとか、そういうサポートがあると助かるなと」と述べています。

 

検査を受けるのが条件

しかし、思わぬ壁が立ちはだかります。東京都では、通級に入るために、「発達検査」と呼ばれる検査を受けるのが条件になっています。検査の予約をとろうと区に問い合わせると、ほとんどが埋まっている状況。検査を受けるまで、1年以上かかりました。

ミカさんは検査を待つ間、不登校になりました。大好きなバレーボール部の活動も、参加できずにいます。「読むのが遅い」とか、そういうことがトラウマになって行けなくなったのかもしれない。学校に行けるように6年生になるまでにしたいとミカさんは語ります。

 

病院の予約が取れない

保護者からの声は、「発達検査は、病院の予約がまず取れない。取れても検査の予約ははるか先。5月に予約したら検査は10月、結果は11月ころになります。新規受け付けすらしていないクリニックも多いので、初診でとなると、いったいいつ検査できるんでしょう…」というものや、「2年生になる時に転勤で移住しました。それまで他県での通級を利用していたことや、診断名を転校先にお伝えしました。しかし、その自治体で検査をしなければ利用ができないルールで、検査まで半年待ち、利用開始は1年間待たされました」といった声が寄せられています。

 

マンパワー的にたくさんの患者さんを診ることができない

なぜ、こうした事態が起きているのか。通級に入るための検査は、自治体や民間の医療機関などで行われています。

記憶力や理解力を測り、検査後の手続きまで含めると、子ども1人につき約5時間かかります。この小児科で実施できる検査数は、最大で月に10件ほどです。現在、検査は5か月待ちだといいます。

カラムンの森こどもクリニック院長である内田創さんは、「なかなかマンパワー的にたくさんの患者さんを診ることができません。需要と供給が全く合っていない状況かなと思います。なんとか検査をしなきゃいけないという思いもありますが、限界といいますか、なかなかやりきれません」と述べました。

専門的な指導を行う教員の養成

支援を拡充していく上で、もうひとつの課題となっているのが、専門的な指導を行う教員の養成です。埼玉県戸田市では、教員に専門的なスキルを身につけてもらう取り組みを始めています。

おととし、教員になった中野健志さんは、初めて担任を任されたのが、発達障がいなどの生徒14人がいるクラスでした。「子どもたちに対して何をすればいいのか、本当に何もわからない状態でした。どうすればいいのか、わからないこともわからない」と中野教諭は振り返ります。

この学校には、そんな中野さんをサポートする民間の専門家がいます。アメリカで心理学などを学び、発達障がいの子どもの支援に長く携わってきた宇都綾子さんです。

 

問題が起きないよう環境を変える

重視するのは、問題行動をする生徒を叱るのではなく、問題が起きないよう環境を変えることです。たとえば、かつては周りの注目を集めるため、大きな音をたててドアの開け閉めを繰り返す生徒がいました。

そこで、LITALICOパートナーズの精神保健福祉士である宇都綾子さんは、先生方と共にDIYを行いました。スポンジやシリコンを使って、音が出ないようにドアを加工すると問題行動を起こすことが無くなりました。

宇都綾子さんはこう語ります。「いくら締めても音が鳴らないので、注目をもらえない状態になったら、児童の注目欲求の行動がどんどん減少していきました。子どもたちが怒る、イライラする、爆発するという行動ではない行動に、うまく導いてあげるのが重要かなと思っております」。

 

心理学や行動分析に基づく専門的なスキル

担任の中野教諭は、このような心理学や行動分析に基づく専門的なスキルを宇都さんから学んでいます。この日は、独り言を言い続ける生徒について、相談しました。

中野教諭はこう述べます。「先生が話しているときに、独り言を話して自分の世界に入り込んじゃうのを、何とかしたいんですけれど」

すると、宇都さんは提案します。「本人に、1人で話しているということを認識してほしいので、注意というよりは、「呼んだ?」という感じで、話していることを認識できるよう促してみてください」。

 

学校は専門家を招いて教員の成長を促す試み

発達障がいのある子どもの学びを支援するため、学校は専門家を招いて教員の成長を促す試みを行っています。戸田市立戸田中学校の特別支援学級主任である中村直子さんは、「一般の学級と同じような言葉がけでは、なかなかうまくいかないところがあるので、そういうところで少しずつずれが生じていました。専門家にその時のその子に対して、適切な対応がとれるようになってきたかなと思います」と述べています。

まとめ

発達障がいを抱える子どもたちの通級指導に関する様々な問題が浮き彫りになりつつあります。教員の不足や検査待ちの長さなど、課題は多岐にわたりますが、専門家との協力や個別指導の充実が必要不可欠です。彼らの学びと成長を支えるため、教育現場と社会全体が連携して取り組むことが重要です。

 

参考

発達障がいの子ども「通級に入れない」相次ぐ 検査に1年待ちも 教員不足も深刻  | NHK 

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