2024.04.10

車いすユーザーの要望は正当?不当?重大論点が見過ごされている可能性がある?

最近、障がい者に対する配慮に関する問題がメディアやSNSで頻繁に取り上げられる中、先週、また新たな議論が巻き起こりました。

SNS上で話題となっているのは、車いすユーザーの女性が映画館で車いすを担ぎ上げる必要がある席での利用を断られたことです。この件について、桜美林大学の西山守准教授は、「トラブルが起きるたびに障害者への対応や、障害者側の態度に対する賛否がSNS上で巻き起こる。だが、重要な視点が抜け落ちているのではないか」と指摘しています。

 

様々な声があった

車いすを利用するインフルエンサーが、都内の映画館「イオンシネマ」で映画を鑑賞中、スタッフから他の劇場へ行くことを勧められたという出来事をSNS上に投稿しました。これに対し、映画館の運営会社であるイオンエンターテイメント社は、「弊社従業員による不適切な対応に関するお詫び」とする謝罪文書を発表しました。

この一連の出来事に対し、ネット上ではさまざまな意見が交錯しました。映画館側を擁護する立場からは、「通常業務以上の対応は求められない」「障がい者であるからといって特別扱いすべきではない」との声が挙がりました。

一方で、中嶋さんを支持する声としては、「映画館側の対応が適切ではなかった」「障がい者が日常的に抱える困難や苦労を考慮すべきだ」「支援体制の充実が求められる」といった意見が目立ちました。

 

「どちらが正しい/間違っている」だけで終わってはいけない

著者の西山さんは、企業のリスク対応や炎上対策に関わる経験から、「トラブルは当事者間で解決するのが基本で、SNSや動画共有サイトで発信することは好ましくない」という立場を取っています。

しかし、障がい者のインフルエンサーの中には、「自身の体験を積極的に発信することで、社会を変えていきたい」と考える人もいます。これが正当な主張と受け止められる一方で、不当なクレームと見なされることもあります。その結果、論争が生じることもあります。

障がい者に関連した“炎上事件”は、断続的に発生しています。そして、炎上が起きるたびに、障がい者への対応や、障がい者側の態度についての議論が巻き起こります。

今回のようなケースを議論する際には、「どちらが正しい/間違っている」という視点だけでなく、その背景にある人々の意識や社会制度の問題も考慮し、双方が納得できる解決策を模索することが肝要です。

 

障がい者に関する出来事がどのように受け止められているか

障がい者に関するさまざまな出来事が日本社会でどのように受け止められ、議論の的となっているかを示しています。健常者からの態度や発言が問題視される事例と、障がい者自身の行動が問題視される事例の両方が含まれています。

特に、2023年以降の出来事が増えています。コロナ禍において外出が制限され、問題が顕在化しにくかった可能性があります。また、障がい者自身が積極的に発信し、インフルエンサーとして注目を集めるようになったことも、議論の増加に影響しているようです。

このような変化が、社会通念や制度に対する違和感を引き起こし、紛争や議論を生み出しているというのは興味深い指摘です。社会が急速に変化する中で、受容し難い部分もあることを理解し、双方の立場を尊重しつつ、より包括的な解決策を模索することが重要です。

 

さまざまな課題が残されている

「ダイバーシティ」と「インクルージョン」の理念が社会に浸透しつつある一方で、その実現にはさまざまな課題が残されています。ジェンダーや人種の問題と同様に、障がい者に関する議論も人的負担や費用的な負担の問題が絡み合い、過熱化しやすい傾向があります。

また、「弱者は弱者らしく振る舞うべきだ」という潜在的な意識が依然として根強く残っており、障がい者が自らの権利を主張することに対して、拒絶感を示す人も少なからず存在します。

このような状況が、社会的弱者の支援に関して「支援しているからおとなしくしているべきだ」といった意識を生み出してしまうこともあります。

しかし、社会の多様性を認め、すべての人が尊重される社会を実現するためには、このような偏見や固定観念に立ち向かう必要があります。個々の人々が相互に理解し合い、協力し合うことで、障がい者も含めた全ての人々が自由に生きることができる社会を築いていくことが求められています。

 

本質的な問題解決がおろそかになり議論が混乱しやすくなる

バニラ・エアの搭乗拒否事件は、障がい者が航空機に搭乗する際に起きた問題であり、今回のイオンシネマの問題と類似しています。両事件とも、障がい者が自らの権利を主張する中で、社会的な問題が露呈しました。この事件から示唆される点はいくつかあります。

まず、航空会社や他の関係者は、障がい者が安全に搭乗できるように十分な配慮を行う必要があります。木島さんのような車いすユーザーにとって、搭乗は日常的な活動ではありません。そのため、航空会社は特別な配慮と柔軟な対応が求められます。

また、報道やSNSなどを通じて広く知られると、議論が本質から逸れることがあります。事件が報道された後、バニラ・エアの対応に対する批判だけでなく、木島さん個人に対する攻撃も行われました。このような場合、本質的な問題解決がおろそかにされ、議論が混乱しやすくなります。

最後に、障がい者が自らの権利を主張する際には、社会的な偏見や先入観による批判を受けることがあることを考慮する必要があります。木島さんは「クレーマー」や「プロ障がい者」と呼ばれ、激しい非難を浴びました。このような攻撃に対しても、社会全体が理解と支援を示すことが重要です。

バニラ・エアの事件から学ぶべき点は多岐にわたりますが、障がい者の権利を尊重し、適切な配慮を行うことが最優先であるということが明確に示されました。

 

社会的問題についての議論が論点として適切に扱われていなかった

木島さんの事例は、彼の行動の背後にある意図や、彼が主張していた社会的問題についての議論が論点として適切に扱われていなかったことが明らかです。彼は障がい者が自力でできることでも、サポート体制の不備によってサービスを受けられないことがあることに疑問を抱いていました。このような状況を改善するために、彼は問題に直面し、意見を主張することを選択しました。

バニラ・エアの事件では、彼が自力で搭乗できたにもかかわらず、拒否されたことを疑問視しました。しかし、彼の行動に対する議論の大半は、その行動自体に焦点が当てられ、彼の主張や意図が見過ごされたようです。

乙武洋匡さんや河合薫さんのような一部の人々は、木島さんの行動の背景にある問題や彼の主張について適切に議論していました。しかし、大多数の批判や議論は、彼の行動だけに焦点が当てられ、論点がずれたものであったようです。

このような事例は、社会的弱者が自らの権利を主張する際に直面する現実を示しています。彼らが直面する問題や不公平に対処するためには、社会全体が彼らの声に耳を傾け、彼らの主張や意図を理解することが必要です。

 

日常生活の問題点に対処するためには状況を知り適切な支援が重要

障がい者を一括りにして扱うことはできず、「要求はすべて受け入れるべきだ」ということもありません。しかし、障がい者の方々が日常生活で感じる不便や問題点に対処するためには、それぞれの状況やニーズを理解し、適切な支援や対応を行うことが重要です。

筆者が大学の車いすユーザーの学生に意見を求めたところ、その学生は映画館の対応について理解を示しました。一方で、過去には異なる対応を経験していたことから、不満や疑問も感じていることが分かります。このような状況では、明確なルールやガイドラインが存在し、適切に運用されることが重要です。これによって、利用者側も安心してサービスを利用できるだけでなく、施設側も一貫した対応ができるようになります。

障がい者の方々が日常生活を快適に送るためには、社会全体が彼らの声に耳を傾け、彼らのニーズに対応する仕組みを整えることが不可欠です。それによって、より包括的かつ公正な社会を築くことができるでしょう。

 

問題の本質を見極め適切な支援や制度の構築を考えることが重要

バニラ・エアの事例では、搭乗者が事前に連絡しなかったことが批判の種となりました。確かに、事前に連絡があれば、航空会社側も対応策を講じる余裕はあったかもしれません。しかし、事前に連絡があれば、その時点で搭乗拒否をされてしまう可能性も考えられます。

バニラ・エアの件に限らず、今回のイオンシネマの件も、企業側が「原則として受け入れる」という姿勢を示し、利用者側が事前に連絡して対応策を講じてもらうことで解決できた可能性があります。

2024年4月に改正された「障がい者差別解消法」により、障がい者への合理的配慮が義務化されました。このような法改正を見越して、問題解決において批判だけでなく、問題の本質を見極め、適切な支援や制度の構築を考えることが重要です。

障がい者差別解消法:障がい者の権利保護と社会の包摂を促進する法律

障がい者差別解消法(しょうがいしゃさべつかいしょうほう)は、日本において障がい者の権利保護と社会的包摂を促進するために制定された法律です。この法律は、障がい者に対する差別や偏見をなくし、彼らが平等な権利を享受し、自己決定権を行使できるようにすることを目的としています。

 

障がい者差別解消法は、障がい者の権利保護と社会的包摂を促進するために、日本国内で重要な役割を果たしています。この法律が制定された背景には、障がい者が長年にわたり差別や偏見に苦しめられてきた歴史があります。彼らが平等な社会参加や機会を得ることが困難であったり、設備やサービスのアクセシビリティが不十分であったりする状況が存在していました。

 

障がい者差別解消法は、そうした問題に対処するために立法されました。この法律は、障がい者に対する差別を禁止し、平等な権利の享受を保障することで、社会全体の包摂を図ることを目的としています。また、障がい者が自己決定権を行使し、自らの人生を自律的に生きることができるよう支援することも重要な目標とされています。

 

法律の概要

障がい者差別解消法は、2003年に施行され、その後何度か改正が行われています。最新の改正は2024年4月に行われ、これまでの努力義務とされていた障がい者への合理的配慮が義務化されました。これにより、企業や施設などは、障がい者に対して差別や不平等な扱いをせず、合理的な配慮を行うことが法的義務となりました。

 

法律の主な内容

  • 合理的配慮の義務化:企業や公共の施設などは、障がい者に対して合理的な配慮を行うことが義務付けられました。これには、設備の改善やアクセシビリティの向上、適切な支援やサービスの提供などが含まれます。

 

  • 差別の禁止:障がい者に対する差別や偏見を禁止し、平等な権利の享受を保障します。これには、雇用や教育、公共サービスの提供などの分野での差別の防止が含まれます。

 

  • 啓発活動の推進:障がい者差別の撤廃や社会的包摂の促進のための啓発活動が推進されます。これにより、一般の人々や企業、行政機関などが障がい者の権利やニーズに理解を深め、差別のない社会を実現するための取り組みが進められます。

 

法律の重要性

障がい者差別解消法の制定は、障がい者の権利保護と社会の包摂を促進する重要な一歩です。この法律により、障がい者は社会参加や自己実現の機会がより広がり、偏見や差別に苦しむことなく、自由な生活を送ることができるようになります。また、企業や公共の施設においても、障がい者に対する配慮が法的に義務付けられることで、より包括的で公正な社会の実現に向けた一助となります。

障がい者差別解消法の改正により、日本の社会はより多様性を尊重し、すべての人々が平等な権利と尊厳を享受できる社会への一歩を進めることが期待されています。

まとめ

このような事例を通じて、障がい者への配慮や社会全体の理解が必要であることが浮き彫りになりました。今後は、単なる批判だけでなく、問題解決に向けて建設的なアプローチを取り、障がい者の声に真摯に耳を傾けることが求められます。我々は、より包括的で公正な社会を築くために、共に努力し、支援し合うことが不可欠です。

 

参考

車いす利用者の要望は「正当な主張」か「不当なクレーム」か…イオンシネマの「謝罪騒動」で見過ごされた重大論点 「どちらが善で悪か」という議論に意味はない #プレジデントオンライン

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