2024.03.25

「隠れ発達障がい」だった母の生涯を本に「のえの声、永遠に響き続けます」生きづらさを娘が歌う

2008年、37歳でこの世を去ったシンガー・ソングライター、のえ。彼女は命の終わりを告げる直前に、発達障がいと診断されました。

その息子を持つ母、詩人のあする恵子さん(72)は、娘の軌跡を辿り、10年の歳月をかけて彼女の生涯を本にまとめました。

 

500ページを超えるノンフィクション

「月よわたしを唄わせて “かくれ発達障がい”と共に37年を駆け抜けた『うたうたい のえ』の生と死」。そのタイトルには、のえの生と死、彼女が抱えた発達障がいと向き合いながら生き抜いた37年間が込められています。

500ページを超えるそのノンフィクションは、のえが最期に大量の処方薬を摂取した日から始まります。あするさんは、冷徹なまでにその日を描き、彼女の人生を再構築するために書き記しました。

 

亡くなるわずか2カ月前に自閉スペクトラム症と診断

のえは東京で生まれ、北陸の山あいで育ちました。彼女は中学を卒業し、上京後に路上での弾き語りを始めました。その独特の歌声は、聴衆を惹きつけましたが、人間関係に悩み、家族との疎遠も経験しました。

そして、亡くなるわずか2カ月前に自閉スペクトラム症と診断されました。その後、うつ病やアルコール依存症といった二次障がいに苦しんだのです。

晩年、のえは関西に拠点を移し、大阪市の長居公園にあるテント村を訪れました。そこで彼女は自然と共にあり、自分自身であることを感じました。しかし、その居場所は07年2月に強制撤去され、のえの心の支えは奪われました。

 

障がいへの理解の不足を浮き彫りに

「空気なんて読めない 読まないんでなくて 読めないのよ」「できればみんなとおんなじになりたかったんだ でもがんばればがんばるほどに息ができないよ」――最後の曲「KYソング ひらきなおりの唄」は、のえが協調性を求められる社会に追い詰められていた姿を描きます。

あするさんは、のえの生涯における適切な医療や福祉の支援の欠如について綴り、障がいへの理解の不足を浮き彫りにしました。

「ようやく今、太陽を堂々と見られる」。その言葉には、娘の尊厳と生きた証しを刻むあするさんの強い覚悟と愛情がにじんでいました。

そして、16日、のえの記憶をたどるライブが吉祥寺で開かれます。その場所で、のえの声は永遠に響き続けるでしょう。

 

「大切な記憶をたどる」

吉祥寺のライブハウス曼荼羅(まんだら)が、のえさんの思い出に満ちた1990年代の舞台として、16日の特別なライブに彩られます。

このライブでは、のえさんの音源や映像が流れ、あするさんの朗読が行われ、音楽仲間たちによる演奏が繰り広げられます。また、のえさんと親交のあった韓国文学翻訳者の斎藤真理子さん、そして7歳のときに母を失った作家末井昭さんとの鼎談も予定されています。

 

「見せなければ伝わらない当事者性がある」

自死というテーマは、一般的にはタブーとされがちですが、あするさんは「見せなければ伝わらない当事者性がある」と述べます。彼女の考えは、自身の生き方とも密接に結びついています。

のえさんが生まれた後、ある日、伴侶となる岩国英子さん(76)との出会いがありました。77年に北陸に移住し、「ベロ亭」と名付けられた家で、のえさんを含む5人の子どもたちを共に育てました。既存の家族とどんなに違おうと試行錯誤しながら肯定し、分かりにくい当事者性を懸命に伝えて生きてきたのです。

 

「希望と共に前を向くきっかけになれば」

岩国さんもまた、「大切な人を亡くして自責の念で苦しんでいる人の視点がほんの少しでも変わり、希望と共に前を向くきっかけになれば」と願っています。

このライブは、のえさんが生きた証しと、彼女の魂が今もなお息づいていることを讃える場となるでしょう。そして、その場に集う人々は、彼女の音楽とメッセージを胸に刻み、心を繋ぎ合わせることでしょう。

自閉スペクトラム症:理解と支援の重要性

自閉スペクトラム症(Autism Spectrum Disorder、ASD)は、神経発達の障がいの一種であり、個々の発達や行動に幅広い特徴を持つ疾患です。

ASDは、コミュニケーションの困難や社会的相互作用の障がい、興味や行動のパターンの制約など、さまざまな形で表れることがあります。

こうした特性は、個々の人によって異なり、その影響も幅広いため、「スペクトラム(spectrum)」という用語が使われます。

 

ASDの特徴

 

  • コミュニケーションの困難

ASDの人々は、他者とのコミュニケーションにおいて、言葉や身振り、表情などの社会的なサインを理解することが難しい場合があります。

例えば、会話の中で相手の感情や意図を読み取ることが難しく、自分の思いや感情を適切に表現することも困難です。このため、コミュニケーションの円滑な進行が難しくなることがあります。

 

  • 社会的相互作用の障がい

ASDの人々は、他者との関係を築くことや維持することが難しい場合があります。友情や共感を示すことが難しく、他人の感情や視点を理解するのが難しいことがあります。

また、社会的な規範や期待に従うことが難しいため、他者との関係が希薄になることがあります。

 

  • 興味や行動のパターンの制約

ASDの人々は、特定の興味や関心を持ち、それに強く執着することがあります。例えば、特定のトピックに対する深い知識や情熱を持ち、そのトピックについて熱心に話すことがあります。

また、日常生活の中で同じ行動パターンを繰り返すことがあり、変化や柔軟性に乏しい傾向が見られることもあります。

 

これらの特徴は、ASDの人々が日常生活や社会的な状況で適応するのを難しくする要因となる場合があります。そのため、適切な支援や理解が必要とされます。

 

ASDの原因と診断

ASDの原因は、複雑で多岐にわたると考えられています。遺伝的な要因、環境的な要因、そして脳の発達に関連する要因が関与している可能性があります。

遺伝的な影響は、家族内でASDが多く見られることから推測されます。また、妊娠中や出生後の環境要因、特に母親の感染症や妊娠中のストレスなどがASDのリスク要因とされています。

 

症状が顕著になるのが2〜3歳頃

ASDの診断は、主に行動や発達の観察に基づいて行われます。幼児期から発症することが多く、症状が顕著になるのが2〜3歳頃です。

発達の遅れや異常な行動パターン、コミュニケーションの困難などが見られる場合、専門家による詳細な評価が必要とされます。

精密な診断は、神経発達の専門家や小児科医によって行われ、様々な評価ツールやテストが使用されます。早期の診断と適切な支援は、ASDの人々が最大限のサポートを受けるために重要です。

ASDへの理解と支援の重要性

自閉スペクトラム症(ASD)を持つ人々やその家族は、理解と支援を必要としています。ASDは、個々の人々に異なる特性やニーズをもたらすため、適切なサポートが重要です。以下は、ASDの人々への理解と支援のためのいくつかの重要なポイントです。

 

  • 教育と啓発

ASDについての正しい情報を広め、偏見や誤解を減らすことが不可欠です。ASDの特性やニーズについての正確な理解は、教育機関や地域社会での啓発活動を通じて提供されるべきです。

このような啓発活動により、ASDの人々が受ける支援が向上し、彼らの生活の質が向上します。

 

  • 個別化された支援

ASDの人々は、個々の特性やニーズに合わせた支援が不可欠です。個別化された支援プランを策定し、専門家や家族と緊密に連携してサポートを提供することが重要です。

これにより、ASDの人々が最適な支援を受け、彼らの能力や興味を最大限に活かすことが可能になります。

 

  • 社会的な包摂

ASDの人々は、社会的な結びつきや支援系統を築くことが重要です。包摂的な環境を促進し、異なる能力や興味を持つ人々が共に生活し、成長することができるよう努めることが重要です。また、差異を受け入れる文化を醸成することで、ASDの人々がより満足度の高い生活を送ることができます。

 

  • 早期介入と治療

幼少期からの早期介入や適切な治療プログラムは、ASDの人々の成長と発達を促進します。行動療法や言語療法などの専門的な治療を提供することで、ASDの人々がコミュニケーションや社会的なスキルを向上させることができます。

早期の介入は、ASDの人々が最大限の支援を受け、ポテンシャルを最大限に引き出すための重要な手段です。

 

以上のポイントを踏まえると、ASDの人々やその家族が支援を受けるための継続的な努力が必要であることが理解できます。彼らが社会において完全に参加し、自己実現を果たすためには、包括的な支援システムが不可欠です。

 

まとめ

ASDの人々やその家族が直面する課題は多岐にわたりますが、適切な支援と理解があれば、彼らも充実した生活を送ることができます。特に、教育や啓発活動を通じて、ASDに関する偏見や誤解を減らし、社会全体が受け入れる文化を醸成することが重要です。

また、個別化された支援プランを策定し、専門家や家族と連携して、ASDの人々が彼らの能力を最大限に発揮できるよう支援することも不可欠です。

さらに、早期の介入や専門的な治療プログラムを提供することで、ASDの人々がコミュニケーションや社会的なスキルを向上させることができます。

このような取り組みが行われることで、ASDの人々が社会において自己実現を果たし、充実した生活を送ることができるよう支援されるでしょう。

 

参考

「隠れ発達障がい」37年の生涯を本に 生きづらさ 娘は歌った 母の詩人あするさん:東京新聞 TOKYO Web

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