2024.04.01

自分が自分でなくなる?解離性障がいとは

時には複数の人格が現れる精神障がい

一人暮らしのアパートメントで目が覚めると、部屋が驚くほど整然と片付いているのを見つけました。しかし、その秩序を作ったのは自分以外に考えられません。不思議なことに、その整理整頓の記憶は全くありません」。

解離性障がいは、自己の一貫性が揺らぎ、意識、感覚、記憶、行動に断片化が生じ、時には複数の人格が現れる精神障がいです。その存在は一般的に認識されにくく、当事者たちは理解されることを望んでいます。

 

解離性障がいの当事者が集まり自身の体験を分かち合う

『バリバラ』の放送内容をもとに、解離性障がいに詳しい精神科医の岡野憲一郎さんに話を聞く機会がありました。バリバラに専門医として登場した岡野さんは、長年にわたり解離性障がいの患者を治療してきた経験を持っています。

2020年に放送されたバリバラでは、解離性障がいの当事者が集まり、愛称で呼び合いながら、自身の体験を分かち合いました。

その中で、Tokinさんが「頭の中に誰かがいて、私に話しかけてくる。何人かのチームで」と語り、もっさんが「勝手に足が動いたり、手が動いたり、体が動くときは“のっとりくん”がまた来たなと」と述べ、綾子さんが「夫とのコミュニケーションで問題が発生すると、非常にバイオレンスな人格が出てきてしまって、それをコントロールできない」と明かし、くわまんさんが「学校に行く途中で気がついたら街の喫茶店にいたりした」と述べました。

 

主な症状

解離性障がいには、主に以下の4つの症状があります。これらの症状が同じ人に重なって現れることもあります。

 

①解離性同一障がい:複数の人格が入れ替わる多重人格として知られる。

②解離性健忘:記憶の一部分が飛んで、思い出せなくなる。

③解離性遁走:ふだんの生活圏から離れて、知らない場所に行ってしまう。

④離人症:自分や世界についての現実感がなくなってしまう。

 

解離性障がいは、アメリカの研究データによれば100人に1人の割合で発症するとされ、実際にはかなり一般的な病気であると考えられています。しかし、患者は病気を隠すことが多く、症状も複雑で診断も難しいため、発症率1%という数字は推計値であり、正確な統計データではありません。潜在的な患者数は少なくないとされていますが、その実態はまだ完全には解明されていません。

 

周囲から否定的な言葉を受けて困惑

解離性障がいは、本人が自作自演しているような印象を与えることがあります。突然、別の人格に変わってしまったり、記憶を失ったり、知らない場所に行ってしまったりしますが、しばらくすると元に戻ってしまうこともあります。

このような症状から、詐病や虚言だと疑われることもあります。番組でも当事者のくわまんさんは、周囲から否定的な言葉を受けて困惑したと語っています。岡野さんは、「解離性障がいは常識では理解しがたい面がありますが、コンピュータの比喩で説明するとわかりやすい」と話します。

「コンピュータはCPUだけで成り立っているわけではなく、モニターやスピーカー、記憶装置やプリンターなどの周辺機器とつながって機能を果たします。そのネットワークの接続が切れてしまうと、周辺機器が働かなくなったり、連動した動きができなくなってしまいます。脳がそういう状態に陥るのが解離だと、私は理解しています」

急激な症状の変化は他の精神障がいとは異なる

岡野さんが解離性障がいの説明に用いるコンピュータと周辺機器の比喩は、その障がいの特質を明確に説明しています。通常の精神障がいでは、コンピュータ自体がダウンしてしまい、修復が必要ですが、解離性障がいでは接続が戻れば機能が元通りになるとされています。

岡野さんは、「解離性障がいが他の精神障がいと大きく違うのは、スイッチングと言って、その症状が急に現れたり、急に消えたりすることです」と述べています。この急激な症状の変化は他の精神障がいとは異なり、解離性障がいの特徴です。

記憶の飛びという現象も説明されています。解離性障がいでは、記憶が存在しているにもかかわらず、アクセスできない状態になることがあります。これは、コンピュータ上のファイルが存在しているにもかかわらず、アプリケーションによってはアクセスできない状況に例えられます。

 

生まれつきの素因と幼少期のトラウマ体験が関与している

解離性障がいの原因については、はっきりとした理解が得られていませんが、生まれつきの素因と幼少期のトラウマ体験が関与していると考えられています。解離性傾向を持つ子どもが、特定の心理的なストレスやトラウマ体験によって、障がいが引き起こされる可能性があるとされています。

岡野さんは、「いたずらをしてビンタを食らわされる自分の順番が迫ると、ふっと体の後ろに心が抜けて、ビンタされている自分を外側から見るという体験をする子どもがいます。ふつうはならないのですが、100人に何人かはそうなる子どもがいるのです。そんな素因をもった子どもが過酷な体験をすると解離性障がいになっていくのです。」と述べています。

 

家庭内だけでなく家庭外でも発生する可能性

トラウマは家庭内だけでなく、家庭外でも発生する可能性があります。岡野さんの治療を受けている患者の中には、政情が不安定な国で恐ろしい体験をした結果、複数の人格を持つようになった来日女性がいるそうです。

現在ウクライナでの戦争が続いている状況下では、同様のトラウマを持つ子どもたちが解離性障がいを発症する可能性が高いとされています。

 

解離性障がいには一定の意味がある

解離性障がいには一定の意味があります。なぜなら、子どものときの苦しい体験をそのまま耐えるのではなく、心が体から抜け出して、苦しさを緩和することができるからです。しかし、その場を解離によって乗り切ったとしても、後には日常生活を送ることが難しくなったり、人間関係のトラブルに巻き込まれたりすることがあります。そのため、岡野さんは解離性障がいはやがて解消していくべき症状だと考えています。

番組では、解離がいつ起きるかについての質問が行われました。くわまんさんは、「アウェイの場面で緊張すると、ほぼ変わってしまいます」と答えました。強いストレスを感じたり、無理をしたりすると解離が起きるというのは、参加メンバーに共通していました。

一方で、Tokinさんは「家に帰って、寝る前とかが危険ゾーン。ふと力が抜けると、自分をコントロールできない感じ」と述べ、リラックスする場面でも解離が起きることがあると話しました。

 

緊張感を強いられるときだけではなくリラックスした状態でも起こる

岡野さんは、「解離は何の理由もなく起きるわけではなく、強く感情が動くと起こると言われています。緊張感を強いられるときだけではなく、リラックスした状態やカウンセリングを受けているような場面でも起こることがあります。恋人の前で緊張のタガが外れて、幼児のような別人格が出てくるようなこともあります。他にも、道を歩いていて、知らない人がケンカをしているのを見て、解離が起きたという例もあります」と説明しました。

 

解離性障がいの治療は可能

解離性障がいの治療は可能であり、穏やかな日常を大切にすることで症状は軽快していくと言われています。岡野さんは、番組の中で周囲の人が気をつけるべき3つのポイントを挙げています。

まず、「過去のトラウマは聞かない」ということです。トラウマを思い出すことが再トラウマになる可能性があるため、本人が話し始めたら耳を傾ける姿勢が大切です。

次に、「約束ごとは文面で」ということです。解離性障がいの人は自分が言ったことを記憶していないことがあるので、お互いに確かめ合えるようにすることが重要です。

そして、「普段通りに接する」ことが大切です。必要のない先入観は取り払い、怖がらず、ふつうの付き合いを大切にすることが理想的です。

 

年齢を重ねると起きにくくなっていく傾向

岡野さんは、「解離性障がいは、ありがたいことに、ストレスを経験しないで、平穏な生活を送っていれば、徐々によくなっていくことが多いのです」と述べています。解離症状は幼い頃に一番起きやすく、年齢を重ねると起きにくくなっていく傾向があるそうです。平和な日々を送ることで、症状が軽減し、別人格が寝てしまって、主人格だけでいられるようになることもあると述べています。

解離性障がいは、当事者が知らないところでいろいろなことが起きてしまうため、周囲からの理解が重要です。Tokinさんは、「特殊な人ではなく、ふつうにみんなと同じ社会で生きているのだと知ってほしい」と訴えました。解離性障がいは、センセーショナルな存在としてではなく、日常的にありうるものとして理解されることで、生きづらさが軽減されると言います。

解離性障がい:自我の断絶と複数の人格

解離性障がいは、自分という一貫した統一された自己感覚がゆるみ、複数の人格や自我の断片化が生じる精神障がいです。この病態は、意識や感覚、記憶、行動の一時的な分断をもたらし、個々の経験やアイデンティティの一貫性が失われることを特徴とします。解離性障がいは、日常生活に深刻な影響を与える可能性があり、患者やその周囲の人々にとって大きな苦しみをもたらすことがあります。

症状は、突然現れたり消えたりすることがあり、他の精神障がいとは異なる特徴を示します。解離性障がいは、ストレスやトラウマ体験などの強い感情の動きが引き金となりやすいことも特徴の一つです。

 

原因と治療

解離性障がいの原因は複雑であり、生まれつきの素質や幼少期のトラウマ体験などが関連していると考えられています。特に幼少期に深刻な身体的または精神的なトラウマを経験した場合、解離性障がいのリスクが高まるとされています。

治療法は、精神療法や薬物療法、そしてサポートグループなどが組み合わせて用いられます。精神療法では、解離した部分の統合やトラウマの処理を促すことが目指されます。また、薬物療法では、抗不安薬や抗うつ薬が症状の管理に役立つことがあります。

 

日常生活との関わり

解離性障がいの当事者やその周囲の人々にとって、日常生活での関わり合いは重要です。当事者に対しては、過去のトラウマを無理に聞き出すことなく、安全な環境を提供することが重要です。また、約束事を文面で確認するなど、コミュニケーションに工夫をすることが必要です。

 

まとめ

解離性障がいは、日常生活の中で理解されることが大切です。そのような理解が、当事者やその周囲の人々が受ける心理的な負担を軽減し、適切な支援を提供するための基盤となります。

 

参考

自分が自分でなくなっちゃう!?解離性障がい - 記事 | NHK ハートネット

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