2024.04.02

映画「奈緒ちゃん」障がいを持つ女性と家族の50年の「記憶」

伊勢真一さんが撮り続けた「奈緒ちゃん」シリーズの5作目が、製作されています。主人公である奈緒ちゃんが50歳になり、これまでの家族との歩みが「記録というより記憶」から描かれます。伊勢監督にとっても集大成の意味を持つこの作品は、4月下旬の完成に向けて追い込みがかけられています。

 

奈緒さんは重度のてんかんと知的障がい

伊勢監督と主人公の母である西村信子さんは、東京都内の「いせフィルム」事務所や支援者の会社に間借りしている編集室で打ち合わせや編集作業を続けています。前作から7年、新作「大好き~奈緒ちゃんとお母さんの50年~」は、信子さんが昨年80歳になり「終活」を始めたことをきっかけに製作がスタートしました。

信子さんは伊勢監督の実姉で、1973年に奈緒さんが生まれました。奈緒さんは重度のてんかんと知的障がいを抱えており、医師からは長く生きられないかもしれないと言われました。信子さんは自責の念に駆られましたが、専門病院への転院や地元の人々、そして幼稚園との出会いが奈緒さんの成長を支えました。

 

「自分と自分の家族に置き換え、自分のこととして捉えている」

83年の正月、横浜市の西村家で撮影が始まりました。当時9歳だった奈緒さんと、夫の大乗さん、そして77年に生まれた長男の記一さんとの4人家族の日常を綴った第1作「奈緒ちゃん」は、奈緒さんが成人するまでを追った作品で、1995年に完成しました。この作品は伊勢監督の長編デビュー作でもあり、毎日映画コンクール記録文化映画賞などを受賞しました。

信子さんは、「最初は家族の記録を撮ってもらって、自分たちで見るつもりでした」と振り返りますが、「後悔がいっぱいありました」とも述べています。しかし、作品が公開されると、反響は予想外のものでした。「自分と自分の家族に置き換え、自分のこととして捉えている。障がい者の家族という意識で見ていない人が圧倒的に多くて驚きました。それ以来、映画は見る人のためのものなんだと」、と語ります。

 

「ここには幸せが映っている」

伊勢監督の作品は、被写体の日常においてカメラが存在しないかのように感じられます。信子さんは「ここは撮っていいかとか聞かないで、掃除してない所や片付けてない所も撮る」と笑いますが、障がいを持つ地域の仲間やその家族も撮影を嫌がりませんでした。

作品では、気が休まらない日々や思わず手を上げる場面、奈緒さんの世話や夫婦の食い違いなどが描かれます。しかし、98分の映像を見終えると、天真らんまんな奈緒さんを中心にした家族の成長が、見た人の心に深く響きます。

伊勢監督とともに「福祉映画にはしない」と決めて撮影を行った瀬川順一さん(故人)は、完成後、「ここには幸せが映っている」と語りました。95年は地下鉄サリン事件や阪神大震災などの悲劇が続いた年でしたが、伊勢監督は「何かしらの希望を感じてもらえたかもしれない」と振り返ります。

 

撮影中に発作を起こしたことがある

やがて信子さんは、障がいを持つ子どものいる母親たちと共に内職を始め、それが作業所に発展していきます。その歩みを描いた第2作「ぴぐれっと」は、2002年に完成しました。「ありがとう」では、奈緒さんが自宅を出てグループホームで仲間と生活するまでの成長が描かれ、2006年に公開されました。そして第4作「やさしくなあに」は、2016年に相模原市で起きた知的障がい者福祉施設での事件を受けて、製作への意識と意欲が高まり、翌年に公開されました。

幼い頃から奈緒さんは撮影が楽しみで、その間は体調も良かったが、一度だけ、撮影中に発作を起こしたことがあります。スタッフは慌てましたが、カメラを回し続けることや作品に取り込むことにも躊躇がありました。しかし、奈緒さんは作品を黙って見守っていました。「これが私だから、という思いが伝わってきた」と伊勢監督は語ります。

 

元気になる「奈緒ちゃん語」

毎作のように、奈緒さんが障がいを持つ仲間と永遠の別れを迎える場面も描かれます。日常を淡々と描きつつ、「死」との対峙で「生」を写し取るのが伊勢作品の特徴です。

ここ4、5年は奈緒さんは発作も起こしていません。一方、西村家には夫婦や父子の葛藤があり、記一さんにも転職などの変化が起きていますが、最も安定しているのは奈緒さんのようです。

「ありがとうって言って」「けんかしちゃいけないよ。優しくなあに…って言わなくちゃ」「ハイ!障がい者です」といった言葉は、「奈緒ちゃん語」として知られています。これらの言葉の意味ははっきりとは分からないかもしれませんが、聞くと元気になると言われています。伊勢監督は、「西村家はよくしゃべる家族で、みんなが自分の正論を言うけれども、それを奈緒ちゃんが最後にひっくり返してしまうような力がある」と語ります。

 

ドキュメンタリーの役割

昨年7月には、50歳の誕生日に合わせて行われた上映会で、奈緒さんが登壇し、パワフルなやりとりで会場を沸かせました。

信子さんも次第に自分の言葉で語るようになる姿が、作品を重ねるごとに描かれてきました。「姉がいろんな体験を受け止めた言葉が出てくる。それがとても大切で、終活を始めたと聞いて、きちんと残さなければと。体験から出てくるから、常に正しいわけではないかもしれないけれど、それを拾い集めるのがドキュメンタリーの役割だと思う」と伊勢監督は語ります。

 

縛りがない時代が映っている

信子さんと伊勢監督は、現在、奈緒さんの成長とは異なる社会の変化を強く感じています。「奈緒ちゃん」「ぴぐれっと」など初期の作品には多くのファンがおり、「隣の人を大事にする、向き合う、いつも笑っている…縛りがないあの時代が映っているからでは」と信子さんは語ります。

「例えば『ぴぐれっと』で言えば、職員か利用者か分からないくらい垣根がなかった。今はタッチしちゃいけない、ハグしちゃいけない。『きょうの靴、かわいいね』とも言えない。きのうの靴がかわいくないという意味になるそうです。

障がいのある人にはその規制が理解できないから、どうなのかなと。昔もいろんなことはあったけれども、その人がその人らしくいられて、職員さんも、だからこの仕事がしたいんだというのが、顔や体に表れていました」と述べます。

 

なぜ長く撮ったか

奈緒さんのたくましさは、医学的にも特筆されるケースだと言います。生まれながらに持つ生命力と、それを引き出した家族、地域、医療、そして時代が重要だと感じます。

「なぜ長く撮ったか。長く生きられないと言われた奈緒ちゃんが、長く生きたから。奈緒ちゃんが生きたことが何を語るのか」と伊勢監督は語ります。完成後に作品がどう歩き出すかを自ら楽しむようにとも語りました。

コロナ禍によって、映画人生で未経験の事態に直面しました。自主上映が壊滅状態に陥り、いせフィルムも製作・上映資金に不足しています。この影響で、初めて支援を募ることとなりました。支援金額に応じてエンドロールでの氏名紹介などの謝礼が設定され、自主上映権を得た人も10人ほどいるそうです。

 

映画作りを諦めない仲間を思う

伊勢監督自身も昨年からがんや骨折に見舞われましたが、映画作りを諦めない仲間を思い、「止まっていた機関車の車輪がまたゴトン、ゴトンと回りだすようなきっかけにもなれば」と、完成後の広がりにも期待しています。

完成上映会は4月27日に東京・日比谷図書文化館で始まり、その後も試写会などが続き、6月からは劇場上映と自主上映が行われます。支援の受付は9月末まで行われます。詳細はいせフィルムのHPまたは03-3406-9455へお問い合わせください。(時事通信社 若林哲治)

てんかん:脳の異常電気活動による神経障がい

てんかんは、脳の異常な電気活動によって発生する神経障がいです。突然の意識消失やけいれん発作が特徴であり、年齢や性別に関係なく発症する可能性があります。

 

てんかんの原因

てんかんの原因は多岐にわたります。脳の異常な電気信号や遺伝的要因、脳の損傷や外傷、脳腫瘍や脳卒中、そして先天性障がいが挙げられます。これらの要因が組み合わさることで、てんかんの発症が引き起こされる可能性があります。

 

  • 脳の異常な電気信号
  • 遺伝的要因
  • 脳の損傷や外傷
  • 脳腫瘍や脳卒中
  • 先天性障がい

 

症状

てんかんの症状には、以下のようなものがあります。

 

  • 意識障がい:突然、意識を失うことがあります。これは発作の一部として現れることがあり、患者は周囲の出来事を認識できなくなります。

 

  • けいれん発作:最も一般的なてんかんの症状であり、筋肉の収縮と緩和が繰り返されます。この発作は、全身的なけいれんや特定の部位のけいれんを引き起こすことがあります。

 

  • 不随意の動きや感覚の変化:てんかんの一部の発作では、患者が意図しない動きや感覚の変化が現れることがあります。たとえば、手のひらのピリピリ感や無意識のジェスチャーが含まれます。

 

これらの症状は、てんかんの種類や個々の患者によって異なります。一部の患者は特定のタイプの発作を経験し、他の人は異なる症状を示すことがあります。正確な診断と適切な治療のためには、患者の症状を正確に理解することが重要です。

 

てんかんの治療

てんかんの治療には、いくつかの方法があります。まず、抗てんかん薬の服用が一般的で、薬物療法によって発作の頻度や重症度を抑えることができます。

また、薬物療法が効果的でない場合や特定の症例では、脳手術や神経刺激法が選択されることもあります。さらに、生活習慣の管理も重要で、睡眠やストレスの管理に配慮することが必要です。

 

  • 抗てんかん薬の服用
  • 脳手術
  • 神経刺激法
  • 生活習慣の管理(睡眠やストレスの管理)

 

生活への影響

てんかんは日常生活や仕事に影響を与えることがあります。発作が予測不能なため、日常生活や仕事に制限が生じることがあります。

また、交通や危険な作業への参加が制限される場合もあります。さらに、社会的な偏見や差別に直面することもあるため、患者とその家族には理解と支援が必要です。

 

予防

予防には、薬物療法の適切な管理が重要です。また、健康的な生活習慣の維持も必要であり、規則正しい睡眠やストレスの管理が大切です。

さらに、定期的な医師の診察とフォローアップも必要です。これらの予防策を遵守することで、てんかんの発作の頻度や重症度を管理することができます。

まとめ

伊勢監督が奈緒ちゃんの物語を映画に収める中、コロナ禍で資金不足に陥り、支援を募ることになりました。伊勢監督も健康に苦しむ中、映画作りへの情熱は変わらず、奈緒ちゃんのたくましさと家族の絆が描かれる作品は、広く支持を受けることが期待されています。完成後の劇場上映が待たれます。

 

参考

障がいを持つ女性と家族50年の「記憶」 映画「奈緒ちゃん」シリーズ第5作完成へ(時事通信)Yahooニュース

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