2024.02.28

発達障がいとニューロダイバーシティ「イライラしてしまう」発達障がいへの理解を深める必要

科学文明の進化には発達障がいが不可欠だという主張は意外にも多くの研究者によって真剣に考えられています。エジソンやアインシュタインなどの偉大な発明家や科学者には、発達障がいに似たエピソードが数多くあります。また、映画監督のスティーブン・スピルバーグも自らが発達障がいを抱えていることを公表しています。

 

多様性を尊重する考え「ニューロダイバーシティ」

一般的に障がいというと、「何かができない」「劣っている」という印象を持たれがちですが、実際には優れた才能を持つ人々の中には発達障がいに似た特性を持つ者が少なくありません

近年、注目を集めているのが「ニューロダイバーシティ」という概念です。この考え方は、脳や神経の機能が異なることは、「できない」「劣っている」という見方ではなく、むしろ多様性を尊重すべきだというものです。

経済産業省も、脳や神経の機能の違いがイノベーションを促す要因であり、企業活動においても積極的にニューロダイバーシティを取り入れるべきだと提唱しています。

過度な期待には注意が必要ですが、ニューロダイバーシティは従来の価値観を覆す可能性を秘めています。多様性の本質を理解するためには、この概念を理解することが不可欠です。

 

発達障がいの特性を活かすイノベーションへの挑戦

ニューロダイバーシティとは、脳や神経に起因する個人の違いを多様性として捉える考え方であり、自閉スペクトラム症(ASD)や注意欠陥多動性障がい(ADHD)などの発達障がいに関する議論が1990年代から始まりました。

近年、日本でも経済産業省が一部の発達障がいを持つ人々の独特な才能や個性が企業活動や研究においてイノベーションを生み出す可能性に注目し、彼らの才能を積極的に活用することを呼びかけています

 

イノベーションの創出や生産性の向上に不可欠

ダイバーシティ経営はイノベーションの創出や生産性の向上に不可欠であり、また少子高齢化が進む国における就労人口の維持だけでなく、企業の競争力強化にも重要であるとしています

さらなる推進が求められており、特に「発達障がいのある方に、その特性を活かして自社の戦力となっていただく」ことを目指したニューロダイバーシティへの取り組みが注目されています。

この概念を更に発信し、発達障がいのある人々が持つ特性(発達特性)を活かし、社会で活躍できる環境を目指します。

 

IT界のリーダーシップにおける発達障がいのポジティブな側面

IT業界のリーダーたちが発達障がいを持っていることはよく知られています。ビル・ゲイツ氏やマイケル・ザッカーバーグ氏、スティーブ・ジョブズ氏など、彼らの特性はしばしば発達障がいに関連したものと指摘されてきました。そのため、彼らをモデルにした映画でもその特性が際立って描かれることがあります。

また、大手企業も発達障がいを持つ人材を積極的に採用する傾向にあります。デンマークのスペシャリステルネ社は、自閉症の人々がソフトウェア開発に貢献できる能力を認識し、自閉症の人材を積極的に採用しています。

この動きは、ヒューレット・パッカード・エンタープライズやマイクロソフトなどの他のIT企業、金融業、製造業にも波及しています。IT関連の人材不足が世界的な課題となる中、発達障がいの人々の潜在能力が注目されています

 

世界的な人材獲得の流れ

発達障がい、特に自閉スペクトラム症(ASD)については、言葉や視線、表情、身ぶりなどにおいてコミュニケーションが苦手である、他者の気持ちを読み取ることが難しい、特定の興味に強い関心を持つ、こだわりが強い、といったネガティブな側面がよく取り上げられます

日本自閉症協会は次のように述べています。「社会的なコミュニケーションの困難さや特定のことへの強い関心など、多様な障がい特性が見られる発達障がいの一つです。この特性により、日常生活や社会生活で困難を感じることがあります」「生まれつき、脳の中枢神経系の情報整理に特性があるため、できることとできないことにばらつきがあり、日常生活でさまざまな困難が生じます」

しかし、IT企業を中心とする世界的な人材獲得の流れは、発達障がいのポジティブな側面に注目しています

 

IT分野で特に優れている可能性

日本がIT分野において後れを取ってきたことから、経済産業省は新たな人材獲得の動向に積極的に対応しています。「デジタル分野におけるイノベーション創出を加速するための『ニューロダイバーシティ』の取り組み可能性に関する調査」(令和3年度産業経済研究委託事業)が述べています。「発達障がいのある人々が持つ特性(発達特性)は、パターン認識、記憶、数学などの分野で特に優れている可能性が近年の研究で示されています。特にデジタル分野の業務、例えばデータアナリティクスやITサービス開発は、ニューロダイバースの人材の特性とよく合致する可能性が指摘されています」。

 

障がいごとに得意な分野がある?

自閉スペクトラム症(ASD)に関しては、高い注意力や情報処理能力、視覚的な優位性があり、高い精度と技術力を発揮する点が強調されます。また、論理的思考やデータに基づくアプローチに優れており、高い集中力と正確さを長時間維持する能力も持ち合わせています。時間管理にも優れ、献身的で忠実な傾向があります。

一方、注意欠陥・多動症(ADHD)については、「リスクを取り、新たな領域に挑戦することを好む」「洞察力、創造的思考力、問題解決力が高い」というポジティブな特性が挙げられます

 

短所は長所になる可能性

これらの特性を持つ人々は、従来は不適切な行動として評価されてきたかもしれませんが、「マルチタスクをこなし」「高い集中力を発揮する」などの特性は、新しい視点から評価されます。多数派の期待や規範に合わないとして不当に低評価されてきた発達障がいの人々にとって、ニューロダイバーシティは歓迎すべき概念と言えるでしょう。

 

過度な期待はNG

日本の国内総生産(GDP)がドイツに抜かれて世界4位に後退したことで、政府や経済界はイノベーションを起こせる人材の確保や発掘に焦りを覚えるでしょう。しかしその一方で、現実との乖離した過度な期待が失望を生む可能性もあります

 

全員特殊な才能を持っているわけではない

発達障がいの人が全員特殊な才能を持っているわけではありません。集団活動に適応障がいを起こしたり、ネガティブな視線に晒されて自信を喪失したりするケースも少なくありません

 

就労から疎外されてきた障がい者

最近の障がい者向けの就職説明会では、発達障がいや精神障がいの人々が目立つようになっています。身体障がいや知的障がいを持つ人々はほとんどが雇用されてきましたが、精神障がいや発達障がいの人々が企業就労の主流になることはそれほど一般的ではありませんでした。これは、これまで彼らが一般就労から疎外されてきた結果です

 

人事担当者の話では…

ある関西の企業に務めている人事担当者から次のような話がありました。「様々な障がいの人々を雇用してきた経験から、どのような障がいにも対応できるようになりました。

しかし、発達障がいを持つ若い男性社員だけは取り扱いが難しいです。時折彼は上から目線で偉そうな態度を取るので、彼との会話はイライラすることがあります。他の職員も彼と一緒に働きたいと思わないと言っています」

 

誤解が起きやすいため定着率が低い

発達障がいの人々はコミュニケーションに独特の傾向があり、感情的な誤解が起きやすいため、定着率が低い傾向があります

企業側も採用に二の足を踏むことがあります。特異な才能があったとしても、安心して働ける環境や理解ある同僚がいなければ、その才能を発揮し続けることは難しいでしょう。

多様性に大切なこと

現代社会において、多様性は重要な価値として認識されています。異なる背景や特性を持つ人々が、それぞれの個性を尊重され、活躍できる社会を築くためには、さまざまな取り組みが必要です。以下に、多様性を尊重し活かすために必要な要素を考えてみましょう。

 

教育の場での理解と支援

第一に、教育の場での理解と支援が不可欠です。教育機関は、異なる能力や特性を持つ子どもたちに対して適切なサポートを提供し、彼らが自信を持ち、個々の能力を伸ばすための環境を整える必要があります。

発達障がいや身体障がいを持つ子どもたちに対する理解を深め、適切な支援を行うことで、彼らが社会で自立し、活躍できる土壌が育まれます

 

職場で多様性を受け入れる文化

職場においても多様性を受け入れる文化が求められます。企業は、障がいを持つ人々や異なる文化背景を持つ人々が、自らの能力を発揮できるような働きやすい環境を整えることが重要です

特に、発達障がいの人々が持つ独特の特性や能力を理解し、適切なサポートを提供することが求められます。コミュニケーションの円滑化や柔軟な働き方の促進、バリアフリーな環境の整備などが、多様性を尊重した職場作りに必要です

 

社会全体での意識改革

社会全体での意識改革も必要です。多様性を受け入れるためには、偏見や差別を排除し、包括的な視野を持つことが重要です

メディアや教育機関、企業などが積極的に多様性をテーマにした啓発活動を行うことで、社会全体の意識が変化し、多様性を受け入れる風土が醸成されます。また、政府や地方自治体が多様性を推進する政策を積極的に推進することも必要です

 

個々が多様性を受け入れる心を持つ

個々の人々が多様性を受け入れる心の持ち方を身につけることも重要です。他者の違いを尊重し、対話や協力を通じて共に成長する意識を持つことが、多様性を受け入れる社会を実現するための第一歩となります。

個々の人が自らの立場や特性を理解し、他者とのコミュニケーションを通じて共に学び合うことで、より豊かな社会が実現します

まとめ

多様性を尊重し受け入れる社会を築くためには、教育、職場、社会全体での取り組みが欠かせません。個々の人々が異なる特性や背景を持ちながらも、互いに尊重し支え合う社会を築くことが、持続可能な発展を遂げるための重要な要素と言えるでしょう。

 

参考

「どうしてイライラしてしまうのか?」人事担当者が気づいた、発達障がいへの「ゆがんだ思い」|令和の幸福論|野澤和弘|毎日新聞「医療プレミア」

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