「発達障がい?愛情不足?」困った子供の行動を見極める:愛着の問題と発達障がいの特徴
困った子供の行動の原因を見極めるには、心理学者の米澤好史さんが指摘するように、愛着の問題や発達障がいなどの要因を考慮する必要があります。愛着の問題を抱える子供は、ADHDを持つ子供と似た行動を示すことがありますが、その特徴には違いがあります。
例えば、「多動」の場合、愛着の問題を抱える子供は多動に「ムラがある」一方で、ADHDの子供は「いつでもどこでも」「何をしているときでも」多動します。さらに、ASDの場合は居場所感を失ったときに多動が起こります。これらの違いを理解することで、心配する必要がなくなり、子供の支援や対応の方針をより適切に取ることができます。
愛着の問題は修復可能
愛着の問題がいつでも、誰にでも修復できるという考え方は、非常に重要です。愛着は子供が健やかに成長し、自己肯定感を築き、信頼を持ち、自立して歩むための重要な土台となります。このため、愛着形成はどの子供にとっても不可欠な要素です。
しかし、愛着の問題はしばしば乳幼児期の養育に関する誤った理解から、親にとってはタブーとされ、避けられがちです。実際には、愛着の問題は子供たちをよく観察し、適切な対応を重ねることで修復可能なものです。そのため、愛着の問題に直面した場合には、決して絶望せずに取り組むことが大切です。
特徴を見極めるための5つのポイント
では、その子供の特徴を見極めるためには、何が重要でしょうか?行動、認知、感情という観点から子供の振る舞いを観察することが重要です。特に、以下の5つのポイントで子供の行動を観察することで、彼らの特徴が明らかになります。この観察を通じて、愛着の問題と発達障がいの特徴を見分けることができ、適切な支援や対応を行うことが可能となります。
ポイント①「多動」のあらわれ方をチェックする
こどもと共に生活する大人であれば、誰でも見分けられるのが、「多動」のあらわれ方です。多動は、落ち着きがなく動き回る行動です。一般的には、このような行動はADHDに特有だと思われがちですが、実際にはASD(自閉スペクトラム)のこどもや愛着の問題を抱えるこどもにも見られることがあります。ただし、その違いを見分けるのは難しくありません。
ADHDのこどもはいつでも多動
ADHDのこどもは、「いつでもどこでも」「何をしているときでも」多動します。学校、保育園、学童保育、放課後クラブ、スーパー、公園、そして自宅でも、どこでも落ち着きなく動き回ります。彼らの多動は「普段と違うから」や「居心地が悪いから」といった認知的要因や、「楽しいから」や「怒っているから」といった感情的要因とは無関係です。単純に行動の問題として多動しているのです。
そのため、自宅での行動だけで判断せず、学校や保育園などでも同様に多動しているかを確認する必要があります。さまざまな人からの情報を集め、「いつでもどこでも」多動している場合は、その子がADHDである可能性が高いと考えられます。
多動という特徴があっても、それが「いつも」ではないと気づいたら、他の可能性を探ることが重要です。
ASDのこどもは居場所感を失ったとき
ASDのこどもに起こる多動は、「居場所感」という認知と関係しています。居場所感とは、自分がその場所にいてもよいと感じることや、その場所で何をすればよいかを理解することです。ASDのこどもは、自分の好きなことをしている居心地のいい場所ではとても落ち着いています。
しかし、いつ多動が起こるのでしょうか?それはこの居場所感を失ったときです。例えば、こどもが好きな本を読んでいるときに、予定変更やルール変更があると、その居場所感が奪われたと感じ、急に多動することがあります。たとえば、本を取り上げられると部屋を飛び出してしまうなどの反応が見られます。
このような状況がASDのこどもの多動の特徴です。彼らが特定の状況で多動することは、居場所感の変化に対するストレスや不安から生じるものです。そのため、多動が発生する背景や状況を理解し、彼らのニーズに合ったサポートを提供することが重要です。
感情によってムラがあるか
愛着の問題を抱えているこどもの場合、多動に「ムラがある」のが特徴です。例えば、昨日は落ち着いていたのに、今日は落ち着きなく動き回るという現象がしょっちゅう起こります。このムラを生じさせているのは感情です。
感情は一瞬にして変わるものであり、一日中同じ気持ちで過ごすことはありません。この変わりやすい感情の影響を受けて、多動になったりならなかったりするのです。
刺激が多い環境では感情が高ぶり多動が起こることも
たとえば、学校で、好きな教科の授業では落ち着いているのに、嫌いな教科では落ち着きなく動き回ることがあります。これは、「好き/嫌い」という感情に左右される“ムラのある多動”です。ネガティブな気持ちが、多動を引き起こすこともあります。
また、過去の感情が原因で多動が起こることもあります。たとえば、朝お母さんに怒られたことが気になって感情がコントロールできないというような状況です。
他にも、刺激が多い環境では感情が高ぶり、多動が起こることがあります。お母さんとふたりきりのときは大丈夫なのに、スーパーに行くと多動になる子どももいます。
感情に左右される
したがって、愛着の問題を抱えるこどもにあらわれる多動は、感情に左右されます。そのため、その子の感情の発達や混乱具合によって、日ごとに多動の度合いが変わったり、独自のパターンが現れることもあります。
こうした多動のあらわれ方の違いは、日常的に一緒に過ごす人であるほど、見極めは難しくないはずです。一方で、普段の姿を見ていない医師や専門家には、正しく判断するのが難しいかもしれません。
見分けるポイント②友だちとトラブルが起きたときの様子をチェックする
人間関係は愛着という絆を築いた後に育まれるものであり、愛着の絆がうまく形成されていない場合、他者とのトラブルがより頻繁に起こります。
愛着の絆が十分に形成されていないこどもは、感情の未発達で自分の感情を理解できず、「謝れない」特徴があります。罪悪感を抱くことが難しく、謝ることで感情が軽くなることを理解していないためです。
ADHDとASDでは反応が違う
さらに、感情の問題が常に根底にあるため、集団の中での影響を受けやすく、特に「1対多」の状況ではアピール行動が増え、落ち着きがなくなることがあります。ADHDのこどもも友だちとの関係に影響を及ぼす行動の問題を抱えていますが、自分の行動が原因で相手に不快感を与えたと気づいた場合はすぐに謝ることができます。
この点で愛着の問題を抱えるこどもとの違いが見られます。ADHDは先天的な行動の問題であり、状況の変化による影響は少ないですが、ASDのこどもにとって問題となるのは認知です。自分がとらえている世界に他者が入ってくることを好みませんし、その理由を理解できないため、トラブルが生じることがあります。
友だちとの関係にトラブルが起きた際、その後の言動を観察することで、こどもたちの特徴がより明確になります。
見分けるポイント③片づけられない・ルールを守れない理由をチェックする
「片づけができない」「ルールを守れない」現象は、ADHDのこどもにも、愛着の問題を抱えるこどもにも見られるものですが、その理由は異なります。
まず、ADHDのこどもは片づけが本当に苦手です。片づけは複数の工程を経て行われる作業であり、注意欠如や衝動性の特性から、途中で他のことに気が取られたり、突発的な行動を取ったりして、最後まで片づけを遂行することが難しいのです。これは〈行動〉の問題です。
自己制御が難しいために規則を守れない
片づけをする際には、一連の作業を一気にやらせるのではなく、段階的に分けて取り組むことが重要です。作業ごとに小分けにして取り組むことで、注意を集中させやすくなり、片づけを完了させることができます。
ルールを守れない理由も同様です。ルールを守りたいと思っていても、自己制御が難しいために規則を守れないことがあります。この場合も、反省はするものの、同じ行動を繰り返してしまうことが特徴です。
段階的な指導やサポート
片づけやルールの守り方については、ADHDのこどもや愛着の問題を抱えるこどもそれぞれに適したアプローチが必要です。段階的な指導やサポートを通じて、彼らがより効果的に片づけやルールを守ることができるように支援することが重要です。
片づけに心地よさや意味を感じられるか、それに対して、愛着の問題を抱えるこどもが片づけられない理由は別にあります。
愛着の問題を抱えるこどもの場合
愛着の問題を抱えるこどもが片づけられないのは、片づけが苦手だからではなく、「なぜ片づけないといけないのか」「片づけるとどんな気持ちになるのか」がわからないからです。
彼らにとって片づけることが気持ちいいと感じる経験がないため、片づけに対する意欲が湧きません。気分がいいときは片づけに取り組むこともありますが、その気持ちが持続せず、最後まで遂行することが難しいのです。
ルールを守る動機が生まれない
同様に、ルールを守れないのも、感情の問題です。ルールを守ることで得られる気持ちよさや満足感を学べていないため、ルールを守る動機が生まれません。むしろルールを逸脱して注目を集めようとする特徴があります。
ASDのこどもは自分のとらえ方によって異なる
一方で、ASDのこどもは、自分のとらえ方(認知)によって片づけやルールを守るかどうかが異なります。彼らにとって片づけやルールが心地よさや意味を持つかどうかが重要であり、自分の理解に基づいて行動します。
このように、愛着の問題を抱えるこどもとASDのこどもの片づけやルールへのアプローチは異なります。彼らが片づけやルールを理解し、意欲を持って取り組むためには、彼ら自身の感情や認知に対する理解が欠かせません。
見分けるポイント④不適切な行動を注意したときの反応をチェックする
不適切な行動を指摘されたときの反応は、こどもたちの特徴を見極めるための重要なポイントです。
ADHDのこどもは、注意されるとすぐに気づいてその行動を正すことができます。しかし、注意された内容をすぐに忘れて同じ行動を繰り返すことがあります。そのたびに確認を行う必要があります。
また、理由を尋ねても、振り返りが苦手なために自分の行動の理由を思い出せないことがあります。また、指示されたことを待たずに即座に行動する傾向があります。なんでもすぐに行動に移すことがADHDの特徴です。
愛着の問題を抱えるこどもは自己防衛的な反応
一方、愛着の問題を抱えるこどもたちは、不適切な行動を指摘されると自己防衛的な反応を示します。理由を尋ねても知らないと答えることがあり、他の誰かのせいにすることもあります。安全基地を体感できていないため、自分を守るためにウソをついたり正当化しようとするのです。
指示に対する反応も気分に左右されます。指示に従うこともありますが、ご褒美だけ先にもらって肝心のことを後回しにすることもあります。これらの反応を観察することで、こどもたちの特徴をより深く理解し、適切なサポートやアプローチを行うことが重要です。
ASDのこどもは自分の理屈で反論する傾向
ASDのこどもは、困った行動を注意されると、「だって……」と自分の理屈で反論する傾向があります。
彼らは自分が納得できないことはなかなか受け入れません。それぞれが独自の世界観を持っているため、他人との認識の違いが起こりやすく、意思疎通が難しい場合があります。
そのため、外部から見れば不適切な行動でも、彼らが自分の世界でその行動を正当化することがあります。自分がしたいと思えば、彼らの基準に従って行動することがあります。
理由を尋ねると、彼らなりの独自の返答が返ってくることがあります。彼らの行動の基準はいつでも自分の認知であり、外部からの判断に左右されません。
見分けるポイント⑤あえて無視してこどもの反応を観察することも重要
ADHDのこどもは、その行動に報酬を与えられなかった場合、自然とその行動が減少する傾向があります。これは、「計画的無視」という方法であり、応用行動分析や認知行動療法でよく使われます。また、ペアレントトレーニングでも頻繁に採用されています。
愛着の問題を抱えるこどもはアピール行動が増加
一方で、愛着の問題を抱えるこどもは、感情の問題があるため無視されることで「こっちを向いてほしい」という気持ちが高まり、アピール行動が増加することがあります。このため、困った行動が増えたり、無視された人の言うことを聞かなくなったりすることがあります。無視することによって関係性が形成されないためです。
ASDのこどもはどうとらえるかで反応が異なる
ASDのこどもたちは、無視されたことをどうとらえるかで反応が異なります。彼らは基本的に自分の行動を他の人がどうとらえるかについてあまり興味がないため、無視されてもそれほど影響を受けないことがあります。そのため、無視されたことに対して特別な反応を示すことは少ないでしょう。
しかし、親が自分の行動に注意を向けず、無視することで、彼らはますます自己中心的な行動を取る傾向があります。これは、彼らが他人の視点や感情を理解するのが難しいためです。
日常生活の中で反応を観察することが大切
親が彼らの行動を観察し、適切な対応をすることが重要です。ポイントを参考にしながら、日常生活の中でお子さんの反応を観察してみてください。そうすることで、彼らの特徴をよりよく理解し、適切なサポートを提供できるでしょう。
まとめ
愛着の問題や発達障がいなど、異なる要因を考慮することで、子供の行動の背景を理解し、適切な支援やアプローチを行うことが可能です。親が子供の行動を観察し、困難な状況にも決して絶望せずに取り組むことが大切です。
参考
これで子供の困った行動が不安でなくなる…「発達障がいか」「愛情不足か」子供の特徴を一発で見極めるポイント 困った行動を無視したときの反応をチェックする #プレジデントオンライン