2024.03.07

パリ・パラリンピックを目指す片腕のスイマーが教壇での教育実習に挑む「子どもたちに伝えたかった事」

パラリンピック選手の夢は小学校の先生になること

2023年9月、国際公認大会のレース直前、笑顔でリラックスした様子の女性が注目を集めました。その女性こそ、障がいを持つトップスイマーの宇津木美都さんです。

右腕のひじから先が生まれつきない彼女は、2021年の東京パラリンピックで見事に6位に入賞し、2024年のパリパラリンピックではメダルが期待されている日本代表のキャプテンでもあります。

しかし、彼女には競技の成功だけでなく、もう一つの大きな夢があります。それは小学校の先生になることです。

 

子どもたちに伝えたいことがある

両親はどっちも小学校の先生で、それに憧れたのが(教師を目指す)一番大きな理由です。あとは小さい子どもがすごく好き。小さい子がジロジロ見てくると私は腕をまくったりします。スゴイやろって」

そんな彼女が夢を追うために取り組んだのが、教育実習でした。障がいを持つ彼女だからこそ、子どもたちに伝えたいことがあると言います。

 

社会的な認識を変える重要な役割

宇津木美都さんの教壇での姿勢は、彼女の障がいを取り巻く社会的な認識を変える重要な役割を果たすでしょう。

彼女の存在は、障がいを持つ人々がどんな困難に直面しても、自分の夢を追い求めることができることを示しています。

 

障がい者教師が子どもたちに伝える“可能性の力”

教育実習の一か月が始まり、母校の小学校にて子どもたちの登校を笑顔で迎える宇津木美都さんの姿が目立ちます。

最初の日、教壇に立つ前に授業の見学からスタートしました。その日の授業は、障がい者の視点を子どもたちに伝える道徳の授業でした。

 

授業では…

成宮未希子先生が指導担当として授業を進めます。「車いすだから出来ないだろうとか可哀そうとか思われることが悲しいと言っていました。宇津木先生にも少し話してもらっていいですか」と子どもたちに問いかけます。

 

「自分でやるから大丈夫となるでしょ?」

宇津木さんは子どもたちに向かって語りかけます。

私も(同じことを)言われることが多くて、『可哀そう』とか『大変でしょ』と言われることが多いんですけど、みんなが想像しているよりも車いすの人も、視覚(障がい)の人も、私もだけど、けっこう何でも出来て、みんなも出来るはずのことなのに『(やらなくて)いいよいいよ』みたいなことを言われたら自分でやるから大丈夫となるでしょ?

宇津木さんの言葉に、子どもたちは真剣なまなざしで耳を傾けます。

 

教員で障がい者が占める割合は1.27%

文科省の2020年6月の発表によれば、全国の教員で障がい者が占める割合は1.27%で、小学校に限ると0.69%という現実があります。その中で、宇津木さんは小学校の先生を目指し、最も少ないグループの一員として、教育の場で障がい者の視点や可能性を子どもたちに伝えています。

 

障がい者への理解と尊重を育むきっかけ

宇津木さんの教育実習は、単なる学びだけでなく、子どもたちに新たな視点を与え、障がい者への理解と尊重を育むきっかけとなっています。

その姿勢は、教育の世界における多様性と包括性の重要性を示すものであり、彼女の存在は社会に対して大きな影響を与えることでしょう。

 

障がいを超えて、子供たちに希望を与える宇津木美都さんの物語

宇津木美都さんは、障がいのある右腕で握手を交わし、みんなと同じように自然な笑顔で子供たちと交流します。彼女の周りには、いつしか子供たちの輪ができていました。

「小さい時にネガティブな考えを失くしていきたい」

彼女は言います。「生徒の勉強にもなると思っています。そういう人がいると。(身近に)いないと、『あの人は変だな』と変な目で見る人がいたりとか、障がいに対してネガティブなイメージを持つ人もいるので、そういう人が無くなっていくためにも、小学校の先生になって小さい時にネガティブな考えを失くしていければいいかなと思います

 

健常者と戦う時は障がい者だという考えを捨てた

彼女の背景には、驚くべき物語があります。3歳の時にプールを始め、中学生で競技として本格的に取り組み始め、驚くべきことにアジア新記録を打ち立てました。

この頃から彼女は、東京パラリンピックへ向けての期待の星として輝き始めました。高校生の時には健常者の大会にも参加し、自分が健常者と戦う時は障がい者だという考えを捨てました。

彼女は常に、自分が持つ可能性に向かって突き進んできました。

 

子どもたちにとっての希望

宇津木美都さんの物語は、単なるスポーツの成功以上の意味を持ちます。彼女の姿勢は、子供たちにとっての希望となり、障がいを持つ人々に対する理解と尊重を促進するものです。

彼女の教師としてのキャリアは、社会における多様性と包括性の重要性を示し、次世代に新たな可能性を切り開く道を示しています。

 

競技と教育の両立を目指す宇津木美都さんの日常

宇津木美都さんは、競技と教育の両立を目指し、日々奮闘しています。彼女は言います。

もっと(健常者の選手と)いい勝負をしたかった。本当は勝ちたかったけどなかなか。自分が健常者と戦う時は障がい者だと思っていない。皆と一緒だと思っているので(違うとは)全く思っていない。皆一緒なんで」

 

最優先は子どもたち

現在、宇津木さんは大阪体育大学に通う3年生です。京都の実家を離れ1人暮らしをしており、料理も慣れた手つきでこなします。実習期間中は大学を離れるため練習は週末の自主練習のみとなります。

アスリートとしては不安になることもあるかもしれませんが、彼女の最優先は子どもたちです。

 

若者に勇気と希望を与える

彼女の日常生活は、多くの人にとっては挑戦と見えるかもしれませんが、彼女は常にポジティブな姿勢を保ちながら、目標に向かって進んでいます。競技と教育の両立は容易ではありませんが、彼女の決意と情熱は彼女を支えています。彼女の姿勢は、若者に勇気と希望を与え、彼女の目指す未来に向かって共に歩もうとする人々を鼓舞します。

 

教育実習:競技と挫折からの成長

宇津木美都さんは、この教育実習の間に子供たちに伝えたいことがありました。彼女は言います。「めっちゃ純粋このクラス。手形を渡したら皆まず(自分と比べて)調べ始めるでしょ。なんてかわいいんだろう」

 

プールサイドでふさぎ込むことも

2019年、当時は東京パラリンピックまであと1年という時期でした。宇津木さんは、競技人生で一番遅いタイムを記録しました。遅くなった原因は分からず、まったく光が見えない時期でした。笑顔がなくなり、時にはプールサイドでふさぎ込むこともありました。

 

人生の困難に立ち向かう勇気と、挫折から立ち直る力

彼女がこの経験から学んだことは、人生には挫折がつきものであり、時には光を見失うこともあるということでした。しかし、その経験を通じて彼女は、自己成長と希望の再生を見出すことができました。そして、子供たちに伝えたいのは、人生の困難に立ち向かう勇気と、挫折から立ち直る力です。

 

自信を持って進む助けに

教育実習の間、宇津木さんは子供たちに、困難に直面した時に笑顔を失わず、前向きな姿勢を持ち続けることの重要性を教えました。彼女の経験は、子供たちに自己肯定感と自己成長の意味を理解させ、彼らが未来の挑戦に向かって自信を持って進む助けとなるでしょう。

 

挑戦と努力の大切さ

教育実習も3週間目に入りました。宇津木美都さんは言います。「きょうは、私の競技人生から困難にぶつかった時に、どんなことを大切にするべきかということをみんなで考えていこうと思います」

 

自分が一番大切にしている“思い”

彼女は、自分を題材にした授業を行い、子どもたちに自分が一番大切にしている“思い”を伝えたいと考えました。

「実際に、宇津木さんからコメントを頂いているので…とか言いながら自分で書きました」とはにかんだ表情で続けます。

今までのままでは何も変わりません。私は泳ぎ方を大きく変えたりとか練習環境を変えたりすることで困難を乗り越えてきました。泳ぎや環境を変えることはとても勇気のいることです。しかし、それがタイムを上げるきっかけになると信じて、諦めずに努力し続けました。諦めずに良かったと思えるように、私は挑戦し続けます」。

 

挑戦と努力の大切さを教える授業

宇津木美都さんの授業は、子どもたちに挑戦と努力の大切さを教え、困難に立ち向かう勇気と希望を与えます。

彼女の経験は、子どもたちに自己成長の意味を理解させ、自分の夢や目標に向かって進むための力を与えるでしょう。

 

子どもたちの目を見て伝えることの重要性

授業終了後の反省会で、宇津木美都さんは心残りがあることを告白します。「ラストのまとめのところがあやふやで終わったのが心残りです」と述べました。

成宮先生は、宇津木先生が自分のことを言っている時に恥ずかしさもあったかもしれないと指摘しましたが、大事なことを伝える際は子どもたちの方を向いて、目を見て伝えることの重要性を強調しました。

「いま大事な事伝えたいことを言っていると子どもたちも雰囲気で分かる。そこが今日は照れが入っていたかな」と述べました。

 

子どもたちからの贈り物

しかし、宇津木美都さんはこの失敗を次へのステップと捉え、その後も子どもたちと共に学び続けました。彼女の姿勢は、挫折や失敗を受け入れながらも前向きに成長し、次の挑戦に向かうことの大切さを示しています。

彼女の授業や人間関係への取り組みは、教育の世界での彼女の存在の重要性をさらに強調します。

教育実習最終日。一か月間の授業の答えは、子どもたちから渡されました。教室に入った宇津木さんを迎えてくれたのは、黒板いっぱいに書かれた“ありがとう”の文字でした。

 

生徒たちからの感謝の言葉

生徒たちは順番に声を上げました。

「宇津木先生、いつも明るく話してくれて、ありがとうございます」

「様々な授業を分かりやすく教えてくださって、頭が良くなりました」

「算数ではいつもと違う手の面積を求めることなどが面白くてわかりやすかったです」

「休み時間でも授業の事を考えていて、頑張っている姿がカッコよかったです。そんな宇津木先生が大好きです」

「一ヶ月間本当にありがとうございました」

 

「たくさん失敗して成長してください」

宇津木さんも感謝の気持ちを述べました。

「入ってきた時もちょっとうるっときてしまって、涙もろい部分が出てしまっているんですけど。一ヶ月間このクラスで一緒に学べてすごい楽しかったし、諦めない心とか、努力すること、希望と勇気を忘れずに頑張ってほしいということを(授業で)伝えたんですけど、それは子どものときでも大人のときでも絶対変わらないと思うので、これからたくさんの困難とかたくさんの壁にぶつかって、たくさん失敗して成長してください。ありがとうございました」

 

教訓と変わる印象

生徒たちも宇津木さんから学んだことを語りました。「自分もシンクロをやっているんですけど、辞めたいとか思う時もあるけど宇津木さんでもこういうこと(いい時と悪い時)があるから、それでも挑戦し続けたら、いい事とかタイムが上がったりするから最後まで諦めずに頑張るという事をこれから大切にしたいです」「初め見た時は障がいのある方と思ったけど、徐々に接したら普通に何でもできるしすごいなと感心しました。(印象は)めっちゃ変わりました

 

『やりたかったこと』

宇津木さんは、子どもたちと共に過ごした日々について、

「子どもたちも最初は(手が無いことに)驚いていたと思うんですけど、実際に先生として行って自分が片腕無いことを忘れている感じ。これだな『やりたかったこと』はと思って、すごい楽しかったですね」と述べました。

 

お互いに学び成長した一か月

この一か月の教育実習を通じて、宇津木さんと子どもたちはお互いに学び、成長しました。努力と挑戦を続けることの大切さを共有し、障がいを持っていても輝けることを実感しました。

宇津木さんは、これからもパラリンピックで子どもたちにその姿を見せ、彼らに希望と勇気を与えることでしょう。

まとめ

障がいを持つアスリートが教育の世界に飛び込むことは、一見すると驚きのように思えます。しかし、宇津木美都さんはその限界を超え、新たな挑戦に果敢に取り組んでいます。彼女の教育実習は、単なる勉強ではなく、自らの経験を通して子どもたちに勇気と希望を与える場になるでしょう。

彼女の教育実習が終わった後も、彼女のストーリーは子どもたちの心に残り、彼らが将来の夢を追い求める勇気と力を与えるでしょう。そして、2024年のパリ・パラリンピックでの活躍を期待しつつ、彼女の教育への情熱が新たな可能性を切り拓くことを願っています。

 

参考

【特集】「障がい者のわたしが先生になる理由」パリ・パラリンピックでメダルを目指す片腕のスイマーの教育実習に密着 障がいがあるからこそ伝えられること(読売テレビ)Yahooニュース

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