2024.06.07

障がい者教育の課題と展望 国連が日本に突きつけた厳しい課題とは

障がい者権利委員会が提言する「特別支援教育の廃止」は、障がいのある子どもたちが社会においてより包括的な教育を受けられるよう求めるものです。この提言は、障がい者の権利をより尊重し、彼らが自立して生きるための支援を強化するための重要な一歩となり得ます。

 

特別支援教育は、長年にわたって障がいのある子どもたちのための有益なサービスと見なされてきましたが、その一方で、分離教育や隔離的なアプローチが障がい者の社会的な包摂を妨げる可能性があるという懸念もあります。特別支援教育の廃止は、彼らが通常の学校環境で学び、成長する機会を提供することを目指しています。

 

国際連合で日本政府への初めての審査

インクルーシブ(inclusive)とは、「全部ひっくるめる」という意味です。性別や年齢、障がいの有無などが異なるさまざまな人がありのままで参画できる新たな街づくりや、商品・サービスの開発が注目されています。

では、「インクルーシブな社会」とはどのような社会でしょうか。医療ジャーナリストで介護福祉士の福原麻希さんが、さまざまな取り組みを行っている人や組織、企業を取材し、その糸口を探っていきます。

 

今夏、スイス・ジュネーブにある国際連合(以下、国連)欧州本部で、「障がい者権利条約」に関する日本政府への初めての審査が開かれました。障がい者権利条約とは、障がい者の尊厳と権利を保障するための国際的な合意であり、障がいのある人とない人が平等で対等に社会参加できるよう、その方向性が明文化されています。

 

日本の障がい者権利条約審査、建設的な対話が始まる

日本は2014年に障がい者権利条約を締結しました。この条約では、国内での条約内容の実現状況を障がい者権利委員会に報告する仕組みが整えられており、今回が初めての報告となりました。

 

国連はこの条約の審査を「建設的対話」と称しています。この審査は批判的な評価を目的とするのではなく、日本政府と障がい者権利委員会が報告書や面談を通じて対話を行い、政府から状況改善に向けた前向きな回答を引き出すことを目指しています。

 

「私たち抜きに、私たちのことを決めないで」

この対話では、障がい者権利委員会の委員が障がい当事者団体や関連するNGOの声を積極的に取り入れ、質疑や総括所見に反映させます。これは、「私たち抜きに、私たちのことを決めないで」という理念に基づいたものであり、国連で採択された障がい者権利条約の経緯が背景にあります。

 

今回も、政府の報告書が公表された後、日本障がいフォーラムなどの団体が政府と意見交換を行いながら、障がい者権利委員会に対するパラレルリポートを提出しました。これにより、障がい者の声が審査に反映され、より包括的な意見が得られることが期待されています。

 

ジュネーブの議場での熱心な対話

ジュネーブの議場では、障がい当事者と関係者が建設的な対話の様子を傍聴しました。数日前には、障がい者権利委員らがロビー活動を展開し、窮状を直接訴えました。100人以上の受審国の障がい当事者と関係者が議場に集まり、建設的な対話が初めて行われたことが注目されました。

 

一方、日本政府の障がい者権利委員からの質問への回答は、終始制度の説明にとどまり、建設的な対話になっていなかった印象がありました。

建設的な対話の様子は国連のインターネットテレビで世界にライブ配信され、現在もアーカイブで視聴できます。

 

「同年代の友達と学校生活を送りたい」

東京都内在住の五十嵐健心(けんしん)さん(19)も、今回ジュネーブに入りました。彼は、障がい児が地域の学校で学べるように就学や学校生活を支援するNGO「障がい児を普通学校へ・全国連絡会」の支援を受け、障がいのある子どもと家族3組が派遣されました。

知的障がい児を排除する現状に抗議すべく、健心さんと玉枝さんはジュネーブへ向かいました。

 

健心さんはダウン症で、中度の知的障がいを持ちながらも、「同年代の友達と学校生活を送りたい」と願い、特別支援学校ではなく地域の小中学校へ通いました。同級生と共に学び、彼は自らを障がい者とは認識しておらず、むしろ、障がいのある人との集まりを避ける傾向があります。母親の玉枝さんは、「学校に障がい者がいなかったからではないか」と推測しています。

 

「知的障がいの子どもには代替手段がない」

高校受験では、マークシート試験の練習を積み重ねて合格し、都立の商業高校に進学しました。学校の雰囲気を楽しみ、同級生との交流を大切にしています。

大学進学を目指し、情報処理が学べる学科を受験しましたが、小論文で不合格となりました。玉枝さんは、「知的障がいの子どもには代替手段がない」と指摘しています。

 

そこで、健心さんと玉枝さんは、「地域の学校でのインクルーシブ教育の推進」「知的障がい児を排除している高校や大学の選抜制度の改善」などを障がい者権利委員に訴えるため、ジュネーブへ向かいました。

ジュネーブでのロビー活動では、教育に関して健心さんを派遣した全国連を含む4団体が、「障がい者権利条約に基づいたインクルーシブ教育の理解と実践」を要望しました。

 

本人と保護者の意見を尊重しながらも、最終的な決定は教育委員会が行う

文科省が構築する「インクルーシブ教育システム」では、生徒のニーズに応じて、的確な指導を提供するために学びの場を分ける方針が採られています。

このため、障がいのある子どもは、「地域の小中学校の通常学級」「通常学級に籍を置きながら、個別支援を受ける通級指導教室を利用」「地域の小中学校の特別支援学級」「特別支援学校での教育」のいずれかで学ぶことになります。学びの場は、本人と保護者の意見を尊重しながらも、最終的な決定は教育委員会が行います。

 

また、教育ニーズが変わることを考慮し、連続性のある柔軟な運用が求められています。障がい者権利条約に基づき、同じ場での共学を追求するため、生徒同士の交流を促進する授業も導入されています。

「医学モデル」と「人権モデル」

障がいを理由とした区別は差別です。しかし、これは障がいの有無や能力の高低に基づく「分離教育」の考え方に根ざしています。特に特別支援教育は、障がいがある子どもには個別支援が必要とされる「医学モデル」によって構築されています。

 

一方、障がい者権利条約は、「人権モデル」を基盤とし、人間は尊厳と自由と平等を持ち、あらゆる権利を有すると主張しています。そのため、「障がいを理由とするあらゆる区別は差別」という原則が禁止されています。言い換えれば、障がい者権利条約では、分離教育は差別であり、排除や制限に当たります。

 

障がいの有無に関わらず全ての生徒が同じ教室で学ぶ

この条約の手引きによれば、「インクルーシブ教育は、障がいの有無に関わらず、全ての生徒が同じ教室で学ぶこと」を目指し、「個別のニーズを満たす教育制度の構築」が求められています。そして、重要なのは、「教育制度は個人のニーズに適合させるべきであり、逆に個人を教育制度に適合させるべきではない」という点です。

 

障がい者権利委員会は、日本政府に対し、特別支援教育の廃止や特別支援学級の生徒が通常学級で過ごす時間の増加など6つの重要な課題について勧告しました。これらの内容は、条約締約国が遵守すべきものです。

 

日本では人権モデルの理解が不足している

今回、障がい者権利委員会副委員長のヨナス・ラスカス氏は、「障がい者権利条約は、障がいは障がい者自身ではなく、社会や人の考え方にある『社会モデル』と、人権モデルが相互に補完したものだが、日本では人権モデルの理解が不足している」と述べました。

 

「重度障がい者」という言葉について、ヨナス・ラスカス教授は医学モデルと人権モデルの違いを指摘しました。

日本では、「重度障がい者」という表現がよく使われていますが、これは医学モデルに基づく評価であり、「障がいの医学モデル」の一環です。しかし、人権モデルの視点からは、「より多くのサポートを必要とする人」と表現されるべきだとラスカス教授は説明します。

 

他者との平等や尊重の原則に反する可能性

ラスカス教授によれば、「重度障がい」「重度障がい者」という言葉は、その重さから「できない」「考えられない」という否定的な偏見を助長し、他者との平等や尊重の原則に反する可能性があります。

 

障がい者権利委員会が特別支援教育の廃止を強く勧告したことについて、ラスカス教授は、「障がいの有無に基づいた分離教育は、インクルーシブな社会への道を閉ざし、将来的には施設での生活に繋がる可能性がある」と指摘しました。そして、インクルーシブ教育の重要性を強調し、今回の勧告の重要性を強調しました。

 

大人になってから障がいのある人と接する際に戸惑うことも

インクルーシブな社会では、さまざまな特性を持つ人々が共に生活し、お互いを理解し合いながら日々を過ごします。しかし、障がいのある人との交流がないと、その人々の立場や感情を理解することは難しいでしょう。

 

子どもたちは学校で自然に助け合うことを学び、対等な関係を築いています。しかし、インクルーシブな環境に慣れていないと、大人になってから障がいのある人と接する際に戸惑うこともあるでしょう。

 

法改正などの工夫が必要であると指摘

一方で、障がいのある人も周囲からのサポートを受ける力を身につけることが重要です。そのためには、多くの人との交流が欠かせません。日本の教育は、国際的な基準に合わせて変革を迫られています。

 

東洋大学客員研究員の一木玲子さんは、次回の建設的対話までに、「障がいのある子どもの地域の通常学級への就学を拒否しない法令の策定」と「特別支援学級に関する文科省通知の撤回」を実現することを目指しています。

さらに、これらの勧告を実行するために、具体的な目標数値の設定が求められます。特別支援教育の廃止について、一木さんは複数の教員配置や教職員定数法の改正などの工夫が必要であると指摘しています。

まとめ

障がい者権利委員会からの提言は、障がい者の権利と尊厳を守るための貴重なステップです。我々はこの提言を受けて、より包括的で公正な社会を築くための取り組みを進める必要があります。障がいの有無に関わらず、全ての人が尊重され、平等な機会を享受できる社会の実現に向けて、一層の努力が求められます。

 

現在の教育制度において、障がいのある子どもたちが適切な支援を受けられるかどうかは、社会の進歩と文明の発展を測る重要な指標の一つです。障がい者権利委員会が特別支援教育の廃止や通常学級への就学機会の確保など、具体的な改善点を提言したことは、障がい者の生活や社会参加における平等な機会を促進するための重要な一歩です。

 

参考

障がい者教育、国連が日本に突きつけた厳しい課題 #東洋経済オンライン @Toyokeizai


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