2024.06.06

発達障がい者同士の会話が「絶望的な結論」に陥るワケ 高校卒業後、5回以上転職を繰り返す30歳男性

発達障がい同士が交わす会話が、しばしば「絶望的な結論」に至るのはなぜでしょうか?その理由を探ると、高校卒業後に5回以上の転職を経験した30歳男性の物語が浮かび上がります。

 

現代の日本では、非正規雇用の拡大が所得格差を急速に広げています。その中で、一度貧困の罠に陥ると、そこから脱出することが極めて困難な「貧困強制社会」が広がっています。本連載では、男性の貧困の実例に焦点を当て、「ボクらの貧困」を報告していきます。

今回は、障がい者雇用で働いても配慮がない状況に直面し、結果的に厳しい状況に追い込まれてしまった30歳の男性の出来事です。

 

厭世的な会話になりがち

ジュンイチさん(仮名、30歳)が趣味を通じて知り合った発達障がいの友人たちとの会話は、しばしば厭世的な方向へと流れ、最終的には一つの結論にたどり着きます。

その結論とは、「発達障がいなんて周りに迷惑をかける“社会毒”」、「障がい年金をもらって生かされてるだけなら、国益のためにも消えちゃったほうがいい」といったものです。

 

ジュンイチさんによれば、友人たちはオンライン上で障がい者を差別するネットスラングを頻繁に口にします。彼らはそのような言葉を見ることを避けるべきだと思いますが、当事者にとっては避けられないものだと言います。

発達障がいと遺伝の関係については、まだ研究途上のテーマですが、遺伝的な要因が関係しているという報告があります。彼らの会話はしばしば重苦しくなりますが、その中には社会の理解や支援の欠如に対する不満や絶望が反映されています。

 

安楽死を唯一の希望と見なす

安楽死については、欧米の一部の国では広く認められ、精神疾患を含むさまざまな状況で選択肢として受け入れられています。しかし、日本では安楽死を巡る議論がまだ始まったばかりであり、特に発達障がいに関しては、法制度化よりも社会のあり方を見直すべきではないかとの声もあります。

 

ジュンイチさんの友人たちは、ネット上での差別や憎悪に絶望し、安楽死を唯一の希望と見なすようになっています。

 

ジュンイチさん自身は、この問題について複雑な気持ちを抱いています。「安楽死は極端だと思いますし、医師が遺伝というふうに伝えるのもひどいです」と語りますが、「国や政治、周囲の人も助けてくれないなら、早く死なせてほしいと思うことはあります」とも述べています。彼の発言は、彼自身や彼の仲間たちが直面する苦境と、その背後にある社会的な問題への不満と絶望を反映しています。

 

5回以上も転職を繰り返している

ジュンイチさんの雇用歴を聞いてみると、彼は高校卒業後、自動車関連の精密機器メーカーでの正社員としての最初の仕事から始まりました。しかし、ここでの経験は彼にとって苦難の連続でした。

上司や先輩からのパワーハラスメントに遭い、有休を取ろうとすると文句を言われたり、部品を投げつけられたり、脅し文句を浴びせられるなど、職場での彼の経験は極めて不快でした。このような環境で働くことが難しくなり、彼は約5年後に退職を余儀なくされました

 

その後は派遣やパート、障がい者雇用での仕事を経験しましたが、どれも長く続かず、最終的には1年ほどで離職してしまいました。

派遣で働いた大手自動車メーカー系列の研究施設では、彼の学習スピードが遅いという理由で契約が解除されました。彼は「マニュアルの量が膨大で、それらをすべて覚えるのが難しかった」と語っています。

 

ジュンイチさんは地元の高校を卒業後、5回以上も転職を繰り返しています。彼は自ら辞めることもあれば、解雇や雇い止めに遭うこともあると述べています。

 

最初の職場では壮絶なパワハラに遭う

彼の話によると、最初の仕事は自動車関連の精密機器メーカーでの正社員でしたが、そこでは上司や先輩からのパワーハラスメントに遭ったそうです。有休を取ろうとすると文句を言われ、書類が投げつけられたり、部品がぶつけられたり、脅し文句を浴びせられたりしたといいます。この状況に耐えかねて、5年ほどでその職場を辞めました。

 

障がい者雇用で働いた公務職場では、日を追うごとに仕事が減らされ、手持無沙汰の時間が増え、任用期間が終了する前に彼は自ら辞めることになりました。彼はハローワークの相談員に障がい特性や希望を伝えたにもかかわらず、まともな仕事が紹介されず、最終的にはキツい状況に追い込まれることが多かったそうです。さらに、最近では倉庫内での運搬作業の仕事も雇い止めにされたとのことです。

 

生きづらさの原因は社会の不寛容さ

彼は自身の経験を通じて、発達障がいのある人が直面する生きづらさの原因は、社会の不寛容さにあると考えています。彼はパワーハラスメントを経験した際に、加害者が100%悪いと述べています。

 

発達障がいも定型発達も「どっちもどっち」という結論を示すためではありません。ジュンイチさんの不得手な分野や、その程度を知り、具体的にどんな支援や配慮が必要なのかを考えるために必要だと考えます。

 

自らが周囲に与えた「被害」

わかりやすく伝えるためにあえて「被害」という言葉を使いますが、取材で出会う発達障がいのある人は、自らが受けた「被害」の詳細は語りますが、自らが周囲に与えた「被害」については説明できない、説明しない人が少なくないのです。

 

ただそれが説明できるなら、そもそも生きづらさも感じないだろうと思われます。そんな矛盾を自覚しつつも、周囲に与えた「被害」について繰り返し尋ねる私に対し、ジュンイチさんはこう答えるにとどまりました。

 

臨機応変な対応ができないというのはありました。仕事以外のこと、例えば彼女の話を振られたときにうまく答えられなかったとか。でも、共通しているのは、職場の側に問題が多かったということです

 

両親との関係も良好とはいえない状況

ジュンイチさんは同居している両親との関係も良好とはいえない状況です。最も意見が食い違うのは働き方をめぐる問題でした。両親からは、相談員と直接面談できるハローワークを通し、正規雇用の仕事を探すように言われています。

 

これに対して、ジュンイチさんはハローワークへの不信感から仕事探しは主にネットの転職サイトなどを利用しています。また、将来は正社員やパートといった雇用ではなく、「好きな車に関する研究開発の仕事を、フリーランスとしてやってみたい」と述べています。

 

『夢見る夢子ちゃん』と呼ばれる

ジュンイチさんは家庭内のすれ違いについて、「両親は『給料は嫌な仕事でもこなすことでもらう我慢料』という価値観。僕のことは『夢見る夢子ちゃん』と言います」と語っています。フリーランスになるなら、家を出ていくように促されていると述べています。

 

もし、ジュンイチさんの希望が、好きなことだけを仕事にして生きていきたいという意味ならば、両親の意見も一理あるように思います。折り合えないなら1人暮らしをして、場合によっては生活保護を利用するのもひとつの方法ではないかと促すと、ジュンイチさんは「生活保護は惨めじゃないですか」と拒絶します。

私が、生活保護の利用は国民の権利ですと重ねると、「生活保護になるくらいなら、野垂れ死んだほうがいいです」。

 

印象に残ったやり取り

ジュンイチさんから聞いた話で印象に残ったことがひとつあります。それは、2016年に神奈川県相模原市の知的障がい者施設「津久井やまゆり園」で元職員の男(植松聖死刑囚)が入居者19人を刺殺した事件をめぐるやり取りです。

 

当時、ジュンイチさんが働いていた職場でそのニュースが話題になりました。ジュンイチさんがある同僚に「ひどい事件ですね」と話しかけたところ、こんな答えが返ってきたという。

「そうか? 俺は植松を賞賛するよ。だってあいつらに金を使うなんてもったいないだろう。そんな金があるなら、俺に回してくれよって思うもん」

 

「ここから排除する」と言い放たれた

診断前ではあったものの、このころから発達障がいの特性があるという自覚があったジュンイチさんが「もし僕が障がい者だったらどうするんですか」と尋ねると、「ここから排除する」と言い放たれたという。

 

ジュンイチさんの友人たちが口にするという障がい者に向けられたネット上のヘイトスピーチは、ここで記すことがはばかられるほどおぞましい。そして、そのむき出しの憎悪はすでに現実社会をもむしばんでいます。

 

私は、発達障がいのある部下や上司を持ったことでメンタルに不調をきたしたという人たちがいることも知っています。ただ排除されるのはマイノリティの側、発達障がいのある人であるケースのほうが圧倒的に多いのです。

 

安楽死を口にするまで追い詰められた発達障がいの人たちと、障がい者を排除しろと主張する一部の人たち。両者の間にある“緩衝地帯”が崩壊したとき、その先に待つ未来はどんなディストピアなのでしょうか。

発達障がいと社会:理解と支援の必要性

発達障がいは、個々の脳の発達に関する障がいであり、コミュニケーション、社会的相互作用、興味・関心、行動の制御などに影響を及ぼすものです。発達障がいについて理解を深め、その人々が直面する課題や支援の必要性について考察します。

 

発達障がいの種類

  • 自閉スペクトラム障がい(ASD):社会的相互作用やコミュニケーションの困難を特徴とし、興味・活動の制限などがあります。
  • 注意欠陥・多動性障がい(ADHD):注意力の持続や衝動の制御が難しく、過活動性や衝動性が見られます。
  • 学習障がい:読解力や算数能力、表現力などの学習面での困難があります。

 

発達障がい者が直面する課題

  • 社会的孤立:他者とのコミュニケーションや適応が難しく、孤立感や不安を抱えることがあります。
  • 学業や仕事での困難:学習や仕事での適応や成果が得られないことから、学業やキャリアの選択において不利な状況になることがあります。
  • 精神的健康問題:社会的なプレッシャーやストレスから、うつ病や不安障がいなどの精神的健康問題を抱えることがあります。

 

支援の必要性と取り組み

  • 教育環境の改善:学校や職場での適切な支援を提供し、個々の能力やニーズに合った教育や職業訓練を提供することが重要です。
  • 社会的な理解と受容:発達障がいに対する偏見や差別をなくし、彼らが社会において自己実現を果たせるよう支援することが必要です。
  • 心理的支援:発達障がい者やその家族に向けて、専門の心理的支援やカウンセリングを提供することが重要です。

 

発達障がいは、個々の特性やニーズに応じた支援が求められる重要な課題です。社会全体がその理解を深め、適切な支援を提供することで、彼らが豊かな人生を送ることができるよう努めることが重要です。

まとめ

障がい者への理解と支援が喫緊の課題であることは明白です。この物語を通じて、我々は彼らが直面する困難と苦悩を理解し、彼らに寄り添い、社会全体がより包摂的で公正な場所になるよう努めるべきです。

障がい者たちの声を聞き、彼らの経験やニーズに真摯に向き合うことが、より理解の深まりと支援の拡大につながるでしょう。未来への警鐘と共に、彼らの希望にも耳を傾け、彼らがより良い未来に向かって歩みを進める手助けをすることが求められています。

 

参考

発達障がい同士の会話が「絶望的な結論」に陥るワケ #東洋経済オンライン @Toyokeizai


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