2024.06.03

定着率90%超!サポーターが支える障がい者のためのコワーキングオフィス「安心して働ける環境」とは?

大阪・梅田に位置するこの特別なオフィスは、障がいを抱える方々が新しい職場でのスタートを躊躇しないよう、安心して働ける環境を提供しています。

 

ここは様々な企業から障がい者雇用で採用された方々が一堂に集うコワーキングオフィスです。その最大の特徴は、常駐する「サポーター」と呼ばれる見守り役がいます。このサポーターたちの存在が、利用者の安心感と定着率の向上につながっています。なんと、利用者の90%以上が1年後も辞めずに働き続けており、その実績は非常に異例的です。

 

このオフィスを訪れて取材を行った結果、さまざまな支援が利用者たちの安心感に繋がっていることが明らかになりました。その背景には、サポーターや周囲の環境が利用者たちに安心感を与え、彼らが自信を持って仕事に取り組めるようになっていることが窺えます。

 

サポーターの存在が顕著な効果を発揮

大阪・梅田のビルの一室にあるこのコワーキングオフィスでは、サポーターの存在が顕著な効果を発揮しています。

 

訪れた際、9時半過ぎにすぐに2人のサポーターが笑顔で挨拶してくれました。このオフィスは、自習室のような雰囲気で、ひとりずつが集中して仕事に取り組むための席が用意されています。特筆すべきは、電話が一つも置かれていないことです。これは、予期せぬ電話が相手とのコミュニケーションを求めることで緊張やストレスを引き起こすことを避けるための配慮です。

 

静かな環境の中で仕事

利用者たちはロッカーからパソコンを取り出し、静かな環境の中で仕事に没頭します。私語はほとんどなく、控えめな音量でジャズが流れています。しかし、この環境への適応が始まると、学校のようなチャイムの音が鳴り、利用者たちに休憩の時間を知らせます。50分ごとの10分間の休憩は、集中しすぎて疲れを溜め込まないよう促すためのものです。

 

オフィス内には、周囲の音を遮るための工夫が施されたソファーもあります。利用者は周囲を気にすることなく、目を閉じてリラックスすることができます。このような環境は、利用者たちが自分のペースを守りながら働けることを可能にし、特に集中力が疲れやすい人に好評です。「リラックスして頭をリフレッシュできます」と利用者の声が語っています。

 

幅広い事務作業を担当

コワーキングオフィスの利用者は、20代から50代までの36人で構成されています。全員が障がい者手帳を持ち、それぞれ別の民間企業に障がい者雇用で採用された方々です。

 

彼らは幅広い事務作業を担当しており、売り上げデータや領収書のインボイス番号の入力、紙データのPDF化などを行っています。このオフィスの最大の特徴は、「サポーター」と呼ばれる見守り役が常駐していることです。彼らはソーシャルワーカーなどの経験を持つ人々で、利用者とは直接の雇用関係はなく、利用者の不安を取り除く役割を果たしています。

 

その中でも、森野広昭さんはこまめな声かけを大切にしています。彼は日々利用者とのコミュニケーションを通じて、皆さんが安定して働けるようサポートしています。彼の言葉からは、利用者一人ひとりに寄り添い、安心して仕事に取り組めるように尽力している姿勢が伝わってきます。

 

離職率の問題に直面

このコワーキングオフィスを立ち上げたのは、大阪に本社を置く人材サービス会社です。彼らは精神障がいのある方々の就労をサポートしてきましたが、一般企業への就職の際のハードルの高さや、その後の離職率の問題に直面しました。

 

独立行政法人障がい者職業総合センターが2017年4月に発表した調査によると、障がいのある人が一般企業に就職して1年後も働き続ける割合は、精神障がいのある人が49.3%、身体障がいがある人が60.8%、知的障がいがある人が68%、発達障がいのある人が71.5%と報告されています。

 

この結果から明らかなように、精神障がいのある方々の就労定着率は他の障がいのある方々よりも低いことが示されています。この問題は、障がい者本人だけでなく、企業側にとっても大きな課題となっています。

 

サポート体制の整った「助走期間」を提供するオフィス

このような状況を踏まえ、会社は精神障がいのある方々が一般企業に直接就職する前に、サポート体制の整った「助走期間」を提供するオフィスを考案しました。ディンプルの吉村有加さんは、「障がい者手帳が精神の手帳というだけで、採用を見送られる方もいらっしゃいます。働きやすい状況さえ整えば、彼らも活躍できると信じています」と述べています。

 

このオフィスでは、利用者の「助走期間」後の未来予想図もしっかりと描かれており、それぞれの利用者がスキルアップしながら採用された企業の職場に移行することも想定されています。長期的なサポートが提供され、その結果、このオフィスで働き始めた人の93.9%が、1年後も働き続けるという異例の実績を達成しています。

 

実力を発揮していると評価

事業を始めて2年が経ち、全国からの問い合わせが増えました。福岡に本社がある大手企業は、このコワーキングオフィスを活用し、適切なサポートを受けた社員たちが実力を発揮していると評価しています。実際、オフィスを利用している企業の部長は、「コワーキングオフィスで働く社員たちを高く評価しています。スキルアップしながらずっと働いていただきたいし、態勢を整えていずれ社内にも迎えたいです」と述べています。

 

このオフィスに通う利用者の一人である木村さん(30)も、大手企業の契約社員として採用され、新たな一歩を踏み出すことができました。彼は現在、障がいのある人向けの業務マニュアルを作成しています。彼は自身の経験を踏まえ、曖昧な説明や指示を避け、誰もがスムーズに業務に当たれる手順を明示しています。

 

『自分だけじゃないんだ』と思うことができた

木村さんはもともと緊張しやすい性格で、大学時代に社交不安障がいと診断されました。しかし、コワーキングオフィスのサポーターや仲間たちの支えにより、自分を受け入れられる場所を見つけ、安心して仕事に取り組むことができました。

 

彼は、「ここはありのままの自分を理解して、受け入れてくれたから安心することができました。自分以外にもいろんなことを乗り越えようとしている人たちと出会うこともでき、『自分だけじゃないんだ』と思うことができました。ここの存在がなかったら、正直、いま働けているかどうか分かりません。」と語っています。

 

交換日記スタイルで業務日誌を記入

業務日誌を交換日記スタイルでサポーターと毎日交換することが、特に木村さんにとって大きな支えとなりました。自分の気持ちを受け止めてもらえることが、彼にとって安心材料となったのです。

 

木村さんは日誌で、上司への質問のタイミングがとりづらいことや後輩の指導で内心ドキドキしていることなどを綴ります。そのたびに、サポーターからは適切なアドバイスや励ましの言葉が返信されます。「あらかじめ誰に聞けばよいか聞いておくのも手ですね」「内心は他人に見えないので堂々としていたら良いですよ」といった具体的なアドバイスが、木村さんの不安を軽減し、前向きな気持ちに変えてくれたのです。

 

入社してから1年が経ち、木村さんは先輩として新たに入った社員に業務を教える立場になりました。彼は分かりやすく、ゆっくりと丁寧に説明し、新入社員が安心して業務に取り組めるようサポートします。業務が完了したとき、木村さんの笑顔と「OK」という一言は、新入社員にとっても安心の表情をもたらしました。

関係者が連携して支援することが重要だと指摘

日本精神障がい者リハビリテーション学会の前会長で精神科医の池淵恵美さんは、精神障がい者が職場に定着するためには、関係者が連携して支援することが重要だと指摘しています。彼女は、「職場、就労支援、医療、生活支援など、支援者が分野別に縦割りでバラバラに本人に関わるのではなく、顔の見える関係を作ってノウハウなどを情報交換しながら共に支える態勢を構築していく姿勢が有効だと言えます」と述べています。

 

取材を通じて、新しい環境や人間関係は誰にとっても最初がハードルが高いことを実感しました。そこで、このコワーキングオフィスのような長期的なサポートが重要だと感じました。

木村さんは取材の最後に、「こんな日が来るなんて、1年前は想像も出来なかったです。ちょっと一歩前進できたかもしれない。多くの人たちの支えのお陰で、『世の中にはいろんな人がいて、いろんな気持ちで頑張っている。ひとりじゃないんだ』と思えるようになりました。コワーキングオフィスで出会った人たちは大事な仲間。誰かの役に立てていると思うとうれしいし、これからも成長していきたいと思います」と語ってくれました。

 

障がい者の就労支援に向けた取り組み

障がい者の就労支援は、社会的包摂の観点から非常に重要です。彼らが適切な支援を受けながら働くことができる環境を整えることは、彼らの自立と自己実現に繋がると同時に、社会全体の豊かさを増すことにつながります。以下では、障がい者の就労支援に関するいくつかの取り組みについて紹介します。

 

支援団体の設立と活動

障がい者の就労支援を目的とした団体や非営利組織が活動しています。これらの団体は、障がい者が職場において必要な支援や訓練を提供し、彼らが適切な職場環境で働くことを支援しています。また、雇用主との連携や障がい者の就労機会の創出にも取り組んでいます。

 

雇用奨励策の実施

雇用主に対して障がい者の雇用を奨励する政策や制度が導入されています。例えば、障がい者を雇用することで税制上の優遇措置を受けられる場合や、雇用主に対して補助金を支給する制度があります。これらの政策や制度は、雇用主に対して障がい者の雇用を促進し、障がい者にとって働きやすい環境を整えるための助けとなっています。

 

インクルーシブな職場環境の構築

障がい者の就労を支援するためには、職場環境のアクセシビリティを向上させる必要があります。例えば、車椅子の利用者に対してバリアフリーな職場環境を整備することや、視覚障がい者に対して画面読み上げソフトウェアを導入することなどが挙げられます。また、職場内での配慮やサポート体制の整備も重要です。これにより、障がい者が自らの能力を最大限に発揮し、安心して働くことができます。

 

キャリアカウンセリングや職業訓練の提供

障がい者が適切な職業を選択し、それに必要なスキルを身につけるためには、キャリアカウンセリングや職業訓練が重要です。これらの支援は、障がい者が自らの興味や能力に合った職業を見つけ、それに向けて必要な準備をすることを支援します。また、就労中もキャリアアップの機会を提供することが重要です。

障がい者の就労支援は、社会的な包摂と公正な雇用機会の実現に向けた重要な取り組みです。政府や民間企業、支援団体など、様々な関係者が連携し、障がい者が自立して社会参加できる環境を整えることが求められています。

まとめ

大阪・梅田に位置するこの特別なオフィスは、障がいを抱える方々が新しい職場でのスタートを躊躇しないよう、安心して働ける環境を提供しています。サポーターの存在が利用者の安心感と定着率の向上に貢献し、彼らが自信を持って仕事に取り組めるよう支援しています。

サポーターと利用者が交換する業務日誌は、特に大きな支えとなり、利用者の不安を軽減し、前向きな気持ちに変えてくれます。取材を通じて明らかになったのは、サポーターや周囲の環境が利用者たちに安心感を与え、彼らが自信を持って仕事に取り組めるようにしていることです。

このオフィスの存在は、利用者たちがありのままの自分を受け入れられ、成長し、働き続けることを支える重要な役割を果たしています。

 

参考

定着率90%超 障がいのある人が“辞めない”異例のオフィスとは | NHK | WEB特集


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