2024.05.30

知的障がい者が挑む芸能界への道:芸能界に挑戦する理由と課題 常識を打ち破る新たな挑戦

「知的障がい者が芸能人になるなんて無理」そんな社会の常識や固定観念を変えようと、知的障がいがある人向けの芸能事務所が近年、相次いで登場しています。

 

身体障がい者の場合は見た目で分かりやすく、メッセージ性も持たせやすいですが、知的障がい者は外見では分からないことが多いです。そのため、せりふを覚えたりコミュニケーションを取ったりする上で特別な配慮が必要になります。これは身体障がいとは異なる難しさです。

 

それでも挑戦しようという当事者と芸能事務所が出てきているのはなぜなのでしょうか。そして、この道は開けるのでしょうか。

 

モデル・俳優としての挑戦

「素敵な共演者の方々と一緒にこの作品に出ることができ、とても嬉しかったです」今年2月、東京都内のホールで開かれた映画「わたしのかあさん―天使の詩―」の上映会で、町田萌香さん(36)は主演の寺島しのぶさんらと舞台に立ち、そう挨拶しました。

 

この映画は、知的障がいがある両親の下に生まれた子どもの視点で親子の愛情を描いた作品で、エキストラなどで知的障がいのある当事者約30人が出演しています。町田さんもその一人です。

軽い知的障がいがあるものの、181センチの長身を活かし、普段の仕事の傍らモデルや俳優として活動しています。これまでに東京パラリンピックの開会式や舞台などに出演し、「私を通して、分かりにくい障がいのことを知ってもらえたら」と話します。

 

世界で勝負できるモデルを育てたい

町田さんが所属するのは、障がい者向けの事務所「グローバル・モデル・ソサイエティー」(東京)です。元モデルの高木真理子さん(62)が「障がいがあっても、世界で勝負できるモデルを育てたい」と2022年に設立しました。

 

この事務所には、知的や身体に障がいがある約20人が所属しており、月に1回開かれるオーディションには毎回10人前後の応募があり、希望者は多いそうです。ウオーキングのレッスンなどを通じて知的障がい者と10年以上付き合ってきた高木さんは、障がい児の親や世の中にこう言いたいと語ります。

「彼女たちだって、教えればいろいろなことができるようになる。何をするにしても、最初から『できない』と可能性を狭めないでほしい。やる気や使命感を持つと、人は変わる」

 

社会の常識や固定観念を少しずつ変えている

町田さんと高木さんのように、知的障がいがある人々に対して新たな道を切り開く人々の存在が、社会の常識や固定観念を少しずつ変えています。知的障がい者が輝く舞台は、確かに存在し、その道は今まさに開かれつつあります。

 

「彼らは『どう見られるか』を意識せずに演技ができる。初めて見たとき、心を揺さぶられた」。そう語るのは、障がい者専門の芸能事務所「アヴニール」(東京)の社長、田中康路(50)さんです。

 

田中さんは、障がい者のドラマ出演などに関わってきた経験を生かし、2017年に「アヴニール」を設立しました。現在、知的障がいを中心に約50人が所属しており、舞台の自主公演や芸能スクールの運営などに取り組んでいます。

 

「必要な点を配慮すればすごい演技ができる」

田中さんは「彼らの世界観を理解し、必要な点を配慮すれば、『これこそがエンターテインメントだ』というすごい演技ができる」と話します。また、「芸能界はその人の魅力を売り物にする世界。障がいという特性を生かすのが悪いこととは思わない」とも述べています。

 

所属タレントの一人、小籔伸也さん(29)は中学生のとき、学校に行くのがつらくなり、「毎日の出来事をドラマだと思うようにしていたら、気持ちが楽になった」と語ります。それが芝居に興味を持ったきっかけでした。

 

その後、軽度の知的障がいと発達障がいがあることが判明しました。現在、アルバイトをしながらアヴニールで演技のレッスンやボイストレーニングに励んでおり、学園ドラマに出演することを目標に、「『諦めの悪い俳優』になりたい」と話しています。

 

共演者たちに生まれる相乗効果

一般の芸能事務所も、障がい者の才能を引き出す取り組みを始めています。俳優の小西真奈美さんらが所属する「エレメンツ」(東京)は、社内プロジェクトとしてダウン症がある人の舞台出演やダンス活動を支援しています。

 

この事業は10年ほど前に始まりました。「ダウン症の人たちが挑戦できる場があまりにも少ない。可能性を広げられる挑戦の場を作ろう」との思いからスタートしました。2021年の東京パラリンピックやダイバーシティー(多様性)を重んじる社会の流れが追い風となり、ここ数年、テレビへの出演機会が増えています。

 

現場全体で自然とコミュニケーションが生まれる

エレメンツの取締役、馬場巧さん(48)はこう話します。「彼らは共演陣やスタッフに分け隔てなくハグしたりするので、現場全体で自然とコミュニケーションが生まれます。彼らの真剣な姿勢や成長する様子を見て、共演する役者たちも刺激を受ける相乗効果があるのです

 

障がいを持つ俳優たちが現場にもたらす影響は、単なる演技力の向上にとどまりません。彼らの存在は共演者やスタッフにとっても新たな発見や成長の機会を提供し、エンターテインメント業界全体にポジティブな変化をもたらしています。

 

福祉や慈善活動ではない

多くの障がい者専門の芸能事務所が共通して強調するのは、「福祉や慈善でやっているわけではない」という点です。所属タレントの起用には出演料を求めています。しかし、事業の採算という点ではいずれも苦労しており、芸能活動だけで生計を立てている人はほとんどいません。

 

制作サイドには「どう接すればいいのか分からない」という戸惑いがあり、視聴者の中には障がい者を「かわいそう」と見る人もいます。また、企業は「『障がい者をお金もうけに使っている』と批判されそう」といった“炎上”リスクを恐れ、起用に二の足を踏むケースが多いのが現状です。

 

各事務所は、ファッションショーの開催や、所属タレントのCM出演などを模索しています。しかし、これらの活動が広がるかどうかは、社会全体の意識がさらに変わるかどうかにかかっていると言えます。

 

社会の理解と受け入れが不可欠

障がい者タレントたちが芸能界で成功するためには、社会の理解と受け入れが不可欠です。彼らの才能や魅力を正当に評価し、積極的に活用することが、新しいエンターテインメントの形を作り出す鍵となるでしょう。

 

知的障がいのある子どもを持ち、メディアに身を置く人間として、知的障がい者を起用する難しさはよく理解しています。伝えたいメッセージを限られた時間やスペースでいかに効果的に伝えるかは、常に悩ましい課題です。障がい者が登場することに意味を持たせたいなら、車いすの人など身体障がい者の方が視覚的にわかりやすく、特に映像メディアではその傾向が顕著です。

 

挑戦できる機会は障がいの有無に関係なく与えられるべき

それでも、「知的障がいがあっても、いろいろな可能性があるということを伝えたい」という各事務所の話には共感し、励まされました。

健常者だって「芸能人になりたい」と思ったからといって、誰もがなれるわけではありません。しかし、少なくとも挑戦できる機会は障がいの有無に関係なく与えられるべきだと考えます。

 

知的障がい者をメディアに起用することは、多くの障壁や困難を伴いますが、その一方で大きな意義もあります。彼らが芸能界で活躍する姿は、多様な可能性を示し、社会全体の意識を変える力を持っています。挑戦の場が広がることを期待していきたいと思います。(共同通信=市川亨)

知的障がいの定義と特徴

知的障がいとは、知的機能および適応行動において著しい制限が見られる状態を指します。知的機能の制限は、学習や問題解決、推論などの能力に影響を与えます。また、適応行動の制限は、日常生活でのコミュニケーションや自己管理、社会的スキルに影響を及ぼします。これらの特性は、18歳以前に現れることが一般的です。

 

知的障がいの原因

知的障がいの原因は多岐にわたり、遺伝的要因や環境的要因が関与しています。代表的な遺伝的要因には、ダウン症やフラジャイルX症候群などの染色体異常があります。環境的要因としては、妊娠中の母親の感染症や飲酒、栄養不良、出産時の合併症、幼少期の脳外傷などが挙げられます。

 

知的障がいの分類

知的障がいは、その重症度に応じて軽度、中等度、重度、最重度の4つに分類されます。

  • 軽度知的障がい:学習においてはやや遅れが見られますが、日常生活や社会生活ではほぼ独立して行動できることが多いです。
  • 中等度知的障がい:簡単な日常生活は自立して行えますが、複雑な学習や社会的な状況には支援が必要です。
  • 重度知的障がい:日常生活の多くの場面で支援が必要であり、コミュニケーションや自己管理においても援助が必要です。
  • 最重度知的障がい:常に全面的な支援が必要であり、複雑な指示や指導を理解することが難しいです。

 

知的障がい者への支援と教育

知的障がいを持つ人々には、適切な支援と教育が不可欠です。早期の介入と特別支援教育が効果的であり、個々の能力を最大限に引き出すことが目指されています。支援の一例として、以下のようなものがあります。

 

  • 特別支援学校:知的障がいを持つ子どもたちのための専門的な教育機関です。
  • 早期療育センター:幼少期からの発達支援を行う施設です。
  • 就労支援:知的障がい者が社会で働くための訓練や支援を行います。

 

知的障がい者の社会参加

知的障がい者の社会参加は、地域社会や企業の理解と協力が不可欠です。障がい者雇用を推進する法律や政策の整備が進む一方で、企業や地域社会による具体的な取り組みも増えています。例えば、障がい者を積極的に雇用する企業や、障がい者が参加できる地域イベントの開催などです。

 

メディアでの知的障がい者の活躍

近年、知的障がいを持つ人々がメディアやエンターテインメント業界で活躍する機会が増えています。彼らの存在は、社会の偏見や固定観念を打破し、知的障がいについての理解を深める重要な役割を果たしています。知的障がい者の才能を認め、彼らに適切な挑戦の場を提供することは、社会全体の多様性を豊かにする一歩となるでしょう。

 

支援と共生の姿勢

知的障がいについての理解と支援は、個人の成長と社会の包摂力を高めるために重要です。私たち一人ひとりが、知的障がいを持つ人々に対して正しい理解を持ち、支援と共生の姿勢を持つことが求められます。彼らの可能性を信じ、共に成長し続ける社会を目指しましょう。

まとめ

知的障がい者をメディアに起用することは、多くの障壁や困難を伴いますが、その一方で大きな意義もあります。彼らが芸能界で活躍する姿は、多様な可能性を示し、社会全体の意識を変える力を持っています。

挑戦の場が広がることを期待していきたいと思います。これからも障がいの有無に関わらず、全ての人々が自分の夢に向かって挑戦できる社会を目指し、共に歩んでいきましょう。

 

参考

知的障がいがあっても芸能人になれる? 「挑戦できる場つくりたい」専門事務所が相次ぎ登場


凸凹村や凸凹村各SNSでは、

障がいに関する情報を随時発信しています。

気になる方はぜひ凸凹村へご参加、フォローください!

 

凸凹村ポータルサイト

 

凸凹村Facebook

凸凹村 X

凸凹村 Instagram

凸凹村 TikTok


 

関連情報

みんなの障がいへ掲載希望の⽅

みんなの障がいについて、詳しく知りたい方は、
まずはお気軽に資料請求・ご連絡ください。

施設掲載に関するご案内