2024.05.21

障がいを持つ人々にも活躍の場を!日本の精神医療の現状と課題 海外の新しい科学的発見をも無視する日本の医学界

2020年の国内の精神科患者は、入院と通院を合わせて614.8万人に達しました。これは、日本人の20人に1人が精神科で治療を受けている計算です。

一般的な精神疾患である「うつ病」に加え、近年は「発達障がい」と診断される人も急増しています。このような異常事態に警鐘を鳴らしているのが、『精神医療ビジネスの闇』(北新宿出版)の著者であり、20年以上にわたり精神医療現場での人権侵害問題に取り組んできた米田倫康氏です。

米田氏は、「患者が増えていることに伴い、診療の質が低い精神科クリニックも急増している」と指摘しています。一方で、精神科医の和田秀樹氏は「発達障がい者を異端扱いし、社会から除け者にしている現状では、過剰診断は危険だ」と語っています。

科学的データよりも教授や専門家の意見が優先される傾向

日本ではしばしば科学的データよりも教授や専門家の意見が優先される傾向があります。精神科医の和田秀樹氏は、多くの有名人、特に堀江貴文さんが自分を発達障がいだと認めていることに言及し、「彼らのような人が世に出てきて、『正常』な人々よりも優れていると公言している」と述べています。現在の露骨な弱肉強食型の資本主義社会では、発達障がいの人々が「正常」な人々に勝つ可能性が高いと和田氏は指摘します。

「みんなに合わせる必要があるとか、上の言うことを聞かなきゃいけないと思う人が勝てるわけがない。そうなってくると、『発達障がい、いいじゃん!』という流れになるかもしれない」と和田氏は続けます。

 

「変化はすでに始まっている」

一方、米田倫康氏は、こうした変化はすでに始まっていると考えています。米田氏は、メンタルヘルスの世界的な常識が大きく変わりつつあると述べ、2023年10月にWHO(世界保健機関)と国連人権高等弁務官事務所が共同で作成したメンタルヘルスガイダンスを紹介しました。このガイダンスは次のように要約されています。

メンタルヘルスと幸福は、貧困、暴力、差別と同様に、社会的、経済的、物理的環境と強く関連しています。しかし、ほとんどのメンタルヘルスシステムは診断、投薬、症状の軽減に焦点を当てており、人々のメンタルヘルスに影響を与える社会的決定要因を無視しています。メンタルヘルスケアやサポートを求める際に、あまりにも多くの人が差別や人権侵害を経験しています。非自発的な入院と治療、隔離または独房、拘束の使用も、ほとんどのメンタルヘルスシステムで蔓延しています。メンタルヘルスに関する法律は、新たな方向を向かなければなりません。」

 

医学界の内部からの変革が最も必要

このガイダンスは、従来の投薬を中心とした治療モデルから脱却し、新たな法整備を求めている点で画期的です。米田氏は、メンタルヘルスケアの新しい方向性を示すこのガイダンスが、日本の精神医療にも大きな影響を与えることを期待しています。

しかし精神科医の和田秀樹氏は、社会の側からの要請だけで状況が大きく変わるかについては悲観的な見解を示しています。和田氏は、「医学界の内部からの変革が最も必要だが、医学界にはそれを妨げる構造的な問題がある」と述べています。

海外で新しい科学的発見があっても、日本の医学界はそれを受け入れないことが多いのです。例えば、海外では血糖値がやや高めの人のほうが死亡率が低いという新しい常識があるにもかかわらず、日本の医者たちはその態度を変えようとしません。

 

守旧派の教授たちがあまりにも強い影響力を持っている

和田氏は、「日本の医療全般に言えることですが、守旧派の教授たちがあまりにも強い影響力を持っており、科学的データよりも教授の意見が優先されてしまう構造があります」と指摘します。

実際に米田氏も、先のWHOのガイダンスを厚生労働省や精神医療の関係各所に提示し、「メンタルヘルスのパラダイムシフトが求められている」と訴えましたが、全く取り合ってもらえなかったと述べています。このような現状では、国際的な動向や新しい科学的知見が日本の医療現場に反映されるには、まだまだ課題が多いと言えるでしょう。

 

医学部入試制度にも問題があると指摘

和田氏は日本の医学部入試制度にも問題があると指摘しています。特に東大の理Ⅲでは、1999年から2007年まで入試に面接を課し、一旦中止したものの、2018年から再開しました。現在では、全国の82の大学医学部すべてで入試に面接が課されています。

これは、医者に向かない人間を排除し、勉強だけできるが性格が悪い人間を落とすという建前ですが、面接官は教授です。そのため、教授に忖度する人間が入ってきてしまい、教授に逆らいそうな人間は医学部に入れなくなります。和田氏は、「もし私が今受験したら、合格できないでしょう」と述べています。

 

教授に挑戦できる人材を入れなければ進歩しないという考え

和田氏は、ハーバードやイェールなどの海外の医学部でも入試面接が行われていますが、教授が面接を担当しない点を強調しています。既存の教授に挑戦できる人材を入れなければ、学問は進歩しないという考え方が海外では重視されています。「精神科の領域に限っても、たった30分の面接で人間を見抜けると考えているような精神科医は、治療なんてできませんよ」と和田氏は批判します。

 

面接を廃止するという議論には至らなかった

さらに和田氏は、2018年に発覚した東京医大での得点調整問題を挙げ、「その後、半分ぐらいの大学が同様のことを行っていたことがわかりました。あのタイミングは、発達障がいや身体障がい者が面接で落とされる現状を是正する絶好機だったのに、そうはなりませんでした」と述べています。和田氏は、日本の医学部入試における面接制度の問題点を強調し、「入試を変えようという話の中で、面接を廃止するという議論には至りませんでした」と指摘します。

 

受験生を選抜する教授たちこそが共感力に欠けている

「医学部のキャンパスを見学すれば、車椅子に乗っている人はほとんど見かけません。これは、入試面接で落とされているからです。車椅子に乗っている人が試験に通らないのか? そんなことはありません。日本の医学部は、勉強だけできるのではなく、人間への共感力がある人しか医者になってはいけないと言っているのに、受験生を選抜する教授たちこそが共感力に欠けている」と和田氏は批判します。

 

医学界の内部からの異論が出にくいシステム

米田氏もまた、医学界の内部からの異論が出にくいシステムについて言及しています。「いまの精神医療はおかしい」と言えるのは、医者ではない私のポジションだからこそだと米田氏は語ります。

医者であれば、現場での反発や教授との関係から、内部からの批判は難しい状況にあります。米田氏は、「現場をわかっていない人間が偉そうだと医療関係者からご批判もあるかと思いますが、だからこそ風穴を開けていく私の活動にも意味がある」と述べています。

 

医者自身やその家族に対するリスク

和田氏も、現状を批判する医者が少ない理由として、医者自身やその家族に対するリスクを挙げています。「親が目立った形で医学部を批判して主流派に嫌われたら、子供が入試面接で落とされかねない。その可能性を考えれば、批判はできません」と述べています。

また、医学部は医師だけでなく医学研究者への道もあるため、入試面接は大学入試ではなく、医師国家試験で行うべきだと主張しています。

 

日本の医療現場に反映されるには時間がかかる

米田氏と和田氏は、医学界の現状に風穴を開けるための提案を行っていますが、現実には多くの課題が残っています。このような状況では、国際的な動向や新しい科学的知見が日本の医療現場に反映されるにはまだ時間がかかるでしょう。

 

大学側は全く聞く耳を持たなかった

日本の医学部の入試から面接を外す動きがまったくないことについて、米田氏は疑問を呈します。これに対し、和田氏は実際にその提言を行った経験を語ります。

和田氏は日大の常務理事を務めていた際に、不祥事が相次いでいた同大学に対し、「日大だけ医学部の入試面接を廃止したら、入試の偏差値は10ぐらい跳ね上がりますよ」とのブランド回復案を提案しましたが、大学側は全く聞く耳を持たなかったと言います。

発達障がいを持つ人々にも活躍の場が提供されるべきと主張

和田氏は、入試面接が医師選びにおける大きな問題であると指摘します。たとえば、手術が非常に上手いけれど患者に説明するのが苦手な医者Aと、手術は下手だが失敗した時の説明が非常に上手で共感的な医者Bのどちらを選ぶかという問いに、和田氏自身は前者を選ぶと述べます。結果で勝負することで、手術の腕が良い医者が評価されるようになり、発達障がいを持つ人々にも活躍の場が提供されるべきだと主張します。

 

自閉症スペクトラムの人々が優れた研究者や手術の名手になれる可能性

米田氏は、入試面接が患者の医者を選ぶ自由を阻んでいる現状について言及します。和田氏も同意し、自閉症スペクトラムの人々が優れた研究者や手術の名手になれる可能性があるにもかかわらず、変わり者として排除されるシステムを批判します。

これは大学側だけの問題ではなく、「コミュニケーション能力がない人間や変わった人間は医者になれない」という思い込みや刷り込みが国民全体に浸透していることが根本的な問題だと和田氏は述べます。

 

固定観念やシステム自体を見直し環境を整えることが重要

このような思い込みが深く根付いているため、「変な人間を入試面接ではじきましょう」という意見に国民の9割が賛成してしまう状況があると言います。日本人は「子供はノーマルであってほしい」「大学の医学部入試で面接をするのは当たり前だ」と思いがちであり、この均質性への強い願望が、日本の精神医療改革にとって最大の難関となっているのです。

和田氏は、日本の精神医療の現状を打破するためには、こうした固定観念やシステム自体を見直し、多様な人材が活躍できる環境を整えることが重要であると強調しています。

 

発達障がいとは:その理解と社会的対応

発達障がいは、認知や行動、社会的スキルの発達において、一般的な発達パターンから逸脱する特徴を持つ状態の総称です。主な発達障がいには、自閉症スペクトラム障がい(ASD)、注意欠陥・多動性障がい(ADHD)、学習障がい(LD)などがあります。これらの障がいは、それぞれ異なる特徴を持ち、個々の特性や症状も多様です。

 

発達障がいの主な種類

  • 自閉症スペクトラム障がい(ASD)

ASDは、社会的なコミュニケーションと相互作用に困難を抱えること、限定された興味や反復行動を特徴とします。症状の重さや特性は個人によって大きく異なり、スペクトラム(連続体)の中で広範なバリエーションがあります。


  • 注意欠陥・多動性障がい(ADHD)

ADHDは、不注意、多動性、衝動性の症状を特徴とします。これにより、学校や職場、日常生活での課題が生じることがあります。ADHDは、子どもだけでなく成人にも見られ、適切な診断と支援が重要です。


  • 学習障がい(LD)

LDは、読書、書字、数学などの特定の学習分野において、期待される能力に比べて著しい困難を抱える状態です。知的な能力には問題がなく、適切な支援と教育法を用いることで克服可能です。

 

発達障がいの診断と支援

発達障がいの診断は、専門的な医師や心理士による詳細な評価を通じて行われます。早期診断と早期介入が、子どもの発達を最大限にサポートするために重要です。診断後は、以下のような支援が提供されます。


  • 教育支援

特別支援教育の枠組みの中で、個別の教育計画(IEP)を策定し、個々の子どもの特性に応じた教育が行われます。


  • 医療支援

必要に応じて、薬物療法や行動療法、言語療法、作業療法などが提供されます。これにより、症状の緩和やスキルの向上を図ります。


  • 社会的支援

地域の支援団体やソーシャルワーカーが、家族へのサポートや情報提供を行います。また、職場や学校での適応を支援するための調整も行われます。

 

社会の対応と課題

発達障がいへの理解と対応は、日本を含む多くの国々で進展していますが、依然として課題が残っています。主な課題には以下のようなものがあります。


  • 偏見と差別

発達障がいに対する社会的な理解不足や偏見が、当事者とその家族に対する差別を引き起こすことがあります。啓発活動や教育が必要です。


  • 支援体制の不足

地域や学校によっては、必要な支援が十分に提供されていないことがあります。支援体制の整備と拡充が求められます。


  • 成人への支援の不備

子ども時代に比べて、成人期の発達障がい者に対する支援は不足していることが多いです。職場での合理的配慮や、ライフステージに応じた支援の充実が必要です。

 

発達障がいへの未来への展望

発達障がいへの理解と支援の向上は、個々の能力を最大限に引き出し、社会全体の豊かさを増すことにつながります。政府、教育機関、医療機関、地域社会が連携し、持続的な支援体制を構築することが重要です。また、当事者やその家族の声を反映させた政策や制度の整備も不可欠です。

発達障がいを持つ人々が、自分らしく生き、社会に貢献できる環境を整えるために、一人ひとりが理解を深め、共に支え合う姿勢を持つことが求められます。

まとめ

日本の精神医療は、社会的な偏見や固定観念、制度上の課題により、多くの問題を抱えています。米田倫康氏と和田秀樹氏が提示する提言や議論は、この分野の課題に対する啓発と改革の一助となる可能性があります。しかし、医学界や社会全体での意識改革と、システムの変革が不可欠です。多様性を尊重し、障がいや特性を持つ人々も社会において活躍できる環境を構築するために、私たちは一丸となって取り組む必要があります。

 

参考

「海外の新しい科学的発見をも無視する日本の医学界」...改革を阻み続ける、多すぎる「日本の病理」 @gendai_biz


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