2024.05.09

障がい者雇用の新たなアプローチ 就労移行支援で先端ITを学び、企業の即戦力

2019年11月に開所した就労移行支援事業所Neuro Diveは、障がい者雇用に関する既存の先入観を一新する取り組みを行っています。この施設は、大手人材サービス会社パーソルグループの特例子会社であるパーソルダイバースが運営しており、東京都港区に位置しています。

社会で自立した就労を実現できるよう支援

Neuro Diveでは、AIや機械学習、データサイエンスなどの高度な専門スキルを提供し、障がい者の方々が社会で自立した就労を実現できるよう支援しています。

パーソルダイバース人材ソリューション統括本部人材ソリューション本部Neurodiversity事業部のゼネラルマネジャーである大濱徹氏によれば、Neuro Diveでは従来の就労支援とは異なるアプローチが取られており、障がい者の個々の能力や適性に合わせたカスタマイズされた支援が提供されています。

 

国内初の取り組み

Neuro Diveは、一般的な就労移行支援事業所とは異なり、生活習慣やビジネスマナーだけでなく、高度なITスキルを習得できる施設です。大濱氏によると、Neuro Diveは先端ITに特化した就労移行支援事業所として国内初の取り組みであり、神経発達症の方々を主な対象としています。彼らが持つ独特の特性を生かしやすい分野として、先端ITを選択したそうです。

 

高い定着率

2019年11月に秋葉原に第1号の事業所を開所して以来、大阪や福岡などでも同様の事業所を展開し、現在は5つの施設が運営されています。これまでにNeuro Diveからは70人以上の卒業生が先端ITに強い人材として企業に送り込まれ、退職した者はわずか1人であり、定着率も高いと報告されています。

 

大まかに3つのパターンに分かれる

Neuro Diveに通所している方々は、大まかに3つのパターンに分かれます。まず、大学を卒業したが就職に至らなかった方々です。彼らは卒業論文の執筆や単位取得と就職活動を同時進行できなかったケースが多く見られます。

次に、就職後に適応障がいやうつ病などを発症し、離職してしまった方々です。神経発達症による適応困難さから二次障がいを発症し、精神科での治療を受けて初めて神経発達症の診断を受けることが多いです。

最後に、戦略的な理由からNeuro Diveに通所する方々がいます。彼らは自らの神経発達症を認識し、マネジメントの仕事には向かないと考え、技術力を高めるために敢えて離職し、Neuro Diveでの就労を選択しています。

 

給与や処遇の交渉が可能

障がい者枠の場合、給与は一般雇用枠に比べて低いことが一般的ですが、技術力が高く社業に貢献できれば、給与や処遇の交渉が可能です。Neuro Diveでは、インターンシップを経てから就職を決定するため、企業は本人の技術力を確認し、本人も自分に合う職場かどうかを確認できます。その過程を経て、給与や処遇を話し合いの上で入社を決定しています。

 

パフォーマンスを最大化するために

しかし、神経発達症の方々が仕事で力を発揮するためには、企業側も変わらなければなりません。抽象的な指示は神経発達症の方々にとって理解しにくいため、具体的な指示の出し方を学ぶことが重要です。また、神経発達症の方々は挨拶や敬語を苦手とすることがあるため、その点も理解してもらう必要があります。結局のところ、神経発達症の方々の職場パフォーマンスを最大化するためには、企業や環境、組織が変わる必要があります。その点を理解した企業の部長が、「変わるのは私たちだ」と述べてくれたことが印象的でした。上司が変われば、神経発達症の方々にとっても別世界が広がるということを理解してくれたのだと思います。

 

障がい者採用に否定的な見方をする場合もある

障がい者枠での入社において、現場では開示せずに進めることがあります。なぜなら、一部の企業では障がい者採用に否定的な見方をする場合があり、入社に際して障がいの有無を開示することで偏見や差別を受ける可能性があるためです。そのため、障がい者枠での入社を希望する場合でも、企業側には障がいの有無を開示せずに進めることが一般的です。

 

企業からの求人が少ないというミスマッチが存在

Neuro Diveが主に神経発達症を対象に先端ITに特化した就労移行支援事業所を作ろうと考えた理由について、大濱氏は以下のように述べています。

パーソルグループが行っている障がい者手帳を持つ方を対象とした求人・転職サービスでは、精神障がいを持つ方が大部分を占めており、それに対して企業からの求人が少ないというミスマッチが存在していました。

さらに、大学における神経発達症を持つ方への支援が不十分であることも認識されていました。このような背景から、Neuro Diveでは神経発達症を持つ方々の強みを生かせる先端IT系の仕事に特化し、就労支援を行うことが決定されました。

 

実務経験や職場での適応能力が求められる

一方で、例えば東京大学を卒業するような方でも就職できないケースがあることに関して、大濱氏は以下のように述べています。多くの場合、学歴が高いというだけで就職できるケースもありますが、その後につまずくことが多いと指摘しています。これは、学歴だけではなく、実務経験や職場での適応能力が求められるためです。

 

障がいの有無は問題にならないという考え方

パーソルダイバースは、障がい者雇用に積極的な姿勢を示しており、その現状について大濱氏は以下のように述べています。まず、従業員総数の2690人のうち、障がい者手帳を持っている社員は1873人であり、そのうち1229人が精神障がい者保健福祉手帳を持っている方です。つまり、パーソルダイバースの従業員のうち、多くが精神・発達系の障がいを持っています。

しかし、パーソルダイバースでは、障がい者枠で入社しても、現場ではそのことは一切開示されません。上司や同僚、部下も本人の診断名を知らない状況です。これは、指示が具体的であれば、障がいの有無は問題にならないという考え方に基づいています。

管理職は診断名ではなく、本人の能力や得手不得手を見極めた上で仕事を割り振ることが基本です。具体的な仕事内容としては、パーソル関連会社の経理業務や、求人サイト「doda」への求人情報の掲載などを担当しています。

 

生産管理を徹底

また、パーソルダイバースではオフィスワークの作業においても、生産管理を徹底しています。製造業で用いられる生産管理法を導入し、オフィスワークの全てを見える化することで、誰もが働きやすい環境を実現しています。

さらに、個々の従業員の体調管理や定着支援を重視し、不安や問題が発生した際には早期に対応する体制を整えています。産業医などに相談が必要になる前に、現場で問題を解決することを基本方針としています。

 

診断名を開示しないのは正しい理解を促すため

診断名を開示しないのは、悪影響を回避するためだけでなく、正しい理解を促すためでもあります。特定の疾患名に基づいたスティグマや偏見を回避し、個々の人間を見ることの重要性を強調しています。

就労移行支援事業所とは?

就労移行支援事業所は、障がいを持つ人々が社会での職業生活に適応し、自立した生活を送るための支援を提供する施設です。これらの施設では、個々の能力や興味に合わせた職業訓練や就労支援を行い、その結果として彼らが一般の職場での仕事に就くことを目指しています。

 

職業訓練プログラム

  • コミュニケーションスキルの向上: 参加者は、適切なコミュニケーションの方法や職場でのコミュニケーションスキルを習得します。これには、他の従業員とのコミュニケーションやクライアントとの対話などが含まれます。
  • 職場での振る舞いのトレーニング: 職業訓練プログラムでは、参加者が職場での適切な振る舞いや仕事の倫理観を学びます。これには、時間厳守やチームワークなどが含まれます。
  • 基本的な仕事のスキル習得: 就労移行支援事業所では、参加者が一般的な仕事に必要な基本的なスキルを習得します。これには、計算能力、コンピュータスキル、文書作成能力などが含まれます。

 

キャリアカウンセリング

  • 個別のニーズに対応した計画の策定: 参加者はキャリアカウンセラーとの個別面談を通じて、自身の能力や関心に合わせたキャリアプランを策定します。
  • 職場環境への適合性の評価: キャリアカウンセリングでは、参加者の職場環境への適合性を評価し、最適な職場や職種を見つけるための支援が行われます。

 

実地トレーニング

  • 現実の職場での体験: 参加者は、実際の職場環境で働くことを通じて、実践的なスキルを身につけます。これには、模擬店舗や実際の企業でのインターンシップなどが含まれます。
  • 実践的なフィードバック: 実地トレーニング中、参加者は実際の業務を通じてフィードバックを受け、自身の能力を向上させる機会を得ます。

 

就労支援

  • 履歴書の作成と面接の準備: 参加者は、履歴書の書き方や面接の受け方など、就職活動に必要なスキルを習得します。
  • 職場での成功のための支援: 就労支援では、参加者が職場での成功に向けて必要な支援を提供します。これには、職場でのストレス管理や問題解決スキルの向上などが含まれます。

 

コミュニティ参加の促進

  • ボランティア活動の機会: 参加者は、地域のボランティア活動に参加することで、自己表現や社会的スキルを向上させる機会を得ます。
  • 趣味グループやクラブへの参加: 就労移行支援事業所では、参加者が興味や趣味に基づいたグループやクラブに参加することを奨励し、地域社会とのつながりを強化します。

 

これらのプログラムや活動は、参加者が就労に向けて準備し、社会での自立を実現するための重要な手段となっています。

 

就労支援

■個別のニーズに合わせた支援

参加者一人一人の能力や課題に応じて、個別に支援計画が策定されます。これには、障がいの種類や程度、個々の興味や能力などが考慮されます。

必要に応じて、専門家やカウンセラーとの連携が行われ、参加者が適切な支援を受けられるようにサポートされます。

 

■就職活動の準備

履歴書の作成や面接の練習など、就職活動に必要な準備が行われます。参加者は、自己紹介や職務経歴の記載方法などを学び、自信を持って就職活動に臨むことができます。

面接のシミュレーションやロールプレイを通じて、参加者は実際の面接に備えます。フィードバックを受けながら、自己表現力やコミュニケーション能力を向上させます。

 

■職場での成功のための支援

参加者が就労後も成功するための支援が提供されます。これには、職場での適応力を高めるためのトレーニングや指導が含まれます。

職場でのストレス管理やコンフリクト解決スキルの向上など、実際の職場で必要とされるスキルを磨くためのプログラムが提供されます。

 

■長期的なキャリア支援

就労移行支援事業所は、参加者が長期的なキャリア目標を持つための支援も行います。これには、キャリアプランニングや職業トレーニングの提供が含まれます。

参加者が職場での成長や昇進を目指す場合、キャリアカウンセラーや専門家との協力によって、その目標に向けた計画や戦略が策定されます。

 

これらの支援を通じて、参加者は就職から職場での成功、さらには長期的なキャリアの構築までをサポートされます。就労移行支援事業所は、参加者が社会での自立を実現するための貴重なパートナーとなっています。

 

就労移行支援事業所の役割と重要性

就労移行支援事業所は、障がいを持つ人々が社会での職業生活に参加し、自立した生活を送ることを支援する重要な施設です。これらの事業所は、以下のような役割と重要性を果たしています。

 

  • 社会の包摂性を促進:障がいを持つ人々が、社会の一員として完全に包摂されるための架け橋として機能します。彼らが社会での生活に参加し、自立することができるよう支援します。
  • 個人の能力を最大限に発揮:参加者が自身の能力や技能を活かし、自己実現を達成し、自己満足感を得ることができるようサポートします。自信を持ち、自分の能力を信じて前進する手助けをします。
  • 意義のある仕事を提供:参加者が自分の能力を活かせる職場環境で働き、社会に貢献することができるよう支援します。意義のある仕事は、個人の自己価値感や幸福感に直結します。

 

以上のように、就労移行支援事業所は、障がいを持つ人々が社会で自立し、充実した生活を送るための重要な役割を果たしています。これらの施設は、包括的な社会の実現に向けて、社会的な偏見や障壁を克服する手助けをします。

まとめ

障がい者雇用の促進は、社会の持続可能な発展において重要な課題の一つです。Neuro Diveのような先端ITに特化した支援が、障がい者の方々に新たな可能性と希望を与えるとともに、社会全体の活力と多様性を促進する一助となることでしょう。

就労移行支援事業所は、障がいを持つ人々が社会での職業生活に適応し、自立した生活を送るための重要な支援を提供する施設です。職業訓練プログラムや就労支援、コミュニティ参加の促進など、様々なサービスを通じて参加者の成長と発展を支援し、彼らが意義のある仕事を見つけ、自己実現を果たすことを目指しています。

 

参考

今どきの障がい者雇用、就労移行支援で先端ITを学び、企業の即戦力に

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