2024.03.05

精神障がいを理由に会議の傍聴などを制限する条項「障がいを理由とした差別はあってはならない」

障がいを理由とした不当な差別的取り扱いは法律で禁止されている

市民団体の調査によると、現在、全国の自治体や公的機関が策定した条例や規則には、精神障がいを理由に会議の傍聴などを制限する条項が少なくとも333件存在しています。しかし、障がいを理由とした不当な差別的取り扱いは障がい者差別解消法で禁止されており、これに関して市民団体が指摘したことで、多くの自治体が削除に動いています。専門家は、「このような条項は基本的人権を侵害するものであり、存在するだけで『うっかりしていた』とは言えない」と指摘しています。

 

障がい者の権利や利益を侵害してはならない

2016年に施行された同法は、行政機関や事業者が、障がいを理由とした差別的な取り扱いで障がい者の権利や利益を侵害してはならないと規定しています。

浜松市に拠点を置く市民団体「心の旅の会『市民精神医療研究所』」は、2022年の6月と7月に調査を行いました。

この調査では、約1700の市町村や消防などの広域行政機関、行政委員会などの条例や規則をインターネット上で公開されている例規集を基に独自に調査しました。その結果、2022年7月末時点で会議の傍聴などを制限する条項が少なくとも460件確認されました。

 

条項の撤廃を求める

同研究所は、2022年6月から調査状況に基づき、関係省庁や条項が多かった道県などに条項の撤廃を求めました。その後、文部科学省は2023年1月に、「障がいを理由とした差別はあってはならない」という同法の趣旨に基づき、都道府県教育委員会などに条項の見直しを促す通知を発出しました。同様に、総務省も2023年9月に都道府県などに同様の通知を行いました。

 

行為を制限する条項が333件存在

その後、同研究所は2023年12月から自治体の見直し状況などを再調査しました。2024年1月31日時点でも、266の自治体と44の広域行政機関の条例や規則で、精神障がいを理由にさまざまな行為を制限する条項が333件存在していました

最初の460件のうち、約6割にあたる267件で条項が削除されていましたが、同時に新たに140件の条項が見つかったことが報告されました。

333件の内訳は、保育所などの利用制限が88件、教育委員会の会議傍聴の制限が85件、自治体などの議会傍聴の制限が43件などです。ただし、この結果は同研究所が調査できた範囲でのものであり、実際の件数とは異なる可能性があります。

 

知的障がい者の傍聴席への立ち入りを禁じていたところも

制限条項を見直した自治体の例として、北海道の秩父別町教育委員会は、傍聴人規則の条項で「知的障がいがあると認められる者」の傍聴席への立ち入りを禁じていましたが、道教育委員会の要請を受けて2023年1月に削除しました。

また、熊本県の御船町教育委員会は、傍聴人規則に「ふうてん者(精神状態が正常でない人)、精神病者と認められる者は傍聴を許さない」とする条項がありましたが、同年8月に削除しました。

 

「条項の存在に気付いていなかった」

御船町の担当者は、「見直し前は、傍聴人規則の内容を詳しく把握できていなかった」と明かしています。

長崎県の東彼杵町議会は、傍聴規則で傍聴席に入れない対象者として「精神に異常があると認められる者」を挙げていましたが、同年9月にこれを削除しました。町議会事務局の担当者は、「条項の存在に気付いていなかった。県の指摘を受けて不適切だと判断した」と説明しています。

 

「障がい者差別解消法を踏まえた対応を取っている」

警視庁の「庁舎管理規程」には、立ち入り禁止の対象として「精神障がい者、泥酔者等で、公務を妨害し、または他人に迷惑を掛けるもの」を挙げています。

警視庁は毎日新聞の取材に対し、「公務を妨害する者の立ち入りを禁止するものであり、精神障がい者であることを理由に禁止するものではない。規程の運用に当たっては、障がい者差別解消法を踏まえた対応を取っている」と説明しています。

 

大きな人権問題

元静岡県保健所職員で同研究所事務局の寺沢暢紘(のぶひろ)さん(78)は、「制限条項が多く残っているのは、精神障がい者への無理解や無関心が長きにわたって存在していることの表れだ。大きな人権問題として捉えるべきだ」と指摘しています。

 

「基本的人権の侵害」と指摘

精神障がい者の差別問題に詳しい八尋光秀弁護士(福岡県弁護士会)も、ハンセン病の元患者らが国の強制隔離政策で人権を侵害されたと訴えた国家賠償請求訴訟の原告弁護団共同代表として、「議会を傍聴させないのは主権者として認めない、教育委員会を傍聴させないのは公教育に関与させないということであり、基本的人権の侵害だ」と述べています。

彼はまた、ハンセン病患者らと同様に、強制入院制度などで精神障がいがある人を隔離してきた国の政策が、こうした差別や偏見の根底にあると指摘しました。

そして、制限条項が残ってきたのは「うっかりしていた」では済まされないと述べ、精神障がい者の存在や当事者の悲しみに社会が目を向けてこなかった結果だと強く訴えました。

 

障がい者差別解消法によって厳しく禁止されている

精神障がいを理由にした不当な差別的取り扱いは、障がい者差別解消法によって厳しく禁止されています。

この法律は、障がいを持つ個人が平等な権利を享受し、社会参加を実現するために制定されました。精神障がい者に対する差別や偏見は、法的に容認されることはありません。

行政機関や自治体が策定した条例や規則においても、この法律に沿った運用が求められています。精神障がい者の権利を保護し、社会の包摂性を高めるために、法の遵守が重要です。

社会的偏見や不平等を解消することが目的

障がい者差別解消法は、精神障がい者に対する差別的な取り扱いを根絶し、社会的偏見や不平等を解消することを目的としています。

この法律の下、精神障がい者は、自己決定権や尊厳を尊重される権利を有します。彼らもまた、他の市民と同じように、自由に生活し、仕事を持ち、教育を受け、社会的なイベントや活動に参加する権利を持っています。

 

健全な社会

この法律の遵守は、社会全体の包括性と公正性を高めることにつながります。精神障がい者の権利を尊重し、彼らが社会で自己実現する機会を提供することで、より包括的で健全な社会を築くことができます。

また、法の適切な運用は、精神障がい者とその家族や支援者にとっても信頼感を生み出し、より良い生活環境を提供することに役立ちます。

 

差別なく暮らせる社会

この法律のもとでは、精神障がいを持つ個人も他の市民と同様に様々な権利を持ちます。例えば、公共の場や施設へのアクセス、労働や教育、医療の利用などが含まれます。

精神障がいを理由にこれらの権利が制限されることは許されません。このような措置は、個人の尊厳を傷つけ、社会的包摂を阻害するものとして法律で明確に禁止されています。

 

適切な支援

障がい者にはニーズや能力に応じた支援が必要です。例えば、公共交通機関や施設が彼らの身体的なアクセシビリティを確保すること、労働場所での適切な支援を提供することが重要です。

また、教育機関や医療機関が適切なサポートを提供し、精神障がいを持つ個人が最大限の自己実現を果たすことを支援する必要があります。

 

社会全体の発展

このような取り組みは、社会全体の発展に貢献します。精神障がい者が十分なサポートを受け、社会で自立し、自己決定権を行使することができるようになれば、彼らの能力や才能が社会に貢献する機会が増えます。

 

社会全体の責任

障がい者差別解消法の下、障がい者の権利を保護し、自己実現を果たすための環境を整えることは、社会全体の責任です。

我々は人権と尊厳を尊重し、包括的かつ公正な社会を築くために、積極的な支援と取り組みを継続していく必要があります。

 

行政機関や自治体は積極的な取り組み

障がい者差別解消法の下、精神障がい者に対する不当な差別を排除するために、行政機関や自治体は積極的な取り組みを行っています。

これらの取り組みは、社会全体の健全な発展に貢献します。精神障がい者が適切な支援を受け、社会で自立し、自己決定権を行使することができるようになれば、彼らの能力や才能が社会に貢献する機会が増えます。

例えば、彼らが適切な教育や訓練を受けて職場で活躍したり、自己表現を行ったりすることで、新たなアイデアや視点をもたらし、社会のイノベーションや進化に寄与します。

 

社会の多様性を豊かにする

障がい者が社会に参加することで、社会はより多様で豊かなものになります。

彼らの経験や視点は、社会の多様性を豊かにし、異なる背景や価値観を持つ人々が協力して共通の目標に向かって進むことを可能にします。これにより、社会全体の結束力が高まり、共生社会の実現に向けた努力が促進されます。

 

社会全体の意識改革と支援体制の整備が必要

このようなポジティブな変化を実現するには、社会全体の意識改革と支援体制の整備が必要です。障がい者が自らの能力を最大限に発揮し、社会で充実した生活を送るためには、バリアの排除やアクセスの改善、偏見や差別に対する教育が不可欠です。

また、雇用や教育、医療などの分野において、障がい者に対する差別を防止し、彼らが活躍できる環境を整えるための具体的な政策やプログラムの実施が求められます。

これらの努力が実り、精神障がい者が自己実現し、社会に貢献する機会が増えれば、社会全体がより包括的で公正なものになることでしょう。

そのためには、私たち一人ひとりが精神障がい者の権利を尊重し、彼らと共に支援し合う社会の実現に向けて、積極的に取り組む必要があります。

まとめ

障がい者差別解消法の下、精神障がい者の権利を保護し、彼らが自己実現を果たすための環境を整えることは、社会全体の責任です。我々は、彼らの人権と尊厳を尊重し、包括的かつ公正な社会を築くために、積極的な支援と取り組みを継続していく必要があります。そのためには、法的な枠組みの整備だけでなく、意識の啓発や教育の充実も欠かせません。彼らが社会の一員として尊重され、活躍できるような環境が整備されることで、社会全体が豊かになります。

 

参考

精神障がい理由に会議傍聴など禁止、全国で333件 条例見直されず(毎日新聞)Yahooニュース

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