2024.03.22

障がいのある子どもと被災 母親の体験談

せんだいメディアテークの「3がつ11にちをわすれないためにセンター」(通称、わすれン!)のサイトでは、東日本大震災の体験談が母親たちの声で公開されています。

知的障がいや発達障がいのある子を抱える母親たちのリアルな日常が、一つ一つの音声に込められています。

このプロジェクトの中心人物である一人の女性は、2023年から仲間を訪ね録音し、その貴重な記録を集めました。彼女たちは、本音を共有することで、理解者が増えることを願っています。

 

配給場所での列に並ぶことが難しい

震災当日、仙台市内陸部に住む橋本武美さんの家では、断水の影響で生活が厳しくなりました。彼女の一人息子である祐哉さんは、知的障がいを伴う自閉症スペクトラム障がい(ASD)を抱えており、日常生活において様々な困難を抱えています。配給場所での列に並ぶことが難しく、ストレスの中で彼は表情を失いつつありました。

 

安心して過ごせる社会を実現するために

橋本さんは、街を歩き回りながら食料や飲み水を確保しようとしましたが、開いている店がなく、ますます困難な状況に直面しました。そんな中でも、彼女は自分たちよりもっと大変な状況にある人々がいることを思い出し、その苦しみを心に押し込めました。

そして、障がいを抱える人々が安心して過ごせる社会を実現するためには、どうすれば良いのかという問いを抱えています。

 

個々の体験を通して共感や理解を深める場

「わすれン!」は2011年5月に開設され、地域の出来事を市民自らが記録し、整理する「コミュニティー・アーカイブ」の試みを担っています。このプロジェクトは、地域の声を集めるだけでなく、個々の体験を通して共感や理解を深める場としても機能しています。これまでに9万5千件以上のデータが集められ、その数は日々増加しています。

 

震災体験を語る「録音小屋」

橋本さんが「わすれン!」を訪れたのは、2023年5月。子育てが落ち着いたタイミングであり、知人の誘いもあって、震災体験を語る「録音小屋」を利用しました。

そこでの体験共有は、彼女自身の心の整理にも役立ちました。自らの思いを語ることで、他の人に何かを伝えられるかもしれないという希望を抱きました。

実際の体験が多く語られる

彼女は「他の家族にも、まだ言葉にできていないことがあるのでは」と考え、スタッフからのアドバイスを受け、翌月からは他の家族の体験を収集し始めました。

最初はためらっていた親たちも、彼らの心の奥に秘められたストーリーが語られるにつれて、話し始めると止まらなくなりました。

「大声や自傷行為をしてしまうのが目に見えたので、避難所には絶対行きたくなかった」「学校が再開せず子どもがパニックになった」といった実際の体験が、彼らの口から語られました。

 

被災地の人々にとって希望になる

子どもの学校の先生が、炊き出しを家まで届けてくれた体験談には、多くの人が共感することでしょう。身近なところに動いてくれる人がいることを知ることは、被災地の人々にとって希望となります。そして、能登半島地震の被災者にも、「困り事は素直に発信してもいいよ」というメッセージが届けられることでしょう。

「わすれン!」サイトでは、「3.11あのときのホント」と題し、自身を含む体験談が公開されています。この貴重な記録を活用し、4月21日までの期間中、メディアテークで文章と合わせた展示が行われます。これにより、震災の記憶を風化させず、後世に伝える貴重な機会となります。

 

「これまで表に出てこなかった声がたくさんある」

スタッフは、「障がいのある人の親が自らコミュニティーの中で記録し、これまで表に出てこなかった声がたくさんある」と語っています。彼らの声は、単なる記録以上の意味を持ち、社会における理解と支援の向上につながることでしょう。

橋本さんも、自らの歩みを止めず、沿岸部の被災地でも親の声を集めることを考えています。彼らの声が広く届き、より多くの支援や理解が得られることを願っています。

 

障がいを持つ人々はより脆弱な立場に

震災が発生すると、障がいを持つ人々はより脆弱な立場に置かれます。災害時には、彼らが適切な支援を受けられず、安全な避難や生活が困難になることがあります。こうした問題を考慮し、障がい者についての災害対策が必要です。

まず、障がい者が災害時に直面する主な課題について考えてみましょう。身体的な制約や移動の困難さから、適切な避難場所への移動が困難であることが挙げられます。

また、情報へのアクセス困難やコミュニケーションの障がいにより、避難所での生活が困難になることもあります。さらに、医療や介護の必要性が高まることで、適切な医療や介護が確保されない場合もあります。

 

災害時に避難することが困難な理由

障がいを抱えた人々が災害時に避難することが困難な理由には、さまざまな要因があります。これらの理由を以下のようにまとめることができます。

 

  • 避難情報へのアクセス困難

障がいを持つ人々の中には、情報にアクセスする能力が制限されている場合があります。災害時に避難勧告や安全情報を得ることが難しいため、適切な行動をとることができないことがあります。

 

  • 移動や避難所へのアクセス困難

車椅子を使用している人や移動に支援を必要とする人々は、避難所や避難施設への移動が困難です。また、避難所や施設がバリアフリーでない場合、彼らの利用が制限される可能性があります。

 

  • 必要な医療・介護の提供が困難

障がいを持つ人々は、日常的に医療や介護の支援を必要とすることがあります。災害時には、このような支援を提供することが難しくなるため、彼らの健康や安全が脅かされる可能性があります。

 

  • コミュニケーションの困難

聴覚障がいや言語障がいを持つ人々は、災害時に適切なコミュニケーション手段が提供されない場合、情報を受け取ることができません。適切な情報伝達がなされないと、避難行動の遅れや誤解が生じる可能性があります。

 

  • 感覚過敏や不安の増大

自閉症スペクトラム障がい(ASD)などの障がいを持つ人々は、環境の変化や刺激に対して感覚過敏になることがあります。災害時には、騒音や混乱が増大し、彼らの不安やストレスがさらに高まる可能性があります。

 

以上の理由から、障がいを持つ人々が災害時に適切な避難行動を取ることが難しい場合があります。社会全体がバリアフリーな環境を整備し、彼らの安全と福祉を確保するための対策が必要です。

 

適切な支援が必要

課題に対処するためには、災害対策において障がい者のニーズを十分に考慮し、適切な支援が提供される必要があります。具体的な対策としては、以下のようなものが挙げられます。

 

  • 情報のアクセシビリティ向上

障がいを持つ人々が適切な情報を得られるように、情報提供のアクセシビリティを向上させる必要があります。例えば、点字や音声案内、手話通訳などの方法を活用して、情報の多様性を確保し、すべての人が適切な情報を受け取れるようにします。

 

  • バリアフリーな避難施設の整備

車椅子や杖を使用する人々が容易に移動できるよう、避難施設や避難所のバリアフリー化を推進します。段差のないアクセスや手すりの設置、避難施設内での車椅子の利用可能性などが考慮されます。

 

  • 医療・介護の提供

障がいを持つ人々が避難施設で必要な医療や介護を受けられるよう、専門の医療スタッフや介護士の配置を確保します。また、必要な医療機器や薬品の供給も適切に行います。

 

  • コミュニケーション支援の提供

聴覚障がいや言語障がいを持つ人々が適切なコミュニケーションを図れるよう、手話通訳やコミュニケーションボードなどの支援を提供します。情報共有や避難指示の理解に役立ちます。

 

  • 感覚過敏への配慮

自閉症スペクトラム障がい(ASD)など感覚過敏を持つ人々に対して、避難施設での騒音や混乱を最小限に抑える工夫が必要です。静かなスペースやリラックスできる環境を提供し、彼らのストレスを軽減します。

 

以上の対策を総合的に実施することで、障がいを持つ人々も安全かつ円滑に避難できる環境が整備されます。社会全体が協力し、バリアフリーな災害対策を推進することが重要です。

 

災害時に安全に避難するために

障がいを持つ人々が災害時に安全に避難できるようにするためには、周囲の人々も以下のような行動を心掛けることが重要です。

 

  • 理解と支援の提供

障がいを持つ人々が避難時に支援を必要としていることを理解し、その人々に対して積極的な支援を提供します。避難計画や緊急対策の策定に際して、彼らのニーズや要望を十分に考慮しましょう。

 

  • 情報提供とコミュニケーション

避難時には、障がいを持つ人々に対して適切な情報提供を行い、コミュニケーションを円滑にします。簡潔で明確な指示や案内を提供し、理解しやすい方法でコミュニケーションを取りましょう。

 

  • 協力と連携

障がいを持つ人々とそのサポーター、地域のボランティアや救援組織など、関係者と協力して行動しましょう。避難施設や避難所での支援や介護に参加し、彼らの安全と福祉を確保します。

 

  • バリアフリーな環境の提供

障がいを持つ人々が安全に避難できるよう、避難施設や避難所のバリアフリー化を推進します。段差のないアクセスや必要な設備の提供など、彼らの移動や生活を支援する環境を整えましょう。

 

  • 思いやりと配慮

障がいを持つ人々のニーズや感情に対して思いやりを持ち、配慮を示します。彼らの状況やストレスに理解を示し、可能な限り快適な環境を提供することが大切です。

 

周囲の人々がこれらの行動を取ることで、障がいを持つ人々も安心して避難できる環境が整います。協力と配慮が災害時における共助の基盤となり、地域全体の安全と福祉を確保することにつながります。

 

具体的な施策が生まれる

震災時に障がい者が直面する困難やニーズは、社会がより包括的な対策を講じる必要性を示唆しています。彼らの声を忘れずに生かすことは、災害対策の改善や社会の包摂性を高める重要な一歩です。

障がい者が遭遇する困難を理解し、その声を取り入れることで、避難所や避難施設のバリアフリー化、情報のアクセシビリティ向上、医療・介護の提供、コミュニケーション支援などの具体的な施策が生まれます。

まとめ

彼らの経験やニーズを踏まえた災害対策は、全体の安全確保に資するだけでなく、社会の包摂性や共感力を高め、より強固な共同体を築くことにつながります。障がい者の声を取り入れることで、誰もが安全で安心して避難できる社会を目指すために、その重要性を再認識することが不可欠です。

また、災害時に障がい者が安全に避難できるようには、バリアフリーな施設の整備や情報提供のアクセシビリティ向上が必要です。医療や介護の確保、コミュニケーション支援の提供も重要です。地域全体が協力し、障がい者のニーズを十分に考慮することが、災害時の安全確保に繋がります。

 

参考

障がいのある子と震災体験 母親の体験談、音声で公開 - 日本経済新聞

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