2024.04.12

過去から現代への障がい観の変遷:高齢化社会とICT Part3

近年、社会は急速な変化を遂げており、その中でも特に少子高齢化がもたらす影響と、それに対するICTの役割が焦点となっています。

高齢者や障がい者を含めた多様な社会的ニーズに対応するためには、包摂的なアプローチと最新の技術の活用が不可欠です。本稿では、『厚生労働白書』や研究プロジェクトの報告書を通じて、障がい者を取り巻く社会の変化を俯瞰し、これからの方向性について探求していきます。

 

障がい者の共生社会への取り組み

社会の変化に対する対応として、障がい者の共生社会への取り組みが重要です。特に、少子高齢化がもたらす影響と、それに対するICTの役割が焦点となります。『厚生労働白書』などを参考に、障がい者を取り巻く社会の変化を俯瞰し、今後の方向性についての研究プロジェクトの報告書も概説します。この学びは知識だけではなく、一緒に考える姿勢が重要です。

2011年版の『厚生労働白書』では、少子高齢化や経済のグローバル化、デフレの進行といった社会変化の現状と課題について概観しています。また、2015年版では、人口減少社会を考える特集が組まれ、障がい者施策の節目もまとめられています。2012年に成立し、2013年から施行された障がい者総合支援法など、地域社会における共生の実現に向けた法整備が進んでいます。

 

「2040年の社会保障のあり方を検討する」

2017年版の『厚生労働白書』では、「社会保障と経済成長」が特集され、2018年版では「障がいや病気などと向き合い、全ての人が活躍できる社会に」が続きます。そして、2019年11月には森田朗津田塾大学総合政策学部教授らによる研究プロジェクトの報告書が、「2040年の社会保障のあり方を検討する」として、21世紀政策研究所から発表されました。これらの白書や研究報告書を参考にしつつ、障がい者を取り巻く社会の変化と今後の対応について、より広範囲に検討していきます。

 

少子高齢化の問題

少子高齢化の問題は、将来的に深刻化する可能性があります。人口減少がその中でも大きな懸念材料です。高齢者が増える一方で、少子化が進むことで、国全体の人口が減少していくからです。

2018年、日本の総人口は1億2,644万人です。年齢層別に見ると、0歳から14歳までの年少人口が約1,542万人、生産年齢人口である15歳から64歳までが約7,545万人、65歳以上の高齢者人口が3,558万人となっています。

この構成からも、高齢者の割合が増えていることがわかります。一方で、『厚生労働白書』によると、障がい者の総数は推計で963.5万人で、人口の約7.6%に相当します。そのうち、身体障がい者が436万人、知的障がい者が108.2万人、精神障がい者が419.3万人となっています。そして、ほとんどの障がい者が在宅で生活しています。

 

「合計特殊出生率」

人口の減少に関して、2017年の出生数は94万6,065人で、前年と比べて減少しています。この数字は、1899年の統計開始以来初めて100万人を割ったことを示しており、国や自治体の行政関係者に大きな衝撃を与えました。

2019年には、出生数がさらに減少し、86万4千人となり、前年比で5.92%も減少しました。このような減少傾向は、合計特殊出生率が1.43という低水準で続いており、少子化の深刻さを示しています。

「合計特殊出生率」には、実際の出生状況を反映する「期間合計特殊出生率」と「コーホート合計特殊出生率」という2つの概念があります。まず、「期間合計特殊出生率」は、ある1年間の出生状況における各年齢(15~49歳)の女性の出生率を合計したものです。

これは、特定の年齢の女性が一生の間に産む子供の数を予測するのではなく、ある時点での出生率を統計的に集計したものです。一方、「コーホート合計特殊出生率」は、ある世代の女性が、それぞれの年齢で産んだ子供の数を過去から積み上げたものです。つまり、特定の世代の女性が産んだ子供の数を合計したもので、その世代の出生状況を反映します。

しかし、各世代の結婚や出産の時期の違いなどから、各年齢の出生率が異なるため、期間合計特殊出生率とコーホート合計特殊出生率の値は異なる場合があります。

 

経済にとって多くの問題を引き起こす可能性

人口減少と高齢化は、経済にとって多くの問題を引き起こす可能性があります。まず、労働力人口の減少が経済規模に直接的な影響を与えます。都市部では外国人労働者や高齢者のアルバイトが増加し、地方では高齢者の販売員やアルバイトが増えています。

このような労働力の減少は、企業の業績やサービスの提供に影響を与え、一部の店舗は閉店する事態も起こり得ます。

また、人口減少は消費の低下をもたらし、それに伴って生産も減少します。このため国内市場が縮小し、企業の投資先としての魅力が低下します。

さらに、実質賃金の上昇が抑えられ、労働力不足を補うためのワークライフバランスの改善も見込めません。これらの要因が、少子化の悪循環を加速させる可能性があります。

 

需要面と供給面の両方で経済に負荷

人口減少と高齢化は、需要面と供給面の両方で経済に負荷をかけます。労働力の減少や消費の低下などが経済に悪影響を及ぼし、これらが相乗効果を生んでマイナスの循環を加速させることが懸念されます。

経済規模の縮小が始まると、それが更なる縮小を招く「縮小スパイラル」に陥る可能性があります。このスパイラルが強く作用すると、国民負担の増大が経済成長を上回り、1人当たりの実質消費水準が低下し、国民の豊かさが減少する恐れがあります。

 

基礎自治体の担い手の減少や社会保障制度と財政などにも及ぶ

内閣府経済財政諮問会議の資料によると、人口急減・超高齢化が経済社会に及ぼす影響は、経済規模の縮小だけでなく、基礎自治体の担い手の減少や社会保障制度と財政の持続可能性などにも及ぶと指摘されています。

地方の人口動向を見ると、1980年に比べて人口1,000人当たりの出生数が急速に低下しています。また、地方から大都市圏への人口移動が進んでいるため、2040年には20~30代の女性人口が対2010年比で5割以上減少する自治体が多数存在する見込みです。

さらに、2040年には1万人未満の地方自治体が523市町村あり、全体の約3割に上ると推計されています。このような状況では、地方圏での行政機能の維持が困難になる可能性が高まります。

 

首都圏でも人口減少と高齢化が進行することが予想される

大都市圏、特に東京圏においても人口減少と高齢化が進行することが予想されています。2010年の総人口が3,562万人であったものが、2040年には3,231万人まで減少する見込みであり、高齢化率も上昇すると推計されています。これは、東京圏でも超高齢化が進む可能性があることを示唆しています。

超高齢化が進行すると、グローバル都市としての活力が低下し、高齢者が医療や介護を受けられない状況が生じる可能性があります。

 

社会保障制度と財政の持続可能性についても懸念

一方で、社会保障制度と財政の持続可能性についても懸念があります。現役世代が高齢者を支えるための人数が減少し、高齢者1人に対して現役世代が支える人数が少なくなっています。この状況が続くと、高齢者福祉や障がい者福祉などにかかる費用が増加し、給付と負担の間にアンバランスが生じる可能性があります。

さらに、家計や企業の貯蓄が減少し、財政赤字が拡大することで、経常収支の構造的な縮小が起こり、国債の依存度が高まるおそれがあります。これにより、利払い費の増加や国際金融市場のショックへの脆弱性が高まる可能性があります。したがって、国の財政健全化の取り組みが重要であり、着実に実行されなければ財政破綻リスクが高まることが懸念されます。

 

高い水準に達することが予想

高齢化率の推移を示した2018年度の『高齢者白書』によれば、将来の高齢化率は推計によって異なりますが、いずれにしても高い水準に達することが予想されています。このような社会の変化に対しては、悲観的な未来像が浮かび上がるかもしれませんが、実際に政府は相互に支え合う社会を目指した持続可能な社会の構築に取り組んでいます。

2017年度の『厚生労働行政年次報告』によると、障がい者や難病患者、がん患者などに対しても、法律の制定や制度の改正を通じて、一億総活躍社会の実現に向けて積極的な取り組みが行われています。

障がい者雇用や治療と仕事の両立支援などに関する現状と課題が整理され、国民の自立支援に関する意識の調査も実施されました。さらに、企業や支援団体の取り組みも調査され、多くの人に参考となる情報が公開されています。

 

社会福祉の方向性

これらの取り組みを通じて、包摂と多様性がもたらす持続的な社会の実現に向けて、社会福祉の方向性が示されています。

『厚生労働白書』に掲載された図は、市町村を単位とした住民主体の問題解決力や包括的な相談体制を示しています。住民が主体となってさまざまな問題を解決する仕組みをイメージしており、包括的な相談体制の構築を目指しています。

 

情報技術や情報通信技術の発展

近年、情報技術や情報通信技術の発展がめざましく進んでいます。例えば、パソコンや携帯電話などの普及が身近なところで大きな変化をもたらしています。情報通信技術の革新により、高速で大量の情報をやりとりすることが可能になり、人と人のコミュニケーションがコンピュータを介して行われるようになりました。

この半世紀にわたる情報通信技術の革新は、社会全体に大きな影響を与えています。個人的な経験として、1970年代後半に秋葉原で初めてパソコンと出会った際には、カラーの絵が画面に表示されることなど想像もしていませんでした。

しかし、1980年前半にはマイコンと呼ばれるパソコンが発売され、その後のカラー表示の普及や精度の向上により、今日の技術の進化が実現しました。

音や映像表現の進化から始まった

情報技術や情報通信技術の発展は、音や映像表現の進化から始まりました。短音のビープ音から複数の音に、音源もPSGから矩形波、FM音源、PCM音源へと進化しました。また、パソコン自体でも動画表現が可能になり、他の情報機器とのデータ連携も進みました。

この技術の進歩は、コンピュータゲームの開発と発展に大きく貢献しました。1990年代前半まで個人で使用されていたコンピュータは、やがてインターネット接続やラップトップの普及により、コンピュータネットワークの時代へと進化していきました。

 

情報通信技術の進歩

情報通信技術の進歩は、仕事のやり方や内容を変えるだけでなく、在宅勤務や就労の可能性を広げるなど、社会に大きな影響を与えました。

また、電話も進化し、自動車電話や携帯電話が普及し始め、携帯電話は現代の主要なコンピュータ端末として使われるようになりました。同様に、ブレットも普及し、日常的な活動をより便利にする役割を果たしています。

まとめ

高齢化が進む現代社会において、ICTの役割はますます重要性を増しています。これまでの社会の変化や障がい者を取り巻く状況を俯瞰し、情報技術の進化が障がい者の共生社会への取り組みに与える影響を検討してきました。

これからも、包括的なアプローチと技術革新が、障がい者支援や高齢化社会への対応をさらに進化させるでしょう。共生社会の実現に向けて、私たちは知識と共に、柔軟性と共感の精神を持ち続ける必要があります。

 

参考

障がいの理解:アシスティブテクノロジー・アドバイザー育成研修用テキスト

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