2024.03.07

目が見えなくてもスマホを使えるように 障がい者サポートセンター開設

山口県内では、障がい者向けのスマートフォンやその他のICT(情報通信技術)機器の活用支援が始まっています。県は2023年に、利活用拡大を目的として「障がい者ICTサポートセンター」を山口市と下関市に開設しました。しかし、開設と同時に、サポートする人材の不足など、さまざまな課題が浮き彫りになっています。

 

iPhoneの画面読み上げ機能「ボイスオーバー」

2月6日、下関市関西町の県盲人福祉協会では、スマートフォン講座が開催されました。この講座は、視覚に障がいのある方々がスマートフォンを使いこなせるように企画されたもので、全盲や弱視などの障がいを持つ約20人が参加しました。

スマートフォンには通常の携帯電話とは異なり、物理的なボタンがないため、基本的に音声を頼りに操作する必要があります。この講座では、iPhoneの画面読み上げ機能である「ボイスオーバー」が使われました。

ボイスオーバーを使うことで、指一本から数本で画面をスライドしたり、タップしたりすることで、アプリ名や入力項目、文章などが読み上げられます。

 

丁寧に指導

この日の講座では、電話帳の登録が行われました。参加者の一人は、名前の登録で「姓」と「名」を分けて登録するのに苦戦していました。講師である木村恭子さん(71歳)は、一人一人の様子を見ながら丁寧に指導しました。「タップすれば名前を入力する項目が出てきます」という木村さんの声が、参加者たちに安心感を与えました。

 

「挑戦しなければ何も変わりません」

市内の田中宏さん(64歳)は、10年前に病気で全盲になりましたが、1年前からスマートフォン講座に通っています。「スマートフォンはまだ慣れないし、使いにくいですが、取り残されないためにも使えるようになりたいと思っています。挑戦しなければ、何も変わりません」と、田中さんは前向きな姿勢を示しています。

 

他市の視覚障がい者からも参加したいという要望

スマホ講座は、NPO法人「下関市視覚障がい者福祉会」が主催し、2010年4月から本格的に開始され、現在は月2回のペースで開催されています。他市の視覚障がい者からも参加したいという要望があり、2023年度には山口市や周南市、宇部市などでも出張教室として開催されました。講師の木村さんや副講師がその都度、会場に出向いて指導を行っています。

「できるようになりたい人の背中を押したい」

30年以上にわたり、点訳のボランティアなどを続けてきた木村さんは、独学でボイスオーバーを学びました。「視覚に障がいを持っていても、自分一人でスマホを使い、オンライン手続きなどができるようになりたい人もいます。そういった方々を支援することで、彼らの背中を押したい」と木村さんは述べています。

 

全国34都道府県に設置

ICTサポートセンターは、厚生労働省が2019年度から推進している取り組みで、2023年時点で全国34都道府県に設置され、社会全体での取り組みが進んでいます。

県内には、2カ所のサポートセンターが開設されています。下関市にある県盲人福祉協会は視覚障がい者を対象とし、山口市にある県障がい者社会参加推進センターはその他の障がい者を対象としています。どちらのセンターも、電話やメール、対面などで相談に応じています。また、4月からは県盲人福祉協会がスマホ講座を主催し、岩国市や萩市でも開催する予定です。

 

サポートセンターの周知が不足、指導者の人材不足

一方で、サポートセンターの周知が不足していることや、指導者の人材不足が課題となっています。県盲人福祉協会の担当者は、「各地で身近な場所での学びを求める声が上がっています。地元での学びの場を整えるには、指導者が必要です」と述べています。

 

知的障がいや発達障がいを持つ人も参加

推進センターでは、4月3日にICT教室とサポート講習会を開催する予定です。木村さんが講師を務め、知的障がいや発達障がいを持つ人も参加します。担当者は、「障がい者のニーズを把握し、今後のサポート人材を確保するために、この取り組みを進めていきたい」と期待を寄せています。

視覚障がいの種類とその特徴

視覚障がいは、視覚機能の一部または全部が損なわれる状態を指します。種類や原因によって治療法や対策は異なりますが、それぞれの状況に適したアプローチが必要です。

 

全盲:全く視力がない状態。

特徴:光の有無や物体の存在を認識できない。視覚情報に頼らず、音声や触覚などの感覚を重点的に利用する。

治療法:視力を回復させる手術などは通常適用されず、リハビリテーションや生活支援が中心となる。

 

弱視:視力が低下しているが、光や物体の存在を感じることができる状態。

特徴:視力が低下しているため、物体や文字を見るのが難しい場合がある。照明や拡大鏡などの視力補助具が有効な場合がある。

治療法:視力補助具の使用やリハビリテーションにより、生活の質を向上させることが可能。

 

色覚異常:特定の色を正確に区別できない状態。

特徴:色の区別が困難であり、特に赤や緑の色の違いがわかりにくい場合が多い。視覚情報以外の手段で色を判別する必要がある。

治療法:色覚訓練や特殊なメガネなどを使用して、色の違いを理解する訓練が行われる。

 

視野狭窄:周囲の景色や物体を一部しか見ることができない状態。

特徴:周囲の景色や物体の一部しか見ることができないため、安全な移動や活動が制限される場合がある。周囲を十分に確認するために、頭を動かしたり、周囲をよく観察したりする必要がある。

治療法:視野拡大装置や訓練を通じて、視野を広げることが試みられる。

 

各種の視覚障がいは、個々の状況に応じた適切な支援や治療が必要です。医療機関や専門家との連携を通じて、適切なケアプランが立てられることが重要です。

 

視覚障がいの治療法

視覚障がいの治療法は手術、視力補助具、リハビリテーションに分けることができます。詳しく見ていきましょう。

 

手術

  • 白内障手術

視覚障がいの主要な原因の一つである白内障の手術があります。白内障は水晶体が濁り、視界をぼやけさせる状態です。手術によって濁った水晶体を取り除き、人工のレンズを挿入することで視力を回復させることができます。

 

  • 網膜剥離手術

網膜が剥がれることで視覚障がいが引き起こされる場合があります。網膜剥離手術では、網膜を元の位置に修復するために手術が行われます。しかし、全ての視覚障がいに適用できるわけではありません。

 

視力補助具

  • 眼鏡とコンタクトレンズ

眼鏡やコンタクトレンズは、屈折矯正や焦点調整によって視力を改善するために使われます。特に遠視、近視、乱視などの屈折異常に対して効果的です。

 

  • 拡大鏡

視覚障がい者が小さな文字や詳細な物体を見るのを助けるために使用されます。本や新聞、写真など、日常生活での活動をサポートするのに役立ちます。

 

リハビリテーション

  • 視覚訓練

視覚障がい者が残っている視力を最大限に活用し、日常生活での活動を行うための訓練が行われます。物体の位置や距離の感覚を改善するための演習や、視覚情報を代替する技術の習得が含まれます。

 

  • オリエンテーションと移動訓練

視覚障がい者が独立して安全に移動し、日常生活での活動を行うための技術や戦略を学びます。これには、盲導犬の訓練や白杖の適切な使用方法の指導が含まれます。

 

これらの治療法や支援策は、視覚障がい者がより自立した生活を送るのに役立ちます。個々の状況やニーズに合わせて、専門家が適切な治療プランを立てることが重要です。

 

視覚障がいへの対策

視覚障がい者への社会からの支援として、以下のものが挙げられます。これは障がいを理解し、障がい者が安心して生活するうえで欠かせない支援になります。

 

バリアフリー環境

  • 建築物の設計

視覚障がい者が安全に移動できるよう、段差のない設計や手すりの設置、滑り止めの床などが考慮されます。

 

  • 点字ブロック

視覚障がい者が歩行者通路や交差点などを安全に移動するための情報提供に利用されます。

 

  • 音声案内

エレベーターや駅、空港などの公共施設では、音声案内装置が設置され、視覚障がい者が目的地まで案内されます。

 

情報提供

  • ブラインドライト

文字や画像を凸凹の点字で表示する装置で、視覚障がい者が情報を得るために使用されます。公共施設や交通機関の案内や、店舗のメニューなどに利用されています。

 

  • 音声案内

駅やバス停、地下鉄などで、視覚障がい者向けの音声案内が提供されています。目的地までの経路や乗り換え案内などが案内され、移動の障がいを軽減します。

 

  • 教育と訓練

点字・音声読み上げの訓練: 視覚障がい者向けの教育プログラムでは、点字や音声読み上げなどの技術が教えられます。これにより、情報へのアクセスやコミュニケーション能力が向上します。

 

  • O&M(Orientation and Mobility)訓練

オリエンテーションと移動訓練は、視覚障がい者が自立した生活を送るために必要な技術を習得するプログラムです。盲導犬の使用方法や白杖の適切な使い方などが学べます。

 

連携して最適な対策を見つけることが大切

これらの対策は、視覚障がい者が社会参加し、自立した生活を送るために不可欠です。包括的かつ効果的な支援が提供されることで、視覚障がい者の生活の質が向上し、社会全体がより包括的なものになります。

視覚障がいは個々の状況によって異なるため、包括的かつ個別化されたケアが重要です。医療・社会支援機関との協力や、視覚障がい者とその支援者が連携して、最適な対策を見出していくことが求められます。

 

まとめ

視覚障がい者の支援には、バリアフリー環境の整備、情報提供の充実、教育・訓練の提供が欠かせません。点字ブロックや音声案内などのインフラ整備は、安全な移動を支援し、社会参加を促進します。

また、点字や音声読み上げの訓練、O&M訓練などの教育プログラムは、自立した生活を実現するための重要なスキルを提供します。

これらの取り組みは、視覚障がい者が社会との壁を乗り越え、豊かな生活を送るための基盤を築く上で欠かせないものです。ぜひこのような活動を全国で実施していただきたいと思います。

 

参考

目が見えずともスマホを 障がい者サポートセンター、開設も人不足(毎日新聞)Yahooニュース

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