視覚障がい者のために特化した展示会「サイトワールド」主催者「一般の人にもぜひ来場してほしい」
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テクノロジーの進化が視覚障がい者の生活にもたらす変化に注目が集まる中、視覚障がい者向けの革新的な機器や技術が一堂に会する総合イベント、「サイトワールド」が注目を浴びています。
このイベントは、視覚障がい者の生活を便利にする最新の機器の展示だけでなく、講演会やシンポジウムなども開催し、情報交換と共に社会の理解を深める場としての役割を果たしています。
「日本にも視覚障がい者向けのイベントを」
実行委員長で、ご自身も視覚障がい者である荒川明宏氏によれば、「サイトワールド」の開催は、福祉機器の開発を行うケージーエス株式会社の榑松氏の提案から始まりました。
榑松氏の「日本にも視覚障がい者向けのイベントを」という熱意に応え、荒川氏を含む運営メンバーが協力し、2006年に第1回が開催されました。
その後、榑松氏から引き継いだ荒川氏は、2016年から実行委員長を務め、イベントの継続と拡大に努めています。
情報格差や経済的な問題にも焦点を当てる
「サイトワールド」は、視覚障がい者の生活に貢献する技術と共に、情報格差や経済的な問題にも焦点を当てています。
視覚障がい者の生活が便利になる一方で、情報へのアクセスや経済的な余裕に関する課題が依然として存在しています。例えば、新しいテクノロジーが登場すると、その価格が高いために多くの視覚障がい者がそれにアクセスできないという問題があります。
このような課題に対処するために、「サイトワールド」は多くの関係者が集まり、議論と情報共有を行います。
会場が広すぎて視覚障がい者にはハードルが高い
障がい者向けの展示会としては、国際福祉機器展が1974年から開催されていますが、視覚障がいに特化したイベントを開催したのには理由があります。
荒川氏によると、国際福祉機器展は会場が広すぎて、視覚障がいのある人が行くにはハードルが高いとのことです。
また、展示されている機器の中には、高齢者や肢体不自由者向けのものが多く、視覚障がい者向けの機器が少ないという課題もありました。このような問題を解決するために、「サイトワールド」が立ち上げられたのです。
視覚障がい者がアクセスしやすい場所
特に会場選びにはこだわりがありました。視覚障がい者がアクセスしやすい場所にあり、また会場内も周りやすく、ある程度の広さがあることが必須条件でした。
そのため、2006年から変わらず、錦糸町(東京・墨田区)のマルイ8階にある、すみだ産業会館サンライズホールで開催されています。この会場が見つかったことは本当に幸運だったと思っています。
床に点字ブロックが貼られている
実際に会場を訪れた際には、駅前からビルの前までサポートするスタッフの方がいらっしゃったり、床に点字ブロックが貼られていたりと、さまざまな配慮がされていたことに気が付くかと思います。
荒川氏によれば、コンセプトとして、「視覚障がい者が1人でも来場できる」ということを大事にしています。
そのため、スタッフの確保が必要で、2023年の開催では約150人の方がボランティアとして参加してくれました。
点字の案内板、点字を読めない人にガイドブックを作成
さらに、イベント開催にあたってはさまざまな工夫がされています。点字の案内板や、点字を読めない人のためにデイジーのガイドブックを作成し、視覚障がいがあっても会場全体を把握できるようにしています。
盲導犬用のトイレの場所も配慮
「サイトワールド」では、盲導犬を連れて来場する方も多いため、盲導犬用のトイレの場所も配慮されています。
一般的に盲導犬はトイレの際にお尻にビニール袋をつけ、指示をされた場所で排泄するように訓練されていますが、指示を出す場所が重要です。
そのため、会場のビルには外に休憩スペースがあり、その横に盲導犬のトイレ用スペースが設置されました。
出展企業には来場者の案内に協力してもらう
さらに、出展企業には来場者の案内に協力をお願いしています。来場者が展示を見終わった後、次に何を見たいかを確認し、その人を次のブースまで案内することで、視覚障がい者が迷うことなく展示内容を回ることができるように配慮されています。
驚きの声や印象的な感想が寄せられた
来場された方々からは、「初めてこういった展示会に来たので、こんなに便利なものがあるとは思わなかった」という驚きの声や、「視覚障がい者がこんなにいるとは思わなかった」という印象的な感想が寄せられました。
荒川氏は、人間は悩んでいると視野が狭くなりがちで、「自分だけがこのような悩みを抱えているのではないか」と感じることがあると述べていますが、「サイトワールド」が交流の場となり、仲間の存在に気付く機会となっていると感じています。
文字の読み上げや顔認証が可能な機器
また、荒川氏が印象に残る機器として挙げたのが、「OrCam My Eye(オーカムマイアイ)」です。この機器は眼鏡の横につけるカメラが内蔵されており、文字の読み上げや顔認証、商品の識別などが可能です。
荒川氏は、「OrCam My Eye」の便利さについて触れ、例えばイベント会場で急な指示を出したい場合でも、周囲のスタッフを見つけることが難しい視覚障がい者にとっては大変便利な機能であることを語りました。自身もこの機器を購入し使用しており、その便利さに感動したとのことです。
高額な負担と所得の問題
しかし、荒川氏はこのような機器の普及は十分ではないと感じています。例えば、「OrCam My Eye」の定価が約30万円と高額であり、補助金制度を利用しても自己負担が10万円程度かかるため、多くの人にとって高額な負担となると指摘しています。
さらに、視覚障がい者の収入の現状についても触れ、「働ける場がない」「就職してもコミュニケーションの取り方が難しく辞めてしまう人も多い」という課題があることを指摘しました。
スマートフォンの普及で生活は便利に
一方で、スマートフォンの普及や便利なアプリの登場により、視覚障がい者の生活はかなり便利になったとも語ります。
例えば、以前はお金を落とした場合に見つけることが困難でしたが、今ではスマートフォンのビデオ通話を通じて、他人に自分の代わりに物を探してもらうことができるという利点を挙げています。
視覚障がい者内での情報格差の問題
ただし、機器を使いこなせない方や情報にアクセスできない方もいるとし、視覚障がい者内での情報格差の問題を指摘しています。
そのため、「サイトワールド」では機器を使いこなせるようになるための体験会なども行われており、全ての視覚障がい者が利便性の高いテクノロジーを活用できるように努めています。
同行援護制度「自立を妨げる状況になっているのでは」
荒川氏は、視覚障がい者の生活における変化として、同行援護制度の影響について触れました。この制度により、視覚障がい者と障がいのない方がふれ合う機会が減少したと感じています。
荒川氏は、出かける際にお店の側から「支援者さんがいないと困る」と言われることが増えていると述べ、結果的に視覚障がい者が1人で出かけることや、困った時にその場にいる方に助けを求めることが難しくなり、自立を妨げる状況になっているのではないかと考えています。
視覚障がい者の移動支援サービス
同行援護制度は、視覚障がい者の移動支援サービスとして創設され、移動に著しい困難のある視覚障がい者などが外出する際に支援員が同行し、移動の援護や必要な情報提供を行うものです。支援員は同行援護従業者養成研修を受けることが義務付けられています。
荒川氏は、この制度が視覚障がい者の自立を妨げる要因の一つとして捉えており、より包括的な支援の必要性を提唱しています。
困っている人がいれば助け合うことが大切
荒川氏は、視覚障がい者を誘導するためには制度や資格は必要ないと考えており、困っている人がいれば助け合うことが大切だと述べています。
実際に誘導を行ってみると、そう難しくはないことが分かるだろうと語り、制度があることでそのような機会を奪いかねないことを残念に感じています。
視覚障がい者に対する社会の理解が向上した
視覚障がい者に対する社会の変化について、荒川氏は過去20年ほどで視覚障がい者に対する社会の理解が向上したと感じています。
自身が長年にわたり1人で外出してきた経験から、街中で助けを求める際に以前は多くの声をかけても誰もが止まらなかったが、現在では1、2回の声かけで多くの人が足を止めてくれるようになったと述べています。また、1回通り過ぎても戻ってきてくれる人も増えたとのことです。
このような変化を通じて、荒川氏は視覚障がい者に対する社会の優しさの向上を感じており、より包括的で理解ある社会を実現するために引き続き努力していくことの重要性を強調しています。
障がい者を身近に感じられる機会が増えた
荒川氏は、社会の変化について、パラリンピックがテレビで放送され、障がい者を身近に感じられる機会が増えたことが要因の一つであると考えています。
このような大きなイベントが障がい者の活躍を世に知らしめ、視覚障がい者をより身近に感じられる存在にしたことが、社会の理解と受け入れにつながったのではないかと述べています。
こうした変化が起こる一方で、視覚障がい者が働く場面では未だに不利な状況が残っていることにも言及しています。障がい者の雇用や労働環境における課題が依然として存在し、これらの課題に取り組むことが必要だと荒川氏は指摘しています。
様々な体験を通じて共感を深めることの重要性
健常者が障がいのある方を理解し、よりよい社会を築くためにできることについて、荒川氏は様々な体験を通じて共感を深めることの重要性を強調しています。
例えば、目の見えない状況を擬似的に体験することで、日常生活での困難さや工夫の必要性を実感し、その結果、視覚障がい者の立場やニーズを理解することができるでしょう。
このような小さな共感が、社会全体の視野を広げ、理解を深めることにつながるというのが荒川氏の主張です。
「一般の人にもぜひ来場してほしい」
「サイトワールド」は視覚障がい者向けのイベントですが、荒川氏は「一般の人にもぜひ来場してほしい」と話しています。
その理由は、このイベントを通じて一般の人々が視覚障がい者の日常や課題をより深く理解し、共感を深める機会を提供するためです。2024年の開催は11月1日から3日までの3日間で、日本点字の日に合わせて開催されます。
視覚障がい者の日常や彼らが直面する課題について学ぶ
会場に訪れる人々は、最新のテクノロジーに触れることで視覚障がいのある方の生活について想像する機会を得るでしょう。
また、視覚障がい者の日常や彼らが直面する課題について学び、身近に感じることができるでしょう。このような経験が、一般の人々に小さな共感を生み出し、社会の障壁を取り除く一助となることが期待されています。
まとめ
視覚障がい者の日常生活やテクノロジーの進化に触れることで、一般の人々は彼らの困難さや工夫の必要性を理解し、共感することができます。
そして、この共感が社会全体の理解を深め、より包括的で理解ある社会の実現に向けた一歩となるでしょう。
参考