2024.03.06

東大などが心的外傷後ストレス障がい(PTSD)の分子機構の一端を解明しました

東京大学、国立精神・神経医療研究センター、そして東京農工大学の研究者たちが、心的外傷後ストレス障がい(PTSD)の分子機構を解明したという画期的な成果を、世界に向けて3月1日に共同で発表しました。

この驚くべき発見は、国際共同研究チームによって達成され、その中心的な役割を果たしたのは、東京大学院農学生命科学研究科の喜田聡教授や国立精神・神経医療研究センターの研究者たちでした。そしてこの重要な研究成果は、世界的に権威のある学術誌「Molecular Psychiatry」に掲載され、学術界や医学界に大きな衝撃を与えました。

 

PTSDとは繰り返し思い出される再体験症状

心的外傷後ストレス障がい(PTSD)は、過去の大事故や災害、暴力、戦争などのトラウマ体験に関連する精神的な疾患であり、その主要な症状は、トラウマ体験の記憶が現実であるかのように繰り返し思い出される再体験症状です。

これまで、PTSDの病態生理学や分子メカニズムに関する理解は不十分でしたが、この新たな研究により、環状アデノシン一リン酸(cAMP)情報伝達経路が再体験症状に深く関与していることが明らかになりました。

 

cAMP経路の活性化が再体験症状の発現に重要な役割

先行研究では、マウスを用いた実験において、cAMP経路が記憶の想起を調節することが示されていました。この事実を基に、研究チームは今回の研究で、cAMP経路の活性化がPTSDにおける再体験症状にも関与する可能性を詳細に検証しました。

その結果、cAMP経路の活性化が、再体験症状の発現に重要な役割を果たしていることが明らかになりました。

 

効果的な治療法や予防策が開発される期待

この発見は、恐怖記憶の調節メカニズムやPTSDの治療法に関する新たな洞察を提供しました。将来的には、この研究成果を基にして、より効果的な治療法や予防策が開発され、PTSD患者の生活の質が向上することが期待されます。

さらに、この研究は、他の精神疾患の理解や治療法の開発にも貢献する可能性があります。

 

科学界において大きな注目を集める

東京大学、国立精神・神経医療研究センター、そして東京農工大学の研究者たちが共同で行ったこの研究は、科学界において大きな注目を集めることになりました。

そして、その成果が精神医学や神経科学の分野における重要なマイルストーンとして認識されることでしょう。

 

cAMP量を増加させると恐怖記憶が強く思い出される

トラウマ(恐怖)記憶とcAMP経路の関連性を探るため、研究チームは人工的にマウスの海馬内のcAMP量を変化させ、その恐怖記憶への影響を詳細に解析しました。

その結果、cAMP量を増加させると、恐怖記憶がより強く思い出され、その後には恐怖記憶がより強固になり、再体験症状に似た行動が観察されました。逆に、海馬内のcAMP量を低下させると、恐怖記憶の思い出しを抑制し、その後の恐怖記憶が減弱することが明らかになりました。

これらの結果から、cAMP経路の活性化がトラウマ記憶の想起と再固定化を促進し、記憶の強化に寄与することが示唆されました。

 

恐怖記憶の想起時「ホスホジエステラーゼ4B」が低くなる

さらに、PTSD患者の末梢血とマウスPTSDモデルにおける恐怖記憶の想起時における海馬内のmRNA発現を比較した結果、顕著に発現が低下している遺伝子として、「ホスホジエステラーゼ4B」(PDE4B)が特定されました。

PDE4Bは、細胞内の主要なセカンドメッセンジャーであるcAMPの分解酵素であり、その発現低下がcAMP経路の活性化を促進することを示唆しています。

興味深いことに、PTSD患者では再体験症状が重篤であるほどPDE4Bの発現が低く、再体験症状と末梢血中のPDE4B mRNA量との間に負の相関が確認されました。これは、再体験症状とcAMP経路の過活性化が関連している可能性を示唆しています。

 

PTSDの分子機構を理解するための重要な一歩

この研究は、トラウマ記憶の形成と再体験症状の発現におけるcAMP経路の役割を明らかにすると同時に、PTSDの分子機構を理解するための重要な一歩となりました。

将来的には、これらの研究成果を基に、より効果的な治療法や予防策が開発され、PTSD患者の生活の質を向上させることが期待されます。

 

PDE4Bが持続的に低下している可能性

この研究では、さらに、PTSD患者の末梢血中のPDE4B遺伝子のDNA修飾(メチル化)もそのmRNA発現量と相関することが示されました。

これにより、PTSD患者の末梢血中のPDE4Bの発現低下が一過的なものではなく、持続的に低下している可能性が強く示唆されました。興味深いことに、マウスPTSDモデルを用いた解析でも、恐怖記憶を想起させた後に海馬だけでなく、末梢血中でもPDE4B mRNAの発現量が低下していることが確認され、PTSD患者とマウスPTSDモデルとの類似性が示唆されました。

これらの結果から、PTSDの再体験症状とcAMP経路の活性化が密接に関連していることが強く示唆されました。

 

PTSD治療薬の候補

この研究成果からは、同経路の不活性化がPTSDの新規治療薬の開発につながる可能性が示唆されました。実際に、今回の研究で用いられたNB001はcAMP量を抑制する薬剤であり、PTSD治療薬の候補となっています。

同経路を標的とすることで、PTSDの発症と病態の理解と治療方法の開発が進む道が拓け、将来的にはPTSD治療薬の開発が加速することが期待されます。

心的外傷後ストレス障がい(PTSD)とは

心的外傷後ストレス障がい(PTSD)は、過去に恐怖や混乱を経験した個人が、その経験から起こる精神的な痛みや苦しみに苦しむ状態を指します。

この障がいは、戦争、災害、暴力、虐待、交通事故などのトラウマ体験によって引き起こされることが一般的です。PTSDは、個人がトラウマに関連する記憶や出来事を適切に処理できず、それが彼らの日常生活や精神的健康に深刻な影響を与えることが特徴です。

 

PTSDの症状

PTSD(心的外傷後ストレス障がい)は、トラウマ体験後に発生する精神的な障がいであり、その症状はさまざまな形で現れます。以下では、PTSDの主な症状を深く掘り下げます。

 

  • 再体験症状

PTSDの主要な症状の一つは、トラウマ体験が現実の出来事のように再び経験されることです。これは、フラッシュバック、悪夢、トラウマに関連する刺激や場所に対する強い反応などの形で現れます。再体験症状は、患者がトラウマを忘れようとしても、その記憶が侵入してくる感覚を引き起こします。

  • 回避行動

PTSD患者は、トラウマに関連する出来事や場所、人々を回避する傾向があります。これは、トラウマ体験を思い出すことで強い不安や恐怖を感じるためです。回避行動は、社会的な孤立や日常生活の制限をもたらすことがあります。

  • 過剰な興奮や刺激への反応

PTSD患者は、刺激に対する過剰な反応や興奮が見られることがあります。これには、不安、イライラ、怒り、睡眠障がい、集中力の低下などが含まれます。トラウマ体験に関連する刺激が現れると、患者は緊張し、身体的な症状を経験することがあります。

  • 負の感情や思考

PTSD患者は、トラウマに関連する負の感情や思考を持つことがよくあります。自己責任感、罪悪感、無力感、恐怖、恥辱感などが一般的です。これらの感情は、患者の日常生活において精神的な苦痛を引き起こし、彼らの自尊心や自己価値感を傷つける可能性があります。

  • 身体症状

PTSDは、身体的な症状も引き起こすことがあります。これには、頭痛、胃の不調、筋肉の緊張、性的機能の障がい、免疫機能の低下などが含まれます。これらの身体症状は、心の状態と密接に関連しており、患者の生活の質を低下させることがあります。

 

これらの症状は、PTSD患者がトラウマ体験を処理し、日常生活を回復するのを困難にすることがあります。しかし、適切な治療とサポートを受けることで、患者は回復の道を歩むことができます。また、理解ある支援者や専門家の助けを借りて、これらの症状に対処するための戦略や技術を身につけることも重要です。

 

PTSDの治療法

PTSD(心的外傷後ストレス障がい)の治療法は、患者の症状や個々のニーズに合わせて個別化されるべきです。以下では、主要な治療法を深く掘り下げます。

 

  • 認知行動療法(CBT)

CBTは、PTSDの治療に最も一般的に使用される心理療法です。このアプローチでは、患者がトラウマ体験に対処する方法を学び、トラウマに関連する思考や行動パターンを変えることを重点としています。

CBTの一部として、曝露療法や認知再構成が含まれ、患者はトラウマ体験を安全な環境で再体験し、それに関連する恐怖や不安を軽減します。

  • 眼球運動再処理およびデシンシタイゼーション(EMDR)

EMDRは、PTSDの治療に使用されるもう一つの効果的な心理療法です。この治療法では、患者がトラウマを思い出しながら、治療者の指示に従って左右の目の運動を行います。

これにより、トラウマ体験が再処理され、その影響が軽減されることが期待されます。

  • 薬物療法

薬物療法は、PTSDの症状を管理するためのもう一つの選択肢です。一般的には、抗不安薬や抗うつ薬が処方されます。抗不安薬は、睡眠障がいや不安症状を軽減するのに役立ちます。

一方、抗うつ薬は、うつ症状や再体験症状を軽減するのに効果的です。SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)やSNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)などの抗うつ薬がよく使用されます。

  • ストレス管理技術

ストレス管理技術は、PTSDの症状を軽減し、回復を促進するのに役立ちます。深呼吸や瞑想、プログレッシブ・マッスル・リラクセーション(筋弛緩法)などの技術が用いられます。

これらの技術は、患者がトラウマに対処する方法を学び、日常的なストレスに対処する能力を高めるのに役立ちます。

  • グループセラピー

グループセラピーは、PTSD患者が他の人々とのつながりを形成し、共感と支援を得るのに役立ちます。他の人々との共有によって、患者は自分だけが抱えているのではないと感じ、治療プロセスがより効果的になることがあります。

  • 家族療法

家族療法は、PTSD患者とその家族の関係を改善し、家族全体のサポートシステムを構築するのに役立ちます。家族療法では、家族が患者のニーズを理解し、適切なサポートを提供する方法を学びます。

 

PTSDの治療には個々のニーズや状況に合わせたアプローチが重要です。治療法はしばしば組み合わせて使用され、患者が最善の結果を得るのに役立ちます。

また、治療を受けることはプロセスであり、時間がかかる場合がありますが、継続的なサポートと専門家の指導の下で、患者は回復の道を歩むことができます。

 

新たな展望

最近の研究では、PTSDの生物学的メカニズムや神経学的基盤の理解が進んでいます。特に、cAMP経路やPDE4B遺伝子などの分子レベルでの研究がPTSD治療法の新たな方向性を提供しています。これにより、新規の薬物療法が開発され、患者の生活の質を向上させることが期待されています。

まとめ

PTSDは、トラウマ体験によって引き起こされる深刻な精神的な痛みであり、適切な治療が必要です。しかし、最新の研究や治療法の進歩により、患者への支援とケアの方法が向上し、彼らがより健康で幸福な人生を送ることができるようになることを期待しています。

 

参考

東大など、心的外傷後ストレス障がい(PTSD)の分子機構の一端を解明 | TECH+(テックプラス)

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