2024.04.18

「軽度認知障がい(MCI)」と「アルツハイマー病」診断と治療の鍵:アルツハイマー病の予兆か、回復の可能性か?

脳の奥深くに潜む謎めいた状態、それが軽度認知障がい(MCI)です。日常生活にわずかな影響を及ぼす物忘れや思考の曖昧さ、その先にはアルツハイマー病の影が忍び寄っているのでしょうか?それとも、MCIからの脱出は可能なのか?私たちはこの神秘的な状態に迫り、その解決策を模索していきます。

 

軽度認知障がい(MCI)への関心の高まり

軽度認知障がい(MCI)への関心が高まっています。アルツハイマー病に対する新薬「レカネマブ」の登場が、MCIの治療や早期診断についての研究を加速させています。MCIは、認知症と正常な状態の中間に位置し、その特徴を正しく理解することがますます重要とされています。

 

MCIの特徴に関する誤解

MCIの特徴に関する誤解の一つは、MCIになった人が正常な状態に戻ることはないという点です。しかし、実際には、脳の認知機能が低下しているにもかかわらず、自立した生活を維持できる場合もあります。物忘れや迷子になるなどの症状が現れても、個々の対処法や周囲の支援によって生活を送ることが可能です。

 

MCIの診断基準

MCIの診断基準には、年齢や教育レベルだけでは説明できない記憶障がい、本人または家族の物忘れの訴え、全般的な認知機能の正常範囲、日常生活動作の自立などが含まれます。

自覚症状がある場合でも、ヒントで思い出せる場合は加齢による自然現象として考えられ、MCIや認知症の可能性は低いとされています。このような理解が、MCIの早期発見や適切な支援を促進する上で重要です。

 

回復や進行で鍵となるのは「アルツハイマー病の有無」

MCIからの回復や進行について、その鍵となるのは「アルツハイマー病の有無」です。MCIはしばしば認知症の前段階や予備群と見なされますが、必ずしもすべてのMCI患者が認知症に進行するわけではありません。実際、MCI患者の約5~6割は状態が維持されたり、回復したりすることもあるとされています。残りの5割程度は認知症に進行する可能性があります。

 

MCIからの回復率

日本神経学会のガイドラインによれば、MCIからの回復率は1年で16~41%であり、進行率は1年で5~15%です。では、回復や維持が可能なケースと認知症への進行が起こるケースの違いは何でしょうか。

その主な違いは、「アルツハイマー病の有無」にあります。MCIの背景には約5割がアルツハイマー病が関与しているとされています。認知機能の低下は、アルツハイマー病や他の認知症を引き起こす疾患だけでなく、脳血管障がいやうつ病、栄養不足、薬の副作用などによっても生じることがあります。原因によってMCIが引き起こされている場合、その原因に対処することで回復する可能性があります。

 

将来的に認知症への進行が高い

しかし、アルツハイマー病がMCIの背景にある場合は、将来的に認知症への進行が高いと指摘されています。そのため、認知症専門医の間では、「MCI due to AD」(アルツハイマーを起因とするMCI)として区別されます。このような区別がなされるのは、予後が大きく異なるためです。

 

原因に応じた治療や管理が重要

アルツハイマー病に起因するMCIの場合、治療法や介入によって症状を遅延させることが可能な場合もあります。それに対して、他の原因によるMCIの場合は、その原因に応じた治療や管理が重要となります。したがって、MCIの患者に対する適切な診断と治療は、将来の予後や生活の質に大きな影響を与えることが示唆されています。

アルツハイマー病:認知症の最も一般的な原因

アルツハイマー病は、認知症の最も一般的な原因の一つであり、認知機能の進行的な喪失をもたらす難病です。この病気は、認知症の原因の約7割を占めています。アルツハイマー病は、患者やその家族にとって心身に大きな負担をかけることがあります。

 

アルツハイマー病の症状

アルツハイマー病の初期症状には、以下のようなものがあります。

 

  • 記憶障がい

アルツハイマー病の最も早い症状の一つとして、記憶障がいが挙げられます。患者は、過去の出来事や人々の名前、日常のルーチンなどを覚えにくくなります。また、新しい情報の取り込みにも困難が生じます。これは、脳内の神経細胞がβアミロイドプラークとτタンパク質の異常な蓄積によって損傷されることによるものと考えられています。

 

  • 認知機能の低下

アルツハイマー病の進行に伴い、患者の思考力、判断力、計画力が徐々に低下します。複雑な問題を解決する能力や抽象的な思考能力が衰え、日常的な決定を下すことが難しくなります。これは、脳内の神経細胞の機能が阻害されることによって引き起こされます。

 

  • 日常生活の困難

アルツハイマー病の進行により、患者は日常生活の中でますます困難を経験します。日常の活動や計画を実行することが難しくなり、家事や個人のケアなどの日常的な活動に支障が出ます。これは、思考機能の低下や記憶の障がいによって生じるものです。

 

  • 言語障がい

アルツハイマー病の進行に伴い、言語能力も影響を受けます。患者は言葉を理解することや話すことに困難を感じるようになります。適切な言葉を見つけることが難しくなり、文章を理解したり表現したりする能力が低下します。これは、脳内の神経細胞の損傷によって引き起こされるものであり、コミュニケーションにおいて深刻な影響を与えます。

 

これらの症状は、アルツハイマー病の進行に伴い徐々に悪化し、患者の生活に大きな制約を与えることがあります。早期の診断と治療は、これらの症状の進行を遅らせ、患者の生活の質を改善する上で重要です。

 

アルツハイマー病の原因の詳細

アルツハイマー病の正確な原因は複雑で、まだ完全に解明されていません。しかし、研究者たちは以下の要因が関与している可能性があると考えています。

 

  • βアミロイドプラークの蓄積

アルツハイマー病の特徴的な特徴の一つは、脳内に異常な量のβアミロイドプラークが蓄積することです。これらのプラークは、正常な脳機能を妨げ、神経細胞の死につながることが示唆されています。βアミロイドプラークが形成される過程は、アルツハイマー病の病態生理学において重要な役割を果たしています。

 

  • τタンパク質の異常な蓄積

アルツハイマー病では、神経細胞内でτ(tau)タンパク質が異常な形で蓄積します。正常なτタンパク質は、神経細胞内の細胞骨格を維持するために重要ですが、異常な蓄積によってタンパク質が変性し、神経細胞の機能が妨げられる可能性があります。このプロセスは、神経細胞の損傷や死に寄与する可能性があります。

 

  • 神経伝達物質の減少

アルツハイマー病の進行に伴い、脳内の神経伝達物質の量が減少することが観察されます。特に、アセチルコリンという神経伝達物質の減少が顕著です。この減少は、神経細胞間の情報伝達の妨げにつながり、認知機能の低下や他の症状を引き起こす可能性があります。

 

これらの要因が相互に影響し合い、アルツハイマー病の発症や進行に寄与すると考えられています。ただし、これらのメカニズムの詳細な理解はまだ進んでおらず、将来的な研究が必要です。

 

アルツハイマー病の治療

現在のところ、アルツハイマー病に対する完全な治療法は存在しませんが、症状の進行を遅らせたり、患者の生活の質を改善するためのいくつかの治療法や介入があります。

 

  • 薬物療法

一部の薬物は、アルツハイマー病の症状を軽減したり、病気の進行を遅らせたりする可能性があります。アセチルコリンエステラーゼ阻害剤やNMDA受容体拮抗剤などの薬物が一般的に使用されます。これらの薬物は、神経伝達物質の機能を調整することで、症状の一部を改善し、患者の生活の質を向上させることができます。

 

  • 認知症行動症状に対する療法

アルツハイマー病の患者はしばしば認知症行動症状(BPSD)と呼ばれる問題行動を示すことがあります。これには、不安、抑うつ、興奮、不穏、幻覚、妄想などが含まれます。これらの症状に対処するために、心理社会的介入や行動療法が使用されます。これらのアプローチは、薬物療法と組み合わせて、患者の安定した状態の維持に役立ちます。

 

アルツハイマー病の予防

アルツハイマー病の発症を遅らせるために、以下の予防策が推奨されています。

 

  • バランスの取れた食事

心臓に良い食事は、脳にも良い影響を与えます。抗酸化物質やオメガ-3脂肪酸が豊富な食品、ビタミンEやCなどの栄養素が含まれる食品を摂取することが重要です。

 

  • 適度な運動

適度な運動は、血流を改善し、脳の健康を維持するのに役立ちます。有酸素運動や筋力トレーニングなど、身体を動かすことは脳にも良い影響を与えます。

 

  • 知的な刺激を提供する活動

学習や知的な活動は、脳の神経回路を刺激し、認知機能を維持するのに役立ちます。読書、パズル、言語学習などの活動を定期的に行うことが重要です。

 

  • 社会的なつながりの維持

社会的なつながりは、心理的な健康を維持するだけでなく、認知機能にも良い影響を与えます。友人や家族との交流を持つことは、脳の活性化につながります。

 

これらの予防策を取り入れることで、アルツハイマー病の発症を遅らせる可能性があります。しかし、これらの方法は予防策としてのみ有効であり、アルツハイマー病の完全な予防は保証されていません。

まとめ

アルツハイマー病に関連する軽度認知障がい(MCI)は、認知症への進行の可能性がある一方で、治療や介入によって症状を遅延させることができる場合もあります。正しい診断と適切な管理は、患者の生活の質や将来の展望に大きな影響を与える可能性があります。このような知識を深め、患者とその家族にとってより良いサポートを提供することが重要です。

 

参考

認知症の前段階とされる「軽度認知障がい」の特徴は?:Goodayクイズ:日経Gooday(グッデイ)

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