2024.02.26

公共交通機関の“障がい者”「心のバリアフリー」 公共交通機関の新たな挑戦

国土交通省が掲げる「心のバリアフリー」とは

障がい者の社会的包摂を目指すため、国土交通省が「心のバリアフリー」をスローガンに掲げ、公共交通機関の利用における障がい者支援の重要性を提唱しています。この取り組みは、障がい者の社会参加を促進し、差別や不平等を解消することを目指しています。具体的には、以下の3点が重要視されています。

 

差別や不平等を解消するため

障がい者の社会的バリアーを取り除くことが社会全体の責任であるという考え方があります。障がい者やその家族が合理的配慮を受け、差別を受けずに暮らせる社会を構築することが求められています

障がい者の困難や痛みを理解し、適切なコミュニケーションを持つことが重要で、障がい者が自立して生活するためには、周囲の理解と支援が必要不可欠です。

障がい者の生活の質を向上させるためには、心のバリアフリーだけでなく、身体的なバリアフリーも重要であるとしています。公共交通機関が、車椅子やベビーカーなどの利用者に対応したバリアフリースペースを確保することが必要です。

 

多くの課題

しかし、現実にはこれらの取り組みが不十分であり、多くの障がい者やその家族が日常生活で困難に直面しています。例えば、知的障がいを持つ子供を育てる親の声が挙げられます。

支援学校に通う子供やその親は、公共交通機関を利用する際に多くの困難に直面し、周囲の目線や理解の不足によって、ストレスや不安を感じることがあります。

このような課題に対処するためには、公共交通機関がより包括的な支援を提供する必要があります。

 

社会全体の責務

今後も、公共交通機関の利用がより多様なニーズに対応するための取り組みが求められますが、心のバリアフリーを実現し、障がい者やその家族が安心して利用できる環境を整備することが、社会全体の責務であるという認識を共有し、改善に取り組むことが重要です

 

公共交通機関の課題

2021年3月、国土交通省が主催した「知的・発達障害者等に対する公共交通機関の利用支援に関する検討会」では、知的障がい者や発達障がい者に対する次のような課題が明らかにされました。

 

公共交通機関の利用支援に関する検討会の課題

  • 不慣れな環境での当事者の困りごと:「できない、わからない、一人では不安」
  • 当事者に対する事業所の困りごと:「対応の仕方が分からない」
  • 周囲の方々の困りごと:「知的・発達障がい者の特性に対し、理解が進んでいない」

当事者が直面する問題として、切符購入や改札入場、ホームや車内のルールが理解できず混乱することが挙げられます。実際の声からも、その課題が明らかになっています。

利用体験実施マニュアルの作成

これらの課題に対処するために、国土交通省は「公共交通機関の利用体験実施マニュアル(案)」を作成し、利用者の体験を通して公共交通機関の利用促進を図っています。このマニュアルは、利用者が公共交通機関全体を理解するためのサポートを提供するものです。支援者は、常に危険性を認識し、支援対象者の特性を踏まえた関わり方について理解を深める必要があります。

 

事業者向けのコミュニケーションハンドブック

一方で、事業者が障がい者の特性を理解しにくいという問題も指摘されています。このため、国土交通省は事業者や一般向けに「発達障害、知的障害、精神障害のある方とのコミュニケーションハンドブック」を作成し、配布しています。このハンドブックには、障がいの特性、対応の基本、実際のトラブル場面での対応などが記載されており、分かりやすくまとめられています。

 

利用者と事業者の理解を促進する取り組み

これらの取り組みを通じて、利用者と事業者の理解を促進し、公共交通機関の利用支援を強化することが期待されます。特に、事業者が障がい者のニーズに適切に対応するためには、障がい者とのコミュニケーションにおける理解を深めることが不可欠です。この取り組みが、より包括的で包摂的な社会の実現に向けて一歩前進することを期待しています。

 

緊急時の対応と臨機応変なサポート

「発達障害、知的障害、精神障害のある方とのコミュニケーションハンドブック」では、緊急時の対応や臨機応変なサポートの重要性が強調されています。具体的な状況としては以下のような場面が挙げられています。

  • 急に奇声を発し、走り回ったりしている人がいる。
  • 自分の興味のある他人の物や公共物に触り、トラブルになる。
  • 困っていることを説明できず、モジモジしてウロウロとしている。
  • フラフラ、ぼんやりしていて、人にぶつかっている。
  • パニックになっている。

こうした場面に遭遇した際には、「笑顔でゆっくり、短く、具体的に優しい口調で話しかける」ことが求められます。

 

緊急時の対応

特に、バスや電車が遅れているなどの状況下では、障がい者が状況を理解することが難しい場合があります。このような状況では、臨機応変な対応が求められます。特に、パニックになっている障がい者に対しては、命の危険を感じる場面では危険の回避を最優先に実行し、「落ち着ける環境に誘導する」ことが重要です。具体的には、静かで他人の目を遮る空間が適しています。

 

安全と理解の両立

緊急時の対応では、障がい者の安全を確保すると同時に、理解と配慮を示すことが重要です。そのためには、支援者や関係者が障がい者の特性や個々のニーズを理解し、適切な対応を行うことが不可欠です。さらに、周囲の理解と協力も必要であり、安全で包括的な支援体制の構築が求められます。

 

声のかけ方とコミュニケーション

障がい者とのコミュニケーションにおいて、声のかけ方は非常に重要です。ここでは、「声かけ変換表」からいくつかの例を抜粋してみます。

  • 「早くしてください」 → 「あと何分かかりますか?」
  • 「静かにしてください」 → 「声を『これくらいの大きさ』にしてもらえますか?」
  • 「走ってはいけません」 → 「歩きましょうか」

これらの例からもわかるように、否定的な言葉を使わずに、具体的な行動を示すことが大切です。説得や危険回避の場面では、興奮や大声はパニックを助長する可能性があるため、ゆっくりと落ち着いて話すことが重要です。

 

周囲の理解の重要性

このようなコミュニケーションのポイントを理解するためには、周囲の理解が極めて重要です。児童発達支援の現場で保育士として働くトミさん(仮名)は、バスの遅れがパニックを引き起こすことについて次のように述べています。「バスが遅れると、理由が分からずパニックになります。違う時間にバスが来ると、自分が乗るバスと別だと認識し乗れません。その時の関わり方、知らせ方が課題です」

周囲の理解がなければ、障がい者が安心して行動することが難しくなります。そのため、興味本位で集まったり、目線を向けたりすることを控え、障がい者が落ち着ける空間や時間、雰囲気づくりに協力することが重要です。

 

ハンドブックの効果と認知度

こうしたコミュニケーションの手法を理解し、実践するために、国土交通省が作成した「発達障害、知的障害、精神障害のある方とのコミュニケーションハンドブック」は効果的なツールとなっています。しかしながら、その認知度はどの程度であるかについては調査が必要です

駅・バス停での対策:認知度向上と配慮の必要性

現在の駅やバス停における対策は、まだまだ改善の余地があります。実際、当事者の支援者36人にハンドブックの認知度を尋ねたところ、36人中5人しか知らなかったという結果が示されました。

 

ハンドブックとヘルプマークの認知度

ハンドブックにはヘルプマークも紹介されていますが、その認知度も不十分です。精神障がい者施設を運営するスタッフが目撃した、「ヘルプマークなどはあるが、周りの人の認識が不明で、つい先日もぶつかって転んでしまった」というような事故が起こっています。

 

必要な対策と配慮

駅やバス停では、ポスターの設置や心のバリアフリー席の設置など、公共交通機関が積極的に配慮すべき課題があります。当事者やその家族が心労を感じることなく、安心して移動できる環境を提供することが重要です

 

まとめ

社会全体が、当事者やその家族のニーズに配慮し、心のバリアフリーを実現するために協力する必要があります。心のバリアフリーを実現するためには、単なる施策だけでなく、社会全体の意識改革や教育も必要です。当たり前のように配慮し、理解し合う社会の実現に向けて、一歩一歩前進していくことが重要です。

 

参考

「叫ぶ、走り回る、飛び跳ねる」 公共交通機関の“障がい者”に向けられる冷たい視線! 今必要なのは、迅速な支援・啓発である(Merkmal)

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