2024.04.01

高齢者の移動格差解消につながる オンデマンド交通サービス「チョイソコ」

車がなければ生活必需品ですら買いに行けない地域がある

高齢者の自動車事故が頻繁に取り上げられ、運転免許の返納が求められる声が日に日に高まっているように感じます。しかし、車がなければ生活必需品ですら買いに行けない地域や、公共交通機関が廃止されている地域が存在することも忘れてはなりません。

こうした課題に対処するため、各地で導入が始まっているのが、利用者の予約に応じて運行する乗り合い型の公共交通サービス「オンデマンド交通」です。しかし、なかなか利用者が伸びず、軌道に乗らないまま、廃止される自治体も多いといいます。

 

高齢者の外出機会も増やし健康を促進している

そんな中、2018年7月に愛知県豊明市で始まったのが「チョイソコ」です。これまでの運営コストの面で厳しいとされていた「オンデマンド交通」とは異なり、民間企業主体で運営されており、持続性の高いサービススキームを確立していますさらに、民間企業との協力によりイベントを実施することで、高齢者の外出機会も増やし、健康を促進しています。「チョイソコ」の仕組みと、地域における移動手段の格差問題について、開発した株式会社アイシンの鈴木歩さんに話を伺いました。

 

「チョイソコ」とは?

チョイソコは、乗り合い送迎サービスです。利用者は会員登録後、電話などで乗車申し込みを行います。予約が集まれば、専用システムが最適な経路や乗り降り順を決定し、送迎します。料金は自治体によって異なりますが、例えば愛知県豊明市では片道200円で利用できます。停留所は公園や公共施設の付近に設置されています。

チョイソコを立ち上げた経緯は、弊社がカーナビの製造販売を行っており、その技術を活用して地域の移動手段に問題意識を持ったことから始まります。豊明市の担当者との協力で、「高齢者の移動ニーズに応えるオンデマンド交通」という形でサービスがスタートしました。

 

買い物も困難な地域

豊明市では道の傾斜が激しく、道幅も狭く、コミュニティバスが入れない交通不便エリアがありました。このエリアはオールドニュータウンと呼ばれ、住民の高齢化が進んでいます。

高齢者に対する免許返納の動きが加速する中、免許を返納した人々はこのようなエリアでの外出が難しくなり、買い物すらできなくなることが問題視されました。

さらに、外出の難しさが健康を損ない、市の社会保障費を増加させる原因ともなっていました。アイシンの「オンデマンド交通」がこの課題を解決できる可能性があるとして、この取り組みが始まりました。

 

「チョイソコ」と他のオンデマンド交通サービスとの異なる点

全国的にも同様の問題があります。コミュニティバスが入れない交通不便な地域は各地に存在し、公共交通機関の採算が取れずバス路線が廃止される事例も増えています。また、都市部の周辺でも不便な地域が点在し、「チョイソコ」の導入が進んでいます。

「チョイソコ」と他のオンデマンド交通サービスとの異なる点は大きく2つあります。まず、自治体の予算を下げ、採算性を上げる点が挙げられます。チョイソコはエリアスポンサーという形で地域の企業に協賛を募り、ビジネスモデルを構築しています。スポンサーになると停留所の1つとなり、その結果、利用者がその店舗や事業所に行きやすくなります。

さらに、スポンサーは情報誌やチラシに広告を載せることで広報効果を得ることができ、地域貢献企業としての認知も高められます。単なる運行システムの提供にとどまらず、高齢者の健康増進につながる外出促進の“コト”づくりを行っている点です。これは、エリアスポンサーと共にイベントなどを開催することで実現しています。

 

“四方良し”を実現している点

「チョイソコ」のもう1つの特徴は、利用者の移動格差問題を解消し外出の機会を創出するだけでなく、自治体、エリアスポンサーになっている企業、交通事業者の“四方良し”を実現している点です。

導入時点で「こういうものを待っていました」と言われることが多いです。これまで友だちや家族に頼まないと外出できなかったのが、自分の意思だけで出かけられるようになったと。

あとはご家族の方からも、送迎の手間がなくなるだけでなく、高齢者や自分たちも一緒にイベントに参加するようになり、外出の機会が増えたと喜ばれています。実際、多くの自治体では、デマンド交通を導入したことで利用者数は増え、高齢者の方が外出をしやすくなっていると思います。

 

免許返納の推進は公共交通のインフラ整備と行われるべきもの

免許返納の推進は公共交通のインフラ整備と共に行われるべきものです。地域や年齢による移動手段の格差問題が存在する中で、高齢者が運転することへの批判や免許返納を推進する空気が見られることは確かです。

しかし、免許を返納した後、高齢者が移動できる環境がどれだけ整えられているかが重要です。実際に、「チョイソコ」を導入している自治体では、コミュニティバスの本数が限られている場合もあります。このような状況下で免許返納を求めるだけでは、高齢者の移動手段が不十分なままとなります。

免許の自主返納は、十分な移動手段が整備された環境で行われるべきものです。高齢者が安心して免許を返納できるように、公共交通のインフラ整備が必要です。そのような環境が整った時に、免許返納の推進が意味を持つと考えます。

 

免許の自主返納を推進することと、インフラの整備はセット

移動手段がなくなると外出自体をしなくなります。フレイル(健康な状態と要介護状態の中間)予防には社会参加が有効的だと言われています。外に出て、お仕事をしたり、みんなとおしゃべりすることで、健康を維持できるので、外出しやすい移動手段を確保することがとても重要です。

こういった移動手段の格差解消のために、読者一人一人ができることはいくつかあります。まず、日常生活の中で少しでも公共交通機関を活用することです。都市部を除いて、移動は車中心という方も多いかもしれませんが、公共交通機関を利用することで実績や収益につながり、地域の公共交通を支えることになります。

 

都心部の周辺でも移動の問題が起こっている

地方の高齢者だけでなく、都心部の周辺でも移動の問題が起こっています。共働き世帯が増える中で、子供を塾に通わせるための公共交通が不足していることもあります。こうした問題についても意識し、必要な場所へのアクセスをサポートすることが重要です。

さらに、移動の大切さを認識し、公共交通の未来について考えることも重要です。技術の進化や社会の変化に伴い、移動手段も変わっていくでしょうが、地域社会や社会全体のニーズに合った公共交通が整備されるよう、声を上げて意見を述べることも大切です。

高齢者の移動手段:格差解消への挑戦

高齢者の移動手段は、地域や年齢によって大きな格差が存在しています。都市部では便利な公共交通機関が整備されている一方で、地方や郊外では公共交通が不十分な場合があります。このような状況下で、高齢者が自らの移動手段を確保することは、彼らの生活や健康に直結する重要な問題となっています。

特に、免許の自主返納を促す動きが広がる中で、移動手段の確保はますます重要な課題となっています。高齢者が安全かつ便利に移動できる環境が整わないまま、免許を返納させることは、彼らの社会参加や生活の質を損なう可能性があります。

 

高齢者の問題だけではない移動格差

この問題に対処するため、地方自治体や民間企業はさまざまな取り組みを行っています。その一例が、乗り合い型の公共交通サービス「オンデマンド交通」の導入です。このサービスでは、利用者の予約に応じて運行し、地域の移動ニーズに柔軟に対応します。

また、エリアスポンサー制度を導入することで、地域の企業や団体がサービスの支援を行い、地域コミュニティ全体で移動手段を確保する取り組みも行われています。

さらに、高齢者だけでなく、共働き世帯の子供なども移動手段の確保が求められています。子育て世代のニーズに応えるため、安心して子供を送り迎えできる公共交通の整備も重要な課題となっています。

 

個々の意識や地域社会全体の取り組みが必要

移動手段の格差解消に向けては、個々の意識や地域社会全体の取り組みが必要です。高齢者が自立して生活を送るためには、安全で便利な移動手段が確保されることが不可欠です。そのためには、公共交通の充実や地域コミュニティの支援が欠かせません。

そして、私たち一人ひとりが、移動手段の格差について意識し、地域社会の課題に対する解決策を模索することが求められています。高齢者の移動手段として実際に使われている代表的な手段は以下のようなものがあります。

 

公共交通機関の利用

バスや電車などの公共交通機関を利用することが一般的です。都市部では路線バスや地下鉄、地域ごとのコミュニティバスが利用され、地方では地域バスや地域交通の利用が主流です。

 

  • タクシーの利用

高齢者向けの割引サービスや、ドライバーが乗降の手助けを行うサービスなどが提供されています。特に地方では、公共交通機関の不足や交通アクセスの悪さからタクシーが重要な移動手段となっています。

 

  • オンデマンド交通サービス

利用者の予約に応じて運行する乗り合い型の公共交通サービスが導入されています。このサービスでは、利用者が電話やアプリを通じて予約を行い、指定の場所から指定の場所へ移動することができます。

 

  • 自家用車の利用

高齢者の中には自家用車を所有し、自ら運転して移動する方もいます。ただし、高齢者が安全に運転できるかどうかが問題視され、免許返納を促す動きもあります。

 

これらの移動手段は、地域の交通インフラや高齢者の健康状態、経済的な条件などによって選択され、利用されています。

まとめ

都市部に住んでいると、移動手段の格差問題というのはあまり意識されないかもしれませんが、免許の自主返納に関しては一般的に良いこととして捉えられがちです。しかし、もし自分が高齢者だったり、公共交通が不十分な地域に住んでいた場合、同じように考えられるでしょうか?

免許返納を促すのであれば、交通インフラの整備も同時に行われるべきだと感じます。危険を理由にして免許を返納するのではなく、車がなくても安心して移動できる環境が整っているからこそ、返納するという選択ができるような社会が望ましいと思います。

 

参考

車以外の移動手段、オンデマンド交通が移動格差問題を解消するかも? | 日本財団ジャーナル

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