2024.04.11

なぜ花粉症は「国民病」になったのか?日本人の4割を苦しめる花粉症の謎

日本人の花粉症患者が増えた背景には何があるのでしょうか?腸内細菌学者の小柳津広志・東大名誉教授によると、1970年代以降急増し、今や日本人の4割が花粉症に悩まされています。その要因の一つとして、抗生物質の使用が指摘されています。この問題を考える上で、私たちは薬の使用や環境の変化といった側面からも理解を深める必要があります。

 

日本人の4割が花粉症

日本人の4割が花粉症になっているという統計があります。さらに、花粉症やアトピー性皮膚炎は、最も一般的なアレルギー疾患としてよく知られています。しかし、実際の患者数を把握するのは難しいです。軽度の症状の人々は病院に行かず、医療データに反映されないからです。

実際、私も長年花粉症に悩まされていますが、病院を受診したことはありません。しかし、NPO法人日本健康増進支援機構の報告によれば、現在ではおそらく4割程度の人々が花粉症であるとされています。加えて、アトピー性皮膚炎や喘息を含めると、2人に1人がアレルギーを持っていることになります。これは、1970年代以前に比べて大幅に増加しています。

 

アレルギー疾患の発症率が上昇

1970年代に何が起きたのか、という質問については、抗生物質の使用が一つの要因として挙げられます。抗生物質は、1950年代から急速に一般向けに使用されるようになりました。これにより、感染症の治療が大幅に進歩しましたが、同時に免疫系に与える影響も懸念されるようになりました。

具体的には、抗生物質の普及により、免疫系が過剰反応を起こす可能性があるという指摘があります。その結果、アレルギー疾患の発症率が上昇したと考えられます。80代以上の人々は、抗生物質が普及する前に成人しており、この影響を受けていない可能性が高いです。そのため、80歳以上の方々に花粉症が見られないのは興味深い現象です。

 

環境の変化や遺伝的な要素も関与している可能性

ただし、花粉症の根本原因が抗生物質であるかどうかは断定できません。他の要因、例えば環境の変化や遺伝的な要素も関与している可能性があります。しかし、抗生物質の普及と花粉症の急激な増加との間には関連がある可能性があります。

1970年代以前には、関節リウマチなどの自己免疫疾患の患者は極めて稀でしたが、その後、急速に増加しました。この増加には複数の要因が関与していると考えられますが、その一つが抗生物質の広範な使用です。抗生物質は、感染症の治療において画期的な成果をもたらしましたが、同時に腸内細菌叢を変化させ、免疫系に影響を与える可能性が指摘されています。

 

抗生物質が腸内細菌叢に与える影響

特に、抗生物質が腸内細菌叢に与える影響は、免疫系のバランスを乱し、自己免疫疾患の発症リスクを増大させる可能性があります。このような免疫系の過剰反応が、関節リウマチなどの疾患を引き起こす可能性があります。

また、自己免疫疾患の中で女性に多いものもありますが、これはホルモンの影響や遺伝的要因も関与しています。しかし、抗生物質の普及が自己免疫疾患の増加に与えた影響は無視できません。特に、関節リウマチや全身性エリテマトーデスなどの膠原病は、複数の臓器を攻撃する可能性があり、治療が難しい疾患です。このような疾患の増加は、医学界や研究者にとって重要な課題となっています。

 

自己免疫疾患の一つであるシェーグレン症候群

自己免疫疾患の一つであるシェーグレン症候群は、唾液腺と涙腺を攻撃する自己抗体によって引き起こされます。この症候群には、目の乾燥や口の渇きなどの症状が現れます。膠原病として知られる疾患は、なぜか女性に圧倒的に多く見られます。関節リウマチでは男性の4倍、全身性エリテマトーデスでは9倍、シェーグレン症候群では17倍もの差が見られます。

膠原病の中には、3つの代表的な疾患以外にも多くの種類があります。全身に存在するコラーゲンを攻撃するこの疾患は、個々の患者によって攻撃される場所や重症度が異なります。関節リウマチの患者がシェーグレン症候群も併発することもあります。

 

自己免疫疾患や腸内フローラが原因とされる可能性

また、神経細胞を囲む髄鞘を攻撃する多発性硬化症も女性に多く見られます。この病気の患者数は約2万人で、1970年代から急増しています。さらに、50歳以上の人に発症するパーキンソン病も自己免疫疾患や腸内フローラが原因とされる可能性があります。

特に、リン酸化α─シヌクレインというタンパク質の蓄積が中脳黒質のドーパミン神経細胞に影響し、ドーパミンが不足することがパーキンソン病の一因と考えられています。女性に発症する割合が高く、患者数は1970年代から急増しています。

 

精神疾患の患者数は急速に増加

精神疾患の患者数は急速に増加しており、現在では年々約30万人ずつ増え、400万人を超えています。厚生労働省の統計によれば、気分障がいや神経症性障がい、ストレス関連障がい、精神作用物質使用による障がい、アルツハイマー病などが増加しています。これらの疾患は、すべて1970年代以降に増加しています。

近年の研究から、人の気分や情動は腸内フローラが大きく影響していることが明らかになっています。簡単に言えば、脳に炎症が起こると気分が悪くなり、消極的になる傾向があります。

脳に炎症を引き起こす主な要因は、ストレスや疾患です。ストレスがあると気分が落ち込むことは理解できますが、インフルエンザや風邪で熱が出れば心も落ち込みます。実際、熱が出た時に“るんるん”な気分になる人はほとんどいません。

脳の炎症を抑えるのに役立つのが、健全な腸内フローラです。一方で、腸内フローラを破壊する抗生物質が精神疾患の原因になる可能性が指摘されています。

 

文部科学省の報告

文部科学省の報告によれば、「通級による指導を受けている児童生徒数の推移」から、注意欠陥多動性障がい、学習障がい、自閉症、情緒障がいの子どもが急激に増加していることが明らかになっています。

これらは発達障がいとして知られており、平成5年にはほとんど報告されていなかったことがわかります。多くの論文や書籍で、幼児の脳の発達に腸内フローラが大きな影響を与えると報告されています。加えて、大人でも腸内フローラが精神的な健康に影響を与えることが認識されつつあります。

このような情報を踏まえると、なぜ発達障がいや情緒障がいが増加しているのかという問いに対する答えは明確です。それは、腸内フローラの変化によるものです。そして、腸内フローラを乱す最も強力な要因が抗生物質なのです。実際、抗生物質の使用が始まった1950年代以降、特に1970年代から発達障がいや情緒障がいの発症が急増しています。

 

炎症という概念

炎症という概念をシミやシワの形成を通して説明すると、皮膚の紫外線への曝露により、活性酸素が発生し、これが皮膚の炎症を引き起こします。炎症性サイトカインとして知られる物質が放出され、結果として皮膚は赤く腫れることになります。この過程で、一部の細胞が死滅し、メラノサイトからメラニンが放出され、最終的にはシミやシワが形成されます。

しかしながら、大腸の酪酸菌を増やすことで炎症を抑制することができれば、皮膚のシミやシワの形成を防ぐことができます。皮膚は赤く腫れず、ゆっくりと日焼けし、結果として肌には美しい艶が生まれるでしょう。

 

免疫系は様々な種類の細胞から構成

大腸の酪酸菌が増えると、肌は滑らかになり、水分を保持する能力が向上します。血流も促進され、手足の冷え症も改善されます。このような状態になれば、高価な基礎化粧品を必要とせず、肌を美しく保つためのメイクアップ化粧品だけで済むでしょう。

免疫系は、様々な種類の細胞から構成されていますが、その中でも比較的機能が理解されているものについて説明します。免疫系の細胞は全て、骨髄で造血幹細胞から生成されます。赤血球や血小板などの血液細胞も同じ起源を持っています。骨髄で生成された細胞には単球、顆粒球、リンパ球が含まれ、単球は脾臓に蓄積されてマクロファージや樹状細胞などに分化します。

 

多様な種類のリンパ球が生成

リンパ球は胸腺に入ることでTリンパ球となり、また脾臓に蓄えられ、リンパ組織に移動します。分化したTリンパ球とBリンパ球はリンパ管、血流、組織を巡回し、異なるサイトカインの影響を受けてTh1、Th2、形質細胞、メモリーB細胞などに分化します。

Tリンパ球とBリンパ球は、外敵や異常細胞からの抗原に対するタンパク質を生成します。これらの抗原に対応するタンパク質は、多様な種類のリンパ球が生成されるため、外敵や毒性物質の抗原を効果的に抑えることができます。Tリンパ球では抗原認識受容体、Bリンパ球では抗体として知られるこれらのタンパク質が生成されます。

 

Tリンパ球は免疫系全体の司令塔

Tリンパ球は免疫系全体の司令塔であり、攻撃対象を決定する細胞です。したがって、Tリンパ球は自身の細胞を攻撃しないように、胸腺で厳しい審査を受けます。自己抗体を持つTリンパ球は破壊されます。リンパ管、血流、組織を巡回するリンパ球は、さらに分化して外敵や異常細胞を攻撃する役割を果たします。

好中球は血流中を流れる際、主に細菌を貪食し、緑色の膿になります。肝臓や脾臓に蓄積され、細菌が侵入した際には感染部位に移動します。また、マクロファージと共に、リンパ球が攻撃する前に抗原を貪食する役割を果たします。

 

Tレグ細胞に分化することが重要

花粉症を治すためには、Tリンパ球が大腸でTレグ細胞に分化することが重要です。この分化には酪酸が関与しており、Tレグ細胞は炎症を抑制する細胞です。炎症を抑える方法については未だ完全に解明されていませんが、腸内細菌が炎症を抑えることが示唆されています。フラクトオリゴ糖を摂取することで炎症が抑えられることが発見されています。これは新石器時代以前の人々が根菜類や野草、木の実、小動物、魚介類を主食としていた時代にも含まれていた成分です。

新石器時代以前の人々は狩猟採集をしており、蜂に刺されるなどの危険が常に付きまとっていました。しかし、フラクトオリゴ糖を大量に摂取していたことで、蜂や蚊に刺されても腫れないため、狩りを続けることができたと考えられます。

アレルギー疾患の予防について

アレルギー疾患は、近年急速に増加している健康問題の一つです。花粉症やアトピー性皮膚炎などのアレルギー性疾患は、生活の質を低下させるだけでなく、慢性的な症状を引き起こすこともあります。ここでは、アレルギー疾患の予防について考えてみましょう。

 

  • 適切な食生活の確保

食事は私たちの健康に大きな影響を与えます。適切な栄養バランスを保ち、多様な食材を摂取することが重要です。特に、新鮮な果物や野菜、健康的な脂肪を含む食品を積極的に摂取することで、免疫系を強化しアレルギー反応を抑える効果が期待されます。

 

  • 乳幼児期の適切な栄養管理

乳児期から十分な栄養を摂取することは、将来のアレルギー疾患の発症を予防する上で重要です。母乳は特に乳児の免疫システムをサポートし、アレルギーのリスクを低減する役割があります。乳児期にアレルギーのリスクが高い場合は、専門家の指導のもとで適切な対応を行うことが重要です。

 

  • 適度な運動と健康な生活習慣

適度な運動は免疫機能を強化し、炎症を抑制する効果があります。定期的な運動やストレス管理、良質な睡眠はアレルギーのリスクを低減することにつながります。また、喫煙や過度のアルコール摂取などの健康に悪影響を及ぼす生活習慣は控えることが重要です。

 

  • アレルゲンの適切な管理

アレルゲンはアレルギー反応を引き起こす主要な要因の一つです。アレルゲンが身の回りにある場合は、適切な対策を取ることが重要です。例えば、花粉症の場合はマスクの着用や室内での換気を制限するなどの対策が有効です。また、アレルギーを引き起こす食品や物質に対する適切な避け方も重要です。

 

  • 早期の対応と適切な治療

アレルギー反応が起きた場合は、早期に対処し適切な治療を行うことが重要です。アレルギーの症状が悪化する前に専門医の診察を受け、適切な治療法を選択することが予防のポイントとなります。

 

総じて、アレルギー疾患の予防には健康的な生活習慣や適切な対策が欠かせません。個々の体質や環境に応じて適切な予防策を講じることが、アレルギー疾患の発症を防ぐために重要です。

まとめ

我々の健康や疾患は複雑な関係によって影響を受けています。腸内フローラの重要性や食生活の変化が炎症や病気の発症に及ぼす影響は大きく、それを考えると日々の食事や生活習慣の見直しは極めて重要です。これからも科学の進歩によって、私たちの健康と疾患の関係性がさらに明らかになることでしょう。今後も健康を守るために、最新の情報に耳を傾け、適切な対策を取り入れていくことが不可欠です。

 

参考

なぜ花粉症は「国民病」になったのか…日本人の4割を苦しめる花粉症が1970年代から急増したワケ 花粉症を治すために本当に必要なこと #プレジデントオンライン

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