2024.05.27

ニューロダイバーシティ:多様性を尊重し、社会を活性化する 「発達障がいの雇用促進、職場の戦力に!」の背景と意味

ニューロダイバーシティとは、脳や神経の多様性を尊重し、社会の中でその違いを生かそうという考え方です。脳の特性の違いを理解し、発達障がい(神経発達症)を単なる病気ではなく個々の特性として捉え、その多様性を尊重する動きが広がっています。

発達障がい当事者に適切なサポートを提供することで、高い生産性を発揮できることが実証されており、企業の中には発達障がいを持つ人材を積極的に採用し、成果を上げている例もあります。

才能を持つ人材を発掘

ニューロダイバーシティの概念は、欧米の先進企業で10年以上前から取り入れられ始めました。例えば、マイクロソフトはニューロダイバーシティに特化した雇用プログラムを展開し、発達障がいを持つ170人を雇用しています。その結果、主力製品を扱うエンジニアも生まれており、SAPやヒューレット・パッカード・エンタープライズ(HPE)などの企業も同様の取り組みを行っています。これにより、従来の採用方法では発見できなかった才能を持つ人材を発掘することができています。

 

生産年齢人口の急激な減少

日本でも、経済産業省が2021年からニューロダイバーシティの調査を開始し、現在ではダイバーシティの一環として「ニューロダイバーシティの推進」を掲げています。その背景には、生産年齢人口の急激な減少があります。日本の総人口は2004年をピークに減少に転じ、2100年には4771万人にまで減少すると予測されています。このような急激な人口減少と高齢化が進む中で、多様な人材を活用することが不可欠となっています。

 

それぞれの強みを最大限に引き出す

ニューロダイバーシティの推進は、単に発達障がいを持つ人々の権利を擁護するだけでなく、社会全体の生産性向上にも寄与します。脳の特性の違いを尊重し、それぞれの強みを最大限に引き出すことで、より豊かで多様な社会を実現することができるのです。

図1 日本の総人口の推移予測(出典:国土交通省「国土の長期展望」中間とりまとめ)

 

生産年齢人口の減少は劇的

生産年齢人口の減少は劇的であり、経済産業省の予想によれば、2060年には2020年と比べて国内の生産年齢人口は約35%減少するとされています(図2)。

特に成長産業であるIT業界における人材不足は深刻な問題です。2030年には推定需要数約192万人に対し、供給数は約113万人と予測されており、最大で約79万人の人材不足が生じると試算されています。つまり、IT人材の需要の4割強が満たせないという現実が迫っています。

図2 国内生産年齢人口の変動予測(出典:令和3年度産業経済研究委託費;イノベーション創出加速のためのデジタル分野における「ニューロダイバーシティ」の取組可能性に関する調査)

 

社会全体の生産性向上に寄与することが期待

一方で、発達障がい当事者の就職率は33.1%と、障がい者全体の就職率46.2%に比べて低い現状があります。しかし、発達障がいの特性を理解し適切なサポートを提供すれば、その生産性は一般平均を上回ることも可能であるとの調査データもあります(図3)。このため、発達障がいを持つ人々に対する理解と支援を強化することは、彼らの潜在能力を引き出し、社会全体の生産性向上に寄与することが期待されています。

図3 職場でのサポートの有無による生産性への影響(一般平均を100%とした場合)(出典:第308回NRIメディアフォーラム資料)

 

障がい者雇用率も年々上昇

このような状況を背景に、経産省はダイバーシティ経営の一環としてニューロダイバーシティを推奨しています。なお、経産省の調査結果レポートでは、ASD、ADHD、LDの特性と企業活動に生かせる可能性のある強みを、表1のように例示しています。

表1 神経発達症の主な種類と特性、強み

国内生産年齢人口の変動予測(出典:令和3年度産業経済研究委託費;イノベーション創出加速のためのデジタル分野における「ニューロダイバーシティ」の取組可能性に関する調査)

 

障がい者雇用率も年々上昇しています。企業が発達障がい当事者の雇用を進める理由がもう一つあります。それは、障がい者雇用促進法に基づく障がい者の法定雇用率の達成です。これまで2.3%だった法定雇用率は2026年度までに2.7%に引き上げられることになっており、未達成の企業にはペナルティが科される予定です。

 

発達障がいの当事者を採用する動きが徐々に出てきている

法令順守の観点から、企業は障がい者の雇用を増やす必要がありますが、障がい者の就労移行などを支援するKaien(東京都新宿区)によると、「身体障がい者は配慮がしやすいことから、売り手市場となっており、採用は難しくなっている」とのことです。企業は障がい者雇用率を満たすために、身体障がい者以外にも対象を広げる必要があり、その際に、サポート次第で高い生産性が期待できる発達障がいの当事者を採用する動きが徐々に出てきています。

 

メンタルヘルス不調を生じて休職に至るケースも多い

障がい者枠での雇用の場合、精神障がい者保健福祉手帳を有するケースが対象となりますが、経産省が推進するニューロダイバーシティでは、一般枠、障がい者枠を問わず、発達障がい当事者の雇用を推進し、企業の戦力として活躍しやすい環境を整えることを推奨しています。

実際、障がい者手帳を持たなくても、職場には軽度の発達障がいの特性を持つ従業員が多く雇用されています。そのような従業員は精神科の受診歴がなく、自身の特性に気付いていない場合も少なくありません。一方で、発達障がいの特性を持つことから職場にうまくなじめず、トラブルを起こしたり、メンタルヘルス不調を生じて休職に至るケースも多いのです。

 

ニューロダイバーシティ:脳の多様性を尊重する新たな視点

近年、社会において多様性や包摂性が注目される中で、ニューロダイバーシティという概念が広く議論されています。ニューロダイバーシティは、「脳の多様性を尊重し、その個々の特性を社会に生かそう」という考え方を指し、発達障がいを含む脳の特性の違いをポジティブに捉えるアプローチです。

 

ニューロダイバーシティの概要

ニューロダイバーシティは、"neuro(脳)"と"diversity(多様性)"を組み合わせた造語であり、「脳や神経、それに由来する個人レベルの特性の違いを多様性と捉えて相互に尊重し、それらの違いを社会の中で生かそう」という考え方を指します。もともとは自閉スペクトラム症(ASD)当事者の権利擁護として誕生しましたが、その後、注意欠如・多動症(ADHD)、学習症(LD)などの発達障がい、他の精神疾患にも対象が広がりました。

 

ニューロダイバーシティの重要性

ニューロダイバーシティの重要性は、脳の特性の多様性を理解し、個々の強みを尊重することで社会全体の豊かさや創造性が高まるという点にあります。従来、発達障がいは病気や障がいとして捉えられることが一般的でしたが、ニューロダイバーシティの視点では、それらは単なる個々の脳の特性の違いに過ぎず、それぞれの個性や才能を生かすための多様性として捉えられます。

 

ニューロダイバーシティの実践例

ニューロダイバーシティの考え方は、企業や教育機関など様々な分野で実践されています。例えば、一部の先進的な企業では、ニューロダイバーシティに特化した雇用プログラムを導入し、発達障がいを持つ人材を積極的に採用しています。これにより、彼らの個性や能力を最大限に活かし、企業の成果に貢献しています。

まとめ

ニューロダイバーシティは、脳の多様性を尊重し、個々の特性を社会に生かす新たなアプローチです。発達障がいを含む脳の特性の違いをポジティブに捉え、多様な人材を社会に取り込むことで、より豊かで包括的な社会を実現することができます。今後も、ニューロダイバーシティの理念が広く浸透し、社会全体で多様性が尊重されることを期待しています。

 

参考

国が「発達障がいの雇用促進、職場の戦力に!」の背景と意味


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