2024.05.23

「荒らし」連投…誹謗中傷の深刻な背景と現実 VTuberを活動休止に追い込んだ匿名投稿者の半生と後悔

インターネットやSNS上には、匿名性を利用した攻撃的な投稿があふれています。直接的な被害を受けていなくても、タイムラインに流れる誹謗中傷を目にするだけで心に負担がかかることは少なくありません。

「みんな不愉快になればいいんだ」

最近、にじさんじ所属の「ライバー」が2000回以上の「荒らし」投稿により活動を休止に追い込まれました。その原因となった30代男性の半生と後悔について取材が行われました。

この男性は、自分の人生に行き詰まりを感じ、「みんな不愉快になればいいんだ」とヤケになって誹謗中傷を続けていました。「私は立ち止まることができなかった」と振り返る彼の言葉には、深い後悔の念が感じられます。

 

加害者が経済的理由で損害賠償を支払えないケースも

誹謗中傷を受ける被害者が直面するのは、見えない相手からの継続的な攻撃です。そして、いざ法的手段を講じても、加害者が経済的理由で損害賠償を支払えないケースも多々あります。今回のケースでも、加害者男性の行為は配信者とその所属企業に大きな損失をもたらしました。

ネットの匿名性がもたらす影の部分に迫り、被害者が立ち上がったときに加害者にはどのような現実が待っているのかを見つめることは、私たちにとっても重要な課題です。

 

ネット動画を見るのが彼の楽しみ

西日本在住の佐藤大輔さん(仮名・30代後半)は、家賃3万円、6畳半のアパートに住んでいます。彼の生活は質素で、食事は1日1食。起き抜けにお米を炊き、スーパーで買った肉や野菜を炒めて食べます。体調が悪い日は一日中横になり、体調が良ければゲームや散歩を楽しむ日々です。

彼が一日の大半を過ごす万年床の隣には、埃だらけのデスクトップパソコンが座卓の上に鎮座しています。このパソコンは、佐藤さんの生活の一部でもありました。夕方から4~5時間、ネット動画を見るのが彼の楽しみでした。

 

YouTubeライブを数日間にわたり「荒らし」続けた

しかし、2年前、この埃まみれのパソコンから、佐藤さんはある動画配信者のYouTubeライブを数日間にわたり「荒らし」続けました。彼の繰り返された攻撃は、配信者に大きな影響を与えました。

しばらくして、彼の元に企業から損害賠償請求訴訟の予告書が届きました。記載されていた賠償金額は、彼には到底支払えるものではありませんでした。この書面が届いたとき、佐藤さんは自分の行為がもたらした現実と向き合わざるを得なくなりました。

 

活動休止に追い込まれる

2022年8月、佐藤さんはにじさんじ所属のライバー(VTuber)のプライベートについて執拗に質問するコメントを10数分の間に100件近く連投する「荒らし」行為を行いました。

この行為はライバーに深刻な影響を与え、彼女は活動を即座に休止することになりました。その後、このライバーは仲間に迷惑をかけることを避けるために「卒業」を決意し、この出来事はSNSやネットニュースで大きな話題となりました。

 

「他のみんなに迷惑をかけることはできない」

ライバーは、配信中の悪質なコメントに悩まされており、佐藤さんの攻撃は彼女の精神的な負担を大きくしました。「他のライバーの配信において、自分に関する変なコメントが大量になされてしまっている。他のみんなに迷惑をかけることはできない」と彼女は所属会社ANYCOLOR株式会社に伝えました。

 

損害賠償請求訴訟を提起

ANYCOLOR株式会社(東京都港区)は法的手続きを通じて佐藤さんの身元を突き止め、損害賠償請求訴訟を提起しました。東京地裁は2023年6月、佐藤さんの個人情報の開示を命じる決定を下しました。

決定文には、「配信とは無関係な投稿を短時間に大量に続けて同社の営業活動を妨害し、さらにライバーの活動を休止させたことも踏まえれば、同社の営業権を侵害することは明白である」と記されています。

 

所属企業にも大きな損害

この一連の出来事は、ライバー本人だけでなく、関連商品が販売できなくなるなど、所属企業にも大きな損害をもたらしました。ライバーにとっての仕事である配信を妨害する「荒らし」は、法的にも業務妨害行為として違法行為とされることがあります。今回のケースは、その深刻な実例です。

 

信心深い母親の影響を強く受けた

今年2月、佐藤さんは取材のために京都市内にやってきました。障害者年金の支給直後でなければ交通費を捻出できない状況での訪問でした。

佐藤さんの生い立ちは、信心深い母親の影響を強く受けたものでした。彼の母親は6人の子どもたちに信仰心を最優先に教え、「母親の私が祈って信心を深めたからだ」と、良いことが起きるのは自分の信仰心のおかげだと主張しました。一方で、悪いことが起きると「お前の信心が足りないからだ。仏壇を拝みに行ってこい」と佐藤さんを責めました。

 

日々の生活は人格否定の連続

佐藤さんは、このような家庭環境の中で自己肯定感を育てることができず、日々の生活は人格否定の連続だったと振り返ります。彼が一度だけ大学進学を相談した際、母親はその願いを即座に否定しました。兄や姉と同じように、佐藤さんも高校卒業後はコンビニなどで働き、手取り13万円のうち12万円を母親に渡す生活を続けました。

 

うつ病と診断

そのような生活に苦しむ中、佐藤さんは学校で相談できる相手もおらず、やがてうつ病と診断されました。彼の過酷な家庭環境とそれによる精神的な苦悩は、後に彼がインターネットでの誹謗中傷行為に走る一因となったのかもしれません。

 

心のよりどころはネット動画だけ

心のよりどころは、自室のパソコンで見るネット動画だけでした。共通の趣味を通じて知り合った友人から家出を勧められ、彼の助言がなければ「確実に生きていなかった」と佐藤さんは振り返ります。

 

家族の暴言がよぎり夢にまで出てくる

友人の住んでいた土地に移り住んでから10年、佐藤さんは無職のまま6畳半の部屋で生活を続けました。通院先からは休養を指示されていますが、心の傷は今も癒えていません。彼の脳裏には、家族の暴言が今もよぎり、夢にまで出てくるといいます。その度に彼は平静を保てなくなり、「ダメだ。価値がない」と自分を責めてしまいます。

 

救いでもあり凶器でもあるインターネット

インターネットは彼にとって救いでもあり、凶器でもありました。心の支えとなるネット動画やSNS(X)で知り合った友人たちもいましたが、一方で発作的に被害妄想をぶつけてしまい、そのたびに親交が途切れ、後悔することも多かったといいます。

 

「衝動的だった」

配信での「荒らし」行為について「衝動的だった」と説明しました。「配信者もリスナーもみんな不愉快になればいいんだとヤケを起こした。前科も前歴もないし、冷静な状態ならやらなかった。あんなことをしたのは最初で最後」と彼は語ります。

 

「荒らし」2000件ほど投稿していたことを明かす

裁判の場で取り上げられた「荒らし」投稿は100件強でしたが、実際には同様の「荒らし」を2000件ほど投稿していたことを明かしました。「それも私がやりました。配信者にブロックされたことがわかると、新たにアカウントを変更して、荒らしを続けました」と佐藤さんは言います。

 

「私自身がされて一番嫌なことを同じようにしたのではないか」

彼によると、「2日以上、起きている時間のエネルギーすべてを荒らしに使った。次第に、自分がヤバいことをしたと自覚していった」という状況でした。当時は衝動的に荒らしをしていた一方で、「疑問系の投稿にすることで名誉毀損などのリスクは減らせるという気持ちがあった」「私自身がされて一番嫌なことを同じようにしたのではないか」と冷静に当時の状況を振り返ります。

 

過酷な家庭環境が心に深い傷を残し行動に影響を与えた可能性

さらに、彼はかつて家族から受けてきた暴言がどんな名誉毀損や侮辱に当たるのか調べていたこともあったといいます。佐藤さんは、家族からの暴言や過酷な家庭環境が彼の心に深い傷を残し、それが彼の行動に影響を与えた可能性があると感じています。

 

「自分には支払い能力がない」

荒らし行為を行った結果、プロバイダからの照会やANYCOLOR株式会社からの「損害賠償請求訴訟の予告通知」を受け取りました。2023年11月には「自分には賠償を請求されても支払い能力がありません。謝罪させて下さい」と同社にメールを送りました。

 

沙汰を待つ以外に方法がなかった

ライバーの活動休止や卒業に関するプレスリリースは当日に見たものの、佐藤さんはどう行動すればよいのかわからず、「謝罪しても受け入れてもらえるわけがない。金銭的な補償もできないし、沙汰を待つ以外に方法がなかった」と述べています。SNSの反応を見るのも怖く、見れば「怖くて死ぬしかない」と思い、実際には確認できませんでした。

 

活動休止が自分の荒らし行為が原因ではないと信じたい気持ち

佐藤さんは、活動休止が自分の荒らし行為が原因ではないと信じたい気持ちから、「神頼みに近いことを考えていた」と振り返ります。「裁判だけはいやだ。今度こそ死ぬしかなくなる。でもいやだ」と、現実逃避と逡巡を繰り返しながらも、「訴訟」という言葉を見て現実を認識せざるを得なくなりました。

 

信仰心を捨て現実と向き合う

その後、数か月間にわたりANYCOLOR株式会社と交渉を重ね、最終的に同社の提示した条件を受け入れることで示談が成立しました。佐藤さんは、「これは自分のやったことじゃない」と信じたかった信仰心を捨て、現実と向き合いながらも最後には和解に至ったのです。

 

時には命を奪う誹謗中傷

誹謗中傷は人を傷つけるだけでなく、仕事を奪ったり、表現活動を妨げたりする。そして、時には命を奪うことさえあります。佐藤大輔さんも、そのようなニュースに触れるたびに、被害者だけでなく加害者の立場にも思いを馳せるようになったといいます。

「私は自分が過去、家族にされてきたことよりも、一生をもっても償えないことをしました。誹謗中傷や罵詈雑言は被害者側に原因があるわけではなく、加害者側が悪いと声を大にして言いたい」と佐藤さんは語ります。

「自分の辛さに他人を巻き込むのは何よりやってはいけない」

佐藤さんは、自分の心に余裕がなく、吐け口として荒らし行為に及んだことを認めつつ、「誹謗中傷の報道をニュースで見るたび、加害者の中には無職の人や私よりひどいと思われる状況にある人も見受けられます。しかし、それは言い訳にならないし、誹謗中傷をする前に立ち止まることができるはずです。自分の辛さに他人を巻き込むのは何よりやってはいけない」と強調します。

 

過去の過ちを二度と繰り返さないと心に誓う

佐藤さん自身は、立ち止まることができずに荒らし行為を繰り返してしまいましたが、現在は「もう二度と同じことをやってはなるものかと覚悟しています」と決意を示しています。

誹謗中傷の加害者は民事・刑事で法的責任を問われることがあります。最近の法改正により、厳罰化も進んでいる状況です。「同じことをやれば、次は間違いなく罪に問われることも理解しています」と佐藤さんは述べ、過去の過ちを二度と繰り返さないと心に誓っています。

 

「Enterを押す前に一呼吸おいて立ち止まる」

佐藤さんは今も動画配信者のライブ配信への投稿やSNSへの投稿を続けていますが、自分を信じきれないと感じています。眠る前には、PCの電源を落として、「Enterを押す前に一呼吸おいて立ち止まる。書いている途中の内容を消すことも一度や二度ではなくなった」と述べています。

 

「無敵の人」

彼は病気や障害を理由に仕事につけず、家族や知人との縁も薄弱で、犯罪を犯すことを躊躇せず、法的責任を追及されても金銭的補償に応じない人々を「無敵の人」と呼ぶことがあります。

佐藤さんは、「罪の意識もなく、悪意ある行動を繰り返して、完全に無敵の人になった人には、解決策を示せない」と述べました。彼らが犯した罪には裁かれるべきであり、せめて誠意を示すべきだと考えています。

 

自分の状況の悪さは生まれの問題であり、社会に不満はない

そして、誹謗中傷の加害者を生み出す背景には、個人的な問題だけでなく、社会の問題もあるのではないか、との問いに対して、佐藤さんは「自分の状況の悪さは生まれの問題であり、社会に感謝し、不満はない」と答えます。

彼は、「やってしまった側の人間の自分から言えることは、誰にでも『善の部分』が少なからずあるはず。自分の中にあった大切なものを大切にしていけば、今より生きやすい世の中になるかと」と述べました。

 

誹謗中傷に振り回され続ける必要はない

インターネットは、佐藤さんをどん底から救い出した一方で、彼が人を傷つける原因ともなりました。匿名の書き込みの背後には、ネガティブな感情を他者にぶつける人々が存在します。

佐藤さんは生活保護や障害者年金を受け取りながら生活していますが、彼のような人間を支える社会を目指すことが重要です。しかし、それによって被害者が誹謗中傷に振り回され続ける必要はありません。これまで泣き寝入りをしてきた被害者たちは、次々と立ち上がって悪質な誹謗中傷に立ち向かっています。

 

違法・有害情報相談センターへの相談

違法・有害情報相談センターへの相談件数は増加傾向にあり、政府も対策を進めています。プロバイダ責任制限法の改正案が閣議決定され、悪質な投稿の迅速な削除をプラットフォームに義務付けることで、被害救済を図ります。

誹謗中傷対策チームは、約1500件もの情報を1カ月にわたって受け付け、投稿に対処しています。このような取り組みが、誹謗中傷による被害の軽減に向けて効果を発揮しています。

まとめ

誹謗中傷は加害者にも深刻な影響を及ぼします。加害者の一人、佐藤さんの証言を通じて、背景や心情が明らかになりました。被害者支援とともに、加害者への理解と教育も重要です。政府やプラットフォームの取り組みが誹謗中傷問題の緩和につながることを期待します。

 

参考

ライブ配信に2000回以上「荒らし」連投、にじさんじ所属「ライバー」を活動休止に追い込んだ匿名投稿者の半生と後悔(弁護士ドットコムニュース)#Yahooニュース


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