2024.05.17

全盲の柔道家「右手で相手を読む」土屋美奈子選手の挑戦と成長 目指すはパラリンピック・パリ大会

3月にトルコで行われた視覚障がい者柔道の国際大会で、1人の女性が日本代表として輝きました。彼女は見えない相手を右手の感覚で捉え、得意の投げ技で魅了しました。その瞬間、彼女はパラリンピックへの道を切り拓く柔道家としての一歩を踏み出しました。

『名古屋介護系柔道部』の門を叩く

『名古屋介護系柔道部』を訪れたのは、静岡県伊豆市に住む土屋美奈子選手でした。彼女は両目とも光を感じない状態でありながら、柔道の道を突き進んでいます。

「『名古屋介護系柔道部』というチームがあって、その練習に参加するために名古屋に来ました」と土屋選手は語ります。彼女は慣れた様子でタクシーに乗り、練習場所へ向かいます。伊豆の自宅から約4時間をかけ、名古屋に通う彼女の理由は、介護系柔道部で誘導や介助歩行の技術を持つ人が多いためです。「安全に見てもらえるのが一番大きい」と土屋選手は話します。

 

一般の柔道とはいくつか異なる「パラ柔道」

視覚障がい者の柔道、通称「パラ柔道」は、一般の柔道とはいくつか異なる点があります。実際、濱田隼アナウンサーが体験してみました。

「組み合った状態からスタートしていきます」と名古屋介護系柔道部の竹上勝さんが説明します。このため、パラ柔道では試合が始まるとすぐに激しい技の掛け合いが展開されます。

基本的なルールは一般の柔道と同じですが、試合中に選手同士の手が離れたら、仕切り直しとなります。

 

身長も測ることができる

濱田アナが「相手との距離はどのように測るのですか?」と尋ねると、土屋選手は答えます。「相手の襟を右手で持って、鎖骨の下に私は右手をくっつけておきたい。相手の身長もそうなんですけど、濱田アナが上体をひねった時に、どういう体勢になっているのかというのが分かるので」

その後、濱田アナが自身の身長について尋ねると、土屋選手は「180cmちかい」と答えますが、濱田アナは「179cmです」と補足します。

 

「試合中は体幹がずれないようにする」

さらに、濱田アナが右手の親指に神経を集中させる土屋選手に質問します。「試合中は体幹がずれないようにしています」と土屋選手は指摘します。続いて、濱田アナがアイマスクをつけてみます。

「一気に距離が詰まることによる『怖さ』。見えていると近づいたときに、距離をとって対応できるが、見えていないと何もできない。畳との距離が分からないので、いつ床が近づいてくるのか分からないので、受け身を取るのが難しいです」と濱田アナが感想を述べます。

 

怖さを払拭するまで10年以上かかった

その後、濱田アナが尋ねます。「土屋選手が怖さを払拭するまでにどのくらいかかったのですか?」すると、土屋選手は「正直10年以上はかかっていると思います」と答えます。

濱田アナは続けて、「パラアスリートとしての思いは?」と質問します。

土屋選手は「視覚障がいで全く見えないと『何もできない、生きていけない』と思う人もいる。『そうじゃないよ』と伝えられるポジションにいるのかなと思っています」と答えます。

土屋選手の言葉には、視覚障がい者としての困難に立ち向かい、自分の限界を超えようとする強い意志が感じられます。彼女の姿勢は、多くの人々に勇気と希望を与えています。

 

幼少期に両目の視力を失う

土屋選手は低体重で生まれ、幼少期に両目の視力を失いました。しかし、彼女は歌うことが大好きで、中学校ではバンドのボーカルを担当していました。

柔道との出会いは、彼女が高校生の時でした。「『腹筋を鍛えたら声の出し方が変わるよ』と聞いていたので」と土屋選手は語ります。彼女は大好きなバンド活動のために柔道を始めましたが、盲学校の大会で負けたことがきっかけで、本格的に柔道に取り組むようになりました。

 

「恩師」との出会い

次第に頭角を現し、2008年の北京や2021年の東京パラリンピックにも出場しました。その飛躍の裏には、「恩師」との出会いがありました。「相手の動きを見えるようにするための組み方を一番最初に教えていただいた。人間性も含めて、180度変わった期間でした」と土屋選手は振り返ります。

 

パラリンピックへの出場を志願

土屋選手の人生は、挫折や困難に立ち向かい、その中で成長してきた物語です。彼女の姿勢には、自分の夢を追い求める強い意志と、恩師への感謝の念が感じられます。

2016年、埼玉県川越市にある牛窪多喜男さんの道場を訪れた土屋選手は、2度のパラリンピックで金メダルを獲得した牛窪さんに東京パラリンピックへの出場を志願しました。

 

自分で決めることを求めた

「『4年後には東京大会が迫っている。東京のパラリンピックにぜひ出たい』だから『出るために教えてもらえないか』と」牛窪さんは土屋選手に何でも自分で決めることを求めました。

「土屋選手はものを決められない。トレーニングで使うバーベルを握る位置には、その人の好きな位置があるのに、それを『どこを持てばいい?』と聞いてきた。私が決めるんじゃなくて、本人が決めなきゃいけないが、分からなかった」と牛窪さんは振り返ります。

 

「本人が『なりたい』と思わなかったら強くならない」

自分の意思を持ち、周囲にはっきりと伝えることで、土屋選手の練習への取り組み方が変わっていったといいます。

「土屋さんは来た時とまるで変わりました。よく変わりました。はっきりものが言えるようになりました。強くなるには、ならせるのではなくて、本人が『なりたい』と思わなかったら強くならない」と牛窪さんは語ります。

土屋選手の決意と向上心が、彼女の柔道家としての成長を支え、次の挑戦に向けて彼女を強くするのです。

 

相手の情報を「手の感覚」で読み取る

稽古の中で、牛窪さんが伝えたのは、相手の情報を「手の感覚」で読み取ることでした。

この手首の使い方をしっかり特にできるだけ鎖骨に当てるように。相手が内股に来るとか背負ってくるとか、この手の感覚でつかめるようになる。手をしっかり相手に当ててないと分からない。目で判断できないんだから」と牛窪さんは指導します。

 

「尊敬する選手」

牛窪さんの指導を受け、東京パラリンピックに出場した土屋選手。同じ道場で練習する選手たちは、「技のキレがすごいと思います」と感心し、「全盲の選手は組んだ感覚だけが頼りになるので、本当にすごいと思います。尊敬する選手」と尊敬の念を抱きます。

3月のトルコ大会では土屋選手は5位に入りましたが、彼女は5月にジョージアで行われる世界大会でパラリンピック・パリ大会の切符をかけて戦います。

「期待していますから、元気にやってきてください」と牛窪さんは土屋選手にエールを送り、彼女の挑戦を待ち望んでいます。

 

おいしいご飯で「癒しのひととき」

定期的に名古屋に来て練習している土屋選手にとって、楽しみもあるようです。大須商店街を一緒に歩いているのは、パラ柔道の西村淳未選手です。練習の後は、おいしいご飯で「癒しのひととき」を過ごします。

「どんな話をしますか?」と尋ねると、西村淳未選手は答えます。「柔道のことだったり、今どんな練習してるのとか。プライベートもありますけど…」。そして、土屋選手は笑いながら「恋バナよくしてる(笑)」と付け加えます。

 

「やることを全部やって5月のジョージア大会に臨みたい」

つかの間のリラックスタイムの後は、再び「選手の顔」に戻ります。パリへの道をつかみ取るため、5月のジョージア大会へ、土屋選手は並々ならぬ決意で挑みます。

「パリの出場権獲得のためには、まだ“首の皮1枚”ある感じ。やることを全部やって、埼玉に来るとか、名古屋に行くとか、そこで練習して、やることを全部やって5月のジョージア大会に臨みたい」と土屋選手は語ります。彼女の執念と努力が、次なる大会での成功につながることを期待しています。

視覚障がいとは

視覚障がいは、視覚に関する問題によって引き起こされる状態であり、視力の損失や視覚機能の障がいが含まれます。この障がいは、先天性のものから後天性のものまでさまざまな原因によって引き起こされることがあります。

 

種類と原因

  • 先天性視覚障がい: 生まれつきの視覚障がいであり、胎児の発育過程で起こる問題や遺伝的な要因によって引き起こされることがあります。
  • 後天性視覚障がい: 生後に視力を失うことがあります。これは疾患、事故、加齢による眼の疾患などが原因となることがあります。

 

種類

  • 全盲: 完全な視力の喪失を伴う状態であり、目には何も見えません。
  • 弱視: 視力が低下しているが、一部の視力が残っている状態です。視力は限られていますが、視覚的な情報を得ることができます。

 

生活への影響

視覚障がいは日常生活に大きな影響を与えます。教育、雇用、交通、社会的交流などの面で様々な困難があります。しかし、技術の進歩により、視覚障がい者がより独立した生活を送ることが可能になっています。点字や音声合成技術、画像認識システムなどが役立ちます。

 

支援と対応

視覚障がい者にとって、適切な支援が重要です。教育機関や職業訓練機関が視覚障がい者のためのプログラムを提供しており、社会参加や自立を支援しています。また、身体的環境の改善やアクセシビリティの向上も重要です。

 

視覚障がいと全盲について

視覚障がいは、目の機能の障がいによって引き起こされる状態を指します。視覚障がいには、程度の差はありますが、目の機能に問題があるため、視覚情報を正確に認識できない状態が含まれます。主な原因には、先天性の異常、疾患、事故、老化などがあります。

 

完全に視力を失っている状態

一方、全盲は視覚障がいの一種であり、完全に視力を失っている状態を指します。全盲の人々は、見えることができず、周囲の環境や物体を視覚的に認識することができません。この状態には先天性の視覚障がいや後天的な原因によるものがあります。

 

日常生活において様々な困難

視覚障がいや全盲には、日常生活において様々な困難が伴います。例えば、情報の入手や移動、コミュニケーションなどが挙げられます。しかし、近年の技術の進歩により、視覚障がい者や全盲者がより独立した生活を送ることが可能になってきています。

点字や音声読み上げ、画像認識技術などの補助技術が役立ちます。また、視覚障がい者や全盲者への配慮が進んでおり、社会参加や権利の保護の面でも改善が見られます。

 

スポーツや芸術などの活動に積極的に参加

さらに、視覚障がい者や全盲者がスポーツや芸術などの活動に積極的に参加することも増えています。例えば、視覚障がい者柔道や視覚障がい者野球などのスポーツは、視覚に頼らずに技術や感覚を駆使して競技が行われます。また、音楽や文学などの芸術活動も視覚障がい者や全盲者にとって重要な表現手段となっています

 

共に支え合う社会を築くことが重要

視覚障がいや全盲は、個々の状況や環境によって異なる影響を与えますが、適切な支援や理解があれば、豊かな生活を送ることができます。そのためには、社会全体がバリアフリーな環境を提供し、差別や偏見を排除し、共に支え合う社会を築くことが重要です。

まとめ

土屋美奈子選手の姿勢は、挫折や困難にもめげず、柔道家としての夢に向かって前進する力強い証です。彼女の勇気と決意は、世界中の人々に勇気と希望を与えています。パリへの道を切り拓く彼女の挑戦を心から応援し、次なる成功を期待しています。

 

参考

全盲の柔道家「右手で相手を読む」飛躍の裏には「恩師」との出会い、目指すはパラリンピック・パリ大会(メ〜テレ(名古屋テレビ))#Yahooニュース


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