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“今、この瞬間”を生きる力を育むために

私たちは日々、たくさんの刺激や不安、周囲の期待にさらされています。
特に障がいがあると、「できないこと」に意識が向きやすく、心が休まる時間を持つことが難しいこともあります。
そんな中で注目されているのが「マインドフルネス」。
これは「今この瞬間に意識を向ける」心のトレーニングで、過去や未来に振り回されず、目の前の現実を穏やかに受け入れる力を育てます。
マインドフルネスは決して“特別な人”だけのものではありません。
呼吸を感じること、音を聴くこと、手を動かすこと――そうした日常の中に、心を整えるチャンスがたくさんあります。
この記事では、障がいを持つ人がマインドフルネスをどのように取り入れ、どんな変化を感じているのかを紹介します。
焦りや不安を和らげ、ありのままの自分で生きるためのヒントを、一緒に探していきましょう。
なぜ「今、この瞬間」に意識を向けるのか〜障がいと共に生きる日々の中で

気づかないうちに走っている「思考の自動操縦」
障がいを抱えると、たとえば移動の配慮、環境のバリア、体力・疲労・外部からの期待など、さまざまな「考えなければならないこと」が増えます。
結果として、頭の中は未来や過去、あるいは「どうすれば…」という思考であふれ、自分自身の“今”の感覚が置き去りにされがちです。
マインドフルネスとは何か〜評価せず「ただ観る」こと
日本マインドフルネス学会では、マインドフルネスを「今、この瞬間の体験に意図的に意識を向け、評価をせずに、とらわれのない状態で、ただ観ること」と定義しています。
障がいとともに生きる中で「〜しなければ」「〜すべきだ」という思考に気づき、それをちょっと脇に置くことで、心と体に余白をつくることができます。
参考リンク:日本マインドフルネス学会
障がい者・支援者の視点からのマインドフルネスの可能性
研究によれば、知的障がいや発達障がいのある人向けにもマインドフルネス・プログラム(例:MBSRなど)が生活の質(QOL)を向上させる可能性があるとされています。
また、障がいを抱える人の親や支援者を対象とした遠隔マインドフルネス介入の試みもあります。
マインドフルネスが障がいを抱える人にとって意味するもの

自分の感覚・思考・感情に気づくこと
障がいを持つことで、自分の体や感覚が以前と異なることに気づいたり、不安・焦り・疲労を抱えたりすることが多いです。
マインドフルネスでは「今、ここで感じていること」に意識を向けるトレーニングを通じて、その感覚に名前をつけ、認めることで“苦しみのループ”を緩める働きがあります。
非評価・非反応の態度を養うこと
「自分はダメだ」「もっとできるはずだ」という思いを繰り返すと、余計なストレスになります。
マインドフルネスでは、体験そのものを評価せず、“ただ観る”態度を育てることで、そのような思考の渦から少し距離をとることができます。
繰り返し・習慣化による“道具化”
障がいがあると、疲労や体調の波があり、集中力や意欲も安定しないことがあります。
そのため、「マインドフルネスを特別な時間だけで終わらせず、日常に取り入れる習慣化」が特に重要になります。
研究でも、継続したマインドフルネス介入が心理的な効果につながることが支持されています。
参考リンク・文献:日本国内における未成年者を対象としたマインドフルネスの実践に関する研究動向とその課題
障がいとタイプ別に見るマインドフルネスの応用

筋・運動系障がい(身体障がい)へのアプローチ
身体障がいがある場合、移動・姿勢・疲労がマインドフルネス実践時のハードルになることがあります。
ここでは、座位でもできる「ボディスキャン瞑想」や「呼吸に意識を向ける短時間ワーク」が有効です。
例えば、椅子に座って背もたれを使いながら、1〜2分間、自分の足や手の触感、呼吸の動きを丁寧に観察する。
疲れた日は、立ち上がらずに行えるワークから始めると良いでしょう。
発達障がい・知的障がいのある人向けマイルドな実践
知的障がいや発達障がいがある人に向けた研究では、“思考を止める’ことよりも、「目の前の感覚(音・匂い・触感)に気づく」トレーニングが効果的という結果があります。
具体的には、好きな音楽を流しながら「今、どの音が聞こえるか?」と問いかける、散歩中に「風が肌に触れている感覚」を味わうなど、“感覚集中”型のマインドフルネスが取り入れられています。
精神障がい(不安・うつ・PTSD含む)との関係
精神障がいを抱える場合、マインドフルネスは“思考の暴走”や“過剰な反応”を緩める目的で使われることがあります。
たとえば、マインドフルネス・ストレス低減法(MBSR)やマインドフルネス認知療法(MBCT)は、うつ・不安の再発防止プログラムとしても知られています。
障がいを持つ人が日々抱えるストレスや「安定を維持しなければ」という圧力に対して、「今ここにある呼吸」「今の身体の感覚」に戻る練習が有効になることがあります。
参考リンク:ストレスをためない心の態度 マインドフルネスのすすめ
実践ステップ:障がいを持つ人でも無理なく始めるマインドフルネス

ステップ① 身体・環境を整える
まず、実践のハードルを下げるために以下のような工夫をしましょう。
- 安定した姿勢をとれる場所・時間を見つける(車椅子、座位、寝た状態など)
- 照明・音・温度など、身体がリラックスできる環境にする
- 初期は1〜2分から始め、無理に長くせず“習慣化”を目指す
ステップ② 自分に合った「気づき」のツールを使う
マインドフルネスには様々な形式があります。障がいのある人は、自分の得意な感覚・動きを活かすことで実践しやすくなります。
- 呼吸に意識を向ける簡単ワーク
- ボディスキャン(体の一部ずつ観察)
- 感覚集中型ワーク(「肌に触れている感覚」「足底の感触」など)
また、日本国内の学会誌でも実践の枠組みが紹介されています。
参考リンク:マインドフルネス
ステップ③ 継続と振り返り/仲間や支援者と共有する
継続を助ける工夫として、日記形式で「実践した時間」「感じたこと」「続けてよかったこと」をメモしておくのがおすすめです。
障がいを持つ人の周囲には支援者・家族・仲間がいることが多いため、「一緒に実践」「振り返りを共有」することでモチベーションを保ちやすくなります。
また、“支援現場×マインドフルネス”という観点では、職業リハビリテーションの場での導入可能性も研究されています。
注意点・障がいを持つ人がマインドフルネスを行う際の配慮

無理をしない/過度な期待を手放す
マインドフルネスは万能ではありません。研究でも「すべての人に必ず効果が出るわけではない」ことが指摘されています。
特に障がいやトラウマのある人は、古い痛み・記憶・感覚が呼び起こされる場合もあるため、“安全な環境で少しずつ”が重要です。
体調・疲労・環境の波を理解する
障がいを持つ日々には、体調・疲労・センサー感覚の過敏などが起こりやすいです。
座位が辛い日、動きづらい日には短く実践する、または横になって行うなど、柔軟に調整しましょう。
専門家・支援者との連携を
もし呼吸困難・筋・神経系の障がいや重度の精神症状がある場合、マインドフルネスを始める前に医療・心理の専門家に相談することをおすすめします。
導入プログラムでは「安心できる支援付き」が望ましいとされています。
事例紹介:障がいを抱えながら実践したマインドフルネスの声

Aさん(車いす利用/身体障がい)
Aさんは、移動の際に体力や疲労に悩んでいました。
マインドフルネスを少しずつ取り入れ、毎晩ベッドで「呼吸を丁寧に感じる」時間を2分設けました。
すると、「移動時に感じる体の緊張が少し軽くなった」「移動後すぐに休むしかなかった日が、少し動ける時間が増えた」と変化を感じたと言います。
Bさん(発達障がい/感覚過敏あり)
Bさんは、騒がしい場所や変化の多い動きに疲れやすかったのですが、「歩くときに足裏の感触を5秒意識する」「電車内で窓のガラスに触れた感覚を味わう」といった“感覚集中型マインドフルネス”を取り入れました。
その結果、「気づいたら息が浅くなっていた」「でも、気づけることで“あ、ちょっと休もう”と自分に声をかけられるようになった」と語ります。
Cさん(精神障がい/不安・うつ傾向)
Cさんは、不安の波が来る度に“思考の渦”に陥っていました。
マインドフルネスで「思考が来たら、雲が流れるようにただ通り過ぎる」というメタファーを使って練習すると、「あれ、思考に飲まれてたけど、抜けられた」と感じた日が増えたそうです。
数週間の実践後、「不安が来たときに“来たね”って言える自分がいた」と話しています。
まとめ:障がいをもっていても、“今、この瞬間”に寄り添える自分になる
マインドフルネスとは、特別なポーズや長時間の瞑想ではなく、「今、ここにあるもの」に意識を向ける習慣です。
障がいをもって生きると、それぞれの体・環境・感覚に独自の課題があります。だからこそ、自分に合った方法で、少しずつ“気づき”を育てることが大切です。
マインドフルネスを通じて得られるものは、
- 自分の身体・感覚・思考に気づくこと
- 執着せず、評価せず、体験を観ること
- 日常に“余白”をつくること
この3つを少しずつ生活に取り入れ、支援者や家族と共有することで、「障がいがあるからこそ得られるやさしさ」や「丁寧な生き方」が育まれます。
あなたのペースで、“今、この瞬間”と向き合える時間を始めてみてください。