うつ病と診断され薬を飲んだら症状が悪化…実は「男性更年期障がい」:うつ病との間違いやすい症状とその対処法
医師の中村有吾さんによれば、うつ病と間違われやすい病気が存在します。男性更年期障がいでは、うつ病特有の症状である「気分の落ち込み」が現れることがあります。これに対して、抗うつ薬や抗不安薬を常用しても、症状が悪化する場合もあるとされています。
「うつ病」と診断されたAさん
千葉県在住の50代の男性、Aさんは、食品メーカーで働いています。最近、やる気の低下や気分の落ち込みに悩まされ、心療内科を受診した結果、「うつ病」と診断されました。
治療が始まり、抗うつ薬や抗不安薬を服用していましたが、逆に回復どころか、記憶力や集中力の低下を感じるようになってしまいました。
仕事でのミスが増え、上司に叱責されることも度々あります。イライラが募り、部下や奥さんにも怒りをぶつけることが増え、Aさん自身も以前の自分とはかけ離れた状態に困惑しています。
産業医との面談で告げられた言葉
産業医との面談で告げられたことが、Aさんにとって大きな衝撃でした。1年前に心療内科でうつ病と診断されて以来、彼はその診断を信じてきました。
しかし、産業医が「Aさんはうつ病ではないかもしれません。一度くわしく調べてみるといいでしょう」と言ったことで、彼の考えが揺らぎました。以前からの症状や心療内科の診断に基づき、うつ病と受け入れていた彼にとって、この言葉は驚きでした。
「男性更年期障がい」であると確定診断
退職後、Aさんは派遣社員として再就職しました。症状が改善することを期待して勤務時間を短く調整しましたが、2年経っても改善の兆しが見られませんでした。
そこで、ようやく私のクリニックを受診しました。私のクリニックは男性更年期障がい専門のクリニックであり、以前の産業医との面談で「男性更年期障がい」の可能性があると示唆されていたことをAさんは覚えていました。
診察と血液検査の結果、Aさんは加齢によるテストステロンの減少によって引き起こされる「男性更年期障がい」であると確定診断されました。
うつ病と診断されやすい症状が見られる
Aさんのケースは決して他人事ではありません。男性更年期障がいでは、うつ病と診断されやすい症状が見られます。その特徴は、「気分の落ち込み」「記憶力や集中力の低下」「イライラ」「疲労感」といったものです。
さらに、「気分の変動」「エネルギーの低下」「睡眠障がい」「悲しみの感情」「性欲減退」「活動への興味減退」なども男性更年期障がいの特有の症状です。これらの症状はうつ病と非常に似ており、症状が改善されないこともよくあります。
男性更年期障がいと確定するのは難しい
血液検査でテストステロンレベルを測定しない限り、男性更年期障がいと確定するのは難しいです。実際、私のクリニックを受診する方の約10%が、過去にうつ病と診断された経験があります。
男性更年期障がいがうつ病と誤診された場合、Aさんのように抗うつ薬や抗不安薬が処方されることがあります。ただし、一部の抗うつ薬や抗不安薬にはテストステロンを減少させるものがあるため、男性更年期障がいが悪化してしまう可能性があります。うつ病の症状が改善されない状態が1年以上続く場合は、専門医を受診することをおすすめします。
「更年期障がいは女性のもの」という誤解
「更年期障がいは女性のもの」という誤解が広まっているため、男性の更年期障がいがまだあまり認知されていないと考えられます。このため、男性の更年期障がいに苦しんでいる人々が受診することが少なく、それがうつ病と勘違いされる一因になっています。
また、一般的な健康診断では血液検査でテストステロンを測定する項目がないため、会社の定期健診などでは更年期障がいが見落とされることもあります。
最も多いのは50代
一般的に、ホルモンバランスは40代から崩れやすくなるとされています。私のクリニックでは、30代から60代までの幅広い年齢層の患者さんが訪れますが、その中でも最も多いのは50代です。加齢とともに更年期障がいが発症することが多いですが、生まれつきテストステロンが少ない若年性の男性更年期障がいもあります。
男性更年期障がいの症状
もし、中年の男性で以下のような症状がある方や、うつ病の治療中で1年以上改善しない場合は、ぜひ専門医を受診してください。
- エネルギーの低下:一般的な疲労感や活力の不足。
- 気分の変動:気分の落ち込み、不安、イライラ感などの変動。
- 睡眠障がい:睡眠の質の低下、不眠症、あるいは過度の眠気。
- 性欲の減退:性的興味の低下や性的な活動への意欲の低下。
- 勃起機能の問題:勃起の維持が難しくなる、勃起の質が低下することがある。
- 筋肉量と体力の低下:筋肉が減少し、体力が以前よりも低下する。
- 体重増加:特に腹部周囲の脂肪が増加することがある。
- 骨密度の低下:骨がもろくなり、骨折しやすくなることがある。
- 集中力の低下:作業に集中するのが難しくなり、仕事や日常活動に影響が出ることがある。
- 記憶力の問題:記憶力が低下し、物事を忘れやすくなることがある。
筋トレがテストステロンの分泌を促進
まず第1に、適度な運動が挙げられます。筋トレがテストステロンの分泌を促進するというのは重要なポイントです。男性更年期障がいの原因は、加齢によってテストステロンレベルが低下することです。そのため、男性更年期障がいを完全に防ぐことは難しいですが、予防策を講じることはできます。
テストステロンは筋肉や骨を構築するのに必要なホルモンです。そのレベルが減少すると、心臓病や骨粗鬆症などのリスクが高まる可能性があります。
週に数回の運動はホルモンバランスの安定に良い影響を与え、心血管の健康や筋肉量、骨密度の維持につながります。
特に筋トレは、テストステロンの分泌を促進するとされています。ただし、筋トレを過度に行うと逆効果になることもあるので、適切な量と方法を選ぶことが重要です。
バランスの良い食事
第2に、バランスの良い食事はホルモンレベルを安定させるのに重要です。特に亜鉛の摂取は、テストステロンの生成を助けます。また、筋肉量や骨の健康維持のために、良質なタンパク質やビタミンD、カルシウムの摂取も重要です。
男性更年期障がい対策におすすめの食材としては「牡蠣」や「赤身肉」があります。また、食事とあわせて、ビタミンDやミネラルのサプリメントを適切に使用するのも効果的です。
悪影響を及ぼす習慣を避ける
ホルモンバランスに悪影響を及ぼす習慣を避けることも男性更年期障がいの予防に重要です。
「ストレス」「不眠」「喫煙」「過度のアルコール摂取」は、ホルモンバランスの乱れをもたらし、男性更年期障がいのリスクを高めます。特に喫煙は避けたほうが良いと考えられます。私のクリニックを訪れる男性更年期障がいの患者さんのうち、約20%が喫煙者です。
また、「ストレス」の悪影響も見逃せません。クリニックに訪れる患者さんには、心配性や神経質な性格の方が比較的多いと感じます。
精神的な健康を保つためには、ポジティブな考え方や、家族・友人との良好な関係を築くこと、社会的なつながりを持つことが重要です。
適切な治療を受けることを検討してほしい
前述のAさんは、不調の原因がうつ病ではなく、男性更年期障がいだと判明してから、テストステロン補充療法(ホルモン補充療法)を開始しました。これは、減少したテストステロンを注射によって補充する治療法です。
また、Aさんは食事や睡眠などの生活習慣の改善にも取り組みました。ジムに通い、筋トレに励んだこともその一環です。
こうした努力の結果、治療を開始してわずか2カ月で、Aさんの症状は劇的に改善しました。うつ病に悩まされている特に50代以上の男性は、ぜひこの事例を参考にして、自身の症状の原因を正確に把握し、適切な治療を受けることを検討していただきたいと思います。
男性更年期障がい:加齢とホルモンの変化による影響
男性更年期障がいは、女性の更年期障がいと同様に、加齢に伴って男性のホルモンバランスが変化することによって引き起こされる症状のことを指します。近年、男性更年期障がいの認知度が高まってきていますが、まだ多くの人々がその存在や影響について知識が不足しています。以下では、男性更年期障がいの定義、原因、症状、診断方法、治療法について詳しく解説します。
男性更年期障がいとは
男性更年期障がいは、男性ホルモンであるテストステロンの減少に伴う症状のことを指します。一般的に、40代から60代の男性にみられることが多く、加齢とともに症状が進行する傾向があります。
原因
男性更年期障がいの主な原因は、加齢によるテストステロンの自然な減少です。加齢に伴い、睾丸からのテストステロンの生成能力が低下し、血中のテストステロンレベルが徐々に低下します。また、生活習慣やストレス、遺伝要因なども症状の発現に影響を与える可能性があります。
症状
男性更年期障がいの症状は多岐にわたりますが、主なものには以下が含まれます。
- 性的機能の低下(勃起障がいや性欲の低下)
- 精神的症状(うつ症状や不安感)
- 身体的症状(筋力の低下や体脂肪の増加)
- 睡眠障がい
- 集中力や記憶力の低下
診断
男性更年期障がいの診断は、主に症状の出現と血液検査によって行われます。一般的に、テストステロンの血中濃度が一定の基準以下であることが診断の基準とされます。
治療
男性更年期障がいの治療法には、テストステロン補充療法(ホルモン補充療法)があります。これは、減少したテストステロンを注射やゲルなどの製剤で補充する治療法です。また、生活習慣の改善やストレス管理、適切な栄養摂取も症状の緩和に役立ちます。
適切な治療や生活習慣の改善
男性更年期障がいは、加齢に伴うホルモンバランスの変化によって引き起こされる症状であり、適切な治療や生活習慣の改善によって管理することが重要です。症状が出ている場合は、早めに専門医の診察を受け、適切な対処を行うことが大切です。
まとめ
男性更年期障がいには、多くの人が気づきにくい要因が存在します。Aさんのケースは、その典型例であり、うつ病として誤診されることがありますが、実は男性更年期障がいの症状であることが示唆されています。
このような誤診は、患者の状況を悪化させる可能性があります。したがって、男性更年期障がいに関する正しい知識を広め、早期の対処を促すことが重要です。男性更年期障がいについて理解を深め、その症状と対処法について知識を得ることが、患者や医療従事者にとって重要な一歩です。
参考
心療内科で処方された抗うつ薬・抗不安薬を飲んだら症状が悪化…「うつ病」と間違いやすい病気の名前 「気分の落ち込み」という特有の症状だったが… #プレジデントオンライン