2024.03.15

「境界知能」レッテル貼りに使うことは避けてほしいと専門家:障がいと診断されない「生きづらさ」を語る当事者の声

境界知能という言葉が社会的に注目を集めています。これは、知能指数が70以上85未満の範囲に位置し、知的障がいと平均域の間のグレーゾーンにある人々を指します。ABEMA Primeでは、この問題について当事者や専門家との討論が行われました。

 

「境界知能」批判やレッテル貼りに使われる

この用語はしばしば政治的な支持者やSNS上でのネガティブな行動を取る人々が境界知能と揶揄されることがあり、批判やレッテル貼りに使われる言葉になりがちです。

さらに、詐欺被害者やミスを犯す部下など、様々な状況においてこの言葉が使われ、軽率な決めつけの対象にされています。

境界知能の人々が実際に何に困っているのか、そして、この言葉を使うことの倫理的な側面について真剣に考える必要があります。

 

自らの能力に対する不安

20代のNさんは、自身が境界知能であることを6年前に知りました。IQの検査により、彼女のIQが平均値の81であることが判明しました。これにより、彼女は自己価値を低く評価し、自らの能力に対する不安を抱くようになりました。

更に、カウンセリングを受けた結果、彼女は会話や言葉の理解に苦労していることが明らかになりました。このため、彼女は周囲から理解されず、孤立することも経験しました。日常生活においては問題がないかもしれませんが、彼女にとっては生活が難しい状況が続いています。

 

「人付き合いがうまくいかず問題ばかり起こしていた」

Nさんは、対人関係やコミュニケーション、先を考えて行動すること、感情のコントロール、そして勉強において苦労しています。学生時代は特に人間関係でのトラブルが絶えず、先生からも否定的な評価を受けることが日常茶飯事でした。

「人付き合いが全然うまくいかなくて、問題ばかり起こしていた」と振り返ります。そして、社会に出るとますます周囲とうまくやっていけないことが多く、それが彼女の人生を苦しめています。

 

1年で解雇されたことがきっかけ

彼女がIQを診断したきっかけは、6年前に会社をクビになったことでした。以前は就労移行の支援員をしていましたが、自身の不得意な点が明確になりました。

感情のコントロールやコミュニケーションがうまくいかず、上司からは「あなたがいたら迷惑です」と言われ、わずか1年で解雇されました。この経験が彼女にとって大きなショックであり、自己を見つめ直す契機となりました。

 

家事などは問題なくこなすことができる

しかし、彼女には得意なこともあります。例えば、掃除や家の片付けなどの家事に関しては問題なくこなすことができます。

このように、彼女の能力にはばらつきがありますが、それぞれの得意分野を活かして生活していくことができます。そのため、自らの弱点を受け入れながら、自己成長を目指して前進しています。

 

「境界知能という言葉を知れて良かった」

Nさんが境界知能であることを知れて良かったかについて、彼女は「私はただの発達障がいではないと思っていた。発達障がいは能力が高い人もいるが、私は言葉の意味を知らなすぎたり、人よりも動作が遅かったりする。検査をして境界知能という言葉を知れて良かった」と答えました。

彼女にとって、自身の特性や困難に名前がつけられたことは、自己理解を深める一助となったのです。境界知能の特徴は、「注意」「記憶」「言語理解」「知覚」「推論・判断」の5つの認知機能に現れます。これらの機能に課題を抱えることから、勉強や対人関係での誤解が生じることもあるのです。

 

「障がいのカテゴリーに当てはまらないが“困りごと”を抱えている人たち」

昭和大学・発達障がい医療研究所所長の太田晴久さんは、「境界知能は病名ではない」と指摘し、「知的障がいのカテゴリーに当てはまらないけれども、“困りごと”を抱えている人たち」と述べています。

太田さんが示すように、境界知能の人々はある種の「困難」を抱えているものの、それは単なる病気ではなく、個々の特性や能力の一部として理解されるべきです。

このような認識を持つことで、境界知能の人々は自己受容を促進し、自らの困難に対処するための適切な支援を得ることができるでしょう。

 

発達障がいと境界知能

発達障がいと境界知能は異なるものであるということを強調する一方で、「発達障がいを疑って受診し、IQ検査をすると境界知能もあったという併存するケースはよくある」という事実も指摘されました。つまり、これらの状態は同時に存在することがあり、厳密な区別が必要であるとされています。

境界知能の検査については、10個の基本検査を通じて、「知能検査(WAIS-IV)」と心理士などの専門家による問診を組み合わせて行われます。これにより、全検査IQや言語理解指標、知覚推理指標、ワーキングメモリー指標、処理速度指標など、複数の指標から総合的な結果が得られます。

 

専門家が総合的に判断する

太田さんは、「知的障がいはIQを元に、うまくいかないこと、どのくらい社会に適応できているかということから、専門家が総合的に判断する」と述べ、一方で「境界知能に診断基準はない」と指摘しています。

境界知能は知的障がいに該当しないものの、IQ値がやや低い人々を指す言葉であり、診断の基準は曖昧であることを示唆しています。

 

低学歴などのレッテルとして用いられることがある

太田さんはさらに、「境界知能」という言葉がサポートを必要とする人々への支援を意図している一方で、低学歴などのレッテルとして用いられることがあるとして抵抗感を示し、「検討が困難になる可能性がある」と危惧しています。つまり、境界知能という言葉の誤用や誤解が、本来の支援の目的を妨げる可能性があることを懸念しているのです。

 

本人を傷つけてしまったりする

「ネットを見る限り非常に侮蔑的に、他人を批判するための言葉として使われてしまっている。IQ検査をして“あなたは境界知能だ”と伝えるのは非常に気を遣うし、言われた方もショックを受ける。そういう中で、患者さんや当事者から離れた場所でワードだけが使われてしまうと、偏見に繋がって必要な検査ができなかったり、本人を傷つけてしまったりする」と述べられています。

境界知能に対する言葉の扱いに関して、ネット上では冷酷な言葉が横行しており、特に相手を傷つける言葉を求める傾向があるようです。以前は知的障がい者やアスペなどといった言葉が使われていましたが、最近では境界知能という表現が登場し、それを利用して攻撃する人々も増えているようです。

 

理解を深める

一方で、太田さんは「境界知能で困っている人とちゃんと接したことがないのだと思う。外来に来ている人たちは非常に苦しんで悩んで過ごしている。その人を罵倒する気持ちには通常ならないだろう。頭の中のワードと実態がずれているのが現状だと思う」と述べています。

境界知能を持つ人々は、実際にはさまざまな困難に直面しており、その苦悩や問題に対して苦労しています。彼らに対して侮辱的な言葉を使うことは適切ではありません。境界知能という言葉は、支援を必要とする人々への理解を深めるためにあるべきであり、そのような意図で使われるべきであると太田さんは主張しています。

境界知能:誤解されがちな概念

境界知能という言葉は、近年頻繁に耳にするようになりましたが、その意味や背景について誤解が生じていることも多いようです。多くの人が境界知能について知り、誤解を解くことが重要です。

 

境界知能とは

境界知能とは、知能指数(IQ)が70以上85未満であり、知的障がいと平均域の間のグレーゾーンに位置する人々を指します。言い換えれば、知的障がいには当てはまらないものの、一般的な知能水準に到達していない状態を指す用語です。

 

特徴

境界知能の特徴は、注意、記憶、言語理解、知覚、推論・判断などの認知機能に現れます。勉強が苦手であったり、状況把握が難しかったりすることがあります。また、対人関係やコミュニケーションにも課題を抱えることが多いです。

 

誤解されやすい点

境界知能と発達障がいが混同されることがありますが、それらは異なる概念です。発達障がいは、発達の遅れや障がいがある一連の状態を指し、境界知能はその一部として位置付けられます。また、境界知能は個々の能力や特性の一部であり、人々を単純に分類するためのラベルではありません。

 

境界知能と社会的影響

境界知能に対する誤解や偏見が社会的な影響を与えることがあります。例えば、ネット上では境界知能を含む言葉が侮蔑的に使われることがあり、その結果、当事者やその家族が傷つくことがあります。また、境界知能を持つ人々が適切な支援を受けられない場合もあります。

 

境界知能への理解と支援

境界知能を持つ人々への理解と支援が重要です。このためには、正確な情報を提供し、偏見や誤解を解消することが必要です。また、教育や助言、適切なサポートを提供することで、境界知能を持つ人々が社会で充実した生活を送ることができるよう支援することが求められます。

 

境界知能の重要性

境界知能の理解と支援は、社会全体にとって重要です。なぜなら、境界知能を持つ人々が適切な支援を受けることで、彼らの能力や可能性を最大限に引き出し、社会への貢献が期待できるからです。そのためには、個々のニーズや困難に応じた適切な支援が必要です。

 

偏見と誤解への対処

境界知能に対する偏見や誤解は、情報の啓発と教育を通じて克服されるべき問題です。一般の人々や専門家、メディアなどが正確な情報を提供し、偏見を打破し、境界知能を持つ人々が社会で尊重される環境を整えることが重要です。

 

境界知能の理解と啓発

境界知能に対する正しい理解と社会的な啓発が必要不可欠です。そのためには、教育機関やメディアを通じて、境界知能に関する情報を広く普及させる必要があります。また、専門家や関係者が積極的に情報を提供し、境界知能を持つ人々が適切なサポートを受けられるようにすることも重要です。

 

境界知能の社会への貢献

境界知能を持つ人々が適切な支援を受け、自己実現を果たすことは、彼らだけでなく、社会全体にとってもプラスになります。彼らの多様な視点や能力が、新たなイノベーションや問題解決につながる可能性があります。そのため、境界知能を持つ人々の声やアイデアを尊重し、彼らが社会で活躍できるような環境づくりが求められます。

まとめ

境界知能は、知的障がいと一般的な知能水準の間に位置する状態を指す概念です。しかし、その理解や認識は依然として不十分であり、偏見や誤解が存在します。境界知能を持つ人々が適切な支援を受け、社会で自己実現を果たすためには、情報の啓発と教育が欠かせません。彼らの多様性を尊重し、彼らの能力を最大限に活かす社会の構築が求められます。

 

参考

ネットで先鋭化する“境界知能” 障がいとは診断されない“はざま”の生きづらさ 「レッテル貼りに使われると検査や支援の検討困難に」専門家は危惧 | 2024/3/6 - ABEMA TIMES

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