2024.04.12

ASDの人が”いじめの記憶”にずっと苦しむ理由 直面する課題とサポートの必要性

発達障がいの人が直面する課題について、精神科医の岩波明氏は興味深い洞察を提供しています。彼によれば、ASDの人はいじめの標的になりやすいと指摘されています。

ASDの人は記憶力が優れているため、いじめの記憶を消し去ることが難しいことが挙げられます。このことは、成人してもその苦しみが続く原因となるでしょう。岩波氏の指摘は、発達障がいの人々が抱える困難な現実を浮き彫りにし、その理解と支援の必要性を強調しています。

 

ASDの子どもたちが集団生活で直面する課題

ASDの子どもたちが集団生活で直面する課題の1つは、役割分担や自己認識の難しさです。クラスでのグループ作業やプレゼンテーションなど、他の子どもたちとの調整が難しく、自分の興味や得意分野に没頭してしまうことがあります。

 

『なんでそんなに書いてきたの?』

以前、私がサポートしていたASDの子どもがこんな経験を共有してくれました。「学校で、みんなで文集を作ることになりました。テーマごとに分担し、それぞれが調査して書いて、それをまとめるという形式でした。私は『宇宙』というテーマを担当しました。夢中で調べて書いて、完成したものを持って行ったら、クラスメイトから非難されました。『なんでそんなに書いてきたの?』って言われました。自分では何が悪いのか理解できませんでした。

こうした状況では、先生やクラスメイトがその子の特性を理解し、適切なサポートを提供することが重要です。他の子どもたちとのコミュニケーションを円滑にする「仲介役」として立ち振る舞うことで、より良い結果が得られる可能性があります。

 

みんなと一緒にやる行動は苦手で嫌い

ASDのお子さんが教室の中でグループに入らずにぽつんとしているのは、彼らが「みんなと一緒にやる行動は苦手で嫌い」という特性と関連しています。また、「場の空気」を読むことが苦手であるため、クラス内のグループダイナミクスを理解し、適切に立ち回ることが難しいのです。

小学校高学年になると、クラス内でさまざまなグループが形成され、それぞれのグループごとに異なる雰囲気や空気が存在します。このような状況下で、ASDのお子さんは周囲の雰囲気を感じ取ることが難しく、自らグループに参加することが難しい場合があります。その結果、彼らは通常、他の子どもたちと一緒にいることよりも、ひとりで行動することを選択する傾向があります。

 

いじめを行う子どもたちも存在

このような状況では、周囲のクラスメイトが理解と配慮を示せば問題はありませんが、中にはASDのお子さんを標的にしていじめを行う子どもたちも存在します。彼らはASDのお子さんがひとりでいることを見て、標的にすることを決めることがあります。このようないじめは、クラス全体に広がってしまう危険性もあります。

 

特定の事柄に強いこだわりを持っていたIさん

Iさん(男性)はASDと診断されています。彼の幼少期には、他の子どもたちと遊んだ記憶がほとんどありませんでした。彼は普通に遊ぶことよりも、1人でいることを好み、特定の事柄に強いこだわりを持っていました。

彼の記憶には、公園の砂場で遊んだり、三輪車に乗ったりといった典型的な子どもの遊びの場面はありません。父の実家に連れて行かれた際も、1人で外を眺めてバスが通るのを楽しんでいたことを覚えていますが、相手をしてくれる人がいなかったとのことです。

親に連れられて公園や電車、バスに乗ったことはあったものの、両親が忙しく一緒に過ごす時間が少なかったため、他の家族をうらやましく思っていました。

 

そそっかしい性格だった

幼稚園では集団行動には参加していましたが、1人で過ごすことが多く、親しい友だちはできませんでした。彼はそそっかしい性格で、幼稚園で転んで大泣きしたり、近所のアパートで手を振ってレコードやステレオを落として泣き叫んだりすることがありました。

Iさんの小学生時代は、苦しい経験が多かったようです。彼は小学校の就学時健診で教育センターでの相談を指示され、そこでいじめや消極的な性格について話をしたとのことです。

小学校では、いじめに遭い、用水路に突き落とされたり、切符を脅し取られたりするなど、苦しい経験をしました。その後もいじめの被害に遭い、1人で泣くことが日常的でした。また、教科では音楽や体育が苦手でした。

 

消極的な性格は変わらず

しかし、3年生でのクラス替えでいじめの加害者と離れることができ、少し安心したようです。しかし、消極的な性格は変わらず、友だちができることは難しかったようです。

その頃、お母さんが内職をやめてパートに出るようになり、Iさんは家に一人でいる時間が増えました。家では電車の時刻表を読みあさり、休みの日には1人で電車に乗って遠くまで行くこともありました。

彼は電車に乗ることが好きで、フリー切符を使って途中下車を繰り返したり、入場券を集めたりして楽しんでいました。その結果、時には家出人と間違われることもあったそうですが、彼にとっては楽しい時間でした。

 

依然として1人で過ごすことが多かった

高学年になると、Iさんは電車が相変わらず好きでしたが、図書館に行くことも増えました。大人の閲覧室から本を借りて読むことが多かったため、職員から子ども室の本を読むように注意されることもありました。

中学生になっても、彼は依然として1人で過ごすことが多かったようです。小学校時代と同様に、周囲の生徒からいじめられることがあり、同級生からぶたれたり、女子生徒からからかわれたりしました。

中学2年生の時期は特に辛かったようで、教科書を隠されたり、身体的ないじめを受けたりするなど、いじめがひどかったそうです。休み時間にはいつも1人で、校舎の隅でバスが通り過ぎるのを眺めながら過ごしていました。

 

いじめの被害者となることが多いASD

ASDのお子さんの場合、いじめの被害者となることが多いです。彼らはその場で激しく反応することが少ないため、いじめた側は被害者の心の痛みを理解しづらい場合があります。その結果、いじめの記憶が消えずに残り、高校時代やそれ以降にフラッシュバックするケースが多く見られます。彼らの記憶は非常に鮮明で、いじめの細部まで覚えています。

 

その記憶が消えることはない

私が診療している成人の患者さんの中には、いまだにいじめた人や教師に対する憎しみを抱いている人もいます。彼らは過去のいじめの記憶を忘れることができず、その怒りや苦しみが現在でも尾を引いています。彼らにとっては、忘れることができれば楽になるでしょうが、優れた記憶力のためにその記憶が消えることはありません。

 

特性に適したアプローチを取ることが重要

ASDのお子さんに接する学校関係者は、コミュニケーションにおいて彼らの特性に適したアプローチを取ることが重要です。例えば、彼らが延々と話したいときは、別の場所に連れて行って話を聞いてあげることが必要です。

学校現場が忙しい中であっても、彼らの思いを発散させる機会を提供することで、彼らの信頼関係を築き、将来に良い影響を与える可能性があります。

 

時には学校関係者が少しおせっかいな介入をすることも必要

また、時には学校関係者が少しおせっかいな介入をすることも必要です。例えば、1人でいることを好むASDのお子さんがいる場合、彼らを見守るだけではなく、適切なグループに組み込む努力をすることも重要です。

彼らに「このグループと相性が良いかもしれない」と感じる場合、機会を見て参加を促すことで、彼らの社会的な経験を豊かにすることができます。結果として参加しないかもしれませんし、素っ気ない反応をするかもしれませんが、彼らにとってマイナスにはならないでしょう。

自閉スペクトラム症(ASD)について:理解と支援のために

自閉スペクトラム症(Autism Spectrum Disorder:ASD)は、神経発達障がいの一つであり、個人の社会的な相互作用やコミュニケーション能力、興味や行動の範囲に影響を与える総称的な状態を指します。ASDは幼児期から現れる特徴的な行動パターンによって特徴づけられますが、その重症度と表現は個々に異なります。ASDの基本的な理解と支援のための重要な情報を提供します。

 

ASDの特徴

ASDの特徴は幅広く、以下のような領域で現れることがあります。

 

  • 社会的相互作用の困難さ: 他者との関係を築くことや他者の感情を理解することが難しい。
  • コミュニケーションの困難さ:言語の遅れや非言語的なコミュニケーションの困難さが見られることがある。
  • 興味や行動の反復:特定の興味に強い執着を示し、繰り返し行う行動が多い。
  • 感覚過敏や過少:特定の感覚刺激に対して過剰に反応したり、過少に反応することがある。

 

ASDの診断と治療

ASDの診断は一般的に専門医による診断が必要であり、典型的には幼児期から始まります。診断は行動や発達の観察、親や教師からの情報収集などを通じて行われます。治療のアプローチは個々の症状やニーズに応じて異なりますが、多くの場合、行動療法や言語療法、そして特別支援教育などの組み合わせが用いられます。

 

ASDの支援とケア

ASDの人々を支援するためには、理解と包括的なケアが必要です。以下は、彼らを支援するための重要な考え方です。

 

  • 個々のニーズへの理解:ASDの人々は個々のニーズや好みが大きく異なるため、それぞれの個別のニーズを理解し、適切な支援を提供することが重要です。
  • 環境の適応:彼らが快適に感じられる環境を提供することが重要です。刺激の多い環境や変化の大きな状況は彼らにストレスを与える可能性があるため、予測可能で安定した環境が重要です。
  • コミュニケーションの支援:非言語的なコミュニケーション手段やコミュニケーションツールを活用して、彼らとのコミュニケーションをサポートすることが重要です。

 

個々の人々が持つ独自の価値や可能性を認めることが重要

自閉スペクトラム症(ASD)は多様性を示す状態であり、一般的な偏見や固定観念にとらわれることなく、個々の人々が持つ独自の価値や可能性を認めることが重要です。彼らは社会の一員であり、尊重され、支援される権利を持っています。

したがって、ASDの人々を理解し、彼らに適切な支援を提供するために、私たちは彼らの経験や視点を尊重し、包括的かつ寛容な社会を築く努力を続けることが重要です。

まとめ

ASDのお子さんに接する学校関係者は、彼らの特性に適したアプローチを取る必要があります。コミュニケーションにおいては、彼らが延々と話すことや、1人で過ごすことを尊重し、彼らが思いを発散できる機会を提供することが大切です。

また、時には少しおせっかいな介入も必要であり、彼らを適切なグループに組み込む努力や、新しい経験を促すことが重要です。これらのアプローチを通じて、彼らの信頼関係を築き、社会的な経験を豊かにすることができます。

学校関係者は、ASDのお子さんの個々のニーズを理解し、適切なサポートを提供することで、彼らの成長と発達を支援することが求められます。

 

参考

成人しても「小学校の同級生を殺してやりたい」と憎む…発達障がいの人が"いじめの記憶"にずっと苦しむ理由 記憶力が優れているため、忘れたくても忘れられない #プレジデントオンライン

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