- コラム
「障がいのカタチを変える」とは何か。市村均弥(いちむら きんや)に聞く、選択肢を増やし続ける理由|株式会社ワンライフ代表インタビュー

「みんなの障がい」は、障がい福祉施設に特化したポータルサイトとして、全国の施設情報をお届けしています。今回は少し趣向を変えて、当サイトを運営する株式会社ワンライフの代表取締役・市村均弥さんに話を聞きました。
ワンライフは2014年に群馬県前橋市で創業し、就労継続支援、児童発達支援、グループホーム、生活介護、相談支援と、子どもから大人までを対象にした障がい福祉サービスを展開しています。直営23店舗、フランチャイズを含めると100店舗以上。掲げる理念は「障がいのカタチを変える」です。
なぜ障がい福祉だったのか。「選択肢を増やす」とはどういうことか。編集部が聞きました。
「選べなかった側」にいた原体験
──まず、市村さんご自身のことから聞かせてください。障がい福祉に入る前は、何をされていたんですか。
僕は高校を中退しているんです。工場、飛び込み営業、建設現場。高校を出ていない10代の自分にできる仕事を、片っ端からやりました。飛び込み営業では、トップの成績を取ったこともあります。
ただ、結果を出せば道は開けると思っていたのに、次の仕事を探すたびに、応募できる求人は限られていく。学歴という一点で、選べる道が減っていくんですよね。どれだけ結果を出しても、履歴書の一行で判断されてしまう。その現実がきつかったのを、いまでも覚えています。
──そこからどうやって起業に至ったんでしょう。
大検を取って東京の大学に進学して、群馬に戻ってウレタンの製造加工の会社の経営に携わって、24歳で起業しました。
自分の場合は、大検を取って進学するという方法がありました。動いた分だけ、道は広がった。でも、誰もがそうできるわけではありません。狭まった道の前で、立ち止まるしかない人がいる。それは自分がよく知っています。
障がいのある方や高齢者、女性、子ども。立場が弱いとされる人の力になりたいという気持ちは、昔からありました。ただ、そのために自分が何をすればいいのかは、まだ分かっていませんでした。
工場の奥で見た光景が、事業の出発点になった
──障がい福祉との出会いは。
いくつかの事業をやるなかで、偶然です。そして2014年に、前橋市でワンライフを創業しました。その頃は、自分がこの世界に10年以上も身を置くことになるとは思ってもいませんでした。
転機になったのは、ある就労継続支援事業所を見学に行ったときのことです。工場の奥にある、決していい環境とは言えない場所で、多くの利用者さんが毎日、同じ単純作業を繰り返していました。話を聞いてみると、ほかに通える場所がないから、みなさんそこに来ているということでした。
──10年前の就労支援は、そういう状況が普通だったんでしょうか。
内職や工場での軽作業、清掃。就労支援といえば、その程度しか用意されていませんでした。どんな仕事が向いているかを考える前に、選べるものがそれしかない。働く選択肢が、あまりにも少ない。
「障がいがあるから仕方ない」。そのひと言でとどまってしまうには、一人ひとりの可能性は大きすぎると思ったんです。これは誰かが取り組まなければいけない課題だと感じました。自分にできることは何だろうとずっと考えて、辿り着いたのが「選択肢を増やす」ことでした。
「障がい × ○○」で、働く選択肢を増やす
──ワンライフの事業は、eスポーツ、保護犬・保護猫、農業と、福祉のイメージから遠いものが多いですよね。
働く場所が少ないなら、自分たちでつくればいい、という発想なんです。eスポーツ・動画編集の「ONEGAME」、保護犬・保護猫のお世話やトリミングを仕事にする「ONEPET」、農業の「ONENOUEN」、映像の「ONEFRAME」、プログラミングの「ONECODE」。「やってみたい」と思える入り口を、ひとつずつ事業として増やしてきました。
どの事業も、出発点は「障がい × ○○で選択肢を増やす」です。
──ONEPETは、保護動物の課題とも重なっています。
ONEPETでは、保護した犬や猫のお世話、トリミング、トレーニングを、そのまま障がいのある方の仕事にしています。働く場所が生まれて、同時に、一匹でも多くの命が救われる。どちらかのついでではなく、両方を事業として成立させています。
社会の課題はどれも根が深くて、ひとつ解決してから次へ、と順番に進んでいては、いつまでも追いつきません。だから、課題と課題を重ねて解くことを考えています。
子どもの支援も「当たり前」を変えるところから
──児童発達支援の「chouchou」についても聞かせてください。
発達に遅れのある子が、みんなと同じ経験をしないまま小学校に上がって、不安になる。親御さんは、わが子の運動会を一度も見ないまま、子育ての時期が過ぎていく。「障がいがあるから、普通の体験ができない」。それが当たり前になっていました。
だからchouchouは、外装も内装もデザインにこだわって、運営の形も通常の保育園・幼稚園に近づけています。卒業式があって、運動会があって、園歌もあります。子どものころも、大人になってからも、人生のどの段階にも選べる道がある。その状態を全国でつくるために取り組んでいます。
「みんなの障がい」を立ち上げた理由
──このサイト「みんなの障がい」も、ワンライフが運営しています。施設の運営とは毛色が違いますが、なぜ始めたんですか。
選択肢を増やしても、その選択肢が知られていなければ、ないのと同じだからです。どんなにいい施設があっても、本人やご家族が存在を知らなければ選べません。実際、「近くにどんな施設があるのか分からない」「どうやって探せばいいのか分からない」という声は、現場でずっと聞いてきました。
だから、全国の障がい福祉施設を探せるポータルサイトとして「みんなの障がい」をつくりました。自社の施設を紹介するためのサイトではなくて、業界全体の入り口にしたいと思っています。
選択肢を「つくる」のが事業所で、「知ってもらう」のがこのサイトです。両方そろって、はじめて選べるようになる。そう考えています。
これからやりたいこと
──最後に、これからやりたいことを教えてください。
まずは「みんなの障がい」をもっと充実させて、いろんな方の困りごとに応えられるサービスにしていきたいです。
ワンライフとしては、選択肢を増やすコンテンツを増やしていきたい。直近では、飲食を掛け合わせた「ONESUSHI」を大阪市大正区でオープンしました。今後は、フィットネスと掛け合わせた就労支援や、起業と掛け合わせた就労支援もつくっていきたいと思っています。
日本では、障がいのある方の数は年々増え続けています。いまや国民のおよそ9.2%、11人に1人。けっして遠い誰かの話ではありません。「○○だから、できない」——選択肢が少ないという社会課題を、事業で解決していきたいです。
プロフィール
市村均弥(いちむら きんや)
株式会社ワンライフ 代表取締役
高校中退後、工場勤務や飛び込み営業などを経て大検を取得し大学へ進学。ウレタンの製造加工会社の経営に携わったのち、24歳で起業。2014年に株式会社ワンライフを創業し、「障がいのカタチを変える」を理念に、就労継続支援・児童発達支援・グループホームなど障がい福祉サービスを全国に展開。直営23店舗、フランチャイズを含め100店舗超。