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2025.10.31

感動ポルノ(インスピレーションポルノ)って何?障がい者を“見せ物”にしないために

障がいを持つ人の「頑張って克服する姿」「勇気をくれる存在」というイメージが、メディアやSNSでは頻繁に流通しています。

一見、前向きでポジティブに思えるその描かれ方にも、実は重大な問題が潜んでいます。
これが、いわゆる「感動ポルノ(Inspiration Porn)」と呼ばれる現象です。

この記事では、障がいをめぐるこの構図を、日本のメディアや社会のなかで改めて検証します。

なぜ問題とされるのか、当事者・支援者はどう向き合うべきか、そして私たちにできることは何かを一緒に探っていきましょう。

メディアと「感動ポルノ」の構図

「障がいを乗り越えた人=感動を与える人」という物語

テレビ番組やチャリティ番組では、障がいのある人が“挑戦”して“克服”する姿が強調されることがあります。
NHKの番組、バリバラでは「検証!〈障害者×感動〉の方程式」という回でこの構図を問いかけています。

このような物語の構造には、障がい → 努力 → 成功/克服 →健常者を感動させる、というような流れが隠れていることがあります。

こうした描かれ方は、障がいをもつ人を「感動を提供する存在」「否定的な期待を払拭するための素材」として扱ってしまうリスクがあります。

参考リンク:〝感動ポルノ〟求める社会って?バリバラ大橋さんが伝えたかったこと

「障がい者役割」が強化されるという批判

学術的には「障がい者役割(disability role)」という概念があり、障がいを持つ人が「困難を克服すべき存在」「可哀そうな存在」という期待の枠に押し込められてしまうと指摘されています。

この枠組みでは、当事者が“普通に生きる”ということ本来の選択肢が見えにくくなり、「特別でなければならない」というプレッシャーを生むこともあります。

参考リンク:「感動」するわたしたち──『24時間テレビ』と「感動ポルノ」批判をめぐって

日本における事例と社会的な反応

例えば、 24時間テレビ のような大型チャリティ番組では、「障がいを持ちながら~」という感動ストーリーが多く扱われてきました。
これに対して「障がいを持つ人を見世物のように扱っている」という批判も出ています。

また、当事者・親の立場から「私の子どもはあなたの感動のための存在ではない」といった声もあがっています。

参考リンク:なぜ「24時間テレビ」は「感動ポルノ」に変わったのか…日本テレビがそれでも番組を継続する理由障がいのある私の娘は、あなた方の「感動ポルノ」ではない

なぜ「感動ポルノ」が障がい者にとって問題になるか

当事者の主体性を削ぐ可能性

「障がいをもっていても頑張ってるね」という言葉が、本人の意思や背景を抜きに繰り返されると、「これを達成しなければ価値がない」といったプレッシャーになりえます。

実はこの言葉が、当事者が感じる“ただ存在していい自分”を奪いかねないのです。

多様な人生/多様な障がいの経験を縮小してしまう

感動ポルノ的な構図では、障がい者が「困難を克服する」物語に偏重し、「生きづらさ」の語られ方が一面的になります。

それは「成功した人」だけが注目される構図を作り、苦しみ・日常・失敗・変化の過程を軽視する傾向があります。

社会的期待と疲弊を生む

「障がいをもっててもこのくらいできるね」といった称賛も、裏では「当たり前の成果を出さなければならない」という期待になりえます。

結果、当事者は疲弊し、自分のペースを見失うこともあります。

参考リンク:「障害者だから」という古い枠を超えた、自分の意志を言える社会に。 LITALICO発達ナビ

当事者・支援者ができること/発信のヒント

自分の物語を、自分の言葉で語る

当事者のSNS投稿やブログでは、「私はこう感じた」「私はこう考えた」という一人称が増えています。
これは、他者の期待ではなく、自分自身のリアルに焦点を当てる発信方法です。

たとえば、「障がいがある私の日常」や「支援を受ける私」という語られ方ではなく、「私のやり方で生きる」という文脈です。

メディア・支援機関に対して“問い”を持つ

支援機関・メディア・教育機関では、障がい者を“感動させる素材”としないよう、以下の意識が求められます。

  • 芝居じみた演出ではなく、当事者の意志・背景をきちんと尊重する
  • “成功物語”だけに注目せず、日常・困難・普通を語る
  • 当事者の声を制作・発信の中心に置く

周囲の理解を少しずつ変えていく

非当事者も、次のようなことを心がけることで、感動ポルノを回避する社会づくりに貢献できます。

  • 「すごいね」だけで終わらず「どんな工夫があったの?」と質問する
  • 「頑張ったね」ではなく「あなたのそのままでいい」という視点を持つ
  • 障がいを“感動”のための素材とせず、“共に生きる”関係づくりに目を向ける

まとめ:称賛ではなく理解を、物語ではなく関係を

「あなたのそのままでいいよ」という言葉が、私たちがこれから目指す社会の根底にあるべきです。

障がいをもつ人を「頑張ったね」と称賛するだけではなく、彼らが「そのままに生きられる」環境をつくること。
称賛の裏にある“期待”を手放し、モノ化されない、関係性に基づいた社会を少しずつ紡いでいきましょう。

🔗参考リンク

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