2024.09.02

高次脳機能障がいの理解と対応 複雑な症状とその対策

脳が損傷され、精密な情報処理がうまくいかなくなることにより、記憶・注意・行動・言語・感情などの機能に障がいを残す状態が高次脳機能障がいといわれています。

具体的には、失語症・記憶障がい・注意障がい・失認症(半側空間無視・身体失認)・失行症・地誌的障がい・遂行機能障がい・行動と情緒の障がいなどがあります。

 

高次脳機能障がいとは

高次脳機能障がいは

  • 身体上の障がいとは異なり表面的には目立たない
  • 本人も意識しにくいために理解されにくい
  • 診察場面や入院生活よりも在宅での日常生活、社会生活場面(職場、学校、買い物、交通機関の利用、役所などでの手続き)で出現しやすい

という特徴を持っています。こうした高次脳機能障がいを持つ方は外見からは分かりにくく、障がいを知らない人から誤解を受けやすいため、人間関係のトラブルを繰り返すことも多く、社会復帰が困難な状況に置かれています。

 

高次脳機能障がいの症状は複雑で一人ひとり異なり、複雑で、場面や人などの環境により症状の現れ方が変わるといわれています。そのため、さらに周囲を困惑させることがあります。しかし、ご本人も自分の障がいに、そして自分に向けられる言葉や態度にとまどっています。

 

高次脳機能障がいは他者から理解されにくいといわれていますが、それを最も感じているのは、他ならぬご本人かもしれません。周囲がこの障がいを理解し、適切な対応を心がけることが大切です。

 

障がいの原因は何?

脳の病気や事故などの後遺症から脳の機能に障がいが起こることがあります。原因疾患としては以下のようなものがあります。

 

  • 脳の血管が切れたり、つまったりすること(脳出血、くも膜下出血、脳梗塞など)
  • 事故により傷つけられたり、圧迫されたりすること(びまん性軸索損傷、急性硬膜外血腫、急性硬膜下血腫、脳内出血、脳挫傷など)
  • 炎症を起こしたり、酸素が不足すること(ヘルペス脳炎、ウィルス脳炎、低酸素脳症など)

 

これらの脳の病気や事故にあった患者様すべてが「高次脳機能障がい」になるわけではありませんが、障がいを引き起こす確率が高いといわれています。

 

高次脳機能障がいが疑われるとき

主な症状

失語症

  • 言いたい言葉が出てこない
  • 相手の話している言葉が理解できない

 

記憶障がい

  • 朝起きてから何をしたか思い出せない
  • 毎日会っている人の名前を思い出せない

 

注意障がい

  • 気が散りやすい

 

半側空間無視

  • 片側の食事を残してしまう
  • 常に片側を見ている

 

失認症

  • 見ただけで、その物体が何かわからない

 

身体失認

  • 麻痺している手足を動くと主張する

 

地誌的障がい

  • 道に迷う
  • 自宅の場所が分からない

 

失行症

  • 道具の使用法を間違う
  • 服の袖口を間違う

 

遂行機能障がい

  • 思いつきで行動する
  • 状況にあった行動が出来ない

 

行動情緒の障がい

  • 急に怒ったり泣いたりする
  • 気持ちが沈みがち

 

発動性/自発性の低下

  • 周囲のことに関心がなくなる
  • 行動するまでに時間がかかる

 

知的機能/思考能力の低下

  • 難しい話が理解できない
  • 状況にあった判断が出来ない

 

失語症

「話す」「聞く」「読む」「書く」の4つの側面すべてが障がいされます。以下のような症状がみられた場合にこの障がいを疑います。


  • 言いたい言葉が出てこない

⇒時計→「あのー丸くて、針がチッチッで12とかそういうやつ」

  • 言いたい言葉と違う言葉が出る

⇒時計→「といけ」、「まくら」

  • 相手の話している言葉が理解できない

⇒「お寿司美味しいですよね?」→「そうですよね~…ところでお寿司って何ですか?」

  • 漢字や平仮名で書かれた言葉の意味が理解できない

⇒“時間”と“時計”を読み違える。

  • 誤った文字を書いたり、字そのものが浮かばない

※頭の中で言葉を組み立てる事が障がいされているので、50音表の使用は向きません。

 

記憶障がい

比較的古い記憶は保たれているのに、新しいことを覚えるのが難しくなったり、逆に病気になる前のことを忘れてしまうことがあります。(今見たことや聞いたことが覚えられない等)また、自分の記憶障がいを自覚しているとは限りません。以下のような症状がみられた場合にこの障がいを疑います。


  • ついさっき言ったこと、行動を覚えていない

⇒朝起きてから何をしたか思い出せない。

  • 人の名前を思い出せない

⇒毎日会っている病院のスタッフの名前がわからない。

  • 今日の年月日や、今いる場所がわからない
  • 実際とは違う事を話す

⇒朝御飯を食べていないのに、「食べてきた」と話す。

⇒「お風呂」に行った後にどこへ行ったかを尋ねると「買い物」と答える。

  • 病気になる前のことを忘れてしまう

注意障がい

注意や集中が低下するために、活動を続けられる力や、多数の中から必要なことを選ぶ力、同時にいくつかのことに注意を向けることが難しくなります。必要なものを見落としたり、余計なものに気を取られてしまう為、ぼんやりしているように見えたり疲れやすい傾向があります。以下のような症状がみられた場合にこの障がいを疑います。


  • 簡単なミスが多い
  • あちこち気が散りやすく、落ち着きがない
  • 歩きながら会話が出来ない、または壁にぶつかる
  • お湯を沸かしているときに、電話や来客に気付かない

 

半側空間無視

左右どちらか一方への意識が向きにくく、人や物、起こっている事柄に気付かないことがあります。ひどい症状になると、完全に見落としてしまいます。以下のような症状がみられた場合にこの障がいを疑います。


  • 食事の時、左(右)側にある食べ物に気付かない
  • 常に顔が左(右)に向いている
  • 移動している時に左(右)側の壁にぶつかる
  • 読書中、左(右)側の文字を見落としている

 

失認症

見ること、物に触る感覚に問題がないにも関わらず、色、物の形、物の用途や名称が分からなくなります。また、聞くことにおいても同様に、音や言葉は聞こえているが、何の音か、何を話しているかの理解が難しくなります。以下のような症状がみられた場合にこの障がいを疑います。


  • よく知っている人の顔がわからない(相貌失認)

⇒家族の顔を見ても誰であるかわからないが、声を聞けばわかる。

  • 馴染みのある音や、話された言葉を聞いただけでは理解できない(聴覚失認)

⇒車のクラクションの音を聞いても、その音が車だとはわからない。

⇒相手の話し言葉がつぶやきや外国語のように聞こえる。

  • 見ただけで、その物体が何かわからない(物体失認)

⇒みかんを見ただけではその名前は言えないが、香りを嗅ぐとわかる。

  • 一つ一つの細かい部分はわかるのに、全体の状況を把握できない(同時失認)

⇒衣服(セーター)についた毛玉は取れるが、セーターということがわからない。

 

身体失認

自分自身の身体像が歪んでいたり、身体の一部を自分のものではないように思います。また、麻痺があるのを認められない場合があります。以下のような症状がみられた場合にこの障がいを疑います。


  • 麻痺している手足を、他人のものだと思う/動くと主張する

⇒(麻痺の手を見せて)「この手は誰の手?」と尋ねると、当たり前のような顔をして「旦那の手よ」と答える。

 

地誌的障がい(場所の認識の障がい)

馴染みのある場所であっても、現在いる場所や目的地までの道順がわからなくなります。以下のような症状がみられた場合にこの障がいを疑います。


  • 道に迷う

⇒トイレに行くのに迷う/自分の病室に戻る事ができない。

  • 自宅の場所がわからない

⇒自宅の前に来ても通り過ぎてしまう/家の周囲を歩いていても家に戻れない。

自宅の見取り図や近所の地図が画けない

 

失行症

手足は動かせるのに、意図した操作や指示された動作が行えないため、ジェスチャーや日常生活の簡単な動作を行うことが難しくなります。以下のような症状がみられた場合にこの障がいを疑います。


  • 単純な動作や習慣的な動作が出来ない(観念運動失行)

⇒「敬礼」「バイバイ」等のまねが出来ない。

  • 一連の動作の手順を間違える(観念失行)

⇒歯磨きチューブで歯を磨こうとするなど、別の物品使ってしまう。

⇒お茶を入れる際、急須ではなく、湯飲みに直接お茶葉を入れてしまう。

  • 立体等の構成物の認識が上手く出来ない(構成失行)

⇒立方体や六角形等の複雑な図形が上手く書けない。

  • 服を着ることが出来ない(着衣失行)

⇒上着の袖口から頭を通そうとしてしまう。

 

遂行機能障がい

生活するうえで必要な情報を整理、計画、処理していく一連の作業(目標を決め→計画し→手順を考え→実施し→結果を確認する)が難しくなります。その結果、生活上起こるさまざまな問題を解決していくことが困難となります。以下のような症状がみられた場合にこの障がいを疑います。


  • 段取りが悪い

⇒日常行っていることに通常以上に時間がかかる。

  • 指示されないと活動できない

⇒自分から何をやっていいのかわからない。

  • 計画通りに行動できない

⇒約束を守れない(スケジュール通りに行動できない)。

⇒交通手段を上手く利用して見知らぬ場所へ行けない。

  • 衝動的に行動してしまう

⇒目の前の物にすぐに手を出してしまう。

  • 自分の状態がどの程度なのかわからず、将来についても現実的ではない

⇒退院後にすぐに仕事に戻れると思っている。

  • 急な変更やいつもと違うことが苦手

 

行動と情緒の障がい

感情や意欲のコントロールが上手くいかず、状況に適した行動をとることが難しくなります。以下のような症状が見られた場合にこの障がいを疑います。


  • 気分が変わりやすい

⇒些細な事がきっかけで突然泣いたり、怒ったりすることもあれば、日によって1日中何もせず、ぼーっとしていることもある。

  • 初めての人にも馴れ馴れしい
  • 周囲に対しての気配りができなくなる
  • すぐに混乱してパニックを起こす
  • ひとつの行動を繰り返したり、一つの事柄にこだわり続ける
  • 急な変更やいつもと違うことが苦手

 

発動性/自発性の低下

自分からは何もしようとせず、他の人から言われてもなかなか行動ができない状態です。以下のような症状が見られた場合にこの障がいを疑います。


  • 周囲のことに関心がなくなる

⇒周りで騒いでいる人がいても気にしない。髪がボサボサでも気にしない。

  • いろいろな事にやる気がなくなる

⇒お腹がすいていても自分から食べようとしない。

  • 行動するまでに時間がかかる

⇒体を洗おうとスポンジを持っても、洗い始めるまでに時間がかかり、何度も声をかけることが必要。

  • 動きが遅く、すぐにやめてしまう

⇒車椅子をこぐスピードが遅く、目的地の手前で止まったまま動かない。

 

知的機能/思考能力の低下

言語を使う、記憶する、理解する、考える、判断する、想像する等が難しくなります。以下のような症状が見られた場合にこの障がいを疑います。


  • 難しい話が理解できない

⇒新聞を読んでいても、要点をつかめない。

  • その場の状況にあった判断ができない

⇒深刻な話をしている時に、一人だけニコニコしている。

  • 一般的な知識問題に答えられない

⇒「太陽はどちらの方角から昇りますか?」に対し→「北」と答える。

  • 筋道を立てて考えることが難しい

⇒車を買いたいときに、お金を貯める・ローンを返済する・駐車場を借りる等の計画を立てずに販売店に向かってしまう。

まとめ

高次脳機能障がいは、その症状が多岐にわたるため、適切な理解と対応が求められます。周囲の人々がこの障がいについての知識を深め、適切な支援を行うことで、障がいを持つ方々の社会復帰や日常生活の質の向上が期待できます。障がいを知り、理解することが、より良い共生社会の実現につながります。

 

参考

高次脳機能障がいとは|新座病院

 


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