注意欠陥・多動性障がい(ADHD)とは?その原因・症状・診断と治療方法について
注意欠陥・多動性障がい(ADHD)は、子どもから大人まで幅広い年齢層に見られる発達障がいの一種です。日常生活において不注意や多動、衝動的な行動が目立ち、その影響で社会生活に支障をきたすことがあります。しかし、ADHDの症状や原因を理解し、適切な対処法を知ることは、より良い生活を送るための第一歩となります。本記事では、ADHDの基本的な理解から診断、治療方法までを詳しく解説していきます。
注意欠陥・多動性障がい(ADHD)とは?
注意欠陥・多動性障がい(ADHD)とは発達障がいの一種の病気です。特徴的な症状として、年齢に見合わない「不注意さ」、好きなこと以外に対する集中力がなくほとんど関心や興味を示さない「多動性」、思いついたことをよく考えずに即座に行動に移してしまう「衝動性」が見られます。場に応じてコントロールすることが苦手な状態のため、様々な症状やミスや不注意などの症状が他の人と比べて目立ちやすくなります。そのため、職場や家庭での日常生活に支障をきたすおそれがあります。
好きな分野や得意な分野では社会で十分に活躍できる
近年、ADHDが世間に知られるにつれ、不注意や多動・衝動など注目されやすいですが、意外に好きな分野や得意な分野では集中力を維持できたり、ミスも少ないことがあります。ADHDの多くの方は、独自の視点や豊かな発想を持つことでその才能を生かしたり、衝動性も適切な方向で発揮することで行動力につながるため、社会で十分に活躍できます。
ADHDは大人になってから診断がつくことも多い疾患ですが、その多くは小児期から不注意や衝動、対人関係などで悩まれていた方が多く、成長するにつれて自分なりの工夫や対策を考えてそれらを身に着け、心も成長します。しかし、これまで経験したことない社会環境にさらされることによって、これまでの工夫や対策を行ったとしても、不注意や衝動・対人関係の悩みが目立ったり、周りから指摘されやすくなったりなどして、受診し、そしてADHDと診断されることもあります。
不注意から生まれる人間関係の変化が心のバランスを崩し、うつ病や不眠などその他の症状を伴いやすくなるのも特徴です。もしADHDかもしれないと思われた方は、お早めにご相談ください。
注意欠陥・多動性障がい(ADHD)の原因
現段階で詳しい原因はわかっていませんが、生まれつき脳に何らかの機能異常があると考えられています。そのため、主に2つの原因が挙げられています。
大脳にある前頭前野の機能調節に偏りがある
大脳にある前頭前野は、前頭葉の前部分に位置しており、人間の場合は大脳の約30%を占めます。しかし、猿ですと10%、犬は7%程度です。つまり、「人間らしい」行動をするためには欠かせないものです。前頭葉自体は一次運動野などの運動に関わる領域が含まれているといわれてますが、前頭前野は思考・判断・注意・計画・自己抑制・コミュニケーションなど、ほかの動物にはない人間独自の活動に関わっているといわれています。ADHDの方は、この前頭前野の機能調節に偏りが生じることによって「不注意・多動・衝動」といった特徴が現れると考えられています。
脳内の神経伝達物質が不足している
神経細胞同士は全てつながっておらず、「シナプス間隙」という隙間があります。刺激や情報を隣の神経細胞に伝えるために重要なのが、「神経伝達物質」です。神経細胞の末端から神経伝達物質が出され、シナプス間隙を移動し隣の神経細胞に情報を伝えていきます。神経伝達物質にはノルアドレナリンやドーパミンなど意欲や興奮に関わるものや、セロトニンなどの抑制性に関わるものもあり、ADHDの方はこの神経伝達物質の量が少ないことが原因で、正常に情報が伝えきれていないのではないかと考えられています。
注意欠陥・多動性障がい(ADHD)の症状
注意欠陥・多動性障がい(ADHD)では以下のような症状が見られます。
不注意
- 重要な用事でも期限を守れない
子どもでは日々の宿題や長期休暇の課題、大人では重要な書類などを期限内に仕上げることができず、「育ちが悪い」「仕事ができない」などのレッテルを貼られてしまうことがあります。
- 物事を順序立てたり、やり遂げられない
子どもでは宿題中であるのにテレビやゲームなどのほかの刺激に気を取られ、1つの物事に集中できないことがあります。大人では複数の仕事がくると上手に計画を立てることができず仕事がたまっていくことがあります。これらは上記の「期限を守れない」につながっていきます。
- 必要なものをなくす、忘れ物が多い
子どもでは学校に持っていくものを家に忘れたり、親に渡さなければならない書類を渡し忘れたりします。大人では日用品や化粧品などをすぐなくしたり、仕事や約束事を忘れたりします。しかし、子どもの場合は周りの環境(両親や学校の先生、友達)のサポートにより気づかず大人になってから気づくケースも見られる症状でもあります。
多動性
- そわそわと手足を動かす
子どもでは机や椅子をがたがた動かしたり、何かを常に触ったりしてしまいます。大人では体を小刻みに揺らしたり、貧乏ゆすりをしたりしてしまいます。
- じっと座っていられない
子どもでは日々の宿題や長期休暇の課題、大人では重要な書類などを期限内に仕上げることができず、「育ちが悪い」「仕事ができない」などのレッテルを貼られてしまうことがあります。
衝動性
- しゃべりすぎることが多い
思ったことをすぐに口にしてしまったり、相手が話の途中であるのに話始めてしまったりしてしまいます。
- 衝動買いが多い
欲しいと思ったものは後先考えず思いのまま買ってしまうなど、自身の欲求をコントロールできなくなります。
- すぐにイライラする
自分の思い通りにならなかったり、欲求が満たされなかったりするとすぐにイライラしてしまい大声を出したり、モノにあたったりしてしまいます。
注意欠陥・多動性障がい(ADHD)の家族や周りの接し方
ADHDでは上記の行動が見られます。家族や周りの方がその場に遭遇するとイライラしてストレスを抱えるかもしれません。その時に決して手をあげたり怒鳴ったりしないでください。ADHDの方が上記の行動をとるのは、しつけが悪いからでも努力が足りないからでもなく、脳の機能の偏りによって自身の行動を制御できないからです。
例えば、ADHDの子どもが度々モノを忘れたりなくしたりしたとき、本人は忘れようと思って忘れているわけではありません。それに対して何度も怒ると本人もストレスに感じてしまい、憂さ晴らしにほかの子を手で叩いたり悪口を言ったりする危険性もでます。また、大人の場合だと自己嫌悪や鬱につながることがあります。
ADHDの方にとって難しいことには、ともに対策を考えることやポジティブな言葉をかけることを心がけることで環境は大きく改善されることでしょう。また、多動性・衝動性の子どもはエネルギーがあふれています。その場合はスポーツやレジャーなどエネルギーを発散できる場を設けるとよいです。
注意欠陥・多動性障がい(ADHD)の診断
ADHDの診断によく使われるのはDSM-5の診断基準です。DSM(Disagnostic and Statistical Manual of Mental Disordersの略)は米国精神医学会が作成する精神疾患・精神障がいの分類マニュアルであり、2013年に第5版であるDSM‐5が公開されました。第4版までは主に子どもを対象としていましたが、「どの年齢でもなり得る障がい」と認識が変わり、第5版のDSM-5からは17歳以上の診断基準が緩和されるなどADHDへの考え方が変化してきました。これをもとに医師は診断をしていきます。診断を受ける場合は精神科や神経科、心療内科などを受診します。
成人期のADHDの自己記入式症状チェックリスト(ASRS-v1.1)*18歳以上用
最近6ヶ月間で、それぞれの症状がみられる頻度に最も近い回答欄にチェックをつけてください。
- 物事を行なうにあたって、難所は乗り越えたのに、詰めが甘くて仕上げるのが困難だったことがある
- 計画性を要する作業を行なう際に、作業を順序だてるのが困難だったことがある
- 約束や、しなければならない用事を忘れたことがある
- じっくりと考える必要のある課題に取り掛かるのを避けたり、遅らせたりすることがある
- 長時間座っていなければならない時に、手足をそわそわと動かしたり、もぞもぞしたりすることがある
- まるで何かに駆り立てられるかのように過度に活動的になったり、何かせずにいられなくなることがある
- つまらない、あるいは難しい仕事をする際に、不注意な間違いをすることがある
- つまらない、あるいは単調な作業をする際に、注意を集中し続けることが、困難なことがある
- 直接話しかけられているにもかかわらず、話に注意を払うことが困難なことはある
- 家や職場に物を置き忘れたり、物をどこに置いたかわからなくなって探すのに苦労したことがある
- 外からの刺激や雑音で気が散ってしまうことがある
- 会議などの着席していなければいけない状況で、席を離れてしまうことがある
- 落ち着かない、あるいはソワソワした感じがある
- 時間に余裕があっても、一息ついたり、ゆったりとくつろぐことが困難なことがある
- 社交的な場面でしゃべりすぎてしまうことがある
- 会話を交わしている相手が話し終える前に会話をさえぎってしまったことがある
- 順番待ちしなければいけない場合に、順番を待つことが困難なことがある
- 忙しくしている人の邪魔をしてしまうことがある
質問に「はい」が6個以上当てはまる場合、ADHDの症状を持っている可能性が考えられます。ADHDの症状と似た症状を示す精神疾患は多く、ADHDとこうした精神疾患を区別するためには、専門機関での診断が重要となります。お困りの方はご受診をお勧めします。
総合的に診断
上記のDSM-5は基準にはなりますが、診断が確定されるわけではありません。問診や検査などを行い、他の疾患も含めて評価をしていき最終的な診断が確定されます。受診をすることで「自分の障がいを知ることができ、今まで悩んできた症状の対策ができる」ことにつながっていきます。理由を知れば、周りの人たちの対応も変わるかもしれません。反対に、本人にとって確定診断されることで落ち込んだり鬱になったりすることも考えられます。きちんと心情を整理したうえで受診することをおすすめします。
注意欠陥・多動性障がい(ADHD)の治療
日常生活への支障を最小限にするために、生活環境や人間関係などを見直す心理社会的治療と薬物療法を中心に治療を行います。
心理士によるカウンセリング
心理社会的治療(カウンセリング)では苦手としていることや、ミスや衝動の起きやすい状況をカウンセラーと共に確認しながら、タスク(仕事)をリスト化する方法など、日常生活で取り組める行動を中心に、カウンセラーが患者さんと共に段階的に行動が変えられるように促していきます。
薬物治療
薬物療法でお出しする薬は、ノルアドレナリンやドーパミンといった脳内物質の不足を改善する効果があり、それによりADHD特有の症状を抑制する効果が期待されます。 また、ADHDの傾向のために、周囲の人間関係や環境ストレスにより、うつ病や不眠の症状を伴う時には、患者様とご相談の上で、適宜抗うつ薬や睡眠薬を併用することもあります。
- コンサータ(一般名:メチルフェニデート)
神経伝達物質であるノルアドレナリンとドーパミンの両方の働きを強めますが、主に脳内のドーパミンの働きを強めます。集中力の無さや過活動、衝動性、抑うつ状態などの緩和が期待されます。同じ成分である「リタリン」という薬と比べると、ゆっくりと効くことから長時間作用することで1日に何度も服用する必要がなく、また依存のリスクも少ないといわれています。副作用は、食欲不振や寝つきの悪さなどがあげられます。
- ストラテラ(一般名:アトモキセチン)
コンサータと同様に両方の働きを強めますが、おもにノルアドレナリンの働きを強めます。 コンサータと比べると比較的優しい薬で副作用も少ないといわれています。眠気や気持ち悪 いなどがあげられますが数日で治ることが多いです。また効果が出るまでの時間が長いこと も特徴です。
- インチュニブ(一般名:グアンファシン)
コンサータやストラテラは神経伝達物質の量を増やす目的で使われていましたが、インチュ ニブは伝達物質を受け取る側の神経細胞に作用し、多くの伝達物質を取り込めるようにして くれます。血圧を下げる副作用があるため、心疾患のある方には注意が必要です。また、半 数以上の方が眠気の症状が出ています。しかし、朝起きられないなど強い症状はまれである ようです。
- 抗不安薬・抗うつ薬など
ADHDの症状により、周囲の人間関係で強い不安や反抗、抑うつなどの2次障がいをきたす場合があります。そのような併存症がある場合はADHD治療薬に加え、抗不安薬や抗うつ薬などが処方されます。精神的な疾患の診断は非常に難しいです。しっかりと医師と話し合い自身のことをきちんとお話しすることで最良の治療薬の選択を行うことができます。
まとめ
ADHDは、適切な理解とサポートを受けることで、日常生活や社会での活躍が十分に可能な障がいです。もし自分や身近な人がADHDの特徴に当てはまると感じた場合は、早めに専門の医師に相談し、適切な対策を講じることが大切です。症状を理解し、自分に合った治療法を見つけることで、より豊かな生活を送ることができるでしょう。
参考
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