2024.08.21

子どもの「ゲーム依存」なりやすい子の特徴と“危険因子”は?専門医に聞く

「ゲーム依存」に陥る小学生が増えています。ゲーム好きな子どもは多いですが、どんな子が依存になりやすいのか、依存の兆候がある子に親はどう対処すればいいのか、ゲーム依存に詳しい久里浜医療センター名誉院長で精神科医の樋口進さんに話を聞きました。

 

いつでもゲームができる環境は依存につながりやすい

生まれつき「ゲーム依存に陥りやすい子ども」は存在します。特に、発達障がいはその大きなリスク要因です。ADHD(注意欠如多動症)の子どもは衝動性が高く、自分をコントロールする力が弱いため、ゲームにのめり込みやすい傾向があります。

 

また、普段は不注意であっても、一度スイッチが入ると一つのことに集中し続ける「過集中」の傾向があり、これがゲーム依存を引き起こす要因となります。一方で、自閉スペクトラム症の子どもは非常に強いこだわりを持ち、ゲームに対してもそのこだわりが依存を引き起こす要因になることがあります。

 

さらに、発達障がいを持つ子どもは、対人関係をうまく築けないなど、社会での生きづらさを抱えていることが多いです。そのため、オンライン上のバーチャルな世界での居心地の良さが、ゲーム依存に拍車をかける要因となっています。

 

育ち方や生活環境が及ぼす影響

ゲーム依存に影響を与える要因として、育ち方や普段の生活環境も重要です。まず、インターネットやゲームを始める年齢が早いことは、明確な危険因子となります。

 

家庭内で親や兄弟がゲーム好きで、頻繁にゲームをしている場合や、身近にゲーム機やスマートフォンが常にあり、日常的にゲームができる環境で育った子どもは、ゲーム依存のリスクが非常に高くなります。また、幼少期に虐待を受けた子どもや、親から十分な愛情を受けられずに育った子どもも、ゲーム依存になりやすい傾向があるとされています。

 

ゲーム中心に生活が回っている子は要注意

当院である久里浜医療センターでは、WHO(世界保健機関)の診断基準に基づき、ゲーム依存の疑いがあるケースをスクリーニングするための「ゲームズテスト」を作成し、公開しています。このテストはチェックリストとしてご利用いただけます。

 

たとえば、ゲームをする時間が長い、約束したゲーム時間を守れない、夜中までゲームを続けるために朝起きられない、課金額が増えている、注意されると激昂する、ゲーム以外のことに興味を示さない、などの行動は、ゲーム依存が強く疑われる兆候です。

 

では、「ゲーム時間が長い」とは具体的にどの程度を指すのでしょうか。多くの学者が「ゲームの時間と依存は関係ない」と主張していますが、当院では患者さんの実態調査から「平日に2時間以上ゲームをする場合、ゲーム依存のリスクが増える」と判断し、ゲームズテストのチェック項目に反映させています。これはあくまで一つの目安ですが、参考になると思います。

若いほど依存に至るまでの進行が速い 

兆候が見られた場合、親としてどのように対処すべきかについて、まず親子で話し合うことが重要です。ゲームをする場所や時間に関するルールの必要性を説明し、その上でお子さんの意見を聞きながら、どのようにルールを守るかを一緒に考え、じっくりと話し合ってください。

 

それでも改善が見られず、家族内での解決が難しい場合は、相談機関に連絡を取りましょう。各都道府県や政令指定都市の精神保健福祉センターには依存に関する相談窓口があります。また、ゲーム依存を専門的に診療している医療機関でも相談に応じています。多額の課金に関する問題については、消費生活センターや国民生活センターに相談することも考えてください。

 

医療機関を受診するべき場合については、専門医療機関の受診は早すぎることはありません。これまでにさまざまな年齢の患者を診てきた結果、年齢が若いほど依存に進行するスピードが速く、早期の対処が必要であることが分かっています。専門医療機関では、ゲーム依存に至っていない場合でも適切なアドバイスを受けることができるので、気になる症状がある場合は受診を検討してください。

 

久里浜医療センターのホームページには、ゲーム依存の専門医療機関のリストが掲載されていますが、12歳以下の診療が可能な医療機関は限られています。各医療機関に詳細を確認するか、このリストに掲載されていない小児科や児童思春期精神科で診療を行っているかを、精神保健福祉センターに問い合わせてみるとよいでしょう。

 

子どもの治療は「難しい」

ゲーム依存の治療については、世界的にもまだ歴史が浅く、どのように治療を進めれば効果的なのか、明確には分かっていません。特に12歳以下の子どもの治療に関する知見はほとんどないのが現状です。治療は精神科医による精神療法が中心で、当院では臨床心理士による個人カウンセリングやデイケアなどを組み合わせて行っていますが、子ども特有の難しさが伴います。

 

子どもが治療に難しさを感じる理由として、まず、自分が抱える問題やその深刻さを十分に理解できないため、「この状況から抜け出したい」や「治療に取り組もう」というモチベーションが低くなりがちです。また、我慢する力が弱いため、ゲームを減らしたりやめたりすることが困難です。治療では認知行動療法などが用いられますが、会話を通じて進めるこの療法は、子どもが言葉を十分に理解できない場合、時間をかけて丁寧に進める必要があります。

 

治療の流れとしては、まず本人の言い分とご両親の意見を聞き、相談しながら治療計画を立てます。そして「次の受診日までにこうしよう」といった約束を決め、それを達成できるように本人や家族をフォローします。依存の治療全般に言えることですが、少しでも改善しようと努力する姿勢が見えたり、実際に改善が見られたりした場合は、しっかりとフィードバックし、褒めることが重要です。この積み重ねが非常に大切です。

 

何をもって「治る」とするかが難しい

治療にどのくらいの時間がかかるかという点については、何をもって「治る」とするかが難しいところです。治療の理想的な目標はゲームを完全にやめることですが、小学生に限らず、どの年齢においてもゲームを完全にゼロにできたケースは非常に少なく、現実的にはゲームの時間を減らすことを目標にする治療が一般的です。学業や部活動、友だちとのリアルな遊びが子どもたちの中で次第に大きな存在となり、ゲームが隅に追いやられていくような状況が見られる場合、十分に良くなっていると考えてよいでしょう。

 

改善の期間については個人差が大きいです。不登校の子が治療中に突然「今の生活を変えたい」と言い出し、学校に通うようになるなど、急速に改善していくケースも少なくありません。一方で、治療をしても同じ状態が続く場合もあります。(取材・文/熊谷わこ)

 

〇樋口 進(ひぐち・すすむ)医師/精神科医。独立行政法人国立病院機構久里浜医療センター名誉院長。1979年東北大学医学部卒。米国立保健研究所留学、国立久里浜病院臨床研究部長、同病院副院長、2011年に同病院院長となり、わが国初のインターネット依存専門外来を開設し、診療を開始した。2022年から現職。WHO物質使用・嗜癖行動研究研修協力センター長、慶應義塾大学医学部客員教授を兼務。

 

発達障がいとは?

発達障がいとは、脳の機能の発達に何らかの偏りが生じることで、主に社会的なコミュニケーションや日常生活に支障をきたす状態を指します。発達障がいは外見からは分かりにくく、子どもの頃にその特徴が現れることが多いですが、大人になってからも影響を受けることがあります。主な発達障がいとして、自閉スペクトラム症(ASD)、注意欠如多動症(ADHD)、学習障がい(LD)などが挙げられます。

 

自閉スペクトラム症(ASD)

自閉スペクトラム症(ASD)は、社会的なコミュニケーションや対人関係に困難を伴う障がいです。ASDの特徴として、他者との会話や感情のやりとりが難しい、特定の活動や興味に強いこだわりを持つことが挙げられます。ASDは広範囲なスペクトラムとして理解され、軽度から重度までさまざまな形で現れることがあります。

 

注意欠如多動症(ADHD)

注意欠如多動症(ADHD)は、注意を持続することが難しい「注意欠如」と、じっとしていることが苦手な「多動性・衝動性」の2つの主な特徴を持つ障がいです。ADHDの子どもは、授業中に集中できなかったり、忘れ物が多かったり、衝動的な行動を取ることがよくあります。また、大人になってもその影響が残ることが多く、職場や家庭での生活に支障をきたすことがあります。

 

学習障がい(LD)

学習障がい(LD)は、知的な能力に問題はないものの、読む、書く、計算するなどの特定の学習領域で困難を抱える障がいです。例えば、読字障がい(ディスレクシア)では、文字を読むことが非常に難しくなります。学習障がいは学校生活において特に顕著になることが多く、早期の発見と適切な支援が求められます。

 

発達障がいの原因

発達障がいの原因は完全には解明されていませんが、遺伝的な要因と環境的な要因が複雑に絡み合っていると考えられています。家族に発達障がいを持つ人がいる場合、その子どもにも発達障がいが現れるリスクが高いことが知られています。また、胎児期の脳の発達に影響を与える要因や、出生後の環境要因も発達障がいに影響を与える可能性があります。

 

発達障がいの診断と支援

発達障がいの診断は、医師や心理士などの専門家が行います。診断は子どもの行動観察や家族からの聞き取り、発達検査などを基に行われます。早期の診断が重要であり、適切な支援を受けることで、その子どもが持つ力を最大限に引き出すことが可能です。

 

支援には、特別支援教育や療育プログラム、行動療法、薬物療法などがあります。家庭や学校、地域社会での理解と協力も重要で、発達障がいを持つ人がその人らしい生活を送れるよう、周囲のサポートが求められます。

 

発達障がいと社会

発達障がいを持つ人々が社会で生活し、働く際に直面する課題も少なくありません。就職や職場での適応、対人関係の築き方など、さまざまな困難に直面することがあります。しかし、発達障がいの特性を理解し、適切なサポートや職場環境の調整が行われることで、彼らが持つ強みを活かすことができ、社会での活躍の場が広がります。

 

発達障がいについての認識と理解が広がることで、発達障がいを持つ人々がより良い環境で生きていくことが可能になります。周囲の人々の理解と共感、そして社会全体での支援体制の強化が求められます。

まとめ

ゲーム依存は子どもたちの成長や生活に大きな影響を与える深刻な問題です。特に発達障がいを持つ子どもは依存に陥りやすく、早期の対応が重要です。親としてできることは、子どもの状況を理解し、適切なルール作りとサポートを行うことです。兆候が見られた際には専門機関に相談し、子どもが健全な成長を遂げられるよう、家庭や学校、地域社会全体で協力して支援していくことが求められます。

 

参考

子どもの「ゲーム依存」、なりやすい子の特徴と“危険因子”は? 専門医に聞く(AERA with Kids+) #Yahooニュース

 


凸凹村や凸凹村各SNSでは、

障がいに関する情報を随時発信しています。

気になる方はぜひ凸凹村へご参加、フォローください!

 

凸凹村ポータルサイト

 

凸凹村Facebook

凸凹村 X

凸凹村 Instagram


 

関連情報

みんなの障がいへ掲載希望の⽅

みんなの障がいについて、詳しく知りたい方は、
まずはお気軽に資料請求・ご連絡ください。

施設掲載に関するご案内