2024.07.02

知的障がい者の親の苦悩「こんな時どうすれば…」強度行動障がいを乗り越えるためには

知的障がいを持つおとなの親たちの苦悩は、しばしば周囲から理解されにくいものです。知的障がい児も成長し、やがておとなになります。しかし、その知的な発達は子どものままです。

一方で、体格はおとな並みに成長し、難しい話を理解することが難しく、意思表示もうまくできません。具体的な要求以外に自分の思いを伝えることはできなくても、体力は非常に強く、暴れ始めると止めるのは困難です。

 

親たちが最も悩むのは「強度行動障がい」と呼ばれる問題です。これは、自傷行為や興奮、癇癪(かんしゃく)、暴言、暴力、強迫行動(こだわり)、性的逸脱行動などを含みます。

場合によっては虚言、窃盗、器物破損、他害行為などの反社会的行動にまで至ることもあります。

さらに、これらの問題行動に加えて、小児期から続く夜尿、尿失禁、便失禁、便こねなどの排泄の問題が残ることもあります。このような状況において、親たちはどう対処すればよいのでしょうか。

 

精神科医と知的障がい者

知的障がい者の強度行動障がいに対応することは、親や介護者、学校関係者、施設関係者にとって大変な課題です。独力での対処は難しく、医師の助けを借りることが必要となります。

 

小学生くらいまでは小児科医が対応してくれることが多いですが、中学生以上になると行動が過激化し、精神科医の助けが必要になることが多くなります。精神科医は、向精神薬(こころに効く薬)の使用に精通しており、多種多様な薬剤を用いて行動を制御することが一般的です。

 

向精神薬の多くは保険適用外

しかし、知的障がいの行動障がいに対して向精神薬の多くは保険適用外です。特に抗精神病薬は統合失調症の治療薬であり、知的障がい者の興奮を鎮めるためのものではありません。知的障がい者は精神病患者ではなく、統合失調症に罹患しているわけでもありません。そのため、知的障がい者に薬剤を使う場合、制度上承認されていない使い方(オフラベル使用)を行うことになります。

 

さらに、一部の抗精神病薬には糖尿病のリスクがあり、すべての抗精神病薬には体重増加のリスクがあります。自己管理能力の低い知的障がい者にとって、これらの薬は生活習慣病のリスクを高める可能性があります。そのため、向精神薬の使用は慎重に検討されるべきです。

 

親や介護者、医療関係者は、このようなリスクを理解しながら、知的障がい者の行動障がいに適切に対処する方法を模索し続ける必要があります。社会全体での支援と理解が重要です。

プラダー・ウィリー症候群の強度行動障がい

筆者はもともと知的障がい者の行動症状の専門家ではありませんでした。しかし、現職に就いてからプラダー・ウィリー症候群という希少疾患の専門家がいる病院に勤務することになり、その小児科医から行動症状の緩和を依頼されるようになりました。

引き受けているうちに、200人近いプラダー・ウィリー症候群の患者を診ることになったのです。この症候群は、程度の差はあれど、思春期以降に強度行動障がいを呈することが特徴です。

 

筆者がプラダー・ウィリー症候群の患者を診る中で、「精神科医のわりに行動症状に強い」という評判が小児科医たちの間で立ち、次第にプラダー・ウィリー症候群以外の知的障がい者に関しても、行動症状のコントロールを頼まれるようになりました。

 

1万5000~2万人に1人の割合で発生する遺伝疾患

プラダー・ウィリー症候群は、1万5000~2万人に1人の割合で発生する遺伝疾患で、行動症状は多彩かつ激烈です。また、この症候群の患者は低基礎代謝と満腹中枢機能不全という深刻な問題を抱えています。前者は太りやすい体質を意味し、後者は食べても満腹感を得られないことを意味します。

 

これらの問題が併存するため、プラダー・ウィリー症候群の患者は容易に病的肥満に陥ります。厳密な食事コントロールを行わない限り、糖尿病、肺炎、皮膚感染症、心不全などを発症し、短い生涯を終えることが多いです。

 

肥満とその関連疾患が短命の原因であることは共通

プラダー・ウィリー症候群の平均死亡時年齢は、Bellisら(2022年)は21歳、Butlerら(2017年)は29.5±16歳と報告しており、かなりのばらつきがあります。しかし、どの報告も肥満とその関連疾患が短命の原因であることは共通しています。

 

日本国内、特に獨協医科大学埼玉医療センターのような実践知の蓄積された病院に通っている患者は、幼少期から徹底的な生活習慣指導を受けており、家族の意識も高いです。その結果、おそらくButlerら(2017年)のデータよりもプラダー・ウィリー症候群の寿命は延びていると考えられます。それでも、筆者たちも10代、20代で多くの患者を見送ってきたことは確かです。

 

プラダー・ウィリー症候群の患者とその家族にとって、適切な医療と生活習慣の指導は不可欠です。社会全体での理解と支援が重要であり、専門医や医療機関の役割も大きいです。

 

知的障がい者の行動症状:非薬物的対応の重要性

プラダー・ウィリー症候群に限らず、知的障がい者の行動障がいに対しては、世界中の精神医学会の診療ガイドラインが非薬物的対応を第一に勧めています。

 

では、非薬物的対応とは具体的に何をすれば良いのでしょうか。実際には標準的な方法は存在しません。その障がい者の行動パターンを詳細に観察し、それに合わせた対応法を考えることが重要です。

 

問題行動を誘発し持続させている原因を探る

まず、その障がい者において修正すべき問題行動が何であり、それをどのような行動に変えていくべきかを明確にします。そして、環境要因を注意深く観察し、問題行動を誘発し持続させている原因を探ります。

 

具体的には、ある生徒や特定の人物に対して怒っている場合や、ある言葉に対して恐怖を感じパニックに陥る場合などが考えられます。また、本人にとって予期せぬ出来事が発生し、どう対応していいかわからずにうろたえている場合もあります。

本人なりの不穏に陥るパターンが必ず存在します。それを見つけることが、適切な対処方法の工夫につながります。

 

幼少期から生活習慣に積極的に介入する

癇癪、興奮、パニックのほとんどは、本人なりの回避行動です。何らかの心理的負担がかかっているために起こるものであり、その負担を取り除くことができれば解消につながるはずです。

 

平時の生活習慣においても留意すべき点があります。「こういうときどうしたらいいのか」という質問は、親御さんから最も頻繁に寄せられるものですが、それに先立ち普段からの備えが重要です。

 

まず、睡眠不足や不規則な睡眠パターン、過度の疲労、不活発な生活、偏食などは、すべて行動症状を悪化させる要因です。成人の場合、アルコールの摂取も同様です。

 

その逆に、十分な睡眠時間を確保し、安定した睡眠リズムを保つこと、バランスの取れた食事を心掛けることは、行動症状を軽減させる助けとなります。特に、アルコールは行動症状がある場合には控えるべきです。

 

知的障がい者は健康管理能力が低いため、小学生高学年から肥満の割合が増加し、成人期には生活習慣病に罹患することが多いとされています。幼少期から生活習慣に積極的に介入することは、成人期以降の健康維持にとって非常に有益です。さらに、これが行動症状の緩和にも寄与します。

 

情動の不完全燃焼が一因となることがある

特に重要なのが運動です。知的障がい者の興奮は個人差がありますが、情動の不完全燃焼が一因となることがあります。そのため、散歩や体操、フィットネス、ダンス、卓球など、何らかの形で定期的に身体を動かす機会を作ることが大切です。特に散歩は日課として取り入れたい活動です。

 

適度な運動によって抗重力筋に疲労を感じる程度の負荷をかけることが、就寝時の質を向上させるだけでなく、精神の安定にも効果的です。

 

昼間から屋外で積極的に体を動かし、帰宅後には不穏な体力が残らないように調整することも重要です。そして、入浴して夕食を摂り、寝る準備を整えることが、良好な睡眠をサポートします。

まとめ

知的障がい者の行動症状に対する適切な支援は、親や介護者、医療関係者の協力が不可欠です。非薬物的対応を重視し、生活習慣の改善にも努めることで、彼らの生活の質を向上させる取り組みが求められます。社会全体での理解と支援があってこその解決策です。

 

参考

<知的障がい者の親の苦悩>「こんな時どうすれば」…強度行動障がいを乗り越えるには(Wedge(ウェッジ)) #Yahooニュース


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