2024.06.28

「知的障がいのある芸術家に正当なロイヤリティを支払う」「かわいそう」という言葉への違和感がすべての始まり 異彩作家の才能を世界へ発信

「異彩を、放て。」という合言葉のもと、大胆かつ革新的な手法で知的障がいのある芸術家のアート作品を高級ブランド品並みの価値に高めているスタートアップ企業があります。それが、岩手県盛岡市を拠点とするヘラルボニーです。

この企業の目標は、「障がい者」に向けられる奇異な視線を尊敬へと変えることにあります。効率や生産性が優先される資本主義社会の中で、敢えて変革を起こすという一見無謀に思える挑戦を続けています。しかし、共同創業者の松田文登さんは気負うことなく、しなやかに自然体でその挑戦に臨んでいます。

 

知的障がい者って、「かわいそう」なの?

ヘラルボニー共同創業者である双子の文登さんと崇弥さんには、4歳年上の兄・翔太さんがいます。翔太さんは重度の知的障がいを伴う自閉症で、子どもの頃から「かわいそう」と哀れみの視線を向けられるのを感じてきました。兄が「かわいそう」と言われない社会にしたい!そんな思いから2人は立ち上がりました。

 

起業のきっかけとなったのは、障がいのある人の作品を中心に展示する岩手県花巻市の「るんびにい美術館」を訪れたことでした。それまでに観たことのない、緻密な線と鮮やかな原色で彩られた絵画や、執拗なまでに細い線でいくつも同心円を描いたキャンバスなど、強烈なインパクトのある作品ばかりでした。「この素晴らしい作品を、もっと多くの人に知ってもらいたい。そして、素晴らしさに見合う報酬を得られる仕組みをつくりたい」という思いを、2人は共有したのです。

 

自立して暮らしていくにはほど遠い

日本では、「障がい者は国からの補助金や支援を前提で生きている人」というイメージが定着しています。そのため、どんなに芸術的なセンスにあふれて、素晴らしい作品を生み出しても、注目されることはなく、哀れみの対象になってしまいがちです。

 

「福祉」の枠組みで運営されている障がい者向けの就労支援施設は、役務の提供(労働)を求めているわけではなく、支援することに主眼を置いています。そのため、重度障がい者が多く利用する施設での2021年度の平均工賃は、月額1万6507円(厚生労働省調べ)で、自立して暮らしていくにはほど遠い額です。

 

無数の個性

日本を代表する前衛芸術家・草間彌生さんが、少女時代から統合失調症による幻覚や幻聴に苦しめられてきたことは、アートファンの間では広く知られています。しかし、誰も彼女のことを「障がいのある芸術家」とは呼びません。草間彌生ワールドを説明するのに、もはや病名も障がいというレッテルも不要です。

 

「知的障がい」というひとくくりの言葉にも、無数の個性があります。生み出される作品も、繊細を極めるものもあれば、大胆な構図と色づかいが魅力のものもあります。ヘラルボニーでは、作品を生み出す人たちを「異彩作家」と呼んでいます。

 

「ヘラルボニーが障がいのあるアーティストの作品を、価値あるものとして社会に届け、イメージの変容を促したい。異彩作家の作品なくしては、われわれが食べていけないという逆の価値観を社会に提示できれば、すごいイノベーションになると思っています」と、文登氏は静かな口調で、壮大なプランを語ってくれました。

 

アート作品のデザインを生かした商品

文登さんと崇弥さんは、「るんびにい美術館」で受けた衝撃や感動を多くの人に伝えたいと思い、アート作品のデザインを生かした商品を作ろうと考えました。障がい者と社会とを「結ぶ」象徴として、最初に取り組んだのがネクタイです。

 

とはいえ、アパレルとは無縁のずぶの素人がいきなりネクタイを製造販売しようとしても、まともに相手をしてくれる業者は簡単には見つかりませんでした。何社も何社も門前払いされた後に、老舗のネクタイ専門店「銀座田屋」の工場に直談判に行き、2人の熱意が通じて製造を引き受けてもらえることになりました。田屋にとっては、創業以来初めての他社商品の製造受託になったそうです。「障がい=欠落というイメージを変えるためにも、最高品質の商品からスタートできたのはうれしかった」と話しています。

 

異彩作家のアートが採用

ネクタイの商品化実現を皮切りに、ヘラルボニーは他社との業務提携を加速させました。日本航空(JAL)の国際線の機内食のスリーブ(紙帯)、ヨネックスのスノーボード、東海旅客鉄道(JR東海)が運営する東海道新幹線・東京駅の切符売り場や改札内のスロープなどに、異彩作家のアートが採用されました。

 

日本橋三越本店のショーウインドーにエルメスやルイ・ヴィトンなどのスーパーブランドと並んでヘラルボニーの商品がディスプレイされたこともありました。他にも、家具やアパレル、食品・飲料などの商品やパッケージに、異彩アートが起用された事例は、年間100を超えています。

 

収益機会を増やせるようにライセンシング・ビジネスを展開

通常、アートで収益を上げるには、ギャラリーで展示会を開催して作品を販売するのが定石です。しかし、ヘラルボニーは作品を多くの人の目に触れる機会をつくり、収益機会を増やせるようにライセンシング・ビジネスを展開しています。

 

「ウォルト・ディズニーのミッキーマウスが世界中であらゆるジャンルの商品に登場するように、ヘラルボニーを介して、作品契約作家の作品を広め、ブランド価値を高め、継続的に収益を得られる仕組みにしたい」と文登さんは語っています。

 

現在、ヘラルボニーが保有するライセンスは、国内外37の社会福祉施設でアート活動をしている153人の作家による2000点以上のアートデータです。パートナー企業はデザインを使用するたびにヘラルボニーに使用料を支払い、そこから作家や福祉施設に報酬が支払われます。

拡張したいのは「市場」ではなく「思想」

「ヘラルボニーは、ネクタイや商品を売りたいのではなく、障がい福祉の領域に新しい選択肢を作りたいのです。市場を拡張するよりも、“障がいがあっても、当たり前に肯定される世界を”という思想を拡張したい。その思想が拡張した上で、新しい市場ができあがる土壌を作りたい」と文登さんは強調します。

 

たとえば、ヘラルボニーが各地の百貨店で開催する異彩作家によるライブペインティングでは、アーティストたちが本能にまかせて自由に絵を描く姿が感動を呼びます。

 

「電車やバスの中で知的障がい者が奇声をあげる場に遭遇するくらいしか障がい者との接点がないと、怖がられて、差別や偏見が助長されてしまったように思います。リスペクトが生まれる状態で彼らと出会えれば、認識に変化が生まれてくるはずだと信じています」と述べています。

 

「親なき後問題」とも向き合う

文登さんがヘラルボニーの活動に手応えを感じ始めたのは、2019年12月のことです。ダウン症の八重樫季良さんのアートでJR花巻駅の164枚の窓ガラスをステンドグラスのようにラッピングすると、岩手日報が「地元の芸術家、花巻駅を彩る」と報じました。「障がい者」ではなく「芸術家」と紹介されたことに、八重樫さんの家族や施設関係者も喜んでくれました。

 

また、ある異彩作家の家族から「今年は(ライセンス料などで)400万円の収入があったので、確定申告をします。私たちが扶養されるという冗談のような話が現実になるかもしれません」と感謝の手紙が届いたそうです。

 

知的障がい者の親の多くは、自分たちの死後、子どもが社会に受け入れられ、経済的に困窮することなく暮らしていけるかどうか不安を抱えています。福祉的な支援の枠組みの外側で生きる場所を見つけることができれば、親としても心強いはずです。

 

世界を舞台に

ルイ・ヴィトンなどを傘下に持つフランスの高級ブランドLVMHが主催し、世界の有望なスタートアップ企業を表彰するアワードで、ヘラルボニーは2024年「従業員体験とダイバーシティ&インクルージョン」カテゴリー賞に輝きました。6部門で89カ国から、1545社の応募があり、日本企業が同アワードを受賞するのは初めてのことです。

 

アワードの受賞を経て、ヘラルボニーはLVMHの事業支援プログラムのサポートを受け、海外事業を本格化させます。7月には初の海外拠点としてパリに現地法人を設立します。

 

また、今年、国内外の障がいのあるアーティストを対象にした「HERALBONY ART PRIZE」を創設しました(公募期間は終了)。審査員には、パリでアール・ブリュット専門のギャラリーを経営するクリスチャン・バースト氏や、東京藝術大学の日比野克彦学長などを迎え、受賞作・入選作の展覧会を、国内最大級のギャラリー・三井住友銀行東館アース・ガーデン(東京)で開催します。

 

「かわいそう」という言葉への違和感がすべての始まり

審査員を務めるバースト氏は「ヘラルボニーはアート作品そのものを販売するだけでなく、ライセンシングすることで、より多くの人に彼らの作品が普及できるようなビジネスを展開しています。身内に障がい者がいることもあり、もうけ主義に走るのではなく、障がい者に真に寄り添う誠実な経営です。パリでも、ぜひ、新風を吹き込んでほしい」とエールを送っています。

 

子どもの頃、兄に向けられた「かわいそう」という言葉への違和感がすべての始まりでした。最も身近な家族への思いから出発したヘラルボニーは、いま、新しい文化を生み出そうとしています。「障がい者」を「かわいそうな存在」と思いこんでいる人たちが、ヘラルボニーを介して異彩作家の才能に触れることで、認識を変える。そんな未来は近いと文登さんは思わせてくれました。

 

松田 文登

株式会社ヘラルボニー代表取締役Co-CEO 1991年岩手県生まれ。東北学院大学卒業後、大手ゼネコンで被災地の再建に従事。その後、双子の弟・崇弥と共に、ヘラルボニー設立。盛岡を拠点に自社事業の実行計画及び営業を統括。日本を変える30歳未満の30人「Forbes 30 Under 30 Japan 2019」受賞。

川勝 美樹

ジャーナリスト。米コロンビア大学大学院ジャーナリズムスクール修士課程修了。米系通信社にて経済記者、英系医療機器業界誌や米系住宅専門webマガジンの日本語版編集長などを経て、現在は建築・介護・福祉・アート分野を幅広く取材。「アートx福祉」をテーマにした東京藝術大学の履修証明プログラムDOOR7期生。

まとめ

ヘラルボニーは、創業者が幼少期に感じた「かわいそう」という言葉への違和感から始まりました。最も身近な家族への思いから出発したヘラルボニーは、現在、新しい文化を創造しようとしています。「障がい者」を「かわいそうな存在」と捉える社会の認識を変えるため、ヘラルボニーは異彩作家の才能を広める活動を行っています。ヘラルボニーを介して、多くの人々が異彩作家の作品に触れ、その才能を認識する未来が近いと考えられます。

 

参考

「知的障害のある芸術家に正当なロイヤリティを支払う」―双子の兄弟が仕掛けるしなやかなゲームチェンジ : 盛岡ヘラルボニー  LVMHと組み異彩作家の才能を世界へ発信(nippon.com) #Yahooニュース

 


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