2024.06.24

精神疾患の原因の一つ?「睡眠不足」が引き起こす深刻な影響とは 国家レベルで解決すべき問題なワケ

日本の睡眠不足が国家的損失を招いているという事実は驚くべきものです。アメリカのある研究所のレポートによると、日本における睡眠不足による経済損失は年間で15兆~20兆円にのぼるとされています。それにもかかわらず、長年にわたり日本では効果的な睡眠対策が十分に整備されてきませんでした。

なぜ日本人の睡眠問題がこれほど深刻でありながら、対策が遅れているのでしょうか。人間の睡眠を長年にわたり研究している上田泰己氏の新刊『脳は眠りで大進化する』(文藝春秋)から、その一部を抜粋してご紹介します。上田氏は、睡眠の質が個人の健康だけでなく、社会全体の生産性や経済活動にも大きな影響を与えることを明らかにしています。彼の研究は、国家レベルでの睡眠対策の重要性を強調しており、日本社会が直面するこの重大な課題に対して、早急な対応が求められていることを示しています。

 

日本人の睡眠時間が短すぎる問題

日本は世界でも睡眠時間が非常に短い国として知られています。OECD(経済協力開発機構)による生活時間の国際比較のデータ(2021年)によれば、日本の男女ともに平均睡眠時間は33ヶ国中最も短く、わずか7時間22分となっています。この傾向は大人だけに限らず、子ども世代にも及んでおり、全世代にわたって「睡眠衛生」が悪いとされています。

 

近年の生命科学、特にシステム生物学や合成生物学の発展により、これまで解明が難しかった体内時計や睡眠に関する謎が少しずつ明らかになってきました。こうした研究の進展により、個体レベルの不思議な生命現象に取り組めるようになったことを実感しています。これらの研究は今後、私たちの生活実態と接続しながら広がりを持たせていくことで、さらに進展していくでしょう。

 

改善策を講じるための基礎資料

具体的には、大規模な集団を対象に科学的根拠のある方法で定量的かつ安定したデータを測定することができれば、細胞レベルや個体レベルの生理現象をさらに深掘りすることができます。また、人々が構成する社会における様々な生命現象も解き明かされるでしょう。例えば、レム睡眠とノンレム睡眠のサイクルについても、いくつかのパターンに類型化するためには、大規模なビッグデータが必要です。

 

現状、睡眠に関するビッグデータとしては、イギリスに10万人規模のものがあり、ゲノムデータと紐付いています。このデータは研究目的でアクセス可能であり、私たちも解析に利用していますが、イギリスで取得されたデータであることが前提です。日本でも同様の規模でのデータ収集が行われれば、日本特有の睡眠パターンや問題点をより詳しく理解し、改善策を講じるための基礎資料となるでしょう。

日本は世界でも睡眠時間が非常に短い国

日本は、世界でも睡眠時間が非常に短い国として知られていることをご存じでしょうか?OECD(経済協力開発機構)による生活時間の国際比較のデータ(2021年)によれば、日本は男女ともに睡眠時間が33ヶ国中最も短く、平均7時間22分となっています(日本の睡眠時間は2016年の数値)。世代で見ても、日本は大人だけではなくて子ども世代も睡眠時間が短く、全世代にわたって「睡眠衛生」が悪い国として知られています。

 

「睡眠健診運動」

この日本の睡眠不足による経済損失は、アメリカのランド研究所のレポートでGDP比2.9パーセントに相当する、とも報告されています(2016年)。これは当時のレートで年に15兆円にもなり、現在ならば1.5倍換算で20兆円を超えているはずです。

 

このように世界の中でも特殊な睡眠環境にある日本で、国民を対象にしたビッグデータを集めて私たちの研究とつなげ、睡眠衛生を向上させていくための活動「睡眠健診運動」を私たちは2020年に始めました。

 

睡眠は基本的人権の一つ

睡眠衛生のベースとなる考え方で大事なことは、睡眠は日本国憲法に定められている「基本的人権」に関わっている点です。睡眠は、基本的人権の「社会権」に含まれる「生存権」と非常に密接であるべきで、国民が保障されるべき権利の一つであると考えられています。

もちろんこれは明確に条文化されているわけでなく、国民間に広く周知されているわけでもないのですが、今後睡眠の重要さが可視化されていけばいくほど、この文脈での意識は高まっていくでしょう。

 

生存権とは

生存権とは「健康で文化的な最低限度の生活をいとなむ権利」です。個人の健康を維持するために、健康に生存していくために、睡眠は誰にでも保障される権利であるということは、生物学の枠組みを超え、科学技術の理解とともに広まっていくべきですし、そうなっていくことを私は願っています。これは睡眠衛生を考えていく際にかなり重要なポイントなのですが、忘れられがちな点でもあるので、まずは最初に述べておきたいと思います。

 

日本の法律の面で、健康についての施策は、戦後の「栄養改善法」(1952年)に始まっています。その後は「健康増進法」などで定められてきました。1978年からは、健康増進にかかわる取り組みとして「国民健康づくり対策」が行われ、おおよそ10年ごとに見直しがされています(2000年以降は「健康日本21」)。この対策の方向性で、国民の健康に関する施策は進んでいます。みなさんが会社や自治体からのお知らせで受けている「健康診断」は、こういった健康関連の法律と施策によって実施されています。

 

日本では栄養や運動に比べて取り組みが遅れていた

こうした施策の方針が大きく変わったのは、2008年のことです。日本は戦後から長らく栄養が足りない、栄養をしっかり摂って健康な体を作っていきましょう、と健康対策を進めてきたのですが、2000年代になると栄養の摂りすぎが問題になってきました。体作りのために運動は引き続き重要だけれども、栄養過多はよくないので改善しましょう、と施策もシフトしたのです。それによって特定健診(メタボ健診)が実施されるようになりました。

 

このように健康についての対策では、栄養、食事、運動といった活動を推進するかたちがとられてきました。一般的に健康では、栄養(食事)、運動に加えて、休養(睡眠)が重要な3本柱だと考えられています。栄養(食事)や運動への施策は積極的に行われてきたのですが、休養、特に睡眠については、日本では栄養(食事)や運動に比べてその取り組みが遅れていました。

 

睡眠対策の遅れは測定の難しさにあった

それでも1994年には休養についての「健康づくりのための休養指針」が出され、2003年に「健康づくりのための睡眠指針」と名称が変わって、ほぼ10年ごとの改訂がされています。2003年には、「快適な睡眠のための7箇条」が発表され、2014年には「睡眠12箇条」というのが出されています。今度の2024年の指針改訂では、睡眠衛生指導がメインになっています。

 

このように、睡眠について具体的な社会実装が遅れがちになってしまっている背景には、休養あるいは睡眠というものを簡便に、正確に測定して指導することに技術的な困難があったことがあります。体重を量るように、レントゲンを撮るように、短時間で確実な結果を得ることが睡眠ではできずにいました。また、運動や食事は意識がある覚醒時の活動ですが、睡眠は意識がない状態での活動になるため、客観的な測定に難しさがあって遅れてしまっていたのです。

 

睡眠不足の影響

現代社会において、多くの人々が睡眠不足に悩まされています。特に日本では、OECD(経済協力開発機構)の調査によると、平均睡眠時間が33ヶ国中最も短いという結果が出ています。睡眠不足は単なる疲労感を引き起こすだけでなく、健康や経済にも深刻な影響を及ぼします。この章では、睡眠不足が個人の健康と社会全体に与える影響について詳しく解説します。

 

個人の健康への影響

身体的健康問題

  • 免疫力の低下:睡眠不足は免疫機能を弱め、風邪やインフルエンザなどの感染症にかかりやすくなります。
  • 肥満と代謝異常:睡眠不足はホルモンバランスを崩し、食欲を増進させるホルモン(グレリン)の分泌が増え、逆に満腹感を与えるホルモン(レプチン)の分泌が減少します。これが肥満や糖尿病のリスクを高めます。
  • 心血管疾患:長期的な睡眠不足は高血圧、心臓病、脳卒中のリスクを増加させます。

 

精神的健康問題

  • うつ病と不安障がい:睡眠不足は精神的なストレスを増大させ、うつ病や不安障がいのリスクを高めます。慢性的な睡眠不足は精神的な健康を著しく悪化させる要因となります。
  • 認知機能の低下:睡眠不足は注意力、判断力、記憶力を低下させ、日常生活や仕事のパフォーマンスに悪影響を及ぼします。

 

社会と経済への影響

生産性の低下

  • 労働力の減少:睡眠不足によって労働者の集中力や効率が低下し、生産性が損なわれます。これにより、企業全体の業績にも悪影響が及びます。
  • 事故の増加:睡眠不足は交通事故や労働災害のリスクを高めます。これにより、人的被害だけでなく、企業や社会全体に多大な経済的損失が発生します。

 

経済損失

  • GDPへの影響:アメリカのランド研究所のレポート(2016年)によると、日本の睡眠不足による経済損失はGDP比2.9%に相当し、当時のレートで年間約15兆円と推定されています。現在のレートでは、この損失額は20兆円を超える可能性があります。
  • 医療費の増加:睡眠不足に関連する健康問題の治療費や、労働力の低下による経済的損失は膨大です。

対策と今後の展望

睡眠不足による影響を軽減するためには、個人レベルと社会レベルでの取り組みが必要です。

 

個人レベルの対策

  • 規則正しい生活:就寝時間と起床時間を一定に保つことが重要です。
  • 適切な睡眠環境の整備:静かで暗い、快適な温度の部屋で眠ることが推奨されます。
  • ストレス管理:リラクゼーション法や適度な運動を取り入れることで、睡眠の質を向上させます。

 

社会レベルの対策

  • 労働環境の改善:長時間労働の削減や、フレックスタイム制度の導入など、柔軟な働き方を推進します。
  • 睡眠教育の普及:学校や職場で睡眠の重要性を教育し、適切な睡眠習慣を広めることが必要です。
  • 政策の推進:政府は睡眠の重要性を認識し、健康増進法などの法制度を強化するべきです。

まとめ

睡眠不足は個人の健康だけでなく、社会全体に深刻な影響を与える問題です。個人と社会が協力して適切な睡眠を確保するための取り組みを進めることで、この問題を解決し、健康で生産的な社会を実現することができます。私たち一人ひとりが睡眠の重要性を再認識し、生活習慣を見直すことが、明るい未来への第一歩となるでしょう。

 

参考

年間15兆~20兆円の国家的損失…「日本人の睡眠不足」が国家レベルで解決すべき問題なワケ(文春オンライン) #Yahooニュース


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