2024.06.14

幼少期のトラウマが原因?発達障がいやうつ病と間違いやすい…「ダメ人間」と悩んでいる人の”意外な診断結果”

発達障がいと診断される人が増えている昨今、仕事や日常生活の不調に悩み、自分を「ダメ人間だ」と責める人が少なくありません。

しかし、その原因が発達障がいではなく、意外なところにあることも多いのです。精神科医の生野信弘さんの著書『トラウマからの回復』(扶桑社)では、原因不明の不調に悩むハナさんのケースが紹介されています。

 

トラウマが隠された原因?

ハナさんが予約したクリニックは、オフィス街のメイン通りから少し離れた静かな場所にありました。50代くらいの穏やかな雰囲気を持つ男性医師が診察室に現れ、ハナさんに優しく問いかけました。ハナさんは、体調が悪く日常生活がうまくいかないこと、そしてその原因が分からず困っていることを話しました。医師に促されるまま、ハナさんは幼少期の出来事についても語り始めました。

 

ハナさんは、忘れっぽくて集中力がないこと、大きな音が昔から苦手だったことを打ち明けました。ライフハック本を読んで工夫を凝らし、何とか仕事をこなしてきたものの、最近はうまくコントロールできなくなってしまったのです。ハナさんは、自分に発達障がいの特性があるのではないかと心配していました。

 

しかし、医師はすぐに発達障がいの診断を下すことはできないと説明しながら、ハナさんの生育歴を聞く限り、幼少期の親とのトラウマ体験が影響している可能性があると示唆しました。

 

ハナさんは驚きました。確かに両親とはあまり良い思い出がありませんでしたが、実家を出てずいぶん経つし、自分もいい大人です。今更トラウマというのもおかしい気がすると感じました。

 

気合や根性では解決できない

しかし、医師は普通はそう考えるとしながらも、大人になってもきっかけさえあれば、トラウマの蓋が突然開くことがあるのだと説明しました。それによって心身に不調をきたしたり、発達障がいに似た症状が表れたりすることもあると言います。

 

ハナさんはさらに驚きました。最近、先延ばし癖がひどくなり、仕事でも凡ミスが増えてしまった自分を、もともとダメ人間だったが、前以上にポンコツになってしまったと感じていました。そんな自分が恥ずかしくて仕方がなかったのです。これもトラウマが影響しているのかと問いかけました。

 

症状として治療することもできる

医師は、そうした特徴が生まれつきのものか、トラウマ体験によるものかを厳密に区別するのは難しいところだと説明しました。しかし、トラウマの影響で日常生活がままならないのであれば、それを症状として治療することもできるのだと言います。つまり、「気合や根性でどうにかする」ものではないと強調しました。

 

ハナさんは、トラウマを治療することに対して驚きを隠せませんでした。子ども時代に受けた心の傷は生涯治らないものだと思っていました。今後の人生にも影響し続けると思っていたのです。

 

しかし、医師は続けました。トラウマ治療は「過去の辛い記憶をなくす」というものではなく、トラウマの記憶を過去のものとして処理し、自分の未来に影響を与えないようにしていくのだと説明しました。

 

過去の「傷」が今の自分に与える影響

田町三田こころみクリニックで診療を行っている精神科医の生野信弘先生はこれまで、過食症の対人関係療法とトラウマ関連疾患の治療を中心に多くの患者さんを見てきました。

 

診療を受けに来る患者さんの中には、「自分は発達障がいではないか?」「他院で抗うつ薬や抗不安薬を処方されたけど、症状が改善されない」と訴える方が多くいます。そして、よく話を聞くと、それはうつ病ではなく、実は過去のトラウマ体験がもたらす症状だったというパターンもあるのです。

 

幼い頃に親から日常的に叩かれていたり、性被害を受けていたりするなど、過去の「傷(トラウマ体験)」を心や体が覚えていると、現在の自分の体調にも影響を及ぼすことがあります。

 

要因の一つに神経系の誤作動

その要因の一つとして、神経系の誤作動があります。神経系にはいくつか種類がありますが、その中でも「交感神経」や「副交感神経(迷走神経)」という言葉を聞いたことがある人も多いでしょう。交感神経は活動する際に優位になる神経系で、副交感神経(迷走神経)はリラックス状態に関わっています。

 

副交感神経(迷走神経)には、「腹側迷走神経」と「背側迷走神経」の2種類があります。私たちが穏やかに社会的な生活を送っているときは腹側迷走神経が優位の状態です。一方、交感神経は哺乳類に古くから備わっている機能で、危機的状況に陥ったときにその場所から逃走したり、あるいは敵と闘ったりするときにより活発になります。

 

「過覚醒」と「低覚醒」のメカニズム

社会生活を送る中で交感神経が過剰に働くと、小さな物音にも驚いて飛び上がってしまったり、不眠に陥ったり、相手から言われた些細な言葉を攻撃だと認識して激昂してしまうなど、実にさまざまな状態を引き起こします。これを「過覚醒」といいます。

 

もう一つポイントとなるのが、副交感神経(迷走神経)のひとつ「背側迷走神経」です。生命の危機を感じたときに背側迷走神経は、交感神経とは別の形で対応しようとします。たとえば、野生動物を撮影したドキュメンタリー映像などで、ライオンに捕食されそうになっている小動物が、ライオンの鋭い歯で首根っこをつかまれているにも関わらず、抵抗せずぐったりしているような場面を見たことはありませんか?

 

人間も突然驚かされたり、身の危険を覚えるような体験をしたら身動きが取れなくなることがあります。これはフリーズ反応と呼ばれるもので、「背側迷走神経」が優位となりフリーズ反応が起きると、辛い状況を感じないように感覚や感情を麻痺させたり、体の動きを制限したりします。これを「低覚醒」といいます。

低覚醒が続くと慢性的なうつ状態に見える

動物ならば、運よく生き延びれば低覚醒状態(フリーズ反応)から解放されて通常の活動レベルに戻ることができますが、人間はそう簡単にはいきません。特に、慢性的にトラウマ体験にさらされてきた人は、大人になっても不必要な場面でたびたび低覚醒に陥ることがあり、それが続くと慢性的なうつ状態に見えることがあります。

 

そのため、幼少期にトラウマ体験を受けた人が、うつ病と誤診されてしまうケースも後を絶ちません。

先ほど登場したハナさんは、眠れなくなったり電車の中で聞いた大声に過剰に反応する「過覚醒」と、何時間もデスクで固まったり、体が異常に重く朝起きることができない「低覚醒」の両方が見られました。

 

本来は「交感神経」も「背側迷走神経」も適切に機能していれば、日常生活で過剰に反応することはありません。それなのに、なぜハナさんは生活がままならないほど神経系にブレが生じてしまったのでしょうか。

 

過去に起きた危機的状況と同じと認識

実はその背後には、過去のトラウマ体験がひそんでいました。過去に慢性的なトラウマ体験にさらされた結果、その後の生活においても、何でもない場面で脳や体が「過去に起きた危機的状況と同じ」と認識してしまうことがあるのです。それを「再体験症状」と言います。

 

再体験症状が表出すると、適切ではない場面で交感神経・背側迷走神経が刺激され、過覚醒や低覚醒に陥ってしまいます。トラウマ体験そのものを忘れていたとしても再体験症状は起こるため、患者さんはしばしば原因不明の不調に悩まされています。

 

“ツマミ”をうまく操作できない状態

私のもとでトラウマ治療を受けているある患者さんは、この状態を「オーディオやラジオについている音量調節の“ツマミ”をうまく操作できない状態」と表現しました。「些細な出来事がトリガーになって、急激に音量を上げてしまったり(過覚醒)、逆に下げてしまったり(低覚醒)、ちょうどいいボリュームにできない」というのです。この表現は、トラウマがもたらす神経系の不調を非常に的確に言い表しています。

 

発達障がいの診断が増え続けている背景

ストーリーに登場するハナさんは、自分の不調の原因が分からず、現在の困りごとは発達障がいに起因すると考えていました。

 

発達障がいという言葉が広く認知されるようになって長い時間が経ちますが、診断者数は年々増えています。文部科学省が発表した資料によると、発達障がいと診断される子どもの数は2021年の時点で15年前の約16倍にも増加していました。

 

大人の発達障がいも同様に増え続けていると言われていますが、その中には「トラウマ」が原因で発達障がいと似た症状を示している人も一定数いるのではないかと考えています。

 

神経系の発達が阻害され、症状が起きやすくなる

トラウマ関連疾患では、交感神経や背側迷走神経の働きを適切な覚醒レベルに調節することが難しく、過覚醒・低覚醒が起きやすくなります。神経系が発達する幼少期、あるいは一度発達した神経系が再構築される思春期に慢性的なトラウマ経験を受けると、神経系の発達が阻害され、症状が起きやすくなるのです。

 

一方、先天的な特性ともいえる発達障がいは、定型発達の人よりもゆっくりと神経系が発達していきます。トラウマ関連疾患と発達障がい、いずれにしても神経系の誤作動により症状が起きるため、両者とも近しい言動が目立つのです。

原因がわからず、自分を責める患者たち

幼児期に家庭内暴力や面前DV、身体的な虐待やネグレクト(育児放棄)に伴う養育者の頻繁な交替といった慢性的なトラウマ体験にさらされて愛着の形成に失敗すると、児童の一部は落ち着きがなかったり、衝動的だったり反抗的な言動をする場合があります。

 

これはADHD(注意欠如多動症)に似た症状です。こうした被虐待児に表れる一連の症状を「第四の発達障がい」と定義づける研究者もいるほどです。

 

頑張りが足りないのではないかと自分を責める人も

そして、患者さん本人ですら、現在の不調が過去のトラウマによるものであると知らないことが多く、さまざまな不調に対して何が起こっているのか分からないまま、人知れず孤独を感じている人もいます。

なぜみんながこなせる日常を自分はまともに送ることができないのか、理由の分からない不調はなぜなのか、頑張りが足りないのではないか……。そうして自分を責める人もいるのです。

 

先天的な「気質」と後天的な「性格」は別

精神科医として私たちは、生まれ持った「気質」と、生まれ育った環境で形成される「性格」を分けて考えています。そして、環境により出来上がった後天的な「性格」は、想像以上に現在の言動に表れます。

 

例えば、極端に打たれ弱い、怒りっぽい、情緒不安定、集中力がないなど、生まれ持った気質だと思っていたものも、過去の経験によって形成された性格かもしれません。それがトラウマによって作り上げられたもので、日常生活に困難をきたしているのであれば、症状として診断されます。

 

慢性的なトラウマ体験を原因とする疾病「複雑性PTSD」

2018年には、慢性的なトラウマ体験を原因とする疾病「複雑性PTSD」が、世界保健機関(WHO)の定める疾病分類「ICD-11」に登録されました。複雑性PTSDには厳密な診断基準がありますが、たとえその基準すべてを満たしていなくても、現在の症状が過去のトラウマ体験が原因となっているのであれば、適切な治療やアプローチによって状況をよくすることができます。

 

過去を変えることはできません。しかし、トラウマを過去の亡霊として終わらせ、辛かった体験が今後の自分の人生に影響しないようにすることは可能なのです。

 

自己理解とトラウマ治療の重要性

ハナさんのケースは、多くの人に共通する悩みを浮き彫りにしています。自身の不調の原因が分からず、発達障がいと考える人が増えているのは、その背景に過去のトラウマ体験が潜んでいる場合が多いのです。

 

幼少期に慢性的なトラウマ体験を受けた人は、神経系が適切に発達せず、過覚醒や低覚醒が日常的に起こることがあります。その結果、集中力が欠如したり、情緒が不安定になったりするため、発達障がいと誤診されることもあります。

 

発達障がいと決めつけず専門家の助けを借りる

トラウマ体験がもたらす影響を理解し、適切な治療を受けることは、自己理解と自己改善の第一歩です。ハナさんのように、自分の問題を発達障がいと決めつけず、専門家の助けを借りて過去のトラウマを癒すことで、今後の生活をより良くすることができるのです。

まとめ

過去を変えることはできません。しかし、トラウマを過去の亡霊として終わらせ、辛かった体験が今後の自分の人生に影響しないようにすることは可能なのです。自己理解とトラウマ治療を通じて、ハナさんのようにより良い未来を築くための第一歩を踏み出しましょう。

専門家の助けを借りて過去のトラウマを癒し、自分自身を責めるのではなく、適切なサポートを受けながら、健康で充実した生活を取り戻すことができるのです。

 

参考

https://news.yahoo.co.jp/articles/f990928f6af6130cf4c3cf2e6c3d20ba863dc571


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